頬杖なんてついたのも久しぶりなら,暇を持て余すパーラーで待ちぼうけを食うのも久しぶりで,懐かしい。周りの建物も,前の通りも何も変わっていない。点線に沿ってハサミで切り取られたみたい。置いて行かれたんじゃなくて,時間の流れを遠のけてやったと言い張るような,意地っ張り。お互いに可愛い性格をしていないからって,たこ焼きを分け合って頬張った,だけならまだ可愛かったのに,たい焼きにフランクフルトに,わざわざ駅前のコンビニまで行って,フライドポテトをごっそり買って来て,堂々と食べた。やる気のなさが裏返って,おおらかな対応しかしてくれなかった店主のおじさんの公認を得るのは簡単で,Lサイズの炭酸ジュース二つの注文は私とシホにも有り難く,喉越しはすっきり,悪口はたっぷり,バカ笑いの後で涙目になって,そのまま泣くのがシホか,私のどちらかだった。先輩が好きだったし,同級のあいつはムカつくけど良い奴だったし,シホに取られたあの子は素直だった。恨みっこなしで叩き合った,二人っきりの『一休さん』は白熱して,どれだけ手の甲が赤くなったことか。おかげでトランプの数枚は行方知れずのまま,私たちの月日だけが順調に進んで,はや十数年。と言ってみたかっただけの卒業してから三年目。近くに来たから連絡を取ってみた。そうしたら,シホも空いてたラッキーデイ。それなら待ち合わせはここでしょ,と直ちに合意に至り,シホは遅れてやって来る。先に着いた私はきちんと待っている。外に出されたテーブル。庇の下の一席。一回目の注文は済ませておこうと,引き戸を引いてパーラーの中に入り,期待通りに色褪せたままのメニューのソフトドリンクから,私の炭酸ジュースを一つ選んで,やる気なさそうに立っている,目の前のお兄さんにそのまま伝えた。おじさんにも会いたかったけど,今日は風邪で休みらしい(尋ねた私に,お兄さんはぶっきらぼうにそう答えてくれた。「おかげで台無しっす」と愚痴ってもくれた)。愛情たっぷりの「ありがとう」に「お疲れ様」のコンビネーションは,確かにお兄さんの心を動かしたようで,デレって感じを隠せない表情に,私の武器はキラリと輝いた。サービスのビスケットを頂いた。三年前には無かった新サービス。二度目のお礼を口にして,カラカラカラっと外に戻った。さんさんと降る午後の太陽,と思いたいだけの曇りがちな今日の天気。涼しい気温に,通り抜ける涼風。二脚しかないうちの一つに腰掛けて,ビスケットを齧っていた日々のど真ん中。一袋三枚を食べ終わり,袋をすぐそこのごみ箱に捨てて,炭酸ジュースと付き合う。なかなかの美味しさに満足感は寝転がる。毎日の鏡に感謝を捧げた。
タッチしたメッセージを送ってみても,シホが「あと少し」の一点張りを繰り返すのは予想済み。いつか辿り着くでしょう,は道に限りがあるから言えることだ。シホん家はそんなに遠くないし,だからこそ,まだまだ準備中なんだろうし。と,慣れた心境で頬杖を解いて,ひっくり返された灰皿を引き寄せた。三年前の最後の日も,こいつはこうしてひっくり返っていた。私たち以外の誰かが使っているのを見たことは無かったし,私とシホのどっちも,その通りに使ってあげたことは無かったし,今こうしてひっくり返してみても、使われた痕跡が全くないから,この三年間も変わらなかったんだと思えた。なので私はそれを取り上げて,ひっくり返した状態のまま,頭にかぶってあげたし,くるくると回して飛ばしてあげた。UFO,と着地する度に笑い転げていた幼い姿がオーバーラップする。シホと遊んだ最初の日。蛙を捕まえた帰り道,いや寄り道だったかな。カゴから出して,あの時のテーブルの上に離した。最後には勢いよく跳ねて,テーブルの縁から自由な敷地へと姿を消したけど,そうするまでは離した場所から動かず,喉を一回短く鳴らして,あとはただ膨らませた。鳴くのか鳴かないのか,私たちはドキドキして,蛙目線になって交差するテーブルの上,私とシホの目がぶつかって,庇を打ち付ける大粒の大雨が降り注いだ。突然の曇りのち雨で,しばらくその状態が続いて,私たちが足止めをくらうことになった最初の日。私たちを驚かせた急天候は,そのうち,足元に当たる冷たい飛沫になって,大声をあげないと聞こえない迷惑さと面白さをくれた。より一層時間が掛かって,私たちは仲良くなった。灰皿がテーブルの端っこで,その時からもうひっくり返っていて,蛙がそのうち居なくなった。
「ああっ!」
とハモった瞬間だった。「あーあ」と残念がった私たちだった。また捕まえに行こう,と約束しなかったのも私たちだった。話が弾んだ二人の間では,その興味が別の所に移っていたから。飛び込むと面白い深い水たまりの場所,水の侵入を許さない最強のレインブーツ。取りに帰れたらいいけど,取りに行くまでにすっかり濡れてしまった。あれからの日,私たちの一日。
シホは雨合羽が嫌いだったから,私も合わせて傘を差して,振り回していた。小雨になるのが寂しかったし,反対に,晴れて眩しくなるのも嬉しかったりで,まあ忙しかった。楽しかった。
そんな思い出し方も,目の前の灰皿と,待ちぼうけがもたらしたポツポツ雨の音のおかげで現実のものとなり,本降りの気配を見せ始めたところで,傘を差して現れたシホのおかげで決定付けられることになった。それは透明な色をしていた。きっと誰でも持っている,そんな確信に彩られていた。
「着いた!」
と声をあげたシホは,味の変わった熱々のポテトを買って来てくれた。ついでに寄ったコンビニのレシートは,合計金額を私に隠して二つに折られて,シホの財布に収められることになった。私はその一本に手をつけた。シホはパーラーの中へと入っていった。買って来るのは決まっている。だからついでに私のも頼んだ。最初のものは,すっかりストローとカップだけになっていたから。
弾ける喉越しが最高なのだ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-06

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