グラデーション
空がきれいだった。
これから夜になるよっていう風な藍色一色に染まっていて、雲が一つもなかった。
月が光ってた。
本当はここは地下世界で、継ぎ目のないドームの天井が見えてるだけなんじゃないかって、思えるくらい、きれいな一色の藍の空だった。
グラデーションは、あったけれど。
空を見上げる余裕が、たまたまあったのか、
坂道を上っていたから気づいただけなのか、
そこは思い出せないな。
神様が、ぼくのために、用意してくれた夜空だって、
あの人は言う。
本当だろうか?
ぼくは牛乳が好きだ、あれが好きだ、それが好きだ。
ぼくのために神様が、牛をこの世に作ったって、それ本当だろうか?
牛乳嫌いな人もいるわけで。
給食にいつも出てた紙パック。
ぼくは、苦手な子の分も飲んでたりしてたなぁ。
噓でしょ、ぼくのための夜空だなんて。
自然が美しいと思えない人は、病気なの?
人工物に美を感じてしまうことは、罪なんですか?
拒食症でガリガリになって、タイツが余ってるような人を見て、
吹き出物だらけの肌に、がんばってファンデーションを塗ってる人を見て、
虫が苦手なのに、カイガラムシの赤を唇に添えるあの子、
がんばって働いて得たお金を、ストレス発散で散財しちゃう人、
みんな、きれいに見えちゃうんだなぁ。
なぜか、惹かれちゃうんだなぁ。
ナチュラルライフにこだわって、無印良品みたいなファッションしてるのに、
性格のきついあの人、
やっぱりきれいに見える。
「自殺したい」って思いがあるわけじゃなく、
何となく苦しくなるから、
次の一吐きを、次の一吸いを、
そんな風にして、これからも進んでいくんだろうか?
それとも、死ぬ間際、
悟れたりして。
アインシュタインみたいに、最後の言葉は、きっと誰にも伝わらなかったりして。
悟った人の話す言葉は、いろいろと超越しすぎてて
前置きを端折りすぎてるから、きっと通じないんだと思う。
ぼくが死ぬとき、もしかしたら悟れるだろうか。
でも、その極意は、もう悟り人間語でしか話せないから、
誰にも伝えられずに死んだりして。
そうやって今もまだ誰も、「本当のこと」を知らなくて、
それで、みんな生きてられるのかなぁって、思ったりして。
グラデーション