緊張の夏(1)
ロサンジェルスのリトルトーキョーで借りたホンダは、
サンディエゴに向かう途中のフリーウェイでカタカタと軽薄に鳴る怪音と共に停まってしまった。
今朝、ショップで初めて対面した600ccの赤いボディは、見るからに不良。
シートに跨ってエンジンをかけた瞬間、あ、こりゃだめだな、という不吉な予感が通り過ぎた。
試乗を兼ねて走り出し、ダウンタウンを流す。
鉄壁で覆われた鈍重なアメ車の中にいても緊張するのに、
丸裸の状態で治安ワーストワンの中心街を走る日が来るとは。
スミス&ウェッソンの銃口が、自分の身体に向けられている状況を想像する。
アクセルを捻る力が、弱まった。
緊張の夏(1)