緊張の夏(1)

ロサンジェルスのリトルトーキョーで借りたホンダは、

サンディエゴに向かう途中のフリーウェイでカタカタと軽薄に鳴る怪音と共に停まってしまった。

今朝、ショップで初めて対面した600ccの赤いボディは、見るからに不良。

シートに跨ってエンジンをかけた瞬間、あ、こりゃだめだな、という不吉な予感が通り過ぎた。

試乗を兼ねて走り出し、ダウンタウンを流す。

鉄壁で覆われた鈍重なアメ車の中にいても緊張するのに、

丸裸の状態で治安ワーストワンの中心街を走る日が来るとは。

スミス&ウェッソンの銃口が、自分の身体に向けられている状況を想像する。

アクセルを捻る力が、弱まった。

緊張の夏(1)

緊張の夏(1)

バドワイザーをご馳走してくれた彼は、元気かな。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-03

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