散歩
炭酸水が飲みたくなった。
小銭を漁った。
60円しか無かった。
お札なんて高尚なものは生まれてこの方見たことがなかった。
言いすぎた。
諦めて散歩に出ることにした。
本当にお金がないすっからかんの状態が何だか可笑しくて、ひとしきり笑いながら準備をした後、いつもの様に腰の左側に付けた革製のキーホルダーをガチャガチャ言わせ、右ポケットに入れた泣けなしの60円をシャラシャラ言わせ、ドアに張り付く様に鍵を閉めると、僕は体を外にほっぽり投げた。
とぐろを巻いた蛇の様な、そんな長い階段を駆け下りると、外の匂いがぐわっと覆いかぶさってくる。
葉の香りや木の香り、どこかの猫の糞や住宅街から隙間を抜けて届くシャンプーや洗剤の生活香、そんなものを嗅ぎながら、遠くで聞こえる車の音なんかを聴きながら、冷たい風に冷える足の温度を、心地よく感じながら歩くのだった。
どこか物思いに更けながら、潮の香りのする方へ、足を進めるのだった。
散歩