うちわのわ

  
 
団扇を仰ぎながらふと空を見上げた。
晴れ渡った空は飛べそうで。夏のにおいが肺を満たす。
しばらく縁側でそうしていた。
 
 
 
 
 
パタ、と団扇を仰いだ瞬間だった。
団扇からぽわんとわっかが出てきた。
この暑い空気の中を悠々と泳ぐその姿に、私は面白くなってまたパタ、と仰いだ
次は水色のわっかだった。先程より小さいわっかで、これもまた悠々と空気の中を泳ぐ。
二つのわっかが合わさるとぷかっと音を立ててはじけて消えた。
シャボン玉のようだ、と思った。
気がつくとそこらじゅうにわっかが泳いでいた。
扇風機だ。
隣の部屋に置いてある扇風機の風が、自分の部屋を通って縁側に流れてきたのだ。
これは愉快。団扇をより強く仰いでみる。
もももも、と大きな音を立てて大きなわっかが出来た。
親分のわっかはいくつかの小さいわっかを吸いこんで、まんまるになった。
静かに触れると感触なくそのまんまるに身体が入って行った。
割れたら私の身体もはじけ飛ぶのではないかと心配だったが、まんまるはそんな私をよそに、ぐんぐんと空気の中を泳いだ。
まんまるの中で団扇を仰ぐと、小さなわっかが出てまんまるにひっついて泳いだ。
縁側に吊るされている風鈴がリン、と鳴った。
私はそれに手を振って、まんまると一緒に空を泳いだ。
 
 
ひとしきり泳いだ後、私はどうも眠ってしまったらしく
目が覚めるともといた縁側に横になっていた。
手にはあの団扇はなかった

うちわのわ

うちわのわ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-06

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