八ミリの真夜中


一ミリ。
夜の終わりを数える
きみとわたしは 幾つ声を聞き入れ
幾つの声を聞き流しただろう
せめてあの星座になれるのなら
僕らは今頃ブランケットのなかで、
たったこれっぽっちしかない林檎をかじり合い
互いの心臓を海に還すはずだったんだ




二ミリ。
溜め息の路地裏
讃美歌は森へ
手足は最早冷えきっていたが
ざわめきは微熱を保ち続けていたし
ただ呼吸だけは疎らに姿を消したよ
きみは果てしない線路のように
sepia
西日に向かって毎日黒い鳥の啼き声に
遠い夢を委ねていた



三ミリ。
どうにも居たたまれなくなって
煙草に火をつけた
時間は3分間あれば やっとあの青い魚になれた
Margaret
ベトナム
戦闘機からうっすらと子守唄が聴こえる
少しずつ血の味が
大空で空虚にゆらゆらと流れ始めていた


四ミリ。
眠れないのならば
少し背中をさすって欲しいね
ドアノブに花を頭につけた髑髏の縫いぐるみと
ちいさな白いオバケが垂れ下がっている
わたしときみも あんな風に
いつか透明な風になってしまうから
時計は飾らないことにしたんだ
本当のところは 割れた硝子に聞けばいいのだと思うよ



五ミリ。
わたしは恋をして
きみは愛をしていた
アスファルトの濡れる音が
外の世界から降り注ぐ
正確には、アダムとイヴのように
すべてが生まれたてだったのだと
今さらになって気づき
僕らはただ項垂れるしかなかったよね

ルーズリーフの端っこに書いては捨てて
また取りに戻るんだよ



六ミリ。
きみをずっと愛していたよ
ギリシアの雨はシルバーランドへと続いていくよ
わたしは震えてしまうかもしれない
愛は、愛は、愛は、
何故そんなにも小鳥の体温みたいなのか
耳で教えてください
心で感じてください
しゃぼん玉のように
虹が渦巻いて
その声で話し掛けてください




七ミリ。
やっと辿り着いた
願事は水をたくさん含んで
イリスは待ち焦がれていた
静な美醜を靡かせては
錆びた鍵を鍵穴に差し込む日
きらきらと音をたてて
後ろポケットで鳴らす日々は
本当にかなしくきらきらと輝いていた
幻は終わったのさ
さあ
幻想を今こそ切り開く時が来る



八ミリ。

もうなにもいらない

もうキスをしよう

もう疲れたんだ

どっちから?

自然に

落ちる

おかえり

ただいま

八ミリの真夜中

八ミリの真夜中

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-01

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