幼馴染のアイツ
三題話
お題
「火傷」
「水」
「油
もう! ちゃんとやりなさいよ!
なんだよ、俺には関係ねぇだろ。
どうしていつもそんな態度なの?
あー、はいはい。やればいいんだろ。
……もう、まったく。
…
「ひゅーひゅー。アツいね、お二人さん」
「またいつもの痴話喧嘩かぁ?」
ああもう、またかよ。
どうしたらそんな風に見えるんだ?
「そんなんじゃねぇよ。コイツが無駄に絡んできただけだろ」
「む、むだ、に……?」
後ろから引きつった声が聞こえた。
コイツがみんなの冷やかしの対象である片割れ。俺の幼馴染。
特に最近は俺に絡んでくることが多くなったような気がする。
だからこんな風に冷やかされるんだよ。
あーあ、ラノベみたいなかわいい幼馴染だったらどんなによかったか。現実は悲惨だよ。
ちょっと仲良く話してるだけでカップル認定。少しでも言い争いになれば痴話喧嘩だと囃し立てられる。
幼馴染キャラは好きだけど、それは二次元だけだ。
コイツはかわいげの欠片もない。
かといってツンデレというわけでもない。
ラノベ主人公は羨ましいよ。
かわいい幼馴染、かわいい妹、かわいいクラスメイト、更には先輩後輩まで……誰と仲良くなっても勝ち組じゃねぇか。
それに比べて、今の俺は。
「ま、あとはお前に任せるわ」
「ちょ、ちょっと――」
まだ後ろで何かを言っていたが、俺はその場を離れて教室から出た。
トイレに向かいながら思う。
どうして二次元では溢れている萌えが三次元にはないのか、と。
…
教室に戻ると、ただならぬ空気を感じた。
「……?」
教室内を見渡すと、水と油のように男子と女子で綺麗に分かれていた。
その女子の固まりの中に、両目を擦っている幼馴染の姿がある。
「な、何があったんだ?」
とりあえず一番近くにいたヤツに聞いてみることにした。
「お前が出て行ったあと、高梨が泣き出しちゃったんだよ」
「は?」
なるほど、だから両目を擦っているのか。でもどうして?
無言の睨み合い。というより女子が男子を睨み付けている。
結局理由がわからないまま、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り午後の授業が始まった。
◇
それからアイツはあまり話し掛けてこなくなった……ように感じる。
◇
「うわ、こんな朝っぱらから誰だよ」
インターホンの音で起こされる土曜日の朝。両親は共働きで、今日も二人ともいない。
だから俺以外に出る人はいないわけで。
ピーンポーン。
三回目の音を聞いて、俺はようやく玄関へ向かった。
「……はい、どちらさまですか」
扉を開けると、女の子が一人立っていた。
「あ、まだ寝てた? 起こしちゃってごめんね」
「いや、別にいいけど。何か用か?」
コイツが俺の家に来るのは久し振りだ。
幼馴染だから以前はよくお互いの家で一緒に遊んでたんだけどな。いつの間にか遊ばなくなった。
「あのね、話したいことがあるんだけど」
「それならとりあえず上がれよ。部屋、散らかってるけど」
「……う、うん」
部屋に招き入れるのも当然久し振りで、俺は少し緊張したけど、どうやらコイツのほうが緊張しているらしい。
玄関からずっと無言だし、部屋に入ってからも妙にそわそわしているし。
「で、話したいことって?」
「あ……う、うん。あのね、えっと」
なぜか座り方が正座で背筋までぴんと伸ばして、顔は俯き両手は膝の上でもじもじと動いている。
俺はその正面で胡坐をかき、ベッドの側面に背中を預けた。
「す……」
「す?」
「す……すいか! じゃなくて」
「いや、何が言いたいのかさっぱりわからん」
「えっと、あの、その」
初めから少し顔が赤らんでいたけど、今では耳まで真っ赤になっている。
「――――す、好き!」
「……え?」
「だから、好き、なの。ずっと前から、好き……だったの!」
「あ、ああ。そう、か」
真っ赤な顔で両目を潤ませながら、俺のことをじっと見つめている。
いや、なんだこの急展開。
いつもは何とも思わないのに、今はとてもかわいく見える!
そういえば、服装もいつもよりオシャレな気がする!
髪も普段は後ろで縛ってるだけなのに、今日は下ろしていて星型の髪飾りを左右に着けている。
俺だって別に好きでもないわけでもないけど。
何かを言おうにも、口がうまく動かない。
無言の睨み合いが続く。
チリチリと火傷しそうなほどに顔が熱い。俺を真っ直ぐ見つめている幼馴染の両目からは熱線が出ているのだろうか。
向こうから何も言わないのは、俺からの返事を待っているからだよな。
「お、俺は――」
◇
「ほらー、もう起きないと遅刻するわよー」
俺は揺さ振られて両目をぱちりと開いた。
視界に映る自分の母親の姿。
汗をびっしょりとかいていて、服が冷たい。
「あら、今日はすぐに起きられたのね。早く来てご飯を食べなさい」
それだけ言うと、母さんは部屋から出て行った。
さて、問題は今日が何曜日であるのかということ。
そしてさっきのは夢だったのか現実だったのかということ。
「…………」
アイツがあんなにしおらしくなるわけないだろっ!
そもそも俺のことが好きなわけないだろっ!
幼馴染のアイツ