性転換11
【性転換XI】
【一話】
「くそおぉ! 何てこったあ! こんな身体で生きて行けと言うのかあ! くそお!」
五十才を目前にした下山喜一は入院先の個室ベッドの上で両手に拳を握って一人、掛け布団を叩いていた。
「あらアナタ、今日はねー とってもいい天気よ。 窓から空でも眺めてみない♪」
花瓶の水を取り替えて来た妻のミドリは笑顔で喜一に声を掛けると窓を開いて外から風を入れた。
前側に投げ出した両手に拳を握り黙ったままの喜一。
それを見て見ぬフリして花瓶に花を生けるミドリ。
「お前には俺の気持ちなんぞ解からん…… 目を覚ましたら突然……」
喜一は妻のミドリに俯いたまま低い声を発するとミドリとは逆の方を向いてベッドの中に潜り込んだ。
花を花瓶に生けるミドリの口元は震えていた。
「男、五十にしてオカマ野郎になるなんて… くそっ……」
喜一はミドリに聞こえぬように小声を吐き捨てた。
そんな喜一にミドリは背越しに明るく声を放った。
「身体がどうなっても、アナタはアナタなんだから私は平気よ♪ それにもう必要ないでしょ♪ うふふふふ~♪ 十年以上もしてないんだし♪」
喜一にジョークを飛ばすミドリは元気つけようと声に笑みを混ぜた。
ミドリのジョークに喜一はムッとした表情をしグルリと身体をミドリに向けた。
「おい! 見てみろ! パンテーだぞ! 俺が今履いてるのはトランクスじゃない! こんなパンテーなんぞ一生履いていろと言うのか!」
喜一はミドリに少し声を荒げベッドから起き上がった。
そんな喜一の方にクルリと身体を向けたミドリは、うふふふと、笑顔して口を開いた。
「それはパンティーよ♪ パンテーじゃないわ~ あっはははは~♪」
ミドリは大笑いして不機嫌そうに布団を肌蹴て白いパンティーを見せた喜一を見て笑った。
元々、話し好きな夫でもある喜一にミドリのジョークは他人事のように笑わせた。
交通事故に遭遇してから1ヶ月が経過した頃、自室のベッドの上で医師の前で両足を大きく開いて診察を受けた喜一は経過の良好と退院予定日を告げられた。
そして医師は診察が終へ部屋を出たところへ加害者側の加害者と勤務先の上司が姿を現し一通りの挨拶を交し本題に入った。
「慰謝料としましてニ千万円用意しました。」
喜一の前で俯いたままの加害者の横で喜一の目を真っ直ぐに見て話す営業部長の長瀬守は真剣な表情を浮かべた。
それをベッドの横の小さな椅子に座って見入る喜一の妻、ミドリもまた喜一同様に黙ったまま長瀬を見入った。
「こちらとして精一杯なのですが…… 誠に何とも詫びのしようも……」
ハンカチを取り出して額の汗を拭う長瀬守は顔を強張らせ声を震わせた。
そんな長瀬守の横に居る加害者の風見久司は俯いたまま椅子に座る量膝に置いた両手を震わせていた。
「貴様! 俺から竿も玉も奪っておいて二千万程度のハシタ金で済ますつもりかあ!」
喜一の苛立つ声に、ハッとした表情を浮かべる長瀬はダラダラと流れる額の汗拭きに追われた。
腹の虫の治まらない喜一は消失した息子(さお)の敵討ちとばかりに相手方に詰め寄ったが、ラチが開かないと思って妻のミドリは割って入った。
それでも結局は延々と続く話しあいの中で、短気な喜一を抑えつつ頭の斬れるミドリが交渉を進行させ慰謝料を1億まで吊り上げた。
相手方は事故を表沙汰にしたくないのか弁護士の介入も拒絶傾向にあって難色を示しながらもミドリの落ち着いた対応に飲まれていった。
すると相手方から奇妙な提案がなされた。
「現在、我が社では性転換者向けの新薬を開発中でして…… 如何でしょうか、我が社の臨床試験に御協力頂けませんか? 慰謝料1億は高額ですが、上を説得するためにも協力者という形が欲しいのですが……」
喜一は横に居たミドリの顔を不安げに見据えた。
「具体的には?」
両手を前側においたミドリが冷静に口を開いた。
「我が社が開発した新薬の臨床試験に協力頂き、100項目程度のアンケートに回答して頂く形式になります…… 命に関るような薬ではありませんが副作用のチェックや身体の異変などあらゆる視点からのチェックを繰り返します。 1試験、100万円の謝礼とは別に毎月、数十万円の労働対価を御支払い致しますが如何でしょうか。」
銀縁メガネを掛けた長瀬守はミドリの目を冷静に見据えると、喜一は少しオロオロして妻のミドリと長瀬を見往復した。
「貴様!! 俺に実験台に成れというのかあぁ!!」
喜一は冷静な長瀬を睨み付けると右手に拳を握り振り上げた。
「アナタ、駄目よ!」
ミドリは長瀬を見据えながら喜一の腕に自分の手を重ね冷静に下に降ろさせたると無言で長瀬に頷いて見せた。
「考えさせて頂きます……」
ミドリはグチグチと独り言のように小声でイライラを募らせる喜一の横で長瀬にこう言って話しを一旦打ち切った。
そして長瀬と風見は立ち上がって二人に一礼すると部屋を出て行った。
喜一は二人が帰った後も一人グチグチとミドリに聞こえるように愚痴を零していたが、ミドリの視線は窓の外の空に流れる雲を見ていた。
「怪我の功名かあ~」
ミドリはポツリと呟き、その言葉に喜一は愚痴をピタリと止めた。
喜一とミドリは一週間後、加害者側の提案を承諾すると三日後、長瀬は常務の多田を連れ病室を訪れ、1億円の小切手を持参した。
下山喜一は巨大な〇〇製薬の常務が来たことで驚きの表情を浮かべたが、妻のミドリは驚く様子もなく持参した小切手を受け取り受領書名を喜一にさせた。
【二話】
それから暫くして喜一とミドリは病院を退院し自宅療養に入ったが、竿と玉を失って気落ちした喜一は自宅の中庭でボォーっとしていることも多くなっていた。
最初の頃は座っていても痛みを覚えた局部も日に日に痛みが薄れ体育座りしてジーッと空を眺めている喜一を見て、陰ながら涙するミドリも居た。
事故に遭って数日後に勤務先に提出した〇〇製薬系列の病院の偽の病気診断書も根っからの正直者の喜一には負担でしかなかった。
時折携帯に来る部下達からのメールにも当初は返信していたものの、最近はメッキリ数を減らしたようだ。
そんな下山喜一に〇〇製薬からお呼びが掛かったのは退院して半年ほど経過してからのことだった。
一人で来社せよとの内容に喜一は契約は遂行せねばと行きたくない気持ちを抑えて〇〇製薬の新薬開発部へと足を運んだ。
そこで喜一の表情を変えさせた50代医師の一言。
「下山さんは現在まで女性ホルモンの服用を拒絶されているとのこと、正直それでは臨床調査が出来ないのです。 何分にも対象者が性転換を望む方ですからね、同じようにされないと話しにならないのです。」
医師の言葉に喜一は目を吊り上げ医師を物凄い形相で睨み付け、その気迫に医師は逃げるように天井も壁も真っ白い小部屋から出て行き、別の医師が再び喜一の前に姿を現した。
「貴方と会社(うえ)にどんな話しがあったのかは我々研究者には解かりませんが、協力者として名を連ねた以上は物事の道理として、指示に従って貰えませんとね……」
魔人のような形相をした喜一に三十代の研究者は淡々と話した。
「今日から一週間の入院で女性ホルモンの投与を開始します。少し強めに投与しますが勿論、別の医師と看護師もつきますから安心して下さい。」
突然の研究者である医師から伝えられたことにも納得しないまま喜一は頷くしかなかった。
喜一は突然の入院をミドリに伝えたがホルモン剤投与のことは言えなかった。
この後、喜一は当然的な副作用に襲われ続けたのは言うまでもない。
もう、元の職場には戻れないかも知れないな……
窓の無い白い部屋の中で意識を朦朧とさせる喜一は一瞬だけ正常さを取り戻し、心の中でそう呟いた。
「話しが違う!! 一週間で家に戻れると言ったじゃないか!」
女性ホルモン投与から8日目の朝、医師に伝えられた言葉に喜一は我は失って怒声を上げた。
だが医師の説明によれば急激な投与で内臓に負担が掛かりすぎていて治療しながら経過を見る必要があるとのことだった。
喜一は渋々、妻のミドリに電話して替えれないことを伝えた。
それから更に一週間が経過すると喜一は急激に体力と気力を消耗させ一人で立つことも出来ぬほどに衰えて行った。
「ええ、通常の100倍の速度で投与していますからね、ああなって当然でしょう。 まあ、早く一定基準に達して貰いませんとモルモットとしての価値はありませんからね。」
別室で喜一の状態を会社側の人間に報告する医師は冷酷な目付きをしていた。
天井も壁も真白の10畳ほどの部屋の真ん中、床屋の椅子のようなベッドからズリ落ちないようにと身体をベルトで固定され陰部の尿道に入れた管から尿を排出する喜一は意識朦朧としていた。
そんな喜一を見る数台の監視カメラと様々な測定をする機械は電子音を定期的に鳴らしていた。
そして定期的に入る看護士や医師には表情はなく会話はゼロ状態で喜一への女化は進められていった。
意識朦朧とした喜一の胸は膨らみ乳首も増大し乳房だけなら略、女性と言えるところまでに達していた。
そして入院してから一ヶ月が経過する頃には喜一の身体は全体に丸みを帯び、本人も気付かぬまま乳房は大きくなってプルプルと揺れていた。
本来なら何年もかかるところを100倍の速さで女化を進めたことで、喜一は貧弱な女へと変貌を遂げたが鏡の存在しない部屋の中では確認の術も喜一にはなかった。
薄かった頭からは髪の毛が生え男の太い毛髪は何処かに消えてしまうほどに喜一の女化は急激に侵攻し、案ずるミドリからのメールには医師が喜一を装ってメールを打ち続けた。
「ええ、実は既に新薬の投与も少しずつですが同時に進めているんですよ。 そうしなければ時間がありませんからね。」
別室で報告する担当医師はメガネの縁を治しながら冷酷な視線で上司に報告していた。
そんな中で、喜一は別の部屋へと身柄を移された。
そこは天井が全面ガラス張りのドーム型をした部屋で太陽の光が燦燦と降り注ぐ丸い作りの部屋だった。
そして女性看護師数人と医師の立会いの下で目を覚ました喜一は入院してから初めて鏡に映った自分の姿を見せられ絶句、仰天した。
鏡に映ったのは本来の喜一ではなく全くの別人、しかも完全な女性化の進んだ自分の姿であった。
リクライニングシートを起こされ着ているモノを脱がされパンティー1枚になった喜一はプリプリとプリンのように揺れる自分の裸に絶叫しかけた。
その時、傍にいた医師は落ち着いた口調で物静かに声を発した。
「これでようやく臨床試験の準備が整いました。 よく頑張りましたね。」
医師、そして喜一を囲む女性看護師たちの表情は皆、冷たく微笑すら浮かべない中で、自らの余りにも急激な変化に喜一はフラフラしながら大粒の涙を頬に伝えた。
そして数人の看護たちでベッドから降ろされた喜一は等身大の鏡の前にパンティー1枚で立たされると、Cカップ程の乳房がプリーンと揺れた。
喜一は何が何だか解からぬまま数人の女性看護師たちに付き添われ歩行訓練にはいった。
数日間の歩行訓練は喜一の肉体を少しずつ回復させて行きリクライニングシートから普通のベッドに寝床も替えられた。
「ブラジャーは合わせてありますから、これを使って下さい。」
看護師に言われるまま初めてブラジャーに腕を通した喜一は人形のように言われるがままに両腕を前に差し出した。
「今迄はノーブラでしたが、今日からはブラを付けての歩行訓練に入ります。 ノーブラと違ってバランスの取り方は簡単になると思います。」
女性看護師は差し出した喜一の両腕にCカップのブラジャーを身につけた。
そして喜一は窓の無い外の見えない長い廊下を只管、女性看護師達に付き添われ一日に何度もの歩行訓練を受け続けた。
ブラジャーは喜一の乳房をスッポリと覆い両肩にその荷重をかけバランスを保たせた。
そして翌日の朝のこと。
「これからは女性としての訓練を開始しますが、これを終えれば一旦は帰宅許可を出せると思います。」
ベッドの上に起き上がっている喜一に斜め前から説明する医師は機械のように語り終えると部屋を出て行きバックを持った看護師が喜一に近付いた。
「ここにパンティーストッキングとスリップとスカート、そしてブラウスを置きますが、まずはパンストの履き方を教えます。」
数人の看護師達は恥らう様子もなくただ事務的に淡々と喜一に説明し、喜一もまたフラフラしながら細くなった指でパンティーストッキングに足先を通し下半身を覆った。
一時間後、OLのような姿を等身大の鏡の前に晒した下山喜一は五十才にして初めての女装に直面した。
「さあ、歩いてみて下さい。 スカートの幅に合わせるように歩調して見て下さい。」
数人の女性看護師たちはタイトスカートを履きブラウスを身につけた喜一を囲んだ。
薬が効いているのかフラフラし起つのもやっとの喜一だったが歩行訓練の所為で直ぐにバランスを取り戻した。
そして目の前の女性看護師に両手を引かれ一歩ずつゆっくりと歩き出した。
「そう、その調子です。」
喜一は一歩ずつ歩く度にスカートにも慣れギコチなさは少しずつ解消されていった。
角刈りだった太い頭の髪の毛は、女性のように細くシナヤカな肩まで伸びたロングヘアになり、歩く度にサラサラと柔軟性を周囲に見せ付けた。
そんな喜一の部屋は突然、広めの部屋に替えられた。
「部屋を広めにして大勢の女性達の中で共同生活をさせながら、脳から男を消し去り女性を学ばせる訓練に入ります。」
別室で両手を後に組んだ白衣の医師は上司に視線を合わせると経過の説明した。
この日から喜一の周囲に数人の女性看護師が衣食住を共にし始めた。
喜一の前で裸になり、喜一と一緒に風呂に入り、喜一と一緒にと、トイレ以外は何するでも喜一の周囲には女性看護師達が数人居て今までとは違う表現力豊な会話が始められた。
そんな中で、喜一は看護師達にポツリと呟いた。
「いつになったら家に帰れるのかな……」
喜一の力ない言葉は寝食を共にする女性看護師たちの楽しげな会話を静まらせた。
「こんな身体じゃ… 帰るところも無いか……」
寂しげな喜一の声は部屋の中を暗闇に包んだ。
「キーちゃん♪ 大丈夫だよー♪ 先生も言ってたでしょ! もうすぐ帰れるからね! 頑張ろう♪」
暗闇のように沈む喜一を励まそうと女性看護師達も居た堪れずに喜一を囲んで元気づけた。
「取り敢えず本人には帰宅を許可する旨は説明して安心させましたが、筋力が付き次第、苦痛も伴いますからね、眠っていてもらいその間に骨格の萎縮試験に入ろうと思っています。 これが成功すれば残すは性器の性能に入れます。 まあ、それまでは時間もありますからね、乳房と乳首の快感(せいのう)テストを実施します。」
別室で上司に報告する医師はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
喜一を励ます看護師達の言葉とは裏腹に医師は喜一改造を進めようとしていた。
【三話】
「これはどうですか? 何か感じますか?」
医師と女性看護師を前にパンティー1枚で椅子に座る喜一はサルグツワをされ白衣の検査員に乳房を揉まれウットリしていた。
女性看護師たちが見せる初めての表情は女性ならではの恥じらう顔だった。
そんな看護師たちの横にいて表情一つ変えない男性医師は冷静沈着だった。
「次、これは… どうかな……」
乳首を弄られる喜一は大きく全身をビク付かせ喉の奥にヨガリ声を溜め乳首を勃起させ身悶えし続けた。
女性看護師たちの頬が紅く染まった。
検査員の右手が喜一の左乳房を揉み、左手で掴んだ乳房から乳首が突出し、それを弄られた喜一はビク付きでリクライニングシートを揺らした。
「はぁはぁはぁはぁはぁ…… チュッパレロレロレロ……」
白衣の検査員は喜一の背凭れをリクライさせ、晒した乳房に貪り付いて舌を動かし続けると、女性看護師たちはいっせいに立位のまま両足を内側に窄めた。
喜一は我を忘れて検査員の舌に身悶えと仰け反りを繰り返し苦しそうに喉の奥に声を溜め続けた。
この時、女性看護師達は全員、パンティーの内側をヌルヌルした液体で濡らしていた。
両手で掴まれた喜一の乳房から絞り出される乳首を交互に検査員は吸い回した。
「凄い効果だな…… 成功だ……」
乳房に貪り付かれ激しい官能姿を見せる喜一に担当医師の股間も勃起していた。
これを期に医師に命じられるまま、検査員たちは複数で喜一の身体を愛撫すべく調教を開始した。
そして早朝から夜まで続けられる官能調教に喜一は身も心も女化し切ない声をサルグツワの下で奏で続けた。
「やりてぇ…… いい身体してやがる……」
ある日のこと検査員が大きく開かされた喜一の柔らかい内モモを舐めながらポツリと呟いた一言が、医師の耳に届いた瞬間、医師は目を大きく見開いて一人呟いた。
検査員は日に日に女として開花していく喜一の身体に我を忘れて貪り続けた。
「骨格の萎縮の前に生殖器の性能を上げるか……」
手術台に麻酔で眠らされた喜一は、両足を大きく開かされた上、両足首を固定されていた。
その喜一を囲むように数人の看護師と数人の医師が喜一の陰部を覗きこんでいた。
血圧と脈拍をみながら慎重に医師の手に持たれた注射器が陰部にむけて操作され、喜一の女性器を本物同様にする新薬の試験が開始された。
新薬は注射で二十箇所以上を注射されるだけの簡素なものだったが、その効果に手術室の全員が期待していた。
「これで濡れる身体になるはずだ……」
医師たちは施術後の喜一の割目の中を再び覗き見ると手術室から出て行った。
〇〇製薬の新薬は男性から女性へ性転換した患者の身体の中に女性同様の細胞変化を引き起こさせる活動細胞を注入し、性転換で整えられた性器を本物同様に進化させ男と女の構造の基本を覆させるという物だった。
これにより不可能とされた性器の完全な女化が進み、本物同様に濡れてエクスタシーに達することの出来る身体になるというものだった。
ただ、この実験には未知の副作用が存在し、患者がどのような副作用を受けるのか誰も解からないのであった。
つまりこの手術は性器を女化するという前に、患者がどんな副作用を受けるのかとかいう実験的な試みでもあった。
即ち命を保証は何処にもないというものだった。
この手術のあと、喜一の容体は不安定なものへと変化していった。
身体の中に進入して来た女化細胞を敵と見なして正常細胞が攻撃に出たものだった。
四十度近い高熱は治まる気配無く医師や看護師は寝ずの治療に専念せざるえなかった。
だが、この変化も術後一週間ほどで次第に落ち着きを取り戻し喜一を苦しめた高熱は次第に平熱へと戻って行った。
「見ろ! 見てみろ!」
平熱を取り戻した喜一の陰部、クリトリスに器具の先を擦る医師から突然の歓喜な声が周囲に伝わった。
喜一のクリトリスは器具の先からの刺激に身体を大きくビクつかせ膣の入口に出来たバルトリン線から微量ながらも粘液が確認された。
「急いでこれを分析してくれ!」
医師の声が周囲のスタッフたちを動揺させた。
そして二週間が経過し、術後も良好となった喜一は久し振りに屋上のガラス張りの天体ドームに居た。
「妻に連絡を取りたいのだけど……」
喜一の声は副作用の所為か以前の喜一ではなく別人の女性の声に替わってしまっていた。
二十代後半の女性の声に替わってしまった声は喜一の口数を極端に減らした。
「下山さん、実はね……」
看護師の女性は気落ちしている下山喜一を死の縁から蘇らせた。
女性化への新薬と同時に元に戻れる新薬も同時に開発進行していて、喜一の臨床が終った後、喜一が望めば性器は別としても全てが元に戻れるという話しを耳打ちされた。
喜一は妻、ミドリへの電話をもう少し後にしようと携帯からメールを送信し、ガラス張りのドームから青い空を眺め続けた。
元気な顔を見せて欲しいという妻、ミドリに対して喜一は思い詰めた表情でメールを繰り返していたのを女性看護師は涙を滲ませて見詰めていた。
性転換11