太平洋、血に染めて 「金曜はカレーの日!!」
「蒼穹の騎士」の二日まえの話です!!
*オープニング
https://www.youtube.com/watch?v=g-irSoOblnA
https://www.youtube.com/watch?v=c1uLOXqmYr4(予備)
――ブリッジにミサイル命中!!
――操舵室に被害、操艦不能!! カタパルトも使用不能です!!
艦内通路を飛び交う喚呼。そして轟音と振動。けたたましく警報が鳴りひびき、艦内が赤く点滅する。
――艦長は!?
――ブリッジにいた者は、ほとんど戦死しました! おそらく艦長も……。
また爆発音。艦が大きく揺れる。
――艦尾に魚雷命中!!
――被害はどれぐらいだ!?
――船体の損傷は軽微!! ですが、スクリューをやられました!! はやくカタパルトの修理をしないと、このままでは……!
――もう対潜ミサイルは一発ものこっちゃいないんだ。丸腰の戦闘機を飛ばしたところでどうにもならん。それより援軍を要請するんだ!
――しっ、しかし、あの爆発に巻き込まれて味方の艦隊は全滅。司令部とも、いまだ連絡がとれない状況でして……。
核戦争。
――いいから呼びつづけろ! 救難信号をだすんだ!
空母乗組員たちが慌ただしく通路を行ったり来たりしている。食堂に集まった避難民たちは、みんな不安そうな表情を浮かべていた。
「あの潜水艦が攻撃してるんだ」
ハリーが忌々しそうに紫煙を吐きだした。
「わしらの病院船を沈めたやつじゃな」
長老もこぶしを震わせながら、ぐっと唇をかみしめていた。
「どうやらオレたちは、死神に肩を叩かれたらしい」
苦笑しながらハリーが肩をすくめた。
「ちょうどいいわい。少し肩が凝っていたのでな」
首を左右にふってボキボキ鳴らすと、長老は不敵に笑った。
「おいらは、たたかれてない!」
自分は、だれにも肩を叩かれてはいない。大五郎はハリーの言ってることが理解できなかった。
「オレも叩かれた覚えはないがね」
「え?」
うしろの声にふり向くと、パイロットスーツの男が立っていた。
「おじさん、だーれ?」
「チャーリーだ」
男がサングラスを外しながら名乗った。
「おいら、だいごろー!」
「そうか。よろしくな、大五郎」
白い歯を見せてチャーリーが笑った。
ハリーが名乗りながらチャーリーと握手を交わした。
「どうなんだ。沈むのか、この艦は?」
疑わしい表情で目を細めながらハリーが尋ねる。
「それは、オレにもわからん」
他人事のような口ぶりでチャーリーが肩をすくめた。
「だが、オレはここで死ぬつもりはない」
そう言ったチャーリーの眼は真剣だった。もちろん、大五郎も死ぬ予定はなかった。
「警報が止んだな」
眩しそうに細めた目でハリーが天井をにらんだ。
「さてと。オレはもう行くが、あんたらはここから出ちゃいけない。復旧作業の邪魔になるんでな」
チャーリーがドアのほうに足を向けた。
「おいら、おしっこでる!」
大五郎は股間を両手で押さえながらチャーリーを呼びとめた。
「トイレか。よし、オレがつれてってやろう」
「あの~……」
長老がモジモジしている。
「わし、うんち出る」
と、長老は照れくさそうに舌を出して笑った。
「そ、そうか。こいよ。つれてってやる」
戸惑いつつも、チャーリーは快く承った。
軍人は、みんな恐い人たちばかりだ。大五郎は、そう思っていた。でも、チャーリーはとても優しかった。両親と生き別れになったことを話すと、こんど一緒に探してやると言ってくれた。大五郎は、まるで自分に兄ができたみたいで、とてもうれしかった。
翌朝。
大五郎は右舷舷側でヒザをかかえながら海を眺めていた。傍らにはハリーとチャーリーもいる。ブリッジ側に佇んでいるのはチャーリーだ。呑気そうに口笛を吹きながら双眼鏡を覗いていた。
チャーリー越しに大きなヘリコプターが見える。ブリッジの少し手前だ。見た目は無傷だが、エンジンが壊れていて飛ばないらしい。そのヘリコプターの奥にそびえ立つブリッジは上半分がミサイルで吹き飛んでおり、まるで王冠のようにギザギザになっていた。
甲板のいたるところにブリッジや戦闘機の残骸が転がっている。大五郎は、ふと近所にあった廃車置き場を思い出した。なんの変哲もない、どこにでもあるような景色。廃車置き場のとなりには、大きな工場があった。工場の周りに広がる田園風景。田んぼの中を通る一本道。川のせせらぎ。白い太陽。セミの声。カレーの匂い。我が家のほうから。笑い声の絶えない食卓。父さんの笑顔。母さんの優しい顔……。海と空が、混ざって歪む。大五郎は、グッと涙をこらえた。
「カモメ一匹飛んでやしない」
大五郎のとなりでハリーがつぶやいた。ハリーはホットドッグをかじりながら、カウボーイハットの下で眩しそうに目を細めている。大五郎は、ふたりの間でひざを抱えて座っていた。
「なにか見えるかい? チャーリー」
水平線のほうに目を向けたまま、ハリーが言った。
「なにも見えん。陸地も、船も……」
そう言って双眼鏡を下ろすと、チャーリーは青空を見上げて吐息をもらした。
「今日は絶好の飛行日和、だな」
清々しい横顔。しかし、空を見上げるチャーリーのまなざしには哀しみが潜んでいた。きっと、この空で死んでいった仲間たちのことを思い出しているのだろう。大五郎は、なんとなくそう思うのであった。
「呑気じゃなあ。このまま野垂れ死にするかもしれんというのに」
そう言って笑った長老も、ハリーのよこであぐらをかきながら釣り糸を垂らしていた。
「じいさんこそ、呑気に釣りなんかしてる場合じゃないだろう」
ハリーも呆れた口ぶりになる。
「わしはな、まだ刺身というものを食したことがないんじゃよ。新鮮な魚じゃないと、刺身はつくれんのじゃろう、ぼうず?」
「うん!」
大五郎が笑顔で答えると、長老もハリー越しに笑顔でうなずいた。
「それにしても、釣れんのう」
まっ白な長いアゴヒゲを撫でながら長老が唸った。肩まで伸びた白髪が、さわさわと潮風でなびいている。そしてハゲた頭頂部は太陽のように強い光を放っていた。
「サメのせいさ」
のこりのホットドッグを口の中に放り込みながらハリーが言う。
「このあたりの魚は、みんなヤツに食われちまったのさ」
――そのときである!
「フィッシュオン!!」
とつぜん叫び、長老が立ち上がった。竿が大きくしなる。ものすごい勢いで、長老がリールを巻き上げる。
「やったな、じいさん。これで刺身が食えるぜ?」
チャーリーが親指を立てて笑った。
「オレはスズキのバターソテーが食いたいぜ」
葉巻に火をつけながら、ハリーが言った。
みんなの話を聞いているのかいないのか、長老は一心不乱にリールを巻き上げていた。
「おいらは、すしがたべたい!!」
大五郎が叫んだときである。
「ぎィヤッほほホ~ォウ!!」
とつぜん雷鳴のようなすさまじい悲鳴を上げながら長老が飛び上がった。おどろいた大五郎も、思わず「どヒャーッ!!」と叫びながら飛び上がった。
いったい、長老の身になにが起こったというのだろうか。
「ギギ ギ ギガ デ イ ン!!」
長老は両手で竿をにぎりしめたまま呻き声をあげている。そしてハゲ頭をピカピカと点滅させながら、まるでタンピングランマーで地盤を締め固める土木作業員のように激しく全身を痙攣させているのでした。
「お、おい。どうした、じいさん」
ハリーが恐る恐る長老に手を差し伸べる。そのとき、チャーリーが「まて! さわっちゃいかん!」と、慌ててハリーの肩をつかんで制した。
「これは、たぶんシビレエイだ」
「しびれ……えい?」
大五郎は首をかしげた。シビレエイとは、いったいなんなのか。
「電気ウナギみたいなやつだよ。そいつにさわると、こうなる」
まるで電球のように激しく点滅する長老のハゲ頭を指差しながらチャーリーは言うのであった。
「どうするんだ。これじゃあ、じいさんを助けられないぜ?」
眩しそうに目を細めながらハリーが首をふった。
「オレにまかせろ」
チャーリーが竿の先から垂れる釣り糸に向かってナイフを投げつけた。
「――エ レ キッ……テル!!」
糸が切れると同時に、長老が勢いよくうしろに弾け飛んだ。そして背中から甲板に倒れ込み、後頭部を強打した。
気を失ったのだろうか。長老は白目をむいたままうごかない。まるでカニのように口から白い泡を吐きながら、長老はピクピクと痙攣しているのでありました。
「やれやれ。寿司を食べそこなったな、ぼうず」
ハリーが苦笑混じりに肩をすくめた。
「おいら、カレーがたべたい!」
大五郎が笑顔で手を上げると、ハリーは不思議そうな顔になった。となりでチャーリーもおなじ表情を浮かべながら、ハリーと顔を見合わせた。
「ようし。今日の晩メシはカレーにするか」
チャーリーが白い歯を見せて笑った。
「うん!」
大五郎も笑顔でうなずくのであった。
※ギガデイン・・・・・某ロールプレイングゲームに登場する
サンダー系の魔法。
エピソード「金曜はカレーの日!!」
おわり
太平洋、血に染めて 「金曜はカレーの日!!」
次回 「蒼穹の騎士」
おたのしみに!!
*エンディング
https://www.youtube.com/watch?v=ou8-675xOJU
https://www.nicovideo.jp/watch/sm14884146(予備)
*提供クレジット(BGM)
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https://www.youtube.com/watch?v=zEggJANvOt4
https://www.nicovideo.jp/watch/sm22870965(予備)
【映像特典】
https://www.youtube.com/watch?v=Y-YEkrRoijw
https://www.youtube.com/watch?v=bEJX416yjcQ