隠した想いが見つからぬように

なんか、高校生活とか部活とか、夢見ますよね～…
相手の幸せを心から願える、そんな恋を1度できたら幸せだと思います…

はあ、本当に両想いって難しいですよね…

入学式

高校に入って２回目の春。

今日は入学式だ。

まだ慣れない3階の廊下から校門を見下ろすと、咲き誇った桜の木の周りで、晴れ晴れとした表情を写真に残す人々が見受けられる。
長い長い受験を乗り越えて、この日を迎えられたんだと、この制服を着られたんだと…喜んでいたのは昨日のことだったようにも思える。

満面の笑顔と履き慣れていない真新しいローファーが陽に照らされて、やけに眩しく目に映る。

…この新入生の中から、なんとしてでも部員を獲得しなければ。
私は今日、そればかり考えていた。
漫画研究部は、部長の中川悠太、副部長の私…二宮佳代、会計の下原桜、荒巻太一で結成された、この学校では1番新しい部活だ。
荒巻くんは応援団にも所属しているからなかなか来られないけれど、4人はとても仲がいい。

部室は狭いけど、３人と何気ない話をしながら放課後を過ごすのはのは楽しい。だが、なんと新入部員が二人以上入らなければ廃部なのだ。
生徒会も先生も美術部でいいじゃないかと言うけれど、漫画研究部と美術部は違う。それは漫研のみんなが同じ思いだ。とは言っても、やはりあの空間を残すためには、新入部員という救世主が必要であることに変わりないのだ。

私は窓の手すりをつかんで、1人次々と校門をくぐってゆく新入生の子達のなかに入学早々アニメグッズのアクリルキーホルダーやラバーストラップをつけているような勧誘しやすそうな子はいないものかと目を凝らしていた。

ペシッ
｢いてっ｣
突然後ろから…叩かれた。
振り向くと中川くんが30センチ定規を握って後ろに立っていた。

何故かいつも中川くんは30センチ定規で相手に存在を示そうとするのである。
肩でもいいじゃないかとも思いながら私がじんわりと痛みが残った頭を少し不満げにさすると、中川くんは｢ごめん｣といって、
｢新入生が気になるのは分からなくもないけど、目立ってたし、落ちそうだったし。呼んでも気づかなかったから｣
と申し訳なさそうに言い訳した。

そんな中川くんに、いつも私はなにも言えなくなるのである。
彼はとても優しい、悪気がないのはすぐ分かる。うん、たしかにそうだ…あと…

｢いやいや、私が悪いんだから気にしなくていいよ、ありがとう。｣
私はさっき後頭部に回した手を前に持ってきてひらひらさせながら彼なりの気遣い？にお礼を言っては

｢新入部員、入るといいな｣

と今の素直な気持ちを口にした。

｢そうだね、部活動紹介、頑張ろ｣
中川くんが眼鏡の奥で少し目を細める。

心が振動するのを感じる。
ああ、弱いなあ、私。その目を見たら…

…お察しの通りである。
いつぞやの理想の男性のタイプはどこへ行ったのやら
去年の夏からずっと、私はこの華奢で儚げなお人好し、中川悠太部長に心を奪われているのだ。

新入部員

ざわざわと音が交差する昇降口。

私は。いま何をしているかというと会計の桜と春休みに制作した渾身の新入部員募集プレートを手に持ち、通りかかる新入生に
｢漫画とかアニメとか興味ない？｣
｢絵を描くこととか好き？｣

最終的には
｢部活入る気ない？｣

と熱烈に声をかけ、肯定的な返事をしてくれた子は全員部室に連れ込もうという作戦を実行している。
しかし、なかなか難しい。
元々、この学校は芸術で取れる科目が音楽しかないので美術部や書道部にすら興味を持っている子が少ないのである。顧問だっていていないようなものだ。

吹奏楽部はもちろん、合唱部に音楽部、またハンドベル部なるものまであんなに賑わっているのに。
あとは食物部のクッキーや、茶道部の和菓子に釣られ、運動部のイケメンに誘われてマネージャーを志す子が現れ…
別棟の最上階の隅で細々と活動している漫画研究部などとんと見向きもされないのである。

｢…休憩しよっか…｣
ずっと立って声を出していて疲れたらしい桜が私にぽつんといった。
気づけばあたりに殆ど人もいない様子だ。
そう気づいた瞬間なんだかどうしようもない疲労感におそわれて、私も頭が考える前に
｢そうだね｣
と返していた。
校門の前の自動販売機