無職で無色な未来
あなたの未来はどんな色?
先行き不安な黒の色?希望に溢れる金の色?
それともこれから先どんな色にだって塗り替えられる無色?
無気力な朝
蝉の鳴き声が五月蝿い七月の今日、今朝の目覚めは最悪である。
昨日徹夜したせいか鏡を見ると目の下に大きな隈ができていた。
まあ今日は外に出る予定が無いので別に気にしなくてもいいのだが、というより正確にはこれから先ずっと外に出る予定はないと言った方がいいかもしれない。
そう、つまり俺は無職。
大学にも行っていない。もちろんバイトもやっていない。収入はゼロで出費はアパートの家賃三万円と食費などで合計六万円程である。
日を追うごとに増えるのは借金ばかり、お先真っ暗な未来は色で例えるなら黒色だ。
そんな俺も一年前までは普通且つ平凡な高校生であったのに・・・
以外にみんな高校時代の頃は将来に対して「まあ大丈夫だろう」とかって思うんだよ。でもそれが落とし穴なんだ。
そんな考えをずっと持っているからか一度受験に失敗して不合格という名の落とし穴にはまってしまったらもう立ち上がれない者が多い。
そう、そんな中の一人が俺、加賀波 俊也である。
俺はあの日、東京応用国立大学、通称(東応大)の受験に失敗した。当時教えてもらっていた家庭教師や学校の先生にも恐らく受かるだろうと言われてたから、
あの時の俺にとっては相当のショックだったのだろう。
受験に失敗した俺は無論受かるとばかり考えていたから就職なんか考えておらず今に至るという訳である。
「あーあ、やる気出ねー!」
何故か気分がムシャクシャしていたのでその場にあったスマートフォンを壁に投げつけた。
「ガン!!」
思ってたより大きな音が響いた、
すると壁の向こうから何やら怒声らしきものが返ってきた。
「オイ!コラ!朝っぱらから大きな音立ててんじゃないわよ!」
・・・ここってゴリラ飼ってもいいんだっけ?確かペット禁止だったような・・
・・・すると今のは人間の声か?いや・・しかし・・
俺が自分なりの推理で壁の向こうの正体について考えていると、部屋のインターホンが鳴った。
「ピンポーン!」
はいはい、文句でも言いに来たんだろうどうせ
「今開けるよ」
扉を軽く開けた。
「ちょっとは反省したかな?加賀波君?」
そこに立っていたのは全身黒いジャージで俺よりも背の高い二十歳前半の女性、もっとも俺はその女性を知っているのだが、
「まさか、さっきのゴリラと思っていた声の正体が清美先生だったなんて・・」
そう、この人は俺の高校時代の家庭教師の神山 清美先生である。正直容姿に関しては申し分無い、しかし性格の方は問題点が多い。
俺はあんまりこの人が好きではない、というのも家庭教師は教えるのが仕事の筈だが俺はこの人から教わった事などひとつも無い。
俺はただ勉強机に座りひたすら問題集を解いたのみである。そしてこの人は俺の横でスマートフォンをいじっていた。
これで毎月給料を支払っていると考えると大変不愉快である。
そういえば、母親とはかなり仲が良かった様に思う。
ある日曜日に俺がリビングでくつろいでいると母が電話で清美先生となにやら会う約束をしてたみたいだったし。
「それで、何でここに俺が住んでるって分かったんですか?」
「あなたのお母さんに聞いたら一発で分かったわ」
・・やっぱり、母の仕業か、確かに俺がここに住んでるのは母しか知らないからな
「ところで、加賀波君、ニートなんだって?」
「ああ、笑いたきゃ笑えよ、何を隠そう俺は正真正銘のニートだ」
それは嘘ではない、真実は隠せない。
「それもお母さんから聞いたわよ、それでね、あなたのために良い話を持ってきたの。」
「良い話?」
正直不安だった、この人が俺に良い事をもたらすなんて天と地がひっくり返ってもありえないことだ。
「そう!良い話!」
この時この人が言った言葉は生涯忘れることはないだろう。そう、なぜならこの言葉から俺の人生は大きく変わるのだから
「家庭教師!やってみない?」
辺りから吹き込んだ風はすぅーっと彼女の髪をなびかせた。
そう、僕らの夏はまだ始まったばかり。
無職で無色な未来