どんち

ひろこ

草原に たんぽぽやれんげの花が一面に咲いています。

草の茂みの中から小さな声が聞こえます。
くう くう くう くう
それは三匹の生まれたばかりの子犬が
おかあさんのおっぱいをねだっているちいさなちいさな声です。
黒 茶 こげ茶の三匹はおかあさんが大好き。
「おかあさんのおっぱい おいしいね。」
「おかあさんのからだ あったかいね。」
「おかあさんがなめると くすぐったいよ。」
「つめたい雨がふっても おああさんがまもってくれるから さむくないよ。」

すこぉし大きくなった三匹はいたずらざかり。
なかよく遊んでいたと思ったら あらあら けんかかな。
「おかあさん おかあさん たすけてよ。
おにいちゃんが いじめるよ。」

そっと見つめるおかあさんは
元気な三匹を育てることに いっしょうけんめい。
おなかがへって がりがりにやせて ゆっくりしか動けないけれど
子供たちを 一匹ずつていねいに なめてやります。
のどがかわくと 水たまりの泥水をのみます。

おかあさんはいつも祈ります。
「神様 この子たちが 幸せになれますように。
この子たちが おなかいっぱい ごはんを食べられますように。」
おかあさんのことも 子犬たちのことも助けてくれる人は だれもいません。

末っ子の どんちは ぼうけん家。
おかあさんを はなれて よちよち ひとりで おさんぽ。

「わあ!かわいい!」
あたまの上で 声がしたと思ったとたん どんちの体は ひょいっと宙に うきました。
「だれ?」
どんちを だきあげた子供は とつぜん 走り出しました。
こんなに速く そして 長く走ったことのない どんちは
必死に子供の腕に しがみつきました。
子供が止まったのは どんちが 見たこともない 家の前でした。

よくわからない事が起こったようでした。
どんちを抱き上げた子供より大きな人間が何人か
顔を覗いたり、体中をさわったりしました。

そのうち温かい水の中に入れられて、
目が痛くなる白くてぬるぬるするものを体中にこすりつけられ、
その後は、大きな布で ごしごしこすられました。

ふらふらになってぼ~っとしていると、
おかあさんのおっぱいのような でも味の薄い とっても冷たいものを飲みました。

気がついたら どんちは 家の外に つながれていました。
おかあさんや おにいちゃんたちには会えなくなりました。

それからは いままで食べたことのない 
おみそ汁のかかった ごはんやパンを食べることになりました。
あんまり好きではなかったけれど
それしか食べるものがなかったので がまんして食べました。

夜になると さびしくて
「おかあさんに あいたいよぅ・・・」
と なきました。
なくと だれかが 家の中から
「うるさい!」
と どなりました。

それでも がまんできなくて くぅ くぅと ないていると
だれかが出て来て おもいきり ぶたれました。
だから 声を出さないで なくことを
ちいさい どんちは おぼえました。

ときには 子供たちに ひもをつけられて ひっぱられました。
行きたくないところへも つれていかれました。
いうことを きかないと たたかれました。
そういうときは 家に帰っても 何も食べるものは もらえませんでした。

いつのまにか あつい夏がさり、黄色や赤の木の葉が落ちて
白いものが空から ちらちら 降ってきました。

子供たちが 手袋やマフラーをして まっ白い息を はきながら
学校に出かけて行きました。
子供たちのお父さんが もうすっかり大きくなった どんちを トラックに乗せました。

「どこに行くのかなぁ。おかあさんに あえるのかなぁ。」
どんちはゆれるトラックの窓から外を見つめていました。

1時間ほどすると 見たこともない 山のふもとの廃材ゴミ置き場に着きました。

お父さんは トラックに積んだ廃材と一緒に
どんちと犬小屋を おろしました。

そして少しばかりの水と えさを置き、
犬小屋のそばにどんちをつなぐと
帰って行ってしまいました。

 

どんち

どんち

  • 小説
  • 掌編
  • 児童向け
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