残り樹
何を意図してそこにあり続けるのか、いつからそこにいるのか、
視えない私達には、わからないーー
私の住む地域は、まあ、よくある田舎でして、この辺りの人は皆
無数の緑に囲まれて育つので、小学生の頃なんかは道の脇に生える樹の名前を
友人と言い合ったりしていました。
私の父親も、友人らの祖父も、子供は代々その遊びを受け継いで来た為、
この地域の人は少しばかり樹には詳しいのです。
そんな所だからこそ、他の地域の人には気づけない様な
ある現象が語り継がれています。
それが、残り樹というもの。
残り樹とは、言い伝えによると、何らかの理由で人に怨みや強い情念を持った樹の事で、
切り倒されても、焼き倒されても、何度も何度も繰り返し生えて来る樹を言います。
この話しを祖母から聞いた当初は、勘違いか、ただ生命力の強い樹の様に思いましたが、
この樹は、何度も何度も、繰り返し生えて来るのです。
一昨日切り倒されたはずの樹が、今日、同じ場所に、同じ様に立っているのです。
それも、同じ枝の本数、同じ幹の太さで。
当時の私はさすがに葉の枚数は違うだろうと思いながら、言い伝えを否定するチャンスとばかりに
その樹の土地の持ち主に、同じ樹を植え戻したのか聞いてみたのですが、
口ごもりながら喋る人だったので、よく聞き取れなかったのですが
「伝承が忘れ去られてしまったらーー」
と、言っていたのだけは聞こえました。
まあ、伝承とか言い伝えなんて元になるものがあったにしても、それは科学が
一般に広まる前の事ですからね。
残り樹
さて、ノコリギとはなんの事でしょう。