終末の告白
原案を考えている際
死にたくないけど仕方ないから死ぬ覚悟をしたのに死にたくなくなってしまった話
というのを思いつき
この物語ができました
何度も何度も書き直し続けて
やっと完成した物語です
読んでいただけたら嬉しいです
地球最期の日、彼女は僕にこう言った
「ねぇ、今日2人で出かけない?」
同じクラスの女の子にそう誘われた
「突然だね、どうして?」
「だって、明日は来ないじゃない
明日からの約束なんてしても無駄でしょ?」
それはニュースの話が本当だったらの話だ
日本は
ていうか世界は今日中に滅びるらしい
どのチャンネルをまわしても
今、空に見える
残酷なほど美しい
鮮やかな赤色を纏った星の地球到達時刻を秒単位で全国民に伝えている
それだと言うのに人はいつもと変わらない
今日は平日なので
出勤に行く人がいる
学校に行く人がいる
外を翔ける子ども達は遊ぶ約束をしている友達に会いにいく
危機感が見えない
僕もそうだ
『本日、11月24日木曜日、γ-US800小惑星が18時22分34秒太平洋に墜落し、
おおよそ35分で地球に黒雲が覆い
地表の温度が急激に下がり、人が生存できる環境では無くなってしまいます
繰り返します』
現実感が無さすぎて
馬鹿な事をしようにも
その方が馬鹿らしくて結局いつも通りに生活をしていた
学校に行こうと玄関に向かった時
彼女は僕に出かけようと提案をしに来た
この子とはあまり接点がない
廊下ですれ違って首を傾げる挨拶もしない
せいぜいグループ学習で一緒になった
ってだけだ
「なんで僕と?しかも2人きり?
君の友達と遊びに行ったらいいじゃないか」
素直な僕の気持ちをぶつけた
「みんな学校に行くから遊べないって言われたわ」
「僕も学校に行くんだけど」
「そこをなんとかしてほしいのよ」
彼女は引き下がらなかった
僕と遊びたい理由を口にはしてくれなかった
「君は本当に世界が滅びると思ってるの?」
「えぇ、今日滅びるわ」
彼女は全てを知っているとでもいうような
真っ直ぐな瞳で僕に言った
そんな目で懇願されては仕方ない
と自分に言い訳をして返事を返した
(本当は僕も学校を休みたかった)
「わかった、それじゃどこに行く?
行きたいところとかあるの?」
「プラネタリウムを見に行きましょう」
「上をみたら?あんなにハッキリ見えるよ」
「あなたって実は冷たいのね
もっと優しい人だと思ってたわ」
「思い通りにいかないのが人生だよ」
「それも今日終わるけどね」
僕は手早く出かける用意をして
彼女と駅に向かった
どうせ使い切れないんだ
と思い、今まで貯めてきたお金を全て財布に入れた
電車に乗り、終点まで行く
そこに目的地の天体博物館がある
沈黙が気まずいので口火を切る
「今日世界が滅びるっていうのに
電車まで動いてるってなんだか変だね
天体博物館は開館してるかな」
「きっとやってるわ
今日の朝電話したもの」
「何も今日じゃなくてもよかったんじゃない?」
「他の日に誘ったら断られちゃうかもしれないじゃない?
今日だったら大丈夫だと思ってね」
「休日だったらいつでも暇だったのに」
「先に言いなさないよ」
「あのね、、」
そんな軽口を言い合いながら天体博物館に着く
本当に開館していた
どうせならタダで入場したかったけど
そうもいかなかった
僕は彼女の分の入場料も払った
今日中にこのお金は使いたかった
「なんで私の分のお金も払ってくれたの?」
「僕の全財産を全部使えるか実験したくてね」
「私も持ってきたのよ、全財産」
「僕と同じだね
でも、こういう機会も最期だし
誰かに男らしい所を見せたいんだ」
「そう、、それなら今日はあなたに甘えるわ」
そういうと彼女は手に持っていた財布をゴミ箱に捨てた
「ちょっとちょっと、それ捨てていいの?」
「いいのよ、こうすればあなたは私に
色々なものを奢らなくちゃいけなくなるわ」
「ちっちゃい宝石を買えるくらいのお金はあるけど
まさか欲しいとは言わないよね」
「そんなもの買って貰っても明日にはゴミよ」
「さっきから君は明日は来ない事を前提に事を進めてるね、、」
博物館は従業員以外、人がいなかった
地球最期の日にここに来ようという変わり者は僕達しかいなかった
僕らは空にある小惑星についての情報を探していた
知った所で何か起こるわけじゃないけれど
我々人類の存続を脅かす存在なのだから
少しくらい知っておきたかった
しかし、残念なことに
それについての情報はどこにも無かった
「もしもあの小惑星が落ちなかったら
ここに新しい情報が載るかもね」
「勘弁して欲しいわ
こっちは財布を捨てたのに」
「それは君が悪いよ、自業自得」
今日初めて面と向かって話すはずなのに会話が弾む
世界が滅ぶという話題が無くても
この子とこんなに話せるのだろうか
「ねぇ、なんであなたは私とプラネタリウムに来ようと思ったの?」
「多分君にとって人生最後のお願いでしょ?
それを断ったらモヤモヤしちゃうよ
スッキリ死ねなくなっちゃう」
「ふーん、そういうことね
私の為じゃなくて自分の為ってこと?」
「それとこれとはまた違うよ」
僕の人生は明日まで続かないということに
僕はそれほど悲しんではいなかった
みんな一斉に死ぬんだから
生き残った所でどうするの?
と思っているからだ
自分でも思うけど結構冷めてるかもしれない
プラネタリウムの上映時間になったので
いよいよ今回のお出かけの目的である
プラネタリウムを見る
が実行される
座席に座り、背もたれを寝かせる
二人並んで仰向けになる
昨日まで想像すらしなかったような状況だ
「本当は夜空の星を君と見たかったのよ」
彼女はふと、そう呟く
「昨日の夜に誘ってもよかったのに」
「自分で言うのもなんだけど、私って乙女な所もあるの
こうやって冷静に淡々とした態度で振舞ってるけど
誘うまで本当にドキドキしてたのよ
断られたらどうしようってね
そう考えてるうちにいつの間にか朝になっちゃったの」
今日初めて彼女の素を見れた気がする
最後のは冗談なのだろうか
「こんな僕でよろしかったらいつでも誘っていいよ」
そんなことを言っても
時間はもう限られてしまっている
今日が最初で最後の彼女とのお出かけだ
「もしも、」
夢のように儚い、淡くて薄い声で彼女は言った
「もしも、今日は何も無くて
明日が来て、また出かけようって言ったら
一緒に出かけてくれる?」
彼女と初めて目を合わせて喋ったのは今日の朝からだった
今の彼女の目は
玄関の前や電車の中で見た時とは違かった
空にある星よりも美しく
今日世界が滅ぶという未来よりも
悲しみや愁いを持たせていた
当たり前さ
「当たり前さ」
返す言葉を1度だけ、噛み締めてから言葉を送った
彼女は何も言わなかった
静かにゆっくりと天井を見る
暗い空間に星が映される
レーザーポインターで空に映された星の解説が流れる
夏の大三角形について
こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ
この星達を僕らはもう2度と見ることは出来ない
僕はそれが少し残念に思えた
「星を見るのが好きだったんだ」
僕は自然と声を出した
僕達の他に誰もいなかったので
喋ることにはなんの躊躇いもなかった
「だったって事は過去形?」
「そう、
小さい時は星を見るという事に特別な何かを感じていたんだ」
「今はどうなの?」
「何も感じなくなったんだ
すごいとか、広いとかは思う
でもそんなハッキリとしたものじゃなくて
抽象的な漠然とした何かを子どもの時は感じていた」
「それって必要な事?」
「僕はとても大事だと思う
最近は星を見ようと意識をして見ている
小学生の時は気がついたら星を眺めてたんだ
そして寝る時に
あぁ、僕はさっきまで星を見ていたんだ
なんてその時の記憶が無かったかのような感じだった
でもその気持ちは、中学校を卒業したら無くなってしまった」
僕は好きな事というのは
意識して行うものではなくて
無意識のうちに気がついたら行っている事だと思っている
「今は何を思って見ているのよ」
そう言われて僕は少し考えた
『こ……の星は……で……ます』
周りの音が聞こえないほど深く思考していた
何故そんな質問に深く長考をしているのだろう
「今は、」
そう言いかけると答えがすぐに出てきた
「今は、君と本当の星を眺められないのが残念だなぁって」
本心でそう思った
彼女が朝、僕を迎えに来てくれて
今こうして並んで架空の星空を眺めている
どうせなら本当の夜空を見たい
そうすれば僕はもう一度、星を見る事を好きになれる気がする
そう思うくらい
彼女の存在は僕の中の特別になりつつあった
「君のその気持ちは、今聞きたくなかったかも」
そりゃそうだろう
もう明日は来ない
とても酷いことを言ってしまったとすぐに後悔する
「明日が来るといいね」
「明日に希望を持つのはやめましょう
私もスッキリ死ねなくなってしまうわ」
「それもそうだね」
僕は笑いながら言う
僕達は自然と喋らなくなる
2人で同じ星を見る
水に浮いているような心地よい沈黙だった
プラネタリウムを見終わり
近くのレストランで遅めの昼食を2人で食べていた
「ここってスーツとかで来る所じゃないの?」
「私達は今スーツじゃないけど今日位はいいでしょ」
近くにあったレストランはミラノ風ドリアとかがある
庶民的なものではなく
紳士淑女が来るようなレストランだった
「コース料理って言うの?一人20000円よ?
あなた大丈夫なの?」
「僕ってあまり物欲がないんだ
お金は貯まる一方だったんだよ」
彼女に気を使わせないようにそう言い訳をする
それに二人分のお金を出しても、まだ残りはある
今は14時だ
派手な贅沢は出来ないけど
日本を端から端まで横断できるお金は持っている
僕達はAコースというのを頼んだ
料理名を聞いても
名前からは想像すら出来ない料理たちが運ばれてくる
「なんだか手が進まないね」
「ちゃんと食べないとダメよ
これが最期の晩餐なのだから」
彼女は上品に料理を食べている
食べる姿を美しいと思えるのは初めてだった
「君はどこでその食べ方を教わったの?」
「しつけが厳しい家庭なの
特に食事に関してはね」
僕は彼女の真似をして料理を食べていた
ナイフとフォークの使い方なんて見様見真似で
何とかなるなんて思ってたけど実際はそうでは無かった
どうしても鉄と陶器の触れる音が鳴ってしまう
「見た目位気にしなくていいでしょ
ここにはもう二度と来ないのよ」
「それもそうだけど、なんだか恥ずかしくて」
「周りなんて気にしなくていいのよ
私達は私達で食べてるの
他の人と食事を共にしてるわけじゃないわ」
「でも君は綺麗に食事をしてるよ?」
「私のは染み付いてるの、今更無くせないわ」
僕はそうは言われたけど
やはり恥ずかしいものは恥ずかしい
ぎこちない手付きで料理を食べていく
僕達はデザートを食べていた
食事だけで1時間もかかっている
時間を掛けてゆっくり味わうのもいいけど
今度は明日もある日にもう一度来たい
「もう一度お願いしてもいい?」
彼女は突拍子も無くそう言った
「どんなお願いかな」
「これから海に行かない?」
彼女は今日の朝
僕にプラネタリウムを誘った時と同じ声でお願いをした
「もちろん、今日は何処へでも付き合うよ」
何処へでも
というのは死んでからの意味合いも兼ねていた
「それは死んでからの意味合いも込めてるのかしら?」
彼女には全てお見通しだったようだ
「それはどうだろう、わかんないや」
気付かれたくなかったので、曖昧に誤魔化した
これから死ぬって気持ちがまだ出来てないのかもしれない
「そう、それなら決まりね」
「太平洋に行く?
星が落ちる様子を見れるかもよ」
「私もそのつもりだったのよ
星の衝突を見れるなんてとても貴重な体験だと思ってね」
「海までどうやっていくの?」
「タクシーを使うわ
それくらいのお金はあるでしょう?」
「君には敵わないな」
僕達はタクシーに乗り、太平洋に向かった
午後3時に見る星は朝見た時より大きくなっていた
確実に近づいているぞ
という事を知らせているのか
星の周りはパチパチと小さな魔法のように弾けていた
11月の海はとても寒いだろうと思い
途中のアパレルショップで服を購入した
「別に一番安いのでもよかったのに」
「大丈夫だよ、これで残り10000円
海までのタクシー代は余裕で残ってるからさ」
「そういう訳じゃなくて、
こんな良い物貰っても明日には」
「わかったわかった
じゃあ君へのプレゼントってことでいい?
それなら文句はないでしょ」
「何よそれ、、」
「僕もこういうお洒落なコート欲しかったんだ
僕だけってわけにもでいかないでしょ」
「あなたってたまにずるい所あるわね」
「気を使っただけさ」
「そういうところよ」
僕らはタクシーの中で色んな話をした
将来の夢
学校生活での不満
家庭について
日常のくだらない事件
友達の面白い所、自慢できるところ
自分の長所短所
誰にも言えない秘密
面白い話、つまらない話
人生で一番嬉しかった事、辛かった事
そして人類滅亡まで残り1時間
僕達は海にいた
暗い砂浜で2人で並んで座り
空を見上げていた
いつの間にか僕達の距離は狭くなっていた
ピタッと磁石のようにくっついて座っていた
「すごい空だね」
「美しい空ね」
上にある小惑星は
ありとあらゆる宝石を集めたような
不思議な色の道を作っていた
僕達に残された時間は1時間しかなかった
「ねぇ、なに話そうか」
「あなた男の子でしょ?
話題の一つくらい作れないの?」
「タクシーの中で話尽くしちゃったよ」
「あら、私はあと一つだけあるけど?」
「じゃあそれを話してよ」
「今はまだダメよ
残り3分位になったら話すわ」
「あと50分は何してろって言うのさ」
「星を見ましょう?」
今日で3度目の
彼女のお願いだった
「満点の星空をみたかったね」
空に映っている星は
あの小惑星しかなかった
小惑星の光が強すぎて他の星の瞬きを消してしまっていた
「いいじゃない、私と星を見てるのよ?」
「それもそうだ、、ね」
一瞬だけ悲しくなってしまった
この時間があと1時間もしないで終わるということに
悲しみが込み上げてきた
「何よ、男の子でしょ?」
「いいじゃないか、君しか見てないんだ」
「男らしい所を見せるんじゃないの?」
「もう十分見せたさ」
涙は自然に流れていた
人生最後の涙はとても静かだった
僕達はありもしない未来を話し続けた
次はどこに行こうか
水族館に行きたいわ
クラゲをみたいね
私はペンギンを見たい
その次は動物園?
獣臭いからあまり好きじゃないわ
もう一回あのレストランに行く?
いいわね、次は私がお金を出すわ
財布捨ててなかったっけ?
実は私の部屋に幾らか置いてきたのよ
それじゃ服も買ってもらおうかな
いいわよ、あなたに似合いそうなやつをこっそり選んでたの
ほんとに?それは嬉しいな
あなたは世話のしがいがあるわ
必ず感謝してくれてる
ずっと頼りっぱなしになるけどもいいの?
いいじゃない
私はそっちのほうがいいわ
僕らはきっとそういう関係になってたんだろうね
きっとそうね
夢のようだわ
夢を見る時間はないよ
夢を語る時間はまだまだあるわよ
世界が崩壊する3分前
君は突然こう言った
「実はね、あなたの事が好きなのよ」
世界が崩壊すると言われた時から
僕の世界はボヤけて見えていた
死ぬ覚悟をした瞬間から
生きることがつまらないと思っていた
彼女の一言が
僕の世界を一瞬で塗り替えた
「君は本当にずるいよ
そのたった一言で死にたくなくなってしまった」
「ごめんなさい、でもこれだけは伝えたかったの」
涙が止まらなかった
死にたくない気持ちが僕を満たしていった
「ねぇ、いつまで待たせるのよ」
「ごめんね、返事は返せそうにないや」
情けないほど、僕は泣いていた
彼女は取り乱すことなく僕の話を聞いていた
「ひどい人ね、女の子を待たせるの?」
「きっと僕の返事を聞いたら
君も死にたくなくなってしまうから気を使ってるんだよ
こんな気持ちは世界で僕1人だけでいい
君と僕の2人で感じる悲しみの感情は僕が背負いたい」
「あら、素敵な気遣いね、そういう所が好きなのよ」
好きと言われる度
僕はもっともっと彼女を好きになっていく
この気持ちを悟られないように
静かに話す
「これから7,000,000,000人が死ぬんだ
天国の扉は予想外の長蛇の列になるはずだから
天国か地獄への決定には時間がかかると思う
君は扉の横、列の外れの方で待ってて
必ず君に会いに行く、必ず君に返事を返すから」
「死んでからの楽しみを作ってくれるなんて、
あなたは本当に優しいわ」
「君は扉の横で、手を狐の形にして待ってて
君と僕の2人しかわからない約束だ
僕達は死んでからも必ず出会う」
「狐の形だなんて、面白い事を言うわね」
彼女はクスクスと笑いながら言う
声、動き、言葉、存在を好きになっていく
時を一秒ずつ刻む度に好きになる
「そろそろかな、星が水平線にぶつかる」
今は夜のはずなのに、世界は明るかった
地球の最期、あの星は
幻想的な光で僕らを包んでくれた
祝福されているのだろう
僕は勝手にそう思っていた
「あーあ、せっかく告白したのに
まさかの待ってだなんて、
とんでもないプレイボーイね?」
「どうか許してくれ、僕だって辛いんだよ
君のおかげで僕の人生に色が付いた
君が生きる希望になってしまった」
「その生きる希望と一緒に死ぬ運命だなんて、神様は意地悪ね」
彼女と抱き合う
その体は震えていた
僕は慰める
「大丈夫、一瞬だ、怖くないよ」
「ねぇ、最後にキスをしてくれない?」
最初から最後まで、彼女は僕にお願いをした
僕は優しく彼女にキスをする
「ありがとう」
静かにお礼を言い
彼女の目から涙が流れる
空の星を綺麗と僕らは話していた
けど、あんな星なんかよりも
彼女の涙のほうがずっとずっと美しかった
世界が揺れる
僕らはもう一度抱き合う
最期の一秒でも、
僕らは互いの存在感じていたかった
終末の告白
人類にとっての明日は
当たり前に来る未来です
ですが、その当たり前が消えてしまったら
自分はこの2人のように人生を終えたい
そう思いながら作ってました
自分の夢物語でもある物語です