あなたの手で、とどめをさしてくれたなら
あなたは言った。
あなたが言ったの。
――俺が君の嫌と思う部分を、君がなくしてくれたらもっともっと好きになれるよ。
だからわたしはあなたの理想に近づくための努力をした。
仕事を変えた。わたしにはお金のかかる趣味があったけれど、あなたは夜遅くまで働くわたしを嫌だと言ったから。
友達付き合いを一掃した。あなたは男友達の多い女はなんだかなあ、と言ったから。長年の友達でさえ、わたしは。
メールの返信をこまめにするようになった。そういう類のものが嫌いで、特に返事を急かされることが嫌いだった。でも、すぐに返信をする努力をした。
わたしには好きで好きでどうしようもないものがあった。何よりも愛していた。あなたはそんなわたしに、死ぬまでにそれと同じくらい愛しておくれよと笑っていた。わたしはあなたのことも同じくらい愛していた。なのにいつしかあなたは一番を望むようになった。何もかも一番であることを望んだ。だからわたしはあなたが一番だと自分に言い聞かせた。胸の内を叩く、本当の叫びを無視して。
どれもこれもわたしは嫌だった。本当はしたくないと思った。でも、それを口にするとあなたは。
――俺なら愛する者のためならそれくらいする。
そう言った。そう言われてしまっては、何も言えなかった。それが愛というものなのかと思い込んだ。それはいつか錯覚となり、次第に麻痺して、真実となった。
わたしのしたいことや思うことはあなたの機嫌を斜めにし、喧嘩の種となった。恋人になる前から、わたしが何を愛し、謳歌し、異性の友人がいるということをわかってくれていると思っていたのに、そうじゃなかった。もしくは、変わってしまったのだろう。でも、喧嘩ばかりしていると嫌われると思った。あなたを愛しているわたしにとって、それは恐ろしいことだ。あなたの機嫌に一喜一憂し続けた。心が休まらなかった。わたしの心は荊棘を纏い、少しずつ弱っていった。
それでもまだ生きているの。弱々しいくせに、閉ざした心の向こう側からノックをしてくる。死にきれていないの。
心を曝け出せなかったわたしの心は自殺を強いられた。なのにしぶとく、まだ生きている。未練がましく、生きている。でも心が何を訴えているのか、もはやわたしにはわからない。
苦しいよ。助けてよ。
あなたの手で、とどめをさしてくれたなら。
どれほど楽で、幸せなことだろう。
あなたの手で、とどめをさしてくれたなら