月光浴

桐原 水刃

高い塔の一室に囚われた私は
月明かりに照らされて一人でシャワーを浴びている
一人の男が登ってくるのを待ちながら
静かに残された時間を研いでいる

幼い頃になにかを見つけて
人知れず攫われてから
誰も知らないもう一人の私は不思議な迷路を彷徨っている
雑居ビルの狭い一室に閉じ込められて
新聞すら読むことができずにいるような

何かが違う
この場所は汚れている
捻じ曲がって嘘臭い未来しかない
月明かりに照らされて男がここまで登ってくる

そんなの私は知らないんだ
これから起こることは聞いたこともない
誰に聞いても笑って誤魔化されるだけだから
実際にその男が存在するのかも分からなくなってくるのに
確かに私は奪われている

 (できるなら永遠にシャワーを浴びていたい……)

時々は君に連絡をとるけれど
もうちょっとだけ気にかけて欲しいなといつも思っているんだ
またいつかきっと会えるかもしれないけれど
それは些細なことでただの気のせいになるから
たまには君からも連絡してね

私たちは笑いあう
昔のようにいつまでも変わらずに
君に出会った時からずっと
「私はここにいるよ!」って、別の場所から叫んでいるんだ

空が割れて
月明かりに照らされて
誰も知らないもう一つの運命が降り注いでくる
高い塔にあるこの部屋の扉を一人の男が押し開ける

月光浴

月光浴

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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