フォーゲット・マイ・ラブ
恋愛小説を書いてみました。私はあまり恋愛経験豊富なほうではありませんがそこは妄想で補填しています。よろしくお願します。
プロローグ
朝七時。晴れ。それからあたりを見回した。ここは僕の家。昨日のことは覚えてる。確か十時に舞と待ち合わせだった。一時に北山の麓で待ち合わせだった。大丈夫、ちゃんと覚えてる。支度を済ませ待ち合わせ場所へ向かった。十分ほど早かった。しかし彼女は先にやってきていた。
「遅い。ヒロ。」
「遅くないって。十分前には着いたし。」
「私を待たせたんだから遅いの。」
「許してくれよ。」
「私もたまには彼氏に待ってもらうみたいなの体験してみたいっていったじゃない。」
「言ってたっけ?」
「言ってたの。」
「わかった今度から気を付ける。」
「ほんとだよもう。」
マイは笑い交じりに言ってくる。そんな表情も愛らしく感じてしまう。
「じゃあ行こ。」
「ああ。」
二人並んで歩く。ほんとに忘れてた。そっか忘れてたんだ。
「着いた。」
来たのは滝。北山ってとこを登ると見える。山といっても特に標高が高いわけじゃない散歩程度で来れる。
「やっぱいつ見てもいいね。」
「そうだな。」
「ねえ、前来た時覚えてる?」
「ああ、確か滝を近くで見ようとしてちょっと服が湿っちゃったんだっけ。」
「そう、だから今回はちょっと遠くで観察。」
ああ、覚えてる。僕ときみはそのあと風邪を引くといけないから近くの君の家に向かって歩いた。でもきれいに晴れた日だったから家に着く前に服が全部乾いて君の家に着いてから、何も特にすることなくアイスがあるから一緒に食べた。溶けたアイスが僕のズボンに落ちて君は笑った。結局君の家で僕のズボンを洗濯して、面倒だったから、いや居たかったから君の家で一日過ごした。ああ、思い出せる。君といた日々。どれも美しくて明るい思い出。でも僕はまた忘れる。また忘れていく。
続く
第一話 思い出
雨だった。日は沈んだばかりで足元が悪かった。天気予報では晴れであったが午後になって雨が降り始めてた。いくら精度が上がっているとはいえ外すこともある。朝の天気予報を恨むのはやめよう。そう自分に言い聞かせていた。善人になりたいとか心から美しくなろうとかそういうことを言っているんじゃない単にデートの途中でマイに苦虫を噛んだような顔を見られたくないだけだ。そう、今日は一時からマイと会いデートであった。別に等に変わったことはやらなかった。遅めの昼食を摂り、ウィンドウショッピングに。夕食はどうするかという話になったがレポート提出の日がちかいからまた今度一緒にしようという考えにまとまった。その帰りである。一応車の免許を持ってはいたが彼女を乗せてドライブするのは少し怖かったので退いてしまったのが悪かった。コンビニで二本傘を買い二人並んで帰る。ほんとは一本でも良かったがそこまで勇気が出なかった。マイは何も言わなかった。
「ねえヒロ。イライラしてる?」
「え、してないけど。」
「嘘、雨降ったからイライラしてるでしょ。」
きっぱりと当てられてしまった。
「なんでそう思うの?」
「そこ。」
マイは僕の眉間を指さす。
「ヒロは嘘つくときそこにしわがよる。」
そんな癖があったのか。マイは相変わらず鋭い。僕よりも僕のことについて知ってるかもしれない。
「マイには敵わないよ。」
「わかったかな?だからマイお姉さんには隠し事はなしですよ。」
マイは僕より一つ年上である。でも僕があまりにもそれを感じさせないためたまに自分でアピールしてくる。
「了解しました。」
「了解は敬語じゃないでしょ。」
「細かいな。」
「文句は言わない。」
「承知しました。今後マイ様には文句を言いません。」
「ちょっと待って。嘘もつかないでよ。」
「必要ですか?」
「ひつよう。それとも嘘ついちゃうの?」
上目づかいで僕を見る。観念した。
「はい、嘘もつきません。」
「よくできました。」
マイは僕の頭を撫でるために背伸びをする。ちょうどマイとの顔が目の前に来る。なにか仕掛けようとしたが考えるほど恥ずかしくなりなにもできずその瞬間は終わった。彼女は満足そうな顔だ。僕自身撫でられている間に微かな幸福を感じていた。
「なあマイ。」
「なに?」
「ありがとな。」
「何急に?」
「俺今幸せだと思った。」
「私も。」
「だからありがとう。俺の傍にいてくれて。」
マイは薄く笑う。
「俺の傍って。当たり前じゃない。だって私が…」
そのとき車の音が近くで聞こえた。キキィっという感じに車が僕らの方に揺れながら近づいてくる。あとでわかった。雨でスリップした車がこっちに向かてきたんだと。その時感じたのはこのままいたら死ぬ。本能だったのか反射的なのかわからないが傘を捨て、マイの方へ飛びかかった。マイを押し飛ばし、さっきマイがいた場所に自分がいた。この人を守らないと。そう思ったとっさの判断であった。そこからは全てがスローモーション。いや、映画のフィルムを一枚ずつ見ている感じだ。僕は彼女が轢かれてはいないと信じた。そしてそのフィルムは知らず知らずのうちにブラックアウトした。
続く
第二話 思い出 part2
ふわふわした気分。浮いているんだろうかと思ったが足は地面についている。いや嘘をついた。本当はどちらが上でどちらが下なのかもわからない。それでも僕は立っていた。何も無い。何も聞こえない。今立つ大地に触れてもまったく感触が無い。
「そうか、僕は死んだのか。」
誰が聞くわけでもなく独りでに呟いた。
それにしてもおかしい。どうしてもここはどこかと考えてしまう。真っ暗ではない。しかし決して明るいわけではない。天国というには実に寂しく、地獄というには実に平和だ。
「どんな感じする?」
背後から声が聞こえる。振り返ると其処に人はいた。僕と同じ人間なのだろうか。顔は普通の男性。整った黒いスーツ。黒いネクタイを身に着けていた。その姿を見たとき僕の中に微かながら嫌な予感がした。
「まだ生きてる感じする?ヒロくん。」
「なんで俺の事。」
「それよりも聞きたいことたくさんあるんじゃない?」
完全にアタリだ。でも何から聞けばいいか思いつかない。
「うーん。まず君にはこれを言わないとね。君と一緒にいたマイちゃんは生きてるよ。」
「本当ですか?」
喜びが込み上げたと同時に悟ってしまったこともあった。
「君が考えている通り僕は死神なんですよねぇ。」
薄くそれらしきものを感じ取っていたがやはり再確認すると驚いた。僕は死んだんだ。でも後悔はしてない。自分の好きな人を守って死ねたのだから。
「あともう一つ。君は死んではいないんですよねぇ。」
「へ?」
何を言いているのか理解できなかった。と同時にここが一体どこなのか最初の疑問が蘇ってきた。
「話すことがたくさんあるから順を追って説明させてもらうから。」
ペースを向こうに取られている。まあいい。そのほうが混乱せずに済む。
「まずここは天国でも地獄でもありません。」
「ああ。」
「ここはねぇ。その境目。」
「はぁ?なんだそれ。」
「つまり、本来は死ぬべきじゃなかったんだけど、手違いで死んじゃった人。つまり保留中だということだ。」
なんだその適当さ加減は。しかしわかったこともある。
「つまり俺は生き返る可能性があるってことか?」
「君、理解がいいねぇ。」
死神はグッドサインにウィンクをした。死神という言葉からは想像し難いフレンドリーな雰囲気を醸し出す。
「じゃあ俺はいったいどうしたら生き返るんだ?」
和むと同時に少し焦りが出てきた。
「まま、そうせかせず。」
「急がないと。今すぐにでも会いたい人がいるんだ。」
「大丈夫だって。ここでの時間はそっちではあんまり関係ない。たぶん今は車に轢かれて倒れてるあたりだぁ。」
「じゃあなおさら早く戻んないと。」
「だからそう焦らないで。それにまだ言ってないことがあるんだ。」
急にフレンドリーなスーツ男が真剣な雰囲気を出し始めた。
「確かにヒロ君。君は死なないよ。生き返ることになった。多分事故が起こる少し前くらいに戻る。理解できる?」
理解できる。誰も傷つかない。僕は何もなかったかのようにマイと過ごせる。でもこの言葉に嫌な予感を覚える。いいニュースの後は悪いニュース。悪い胸騒ぎ。そしてその胸騒ぎは当たる。
「死ぬのはマイちゃんだ。」
音も景色もない空間。その言葉ははっきり聞こえ、死神の姿ははっきりと写った。
続く
第三話 思い出 part3
この場所には何もない。光も音も感じない。でも明らかに暗い雰囲気を僕は感じ取る。
「それって一体どういことなんだよ」
少し威圧をして話した。そうすることによってこのチャラチャラした黒服の意見を変えることができるんじゃないかとかすかな希望を描いていたが、その希望はいとも簡単に砕かれる。
「あれ、理解遅れてきた?じゃあ、もう一回言いマース。」
咳ごみをして再び顔つきを整える。
「君は生き返るでも代わりにマイちゃんは死ぬ」
「なんだよそれ。なんだよそれ!」
込み上げたのは怒り。死神に対して、事故に対して、自分に対して。
「大体、あんたらが悪いんだよ。人の命をなにか一つのゲームみたいに扱いやがって」
「死の運命は変わらない。仮にも僕ら神様。
管理するのが人の生死なだけ」
表情を見る限りどうしようもないと言いたげだ。
「俺が死ねばいいんじゃないのか。それじゃダメなのか。なんでマイじゃなきゃいけないんだ。なんでだ、なんでだ、なんでだ――」
ゆっくりと力が抜けて行った。どれだけ叫んでも目の前の表情は変わることなく。前を向くのができなくなってしまった。僕の口が止まり、彼が話し出す。
「細かく説明しよう。僕らは死神。人間の生死を管理するのが仕事だ。そして死ぬべき人を確認し、その都度どう亡くなってもらうか各々考える。そして本来生きるべきであった記憶を貰って生きていく」
さっきは聞こえたはずの声が聞こえない。何かわからないノイズ。森の中を掻き分け出口を探すのにどこにも光が差さない。
「今回の場合は交通事故。しかしここで想定外の事態だぁ。ヒロ君が想定外の行動に出てしまった。大抵の人間は硬直して動かないところを君は動いてしまった。これはこちら側のミスだ。故に何かしらの償いをしなくてはならない」
パチッ
急な音で意識を取り戻す。
「はい、ここからが重要。」
なにも考えられなくなった脳みそを起こす。
「ということなんでマイちゃんにも生きていてもらいます」
「えっ」
二度目の衝撃。ただでさえ眠った脳が追い付かない。
「但し、死の予定は変更できない。そこで君から代償を貰うよぉ。」
「代償?」
「そう、こればっかりはどうしようもない。何かを得るための対価だ」
「前置きはいい。早く教えてくれその代償っての」
少し焦っていた。死の運命。それも彼女の死の運命を変えられる。そんな方法があるなら全てをかけてでも知りたい。
「君の記憶。マイちゃんとの思い出を貰う」
第四話 思い出 part4
「僕の記憶?」
「そう記憶ぅ」
さっきから出た色々な話はなんとか理解できていた。だから何が起こるのか少しは理解できた。
「僕の記憶を犠牲にしたらマイは生きていけるんですか?」
「おぉ、呑み込みが早い」
「答えてください。」
「うーん、半分そうとも言えるし、半分違うともいえる」
「ん?」
「死の運命は変えられないって言ったでしょう。それに記憶には濃い部分と薄い部分がある。記念日も何事もない日もある。それぞれによって補填できる日々は変わる。だからマイちゃんが生きていくのは期限付きかなぁ」
「わかりました。じゃあ僕の記憶全部使ってください」
「焦るんじゃない。寿命は一日更新。その都度記憶を貰いに行くよ。もちろん、更新破棄もできるよぉ」
「そんなのいりません」
「わかってるのかい?毎日マイちゃんとの記憶をなくしていくんだよ」
また冷たい風だ。寒い。さっきよりも。言葉の重さが冷たく心に刺さる。それでも。
「それでも構わない。だから頼みます」
「りょーかい、じゃあまあ最初はそういうことにしとくよ。最初はこっちのミスだし。あと更新破棄は受け付けるから」
「ああ」
「じゃあ、まあ一旦おさらばだ。戻ったらさっきも言った通り事故があるちょっと前に戻るよ」
「わかった」
そう言ったときまた目の前が真っ黒になってしまった。その寸前死神の背中が見えた。
続く
第五話 変化
2、変化
「どうしたの?」
声が聞こえた。聞きなれたかわいい声。見上げてその声の主を見る。その人は僕が一緒にいて一番安心する人。少し落ち着き辺りを見回す。そこはさっきまでウィンドウショッピングをしていたその場所。僕は彼女の隣に立っていた。しばらくポケェっとしていると彼女が僕の顔を覗き込む。
「どうした?ヒロ君?」
ふと我に返り返事をする。
「なんでもないよ。少しぼーとしてただけ。」
「そう?変なの。」
そういって彼女は歩き出す。その姿を見て僕は安心していた。そして気が付いた今は事故が起きる前なんだと。
「マイ。」
「何?」
「ちょっとさ、寄り道しない?」
「なんで?レポートまだできてないんだよ?雨だって降ってるし。」
「いいから、また新しい発見があるかも。」
僕はマイの手を引き、無理に回り道をした。
少し違和感があったかもしれない。でもそれ以上に怖かった。今は事故が起こる前。つまりこの後事故が起こるのではないか。そして今度はこの人を守れないんじゃないかと。僕の考えは当たりだったのか、外れだったのかその日は何事もなく家にたどり着いた。しかし僕は心配でならなかった。このときは大丈夫でも次の瞬間失ってしまうんじゃないか。彼女は一人暮らし。今日は泊まらせてもらおう。部屋は一部屋だが僕が床で雑魚寝すればいいことだ。
夜。眠りにつく前、彼女はベット、僕は布団を敷いてもらい寝ることで解決した。
寝る前に話をしよう。
「今日は泊めてくれてありがとう。」
「別に~一人暮らしって静かで暇だし。」
「それでもありがと。」
「まあでも~レポートは時間かかっちゃったけど?」
「だったら尚更ありがとう。」
「ふ~ん」
マイは鼻から息の抜けるように返事をする。
「なんか、ヒロ君ってさ、違う?」
ジトッとした目でこっちを見てくる。そのしぐさを見ているだけでこの人と一緒にいることをこころより嬉しく思う。なぜこの人は僕の喜ぶしぐさを知り尽くしているんだろう。「違うって?そういうこと?」
「なんかさ、今日はやけにぐいぐいしてるなぁって。」
「そうかな?」
「私から見てそうなの。」
またジトッとした目で見てくる。
「その目止めろよ。」
「あ、ごまかした。」
「ごまかしてないよ。」
「ふ~ん。まあいいけど。」
寝返りをして彼女は眠りについた。本当は少し考えてはいた。マイにすべてを話してしまおうかなと。でも僕自身なんて説明していいかわからない。例え僕が話せたとしても、いや話せない。聞けばマイはどうなってしまうのか。どれだけ明るい彼女でも-
聞きたくないはずだ。誰だって自分が死ぬ予定だとは聞きたくないと思う。勝手に自分の中で約束して眠った。
続く
第六話 変化 part2
ふと目覚める。目は覚めているが体の動きは悪い。辺りを見回せば明るくも暗くもない。あの時と同じ感覚。
「はい久しぶりぃ」
あの日見た死神。
「どぉ、一日どおだったぁ?」
「どおって」
「なんにも感じなかったでしょ」
「確かに、、、」
本心だった。マイについて忘れていると感じたことは今日一つもなかった。
「まあ、今日のはおまけだよ。明日から忘れていくさぁ。と言っても最初は気づかないだろうけどねぇ」
「あ、」死神が呟く。
「それから、今日僕に会うのが最後だから。」
「へ?」
「こっちだって毎回ヒロ君のために出てくるわけにもいかないからねぇ。もし会って何か言いたいときは寝る前に僕のこと考えててよぉ。出てくるから。下らん事だとごめんだけど」
そう言って死神は消えていった。前に比べてあまりにもあっさりとしていた。
続く
第七話 変化 part3
朝八時。晴れ。昨日いきなり雨が降ったせいかその反対に雲もなく晴れ渡っていた。目覚めようとしたとき気づく。いつもの感じと違う。いつもの感触じゃない。その謎は体を起こしたときに解決した。僕以外の人間がキッチンで作業している。そうか、昨日はマイの家に泊ったんだった。
「あら、お目覚め?」
「ああ、おはよ。」
「遅い。って言いたいけど。ナイスタイミングでもあるのよね~。ちょうど朝できたとこ。」
「ありがと。すぐ準備する。洗面台借りるよ。」
顔を洗い。髪を整える。そして席に着く。
「いただきます」
二人同時に言った。ご飯に味噌汁、目玉焼き。和風よりな朝食。
味噌汁に手を付けてから、ご飯を食べ、目玉焼き。一通り口につけてから彼女が言ってきた。
「どう?おいしい?」
「うん?普通だよ」
「普通ってどういうこと?」
「普通においしいってこと」
「じゃあ駄目ね。彼女補正が入ってるのに。私もっと鍛えないと」
少し嫌味を込めたはずが、全然効いていなかった。そこが彼女のいいところでもあると思う。
「今日は何限目から?」
「今日は一限からなの。だからちょっと急いでる」
「休んじゃえば。どうせ寝て過ごすような授業なんだろ?」
「自分で選んだ授業なんだからそんことしない」
彼女は基本まじめな人なんだろう。いや、僕が不真面目なだけなんだろうか。そしてそんな彼女に引っ張られているのも悪くないと感じてしまう。彼女の魅力に日々引き込まれてしまっている。
「そっか」
僕がこんなにも余裕なのは朝起きてから今まで感じなかったからである。いや、正しくはマイのことを感じられたからである。なにも変化がない。なにも忘れたわけじゃないし。なにか違和感があったわけじゃない。彼は噓を言ったんじゃないだろか。
続く
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