ストラグル
荒廃の地平線
「きゃあああああっ!」
「ぐあああっ!!」
「ひ、ひいいぃ!」
「逃げろおお!」
街が炎に包まれ、人の波がその中を掻い潜り、重なり合う悲鳴達が星空を埋め尽くした。
大日本極東軍少尉、柊 拓徒は、かつてのことを思い出していた。
「...」
幼馴染の佐野 佑樹と、憧れの先輩クローリー・レインと、母親のような存在である十文字 麗子。
彼等と共に、第四前線部隊に属している。
「柊、昨日の戦闘、お疲れ様」
麗子が、休憩中の拓徒にコーヒーを渡す。拓徒がブラックが苦手なのを覚えているあたりも、麗子の魅力だ。
「ありがとうございます、麗子中尉。しかし、あそこでもう少し...」
などと答えると決まって、
「あなたに出来る最善のことをしたのだから、結果なんていいのよ。結果ばかりにとらわれていると、自分を見失うんだから」
と励ましてくれる。
「オス!」
クローリーがその後ろからやってくる。躊躇いのなさと抜群の戦闘センスはまさに拓徒にとっては憧れのものだった。
「クローリー中尉。その節は」
「あぁ、結構疲れたよな。今度一緒に、女の都に行くか?」
女の都がどこかは知らないが、まあ確かに疲れてはいた。
このところ、セラフィムが急激に勢力を増している。
その殲滅は、最早気を失うほどの作業であった。
「よっすー♪」
軽薄な声の、佑樹。
「よお...お前少しは疲れろ」
「は?何で?」
「連日セラフィムとの戦闘が続いてるのに、疲れないのか?」
「ああ...疲れねえ!ヒーローが疲れてちゃ地球は終わりだぜ」
確かにそうだ。だが、彼はそれでも異常なくらい疲れ知らずだった。
「まあまあ、柊も佐野の気楽なところに励まされてるんでしょ?」
やはり麗子は知っている。
「......はい」
そんなやりとりも束の間、メインタワー内に警告音が鳴り響く。
『名古屋方面、名古屋方面。現在大型セラフィムと交戦中。しかし依然、表層部へのダメージ率2%、ただちに戦闘配備に付け』
「なっ!?2%だって?そりゃ何のチートだ!」
クローリーが慌てる。
いや、皆が慌てていた。
メシアの装甲などとは比ではない。
名古屋方面に配置されているメシアは特殊兵装だった筈だ。
麗子が言う。
「......第四部隊に回ってくるわね、出番」
クローリーが相槌を打つ。
「ああ」
「なら、軌道上誘導ビーム砲でお出迎えするのがいちばん...」
禁忌の煉獄
長い尻尾。顎が異常に発達しており、奇妙な目が頭部からひとつ。
地球外生命体というだけあって、その見た目は地球の生命体のそれではない。
『くそ!第二部隊もここまでか!離脱だ!』
『ぐあぁっ!』
『くそ...此方第三部隊...!離脱...うわああああああああっ!』
時間稼ぎのためにオトリとして駆り出された第一、第二、第三部隊が離脱、または全滅。
次は第四部隊。
『総員、クローリーに従って。いいわね』
「はっ!」
クローリーのアシュラ5式が先頭となって、後続に麗子のボサツ3号機、佑樹と拓徒のホトケ億式。
横浜のメインタワーを仕切る女リーダー・葉月司令が命令をくだす。
『お前達が止められなければメインタワーはやられるだろう。頼んだぞ』
『了解!』
第四部隊は誘導ビーム砲を配布されている。
これまでのオトリとなった部隊とは、武装からして違う。
全機が配置に付き、戦闘体勢に入った。
殲滅の出会い
横須賀基地
「火皇2号機、鬼宮原 飛鳥、出撃!」
スラスターが火を噴き、火皇2号機が射出される。
横須賀本隊のエースパイロット、鬼宮原 飛鳥。若いながらベテラン並の戦闘技術を有している。
彼女は今日付けで、横浜本部第四部隊に配属される予定だった。
なので、横浜へと向かっているのだ。
ストラグル