ライン川
それはブロッケン山にかかる霧のようにかすむ遠き世の物語
明治の世に怜悧な知性と
菊花のような高貴さ漂う美貌を備えた少年あり
祖国と自身の前途背負い
まさに栄光の階を登らんと 洋行せし東京帝大の国費留学生
嗚呼…誰が想像できようか…
遙か遠き国で
ライン河畔を其の身の奥津城にしようとは…
淡い月光がラインの水面に大聖堂と
哀婉の恋情滲む 美少年を映し出す
かんばせに艶やかな漆黒の髪かかる
黒曜石の双眸から零れ落つ涙
頬つたい
月影浮かぶラインの水面に零れ落つ
「嗚呼…エリザベート…!
私は貴女のものとなってしまったのに…!
日本の未来なんてもうどうでもいい…!
貴女は白皙の胸につけた黒曜石のペンダントをとても大切にしてくれた
でも貴女はそれをいとも簡単に川に投げ捨てた」
春風に其の身を委ね
薄紅に染まる桜の花びらは
春風に其の身を弄ばれ
地に堕つる
麗しきブロンドの乙女の
たおやかなる白き腕に抱かれて
春風に其の身を焦がし
紅に染まりぬ
春風に其の身を委ね
薄紅に染まる桜の花びらは
春風に其の身を弄ばれ
地に堕つる
麗しきブロンドの姿
破れたる恋の残滓
愛も夢も歴史も所詮川の流れ
月は満つれど欠けてゆき 花は散りゆくから美しきものよ
束の間の愛に翻弄されたる我が身を ラインに投ず
祖国と自身の前途背負い
まさに栄光の階を登らんと 洋行せし東京帝大の国費留学生
嗚呼…誰が想像できようか…
遙か遠き国で
ライン河畔を其の身の奥津城にしようとは
ライン川