空から離れることを望んだ

誰もが一度は思うことを、ただそれを言葉に変えてみました。

空から離れるなんて、無理な話だった

今日もニュースでは、誰かが死んだことを告げている。
人が一人も死なないなんて、この世界ではきっと宇宙の確率的に無理なことなんだろうな。
朝から、そんな悲哀的な情報を嚙み砕いて、お茶と一緒に流し込んだ。

「行ってきます」

告げた声は、どんな色を表すだろうか。
正直朝が苦手で、こんな仕事を不用意に選んだせいで、向かう足はいつも重い。
あれは母の声か、父の声か、それともまた別の声か。
「こんなんじゃやっていけないよ?」
そんなこと、私にだってわかってる。わかってるけど、どうしようもできない。
それぐらい見てわからないか?

そして私はいつも空を見上げる。
深い溜息とともに。

空なんて見上げて、自分の悩みなんてちっぽけだなんて、ロマンチシズムに浸って。

「空から逃れたい」
そう思い始めた。
自分の悩みと空を比べるなんて、どうかしてる。
みんなそう言って、現実逃避をしたいだけなんじゃないだろうか。
そんな考えをし始めると、気づけば仕事へ向かうはずの足は、全く違う方向へと向いた。

海でも向かおうか、それともどこか高いところでも向かおうか。

別に死のうなんて考えはないけれど。
そうしてふと考えが頭をよぎった。

「そうか、そうだった。こうすれば空が離れてく・・・。」

どこかワクワクしながら、家からすぐ近くの、小さなアパートへ向かう。
ここは昔、私が住んでいた場所。
もう取り壊しが決まって、ここにはもう誰もいない。
この部屋の鍵はいまだに私のおもちゃ箱の中にある。そんなに楽しい思い出があるわけじゃないのに。
それでもここは、私の落ち着く場所だった。

ドアを開け、土足のまま家に上がる。
もうどこにも懐かしさはないけど、どこか記憶の片隅に音と色が合わさる。
そのまま階段を上がり、ベランダの手すりを渡って、屋根の上へ上がった。
あの時はこの高さが、東京タワーの高さと同じように感じられたものだけど。今ではそれほど高くはない。
その屋上で私は横になり、空を見上げた。

「このまま、下に落ちていけば空が離れていくように感じられるんだな・・・。」

ある歌に教えてもらったこの方法。
空から離れるなんて無理な話だ。
自分の命を懸けて、ようやく離れた感覚になれるだけ。

「バカらし。」

自分で自分が馬鹿らしくなって、笑ってしまった。
そのまま目を閉じそうになった時に、携帯の着信音がそれを邪魔をした。

「・・職場だわ。」

また深くため息を吐いた。
電話を取って、遅れる言い訳をして、立ち上がった。
着信と同時に、母からのメールが入った。
『今日はすき焼きにするから、早く帰っておいでね』

もう一度深く息を吸って、大きく吐き出した。

もう少しだけ、空と一緒に生きてみるのも悪くはないかもしれない。

あの歌の少女は死んだのだろうか?
それとも、生き続けただろうか?

私は、今日も生きていく。

END

空から離れることを望んだ

とにかく書き終えられてよかったと思います。
うまく書けてるかは分かりませんが、皆さんが読めるような作品であることを願うばかりです。

空から離れることを望んだ

人が誰でも一度は思うことを、それをこの話に出てくる「私」は思い、実行に移そうかと考えます。彼女の下す決断とは。生きるとは難しいけど、案外簡単だったりするのかもしれません。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-08

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