唸れ肉棒
十一辺舎一九・ 葛城文之助平・ 淀川乱交・本松性徴 作
カルロス荻窪 編
これは四人によるリレー小説です。書き手により文体と嗜好が違いますが、このての読み物の醍醐味として寛大な気持ちでお読み下さい。また時々稚拙な性描写があります。お嫌いな方は飛ばしていただいてもストーリーには支障ありません。
第十五話 part1 「真相」 作・葛城文之助平
昭和が平成に変わる頃、山陰地方のとある町で一家惨殺事件があった。若い夫婦とその祖父母が刃物で切り刻まれて殺されたのだ。当時20代だった若妻は、殺される前に家族の目の前で性的暴行をうけている。
このあまりにも酷すぎる事件は日本国内はおろか全世界をも震撼させた。日本でヤバい事件が起こっている。こんなことをやらかす日本人ってけっこう危ない人種かも、と勤勉実直な日本人のイメージが崩れ始めた頃、犯人が捕まった。中国人だった。
ただ性欲を充たしたかった。それが犯行の理由だった。奥さんはいいもん持っていた。でも泣きやまなかったから殺した。ほかの家族は縛り上げていたが、俺が奥さんと楽しんでいる間ギャーギャーわめいてうるさかったので殺した。警察の取り調べに犯人はこう供述している。
この非道な犯人は精神鑑定を要求したが、担当した裁判官が、駅弁ファックまでやっといてなにが精神鑑定じゃボケ、お前みたいなヤツは金玉むしり取ってチンポ切り刻んで死刑じゃアホんだら、と激怒し死刑が確定した。犯人は間もなく刑を執行された。
「その事件なら知っている。でもなんでその話を今、私に聞かせるのだ」
高梨は王景陽が20年以上前に起こった事件の話をここでする意味がわからなかった。
「まあ聞くアル」
王は高梨を椅子に座らせ、静かに続けた。
「その事件の犯人が中国人と知って、わたしとても恥ずかしかったアル。同じ中国人として日本人に償いたかったアル」
静まりかえった部屋の中には、西野の恐竜棒が春子の膣に出入りする音が繰り返し聞こえるだけだった。
「そして、あんな酷い事件が二度と起こらないようにするにはどうしたら良いか必死に考えたアル」
王は、どこか遠くを見るように目を細めた。
「犯人は『ただ性欲を充たしたかった』と言っていたアル。性欲さえ処理していたらあんな事件は起こさなかったはずアル」
「それでオトナの玩具を作り始めたわけか」
高梨の言葉に王はうなづいた。
「中国は経済大国になってきたけど、地方にはまだまだ貧しい人が多いネ。貧乏な人が犯罪を犯す確率が高いアル。婦女暴行事件も頻繁アルよ。貧しい人にも手頃に買える安い商品が必要なのアル」
「しかし、おたくの商品は欠陥品が多い」
高梨の指摘に王は頭を掻いた。
「そこが問題アル。安いの作ってもすぐに壊れたら欲求不満が溜まるネ。だから日本の高水準の技術が必要だったアル」
王は高梨と渡部、そして里子を順番に見た。
「その女を企業スパイとして我々の下に送り込んだんだな」
高梨は里子を睨み付けた。里子は高梨に向かってにっこりと微笑んだ。
「殺された夫婦には幼い子供があったアル。あの事件が起こった時、たまたま近所の家に遊びに行っていて難を逃れた姉弟だったヨ。わたしは身寄りのないその姉弟を引き取り、養子にしたアル」
王景陽は優しい眼差しで里子を見た。
「姉の名前は、里子。つまり、あたし。弟は一郎って言うのよ」
里子が口を挟んだ。
「わたしの可愛い娘アル」王は里子の頭を軽く撫でた。
高梨は初めて聞かされた里子の悲しい過去の話に驚くとともに、弟の名前をどこかで聞いたような気がしていた。渡部も猿ぐつわをされたまま驚いている。
「王社長は実の子供のようにあたしたちを大切に育ててくれたわ。でも、一郎は中国人をどうしても許せなかったのね。王社長もあたしたちの両親を殺した犯人と同じ中国人だから、きっと何か企んでいるはずだ、俺は騙されないぞって、高校生になったある日、家を飛び出したきり行方不明になった」
「一郎はかわいそうな子アルが、里子もまたかわいそうな娘なのアル」
王景陽は里子に慈しむような眼差しを向けた。
「あの事件以来あたしは、男性のことを信用できなくなってしまったわ。男は結局、女とヤりたいだけなのね。渡部社長も西野もみんなそうだった。私の体にしか興味がなかったわ」
「大事な娘をもて遊んだヤツには罰を加えるアル。渡部社長も西野のようにしてやるアル」
西野は里子に手を出したからロボットにされたというのか。そして渡部も同じような目にあわされる運命にあるようだ。それにしても王の里子への愛情は歪んでいる。
企業スパイとしてライバル会社に送り込まれた里子だ。敵の機密情報を聞き出すためには女としての武器をちらつかせ、場合によってはターゲットの男と寝たこともあるだろう。それによって得られた情報も幾つかあるはずだ。いわばギブアンドテイクではないか。それを王景陽は娘可愛さのあまり里子の相手に一方的に制裁を与えようとしている。
私の場合はどうなるのだ?高梨は思った。
『対戦女体を這え2013モデル』というオンラインゲームで里子をプレーヤーの操る電動ペニスの餌食にした。美人でスタイルの良い里子が登場した日はログイン数がはね上がった。
高梨もそれを知っていたので、里子の登場する日を意図的に増やした。ほんとうは毎日でも入ってほしかったが、さすがに連日の出勤は里子に断られた。
それもそのはずだ、里子は高梨の下で働きながらスパイ活動をし、そして渡部のところでもメイドとして諜報活動をしていたのだ。毎日、高梨のところへ来られるわけがない。しかし、私もゲームの中とはいえ里子の体を利用していたのだ。王景陽は何らかの制裁を考えているだろう。
そんな高梨の心を読んだかのように、王が言った。
「心配は無用アル。あなたには危害を加えないアルヨ」
「ふふふ」里子は意味深に笑った。「高梨社長はわたしに指一本触れなかったから合格みたいだわ」
「あなたは男のペニスばかり集めているらしいアル。変わった人間アル」
王景陽もニヤリと笑いながら高梨を完全にホモとして見ていた。
「いや、違う。私はホモではない」高梨は慌てて弁明した。「私は、より素晴らしい電動ペニスを作るために、あらゆる男性の性器を研究していたのだ」
「アイヤー」王は泣きながら笑った。「男のペニスにむしゃぶりつきながら研究とは、熱心にもほどがあるアル」
「違う!私はホモではない」
「黙るアル!」王が一喝した。「わたし、嘘つきも嫌いアル」
雲行きが怪しくなってきた。
「嘘つきとは手を組めないアルヨ」
「なにっ」
「こいつも繋いでおくアル」
王が命じると部下の陳宝好がじつに手際よく高梨を縛り上げた。
「馬鹿な人ね。王社長のいうとおりにホモということにしておけばよかったのに」
里子が憐れむように高梨を見た。高梨は縛られ床に転がされながら、里子の弟の名前をやっぱりどこかで聞いたことがある気がしていた。
part2 「成川の死」
初めて芦屋の洋館で姉さんを見かけた時は驚いた。オレはとっさに近くの柱の陰に隠れたから気づかれなかったけど、もうちょっとで鉢合わせしちまうところだった。
しかしなんで姉さんがこんなところにいるんだ?最初は頭の中がこんがらがったけど、すぐにわかった。あの中国人に命令されて、やりたくもない事をやらされているに違いない。
やっぱり王景陽は悪いヤツだ。早く姉さんを王の呪縛から解いてあげないと取り返しがつかないことになるぞ。ひひひ。でも姉さん安心しろよ。オレにはこれがあるからもう大丈夫だ。
あの公園で拾った装置は、成川という男を操るリモコンだった。
早速オレは成川探しを始めた。高梨が開発した延髄チップが埋め込まれているというから、操作しだいで、ものすごいパワーを発揮するはずだ。その成川を操り、まずは高梨を懲らしめる。オレを洋館の管理人に左遷した罰だ。そして高梨にもう一度オレのペニスをしゃぶらせるんだ。悪いが、姉さんをあの中国人のもとから救出するのは、高梨にしゃぶってもらったあとだ。
成川は意外と簡単に見つかった。東三国のスーパーでオカマと一緒に買い物をしてたんだ。オレの腹が急に痛みださなかったら、あんなスーパーには立ち寄らなかっただろう。トイレを借りようと店内を横切っているとオレの目の前に彼らがいた。二人はまるで仲の良い夫婦のように寄り添って楽しそうに納豆を選んでいた。
「なるちゃん、今夜も寝させないわよ」
「ひゃぁ、もう勃起しちゃったぁ」
成川は延髄チップを埋め込まれ、何度か操作されたせいで本来彼が持っていた判断能力や美に対する価値観などが麻痺してしまっているようだ。すなわちそれは、まだ今も操作可能であることを意味する。
ひひひ。これで高梨にオレのをしゃぶらせてやるぜ。
オレはリモコンのスイッチを入れた。ズンッと鈍い振動が走りオレンジのLEDが光る。成川の動きに変化があった。
「ん?なるちゃんどうしたの?」
急に様子がおかしくなった成川を花子が心配そうに見つめた。
「は、花子さん、ぼく、なんか、へん、だよ」
オレはリモコンのレバーをマックスに倒した。
「うおおおお」
成川は雄叫びをあげ、周辺の棚を壊しはじめた。
「え、なるちゃん、どうなっちゃったの」
花子はあたふたするだけでどうすることもできない。成川ロボは凄いパワーだ。これさえあれば恐れるものはないぞ。そうだ、ここでもっと暴れさせて高梨や王景陽にこの威力の凄まじさを見せつけてやれ。ヤツらはきっと、成川を操っている人間の存在に気がつくはずだ。そしてそれがこのオレだと判った時に、オレは絶対的な力を持つ事になるのだ。ひひひひひ。姉さん見てろよ。オレはやってやるぜ!
オレはリモコンのパワーを最大限にし、成川を目茶苦茶に操った。
「ぐおぐおぐお」
成川は乱暴を止めさせようと駆け寄ってきたスーパーの店員を次から次へと放り投げ、奇声をあげた。もう誰も手をつけられないくらいの勢いで暴れまくっている。
オレはリモコンにあった“P”ボタンを押した。
「うー、マキシマム!」
成川はそう叫ぶと反り返って腰を前に突き出した。その瞬間、彼の股間が急速に膨れ上がり、ベリベリという音をたててズボンが張り裂け、動脈が浮き出した巨大なペニスが飛び出した。
それは誇らしげに天高くそびえている。
「うわ、すげえ」
「きゃ、なにあの人」
「ば、化け物だ」
道行く野次馬たちが集まり想像を絶する大きさのペニスを驚愕の眼差しで見つめた。オレは“P”ボタンを連打した。シュパパパパパ。成川のペニスから大量の精液が天井に向かって発射された。
「きゃあああああああ」
「うげー」
噴水のごとく宙に吐き出された濃厚な精液は、一定の高さまで駆け上ると一瞬静止し、今度は地上に舞い降りてきた。
「うわーーー」
「逃げろーー」
成川の精液の雨から逃れるように野次馬たちは右往左往しパニック状態になった。逃げ遅れた女子高生の顔面に腐ったヨーグルトのようなザーメンがドボドボかかった。自分の顔に張り付いたものの正体を覚ると、彼女はうめき声を発しながら闇雲に駆け出してスーパーのガラス扉に激突し、鼻の骨を折ってぶっ倒れそのまま失神した。
たまたまポカンと大口を開けてこの光景を見ていた老婆の顔にも成川の精液が飛んできた。老婆は少し懐かしそうな表情を浮かべたが、口の中に入った液体の度を過ぎた生臭さに顔を歪め必死に吐き出そうとした。しかしうまく吐き出せず、かえって気管に入り込んでしまい苦しみもがいて死んだ。
いひひひひ。こりゃいいぞ、もっともっと暴れさせてやる。オレはリモコンの “P”ボタンを連打しつつ左右のスティックをガチャガチャと不規則に動かしつづけた。
「ふんがー」
成川はすごい勃起状態のまま両手をブンブン振り回し、店の外に走り出した。ちょうどそこを通りかかった主婦を捕まえ羽交い絞めし、彼女の履いていたズボンをむしり取って立ち姿のまま後ろから挿入した。
オレはリモコンの“L”ボタンと“R”ボタン、そして“P”ボタンを同時押しした。
「うげげげ。スーパーマキシマム!!」
成川の巨大ペニスが主婦の膣に挿入されながら上下にブンブンと振幅運動を始めた。主婦は悲鳴をあげシーソーをするように立ちバック姿勢のまま持ち上げられたり地面に叩き付けられたりした。その速度がだんだん速くなり十分な勢いがついた時、オレはタイミングを見計らって、さっきの三つのボタンを同時に離した。
「いぎゃーーーーー」
主婦は空高く舞い上がり、スーパーの建物の向こう側へ消えていった。
オレにはもう怖いものは無い。あの高梨もオレの前にひざまずくはずだ。そしてたっぷりしゃぶってもらうぜ。
一郎が成川を操ってやりたい放題暴れていると、誰かが通報したのだろう、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。ここで捕まるわけにはいかない。一郎は物陰に隠れ、成川をその場から逃がそうとリモコンの“エスケプ”ボタンを連打した。
成川は今までの凶行をピタット止め、そこから逃げるように走り出した。一郎がボタンを連打する分早く走るようにプログラムされているようだ。
成川は後ろを振り向かず走った。そして大通りを横断しようとした時、ちょうど勢いよく走って来た大型トラックにはねられた。大きな衝撃音とともに成川は数十メートルも飛ばされた。
「あいつ、トラックにはねられたぞ」
再び野次馬が倒れている成川の周りに集まってきた。しかし誰一人成川を助けようとする者はなかった。
「なるちゃん!」
群衆を掻き分け一人の女が飛び出してきた。花子だった。
「なるちゃん、しっかりして。死んじゃいや!」
横たわる成川を揺さぶりながら、花子は必死で愛しい人の名前を呼び続けた。
「なるちゃん!なるちゃん!」
成川と花子を取り囲む誰もが固唾を飲んで事の成り行きを見守っている。成川は花子の呼び掛けに反応するようにかすかに目を開けて、そして微笑んだ。
「花子、さん」
成川は息も絶え絶えに応えると花子の手を握った。事故の衝撃で延髄チップの回路が破損し、正気が戻ったようだ。
「なるちゃん、あたし、あたし」
花子は懸命に何かを言おうとするが、今にも泣き崩れてしまいそうでうまく喋れない。そんな花子を力なく見詰めると、成川は精一杯の愛情を言葉にのせて言った。
「花子さん、こんな、ことになって、ごめんね。ぼくは、花子さんのこと、ぜったいに、忘れない、よ」
花子は涙を流して何度もうなづく。ちょうどその時、野次馬の中の誰かが持っていた携帯電話の着メロが鳴り出した。ハリー・ニルソンのウイズアウトユーだった。携帯の持ち主は電話に出る事を忘れ成川たちを見守っている。その音楽はまるで成川と花子の悲しい別れを演出するBGMのように流れた。
「今度、生まれ、変わっても、きみのこと、ぜったいに、見つけてみせる。だから」
成川は喋るたびにごぼごぼと口から血を吐いた。
「なるちゃん、もう喋らないで。もうわかったから。あたしも、なるちゃんとおんなじ気持ちだから」
花子は横たわる成川を抱きしめ、優しくその頭を撫でた。
「でもね、あたし、なるちゃんに言っておかなくちゃならない事があるの」
成川は薄れゆく意識の中で必死に花子の言葉に耳を傾けた。
「なにもこんなときに言う事じゃないんだけど、なるちゃん、ちっとも気づいてないみたいだったから、ううん、騙してたわけじゃないの、いつかちゃんと言わなくちゃって思ってたのよ。でもなかなか言い出す機会がなかったの。でもなるちゃん、本当は知ってたんでしょ。なるちゃんは優しいから、きっと気づかない振りをしてくれてたのね」
成川の命は、もうほとんど残っていない。けれど花子が今彼に伝えようとしていることをどうしても聞いておかなくなくてはいけないような気がして、彼は最後の力を振り絞り懸命に意識を保っていた。
「あのね、なるちゃん。怒らないでね」
彼女は成川のかろうじて開かれた目を見詰めて言った。しかし、成川の瞳はもう何も映していなかった。彼は真っ暗な死の世界の入り口に立ち、花子の言葉を待った。
「あたしね、実は男だったの」
成川の眉毛がピクンとはねあがった。
「あたしの本名は東条権三郎て言うの」
花子の唐突の告白に成川は一瞬だけこの世に引き戻された。死ぬ直前に知らされた驚愕の真実。なんで今そんなことをいうの。ぼく、もう死ぬんだよ。できれば何も知らないまま逝きたかったよ。
成川の脳裏に花子と過ごした幸せな日々が蘇った。笑っている花子、泣いている花子、すねている花子、そして成川に抱かれている花子の顔。
ぼくは今まで男とヤッていたのか。成川は死の直前に嫌な気分になった。しかし起き上がって花子を責めるほどの気力や体力は、もうない。やかて意識が遠のき、ロウソクの最後の炎がプツンと消えるように、成川は死んだ。彼が人生の最後に感じたものは、幸福感でも充実感でもなく、どうしようもない嫌悪感だった。
「なるちゃん」
花子、いや、権三郎の剃り残した髯に鼻水がキラキラと光っていた。
「なるちゃーん!」
切ないくらいに透き通った青空に、権三郎のダミ声がいつまでも響き渡っていた。一郎はその声を背中に聞きながら、足早にそこから立ち去った。
つづく
第十四話 「リングの後で」 作・本松性徴
「ドカーン!」
突然電気が落ち、爆音と共に、もうもうと煙が立った。リングがあっという間に見えなくなりました。
「先生、山口さん、こっちです!」
「おお、君たち!」
そうです、少年探偵団の山下君、吉田君が、エミちゃんの指示を受け、万が一のために、救出作戦を準備していたのです。なんと頼もしいことでしょう、これでこそわれらの少年探偵団です!
「うわー!」
「ギャー!」
「なんだ、なんだ!」
「おい!どっちが勝ったんだ、掛け金は?!」
「やだー!変なとこ触らないでよ、エッチ!」
会場は大混雑です。もはや試合どころではありません。
秋地のスリーパーで落ちた糸田も、秋地に抱えられ、会場を後にします。
「なんてこった!」ジョー樋口が頭を抱えます。もはや会場の混雑は誰も止めようにありません。
会場の騒ぎが収まったのは、一時間も後のことでした。掛け金の払い戻し、会場の修繕、セレブへの信用問題…王はこの事件で多大な損害をこうむることとなりました。
後日、レフェリー姿の水死体が、ここから5キロほど離れた、田中警部の管轄の港で上がりました。
「もう少し上手くいくと思っていたが…」
高梨は自室のコンピュータの前で、計画の失敗を嘆いた。王のレストランをジャックし、最高のプレゼンになる予定だったが、少年探偵団の結束力、山口の洗脳不足、盟友である戸板の暴走を予想できなかった。
高梨は考えをめぐらした。捕らえられた糸田、敵陣の中一人では何もできないはず。恐らく、山口君の巨根手術を終了させ、洗脳を完全に解き、その後高梨エンジニアリングの根幹となる、あらゆるデータを秋地側、すなわち渡部、小林の手に渡すだろう。そして、そのデータを元に、彼らは商品開発を進め、業界を席巻することになるだろう。
業界一位、二位の二社が合併すれば、資本も相当なものになる、ネット、雑誌での派手な宣伝はもちろん、宇宙開発に参加(船員の性欲除去)等、よりいっそう資本を投下し、よりエキセントリックに世間に名を知られることとなる。もはやチップを盗まれ、糸田をさらわれ、技術と情報を奪われた高梨エンジニアリングでは、とても太刀打ちできそうにない。
「策士、策におぼれるというやつだな…」
高梨は、自嘲の笑みを浮かべた。もはや残された最後の手は、王景陽に合併、資本提携を求めることであった。
高梨は、グリル王に電話をかけた。その背中は、もはや野望に胸を焦がす、かつての高梨からは、考えられないくらい小さいものであった。
「山口君、目が覚めたのね!」
エミちゃんの声が、手術室の固い壁にこだまする。
「…ん、ん…ん、ここは」
山口君はまだ意識がはっきりしていないようだったが、次第に状況を理解してきたようだ。
「そうか、僕はペニスの復活手術を受けるために麻酔を受けて…、糸田先生、僕は…!」
「もう、安心だよ、山口君。君のペニスは元通り、いや、以前に増してたくましくなったよ」
山口君は、恐る恐る股間にかぶせられている白い布をめくった。そこには、まさに彼の理想とする男根がいきりたっていた。
「山口君、ご要望通りにディック・ミネばりの巨根にしておいた。しかも、いついかなるときも使用できるように、普段から勃起状態になるよう血流を調整しておいた」
糸田の笑顔が眩しい。糸田は捕らえられ、彼らと寝食をともにしているうち、戦ったもの同士にしか得られない、奇妙な友情が芽生えたのを感じた。それは決して、高梨との殺伐とした生活では得られないものであった。糸田は、かつて盟友であった、高梨のことが気になったこともあったが、もはやそんなことはどうでもよくなった。
変わり身が早いのも、この非情な世の中、とても必要であることを、この本の読者である皆さんも覚えておきましょう。
「昨日の穴は、今日の棒、またその逆もあらんや…」鎌倉時代の公家である、御陳公の名言である。
「山口君、私にも見せて」エミちゃんは興味津々である。
「え、恥ずかしい…」まだ自分のぺニスになれてない山口君は躊躇した。
「らしくないわよ、みせなさいよ!」エミちゃんは強引に白布を剥ぎ取った、山口君の極上のペニスがあらわになった。
「ちょ、やめ…やめて!」
「…やだ」エミちゃんは思わず両手を口にあて、絶句した。
今は秋地一筋であるが、かつて、エミちゃんは、このあたりでは知らないものがいないほどのスキモノであった。
中高校時代は、ほとんどの男子生徒を兄弟にし、新入生は5月までに必ずエミと交わらなければいけない、という学校独特のローカルルールまであったほどだ。それだけに、エミは男の体を熟知しており、また、どういった形状が女性を昇天に導き易いのかもよくわかっていた。今まで出会った生の男根の中では、秋地のものが一番理想に近かったのだが、山口君の新しいペニスは、まさにその理想そのものであった。しかも、血流調整により、決してしぼまないシロモノときている。さすがは高梨エンジニアリングの重鎮、糸田である。
秋地は山口君との試合の後、念のために脳神経外科に入院した。お預けを食らっていたエミちゃんには、この理想の男根は少々刺激的過ぎた。あふれ出る愛液を理性で抑えようとするが、本能には勝てなかった。
「ちょっと…山口君…」エミは潤んだ目で山口君を見た。
「な、なんですか、もうしまいますよ?」
「もう…いじわる…」エミは白布で股間を隠そうとする山口君の手を止め、そのまま胸元へ手を引き込む。
「だ、だめですよ、先生に怒られてしまう…」山口君はあわてて手をひっこめた。
「…いいのよ、先生が悪いのよ…こんな私をほったらかしにして…」
「でも…先生に怒られてしまいます…やっぱり、こんなことは…」
「できないっていうの?私に魅力がないってこと?」
「いや…そういうわけじゃ…」
「…」
「どうかしました?」
「…いくじなし」
山口君はその言葉を聞くと、火がついたようにエミちゃんに襲い掛かりました。
「ぼくだって!…ぼくだって!秋地先生をいつか超えてみせるっ!」
「ぁぁあ、いいわ、山口君…」
せっかく固まった信頼関係だが、いつ崩れるかわからない、とかく人間の欲望とは恐ろしいものである。
二人の情事は、空が白むまで続けられるのであった。
高梨の車が奥ヒダ飯店に着いた。連絡を受けていた王の部下たちが、車から降りた高梨をボディチェックする。
「おいおい、そんな入念にされると、気持ちよくなってしまうじゃないか」
高梨は余裕のあるそぶりを見せようと、冗談を言ったつもりであったが、王の部下たちは笑うどころか、何もしゃべらなかった。
「コッチだ、早くするアル」
ホテルの一般客を尻目に、専用のエレベータで地下へ向かい、奥にある薄暗い通路へと導かれる。その通路は細く長く、また入り組んでいた。通路の両側、頭よりも少し高い位置にいくつもの小窓があった。それらの様子から、攻撃に備えられた要塞であることは、安易に想像できた。
「タカハシをオツレしたアル」
「入ってもらうアル…」
ドアの向こうから、甲高い声が聞こえた。ゆっくりとドアが開く。声から想像が難しいくらい、若い筋肉質な男性がそこにたっていた。王景陽である。高梨も経済紙などで顔は知っていたが、本人を目の前にしたのは初めてであった。
「会場でのネット回線ジャック、ナカナカのものだったネ」
「…」
高梨は何も答えられなかった。高梨の計画が失敗したのは、もちろん王も知っているからだ。
「デ…今日は?」
王がニヤニヤと高梨を眺めながら言った。
「く…、資本提携を…求めにきたのだが…」
「フフ、タカハシもヤキがまわったネ…」
「このままでは、渡部、小林の陣営に業界全体がやられてしまう…、ここは我々が協力して…」
「フフフ…」
「な、何がおかしい!」
「タカナシ、あなたもソートー都合のいい人間アルね、あの時『さるまねチャイニーズ』と言ったのは忘れてないアルよ」
「そ、それは…」
「まあいいアル、それよりも我々の軍門に下るなら、それなりの行動を見せ、我々に協力するという証明をしてほしいものアル」
「…軍門?…業務提携だぞ!」
「フフ、何もなくなってしまった高梨エンジニアリングが我々にそこまで条件をだせるのカ?」
「…く」
「オマエはもう、我々のもとで、商品開発に協力するしか道はないアル、とりあえずこれを見るアル!」
王は立ち上がり、仕切られているカーテンを開けた。そこには、異様な光景が広がっていた。
下品に半機械化されたサイボーグが、ぐったりと横たわった40代と思しき女性に馬乗りになり、延々と腰を振っている。女性は真っ青な肌色で、生きているのか、はたまた死んでいるのかもわからない。
「プシュ、プシュ、プシュ」規則正しいピストン音がただ聞こえるだけである。
そしてそのさらに奥には…男女が一人ずつ、女の方はかつて洋館でアルバイトで雇っていた里子、もう一人の男は椅子に縛りつけられている。
「…渡部?か」
「モゴ。モゴ…」
高梨は、なぜこの面子がこの場所にいるのか、理解することができなかった。
つづく
第十三話 「リングの上で」 作・淀川乱交
山口君のスープレックスで失神した秋地の足がロープにかかりフォール負けをかろうじて逃れたかっこうになった。観衆は息をのんで次の展開に心を奪われている。
レフリーのジョー樋口が秋地の頬を叩き「なんてことだ!」とつぶやいた。完全に気を失っている。
山口君とジョー樋口は目を合わせた。
ジョー樋口は山口君に「出すんだ」と指示した。もちろん熱狂しているファンにはリング場の会話は聞こえるはずもない。山口君は秋地の背中にストンピングを連発し秋地をエプロンサイドから場外に蹴り落とした。
「先生!気を取り戻して!」
そして観客に向かって雄叫びを上げ、首をかき切るポーズをしてリング中央で仁王立ちになる。
観客はそれに呼応し大歓声が嵐のように館内にどよめいた。
カウント20が数えられる間に秋地は気を取り戻すだろう。樋口と山口君はプロレスを成立させなければならない。簡単にスープレックス一発で勝負がついては観客が満足するはずがない。これはよくある事故だ。
リング外に落とされた秋地はほとんど失われているかすかな意識の中で“今だ、出てこい!ジェット・シン”と叫んでいた。
ジョー樋口のカウントが場外に失神した秋地に対し始まった。「1,2,3,4、、、、」
その時、場内の一部から観客のざわめきが起こった。会場奥の控室のあたりに向かってスポットライトが当てられた。そのあたりの観客が悲鳴を上げながら逃げまどっている。
そのとうり!!タイガー・ジェット糸田の乱入だ!サーベルを振りかざし客を威嚇しながらリングに近づいてきたのだ。山口君に加勢して二人がかりで秋地を攻めるのか。観客は次の展開に二分された。
「何しに出て来ゃがるんだ!俺は秋地に200万ドル賭けてるんだ。こんなふざけた博打は許せねえぜ。」
一方からは「こりゃ面白れえ。山口君サイドにボーナスがついているとはな。」
観客は大騒ぎになり野次が乱れ飛んだ。
タイガー・ジエット糸田はリング内に転がり込んで登場した。
ジョー樋口は「何だお前は!こんなアングルは組まれていなかったはずだ!」
タイガー・ジエット糸田はサーベルでジョー樋口を一撃した。ジョー樋口は気絶して倒れこんでしまった。
場内からタイガー・ジエット糸田に物が投げつけられ騒然となった。
タイガー・ジエット糸田の登場に観客が目を奪われている中、山口君はリング下の秋地に「先生、僕は高梨に洗脳されてしまったんです!高梨にしゃぶられつくされ、ペニスを奪われてしまったんです!」
「なんだって!!」秋地は半分意識が無いながら遠くで山口君の叫びを聞いた。
リング上で秋地に訴える山口君にタイガー・ジエット糸田が近づいた。
なんと山口君にサーベルを振り上げ殴りつけたのだ。
そしてタイガー・ジエット糸田はいきなり自分でタイツを下げた。糸田の下半身には3本の電動ペニスが縦に3つ埋め込まれていた。
「どうだこりゃー!これがMADE IN JAPANの実力じゃい!」観客に向かって雄叫びを上げた。
観客席は大きくどよめいた。
直後、会場の『グリル王』の巨大スクリーンに現れた映像は顔にモザイクのかかった高梨の姿であった。なんと王景陽の施設にハッカーのごとく侵入し挑発しているのだ。スクリーンに映し出さされた高梨は
『ミスター王景陽 われわれの完璧なオリジナル製品が市場を制圧する 見ているか!猿まねチャイニーズ 』
これはネット回線で世界中に流されている試合会場を巧みに利用したプレゼンテーションだ。しかも王景陽の『グリル王』で堂々やってのけているのだ。手段を選ばぬ方法はいかにも彼らしい。山口君VS秋地探偵の試合は世間の目を引く手段にすぎない。単なる道具だった。
ほんの数秒で高梨の姿はスクリーンから消えた。
徐々にダメージから回復し意識を取り戻してきた秋地はようやくエプロンに這い上がった。
秋地は糸田に「おまえたちの悪どいビジネスが簡単に行くとでも思っているのか」と言った。
「やかましい。横からわれわれの行動を邪魔してきやがって。お前も山口の小僧も始末したるで!」糸田はすごんだ。
「しかし、おまえの3本の人造ペニスは同じ個所についているので全然実用性がないじゃないか。どうせなら背中にもう一本付けとけば二人の女を相手にできるじゃないか」秋地は返した。
「え!?・・・・・・。」糸田は3本の人造ペニスを移植したがまだ実際に女を相手に使用したことがなかったのだ。
「えーと、それは、、、、、、今回はプレゼンでのサンプル紹介ということで、、、3種類の形状の違った人造ペニスを付けてるだけや」
糸田はとっさに非常に苦しい言い訳をしたが声が小さい。せっかく糸田のエゴが爆発したのに元に戻っている。
一瞬ひるんだ隙を秋地は見逃がさなかった。エプロンサイドから秋地の足を引っ張り場外に落とした。そしてこん身のチョークスリーパーだ。
糸田はもがくが力が抜け落ちていく。
「糸田よもう逃げられないぜ。おまえが今度は地獄の苦しみを味わう番だ。」
スリーパーホールドの腕がいっそう糸田の頸動脈を締上げた。
「おまえたちが創出したおとなの玩具の高度な技術を渡部商会と小林エンターテイメントが使わせてもらうぜ。おまえはすべての技術を吐くんだ。わかったか。」
糸田はギブアップするしかなかった。
「まず初めにおまえがすることは山口君のペニスを元に再生することだ。」
「先生、、、、」 山口君は秋地に話しかけた。
「どうしたんだね」
「実は先生、、、、、」何か言いたそうな素振りを見せた。山口君の心理状態が以前と変わってしまったのか。
「言って見たまえ」秋地は促した。
「僕の以前のおチンチンはどちらかというと租チンだったので、できたらディク・ミネ級の巨根ペニスにしてもらえませんか。本当にできたらでけっこうですんで。」
「できるか?」秋地は糸田の横腹を蹴った。 糸田は声も出ない状態で大きく何度も首を縦に振った。
山口君はもう未来を想像したのか「千人斬りか~」とニヤついたのだった。
事態は刻々と急転していく。
たった今勝利宣言を高らかに言い放った高梨の“右腕”戸板が捕らえられ、順風に運ばれていたかのようなビジネスに大きな打撃をあたえた。
王景陽の先手を打った格好で世界にプレゼンテーションを流したものの勝てる可能性は急激に落ちた。
つづく
第十二話 「西野改」 作・葛城文之助平
山口くんの痛烈なスープレックスをくらった秋地は、自力でなんとか立ち上がろうとしたが膝から崩れ落ち、ついにはリングの上に大の字になったままピクリとも動かなくなった。お、さすが先生、観客を湧かす方法を心得ているな。
この師弟対決を盛り上げるには十分な演出だった。
それが証拠には客席に座っている人は誰ひとりなく、会場内は総立ちになっていた。
客の歓声は大きなうねりとなり山口くんの股間を刺激した。
うわっ、すごいや、これがオーディエンスパワーってやつか、この高揚感は半端ないぞ、性的に興奮しちゃう。こりゃ勃起しちゃうかもしれないぞ。
山口くんは思わず自分の股間に手をあてた。そして思い出した。それはあまりにも悲しくあまりにもおぞましい事実だった。
山口くんの股間にはペニスが無かったのだ。生まれてからずっと一緒だったあの愛しいもの。ひとり寝の淋しい夜は慰めてくれたあのかけがえのない分身が、高梨の手によって切り落とされてしまった。
ぼくはこの事を秋地先生に伝えるために試合を申し込んだのだ。
(物語の進行上どういう必然性でプロレスの試合がおこなわれるのか筆者にもまだわからないが、ここは何らかの意味付けを要すると思い先のような理由を山口くんに語らせたのである。しかしこういった本流から逸れた展開も大河小説には時として必要なのです。なんといってもこれは三国志をも凌ぐ壮大な物語なのですから。さて、お話の続きに戻りましょう)
山口くんは高梨にペニスを切り取られ性の奴隷と化されていた。延髄チップを埋め込まれるのはなんとか免れたものの、人間としての自由は完全に奪われ、外出も許されず、ただ高梨エンジニアリングの製品開発のために実験材料として生かされていたにすぎなかった。
とにかく高梨は変態だ。
世界中の男から切り取ったペニスを何本も集めている。そしてそれを勃起した状態のまま特殊加工し、お洒落なガラスケースに入れて陳列しているのだ。彼はこれらをプリザーブドペニスと呼び嬉しそうに観賞している。
生殖器はその指命を全うする姿こそ美しい。高梨の持論だった。
「チンチンはね、いつでも大きくなっているべきなのだ。それが一番美しい姿なのだからね」
山口くんのペニスを口に含みながら高梨がよく言っていた言葉だ。
きっと僕のペニスも最大限まで膨張させられた姿のまま、あいつのコレクションボードの上に陳列されているのだろう。高梨め、今にみてろよ。我らの名探偵秋地先生がきっちりお仕置きしてくれるからな。
山口くんは横たわる秋地を見下ろした。
完全に失神しているように見えるが、実は起きていて次に僕が仕掛ける技待ちなのだろう。
山口くんは間合いを見計らい仰向けに横たわる秋地の体を押さえ込んだ。観客から大きな怒号が上がる中、レフリーのジョー樋口がカウントを取り始めた。
「ワン」
先生、わかってますよね。
「ツー」
僕をはね除けるのです!
「ス」
先生っ!
リング上で四つん這いになり観客に分かりやすいよう大げさな動作でカウントするジョー樋口の動きがピタっと止まった。秋地の足がロープにかかっていたのだ。
おお。安堵のどよめきが会場内に沸き上がった。今や観客の全員が秋地の反撃を待っている。
もっともオーソドックスなプロレスの流れに沿って試合を進めなければならない。山口くんもそのつもりだった。
しかし山口くんは焦っていた。秋地は本当に失神していたのだ。
先生、起きてください!そしていつものように僕をここから助け出してください!先生、先生っ!
渡部春子は謎の中国人と共に奥ヒダ飯店にいた。賢明な読者はもうお分かりであろう。奥ヒダ飯店は王景陽が経営するホテルで、今春子と一緒にいる中国人こそ王景陽その人なのだ。
「あら、こんな素敵なホテルであなたと過ごせるなんて、とってもうれしいわ」
春子は年甲斐もなくはしゃいでみせた。
王は口元に野蛮な笑みを浮かべて春子の衣服を脱がし始めた。
「悪いが奥さん、わたし本当はあなたの体に興味ないヨ」
「え」
春子は瞬きを繰り返し王の顔を見つめた。
「あなたに近づいたの、あなたが渡部社長の奥さんだからヨ」
どうして私の主人の事を知っているの。私の体に興味がないのにどうして裸にするの。私いったい何をされるの。さまざまな疑問が春子の頭をよぎった。これが漫画だったら私の頭の周りに?マークがいっぱい点滅しているでしょうね。春子は動転しながらもそんなことを考えていた
「あなたは今から彼とエッチするヨ」
王がそう言ってドアを開けると、低いモーター音と金属の触れあう音をたてなからロボットのようなものが現れた。
それは王景陽によってセックスマシーンに改造された西野の変わり果てた姿だった。
里子が高梨エンジニアリングから盗み出した延髄チップが埋め込まれ、両手の十本の指先には王が開発した人口亀頭がうごめいていた。西野自身の性器は切り取られており、そこには王がこのために用意した電動ペニス『恐竜棒MAX』が装着されている。
「春子夫人を犯すあるヨ」
王が西野に命じた。
延髄チップにプログラムされた音声認識機能が働き、西野はゆっくり春子に近づいた。
「嫌っ、やめて」
春子は震える声で抵抗したが、西野の動きを止めることはできなかった。西野は王景陽の声紋にしか反応しないようになっているのだ。
「奥さんは私の作ったサイボーグにヤラれるヨ。中国の機械に犯されて、イクあるネ。それも何度も何度もイクあるヨ」
西野が春子をベッドに押し倒した。
「きゃ」
春子は小さく悲鳴をあげた。
「奥さんが我々の機械でイッたと知ったら、渡部社長はどう思うあるか」
プシューっという音をたてて西野の局部にある恐竜棒MAXが最大のサイズに膨張した。
春子は助けてと言いながら、ちらっとその電動ペニスに視線をやると、自然に膣内に体液が溢れてくるのを抑えきれなかった。
「渡部社長は我々中国には勝てないと思い知らされるある」
ベッドの上ではセックスマシーンの西野に組み敷かれた春子が早くも二十代の小娘には決して出せない妖艶な喘ぎ声をもらし始めていた。
この光景は録画され、現在グルメ王で行われているプロレスの試合の後、会場のマルチスクリーンで上映する予定である。同時にインターネットで世界中に配信される。大昇天の技術力の凄さと渡部社長が受ける屈辱を全世界に知らしめるのだ。
「もっと激しく腰を振るヨ」
王は西野に命じた。
西野の恐竜棒MAXは春子の膣にすっぽりと収まっていたが、まだ完全には挿入されていなかった。
王景陽の指示を聞くやいなや西野は春子の中に更に押し入った。
「んぐ」
春子の体を電撃が走った。西野の恐竜棒MAXは春子の子宮を突き抜け大腸を押し上げるかたちになった。
春子の全身を激痛が襲った。しかしその直後には計り知れないほどの快感がやってきた。
「はふはふ」
春子は白目をむき後から後から押し寄せてくるこの世のものとも思えない法悦の波の中にのみ込まれていった。
セックスマシーンの西野は動力が供給され続ける限り疲れることはない。春子の膣に恐竜棒MAXをぶち込んだまま西野は腰を音速で振り続けた。
「はふはふ、はふはふ」
春子は全ての体力を失いすでに失神していたが、イク時だけ意識が戻り全身を痙攣させ昇天した。それは王景陽が言ったとおり何度も何度も繰り返された。
「わはははは。これが中国のちからネ。大昇天のテクノロジーネ」
王が録画用のカメラに向かってまくし立てていると、部下の陳宝好が入ってきた。
「社長、我々の後をつけて来た奴がいたあるヨ」
「なに」
「こいつある」
陳が突き出したのは、後ろ手に縛られ猿ぐつわをかまされた渡部社長だった。
「これはこれは、ちょうどいいところに来たあるネ」
王景陽は人懐っこい笑顔を見せると、自分の立ち居地をずらし渡部の場所から部屋の中がよく見えるようにした。
渡部はベッドの上でロボットに犯されている女が春子だと知るとうめき声をあげ身悶えた。
「おまえの奥さんは、もう10回以上もイッタあるヨ」
王は今まで見せていた笑顔を消し、本性むき出しの残忍な顔で渡部を見据えた。
「さあ、極上のエンタテイメントの始まりあるヨ」
つづく
第十一話 「ビルド・アップ・アフター・エクスタシー」 作・本松性徴
シュ、ガチャン、シュ、ガチャン…
薄暗い、コンクリートに囲まれた無機質な部屋から、勢いよく、破裂するような呼吸音とともに、重い鉄のぶつかる音か聞こえる。
背は決して高くないが、がっしりとした肉体が、何重もの鉄の重しをつけたバーベルを上げ下げしている。
「ググ…ゥ」ガチャン!
血液が逆流したような真っ赤な顔で、最後の力を振り絞り、放りなげるようにバーベルを手放す。
巧妙な罠で、高梨の下にさらわれた山口君であったが、この充実したトレーニング環境は、彼にとって決して不快なものではなかった。一流の最新トレーニングマシンを使えるし、プール、陸上トラック…思いつく全てのトレーニングが可能であった。
「山口君、マシンだけで鍛えるのではなく、フリーウエイト(バーベル等のトレーニング)もしなさい。さもないと見栄えだけの、使えない、固い筋肉がついてしまう…」
山口君の頭に、優しい秋地の言葉が浮かんだが、しかし彼は、それを振り払うかのようにバーベルを手にした。
「ピピピピ」
インターバル終了合図のアラームが鳴る。
シュ、ガチャン、シュ、ガチャン…
再び同じ動作を繰り返す。
「秋地の言いつけを守っているのではない、自分がやりたいからやるのだ…」
そう自分に言い聞かせる山口君であった。
エロが災いし、捕らえられた山口君であったが、実は、秋地から受け継いだ少年探偵団の技術をもってすれば、脱走などわけがなかった。
仕事に熱心な山口君は、しばらく潜入し情報を持ち帰ろう…そう考えていた。
延髄チップ手術直前に、麻酔をされるときに、隙を見計らって脱出しよう、そう計画していた。脱出経路、段取り、すべてパーフェクトであった。
そう、高梨に会うまでは…
山口君が洋館で捕らわれて3日目、寝食していた牢屋にはエロ本が支給されていたが、少々退屈になっていた。
普段、ネットでエロ動画をあさっている山口君には、「フローレンス」だの「エロトピア」だの「悦楽号」だの、昭和の懐古臭漂う300円前後のエロ本は、初めのほうは新鮮味があったが、あまりにもワンパターンなのと、出ている女優が古臭いのとですぐに飽きてしまったのである。
「あーあ…せめてネットにつなぐことができれば、XvideoやPornoTubeが見られるのに」
(※これを読んでいるよいこのみなさんは、決してアクセスしてはいけません、もし間違ってアクセスしたのなら、「×」をクリックしてブラウザを終了しましょう)
「へぇへぇへ、あんちゃん、退屈かい」
牢番の初老の男性が、檻越しに山口君に話しかける。
「退屈ってもんじゃないよ、せめてネット環境くらいどうにかならないものなの?いまどきどんな田舎でも、光回線くらいきてるでしょ」
山口君は、持ち前の好かれるキャラと、秋地探偵から教わった人たらしのテクで、すっかり牢番の男性と仲良くなっていた。
「…わしはネットとかヒットとかマットプレイとかわからんが、今ちょうど本社から社長が来ているようだから、話をしてみようか」
初老の男性は、牢番らしからぬ笑顔を山口君に向け話した。
「うん、お願いするよ、このままじゃ気が狂うよ…」
牢番は、彼のその若さが羨ましい反面、処理できないことに対して不憫にも感じた。
ガチャ、その時、地下室に背の高い、がっしりとした男が入ってきた。高梨である。
「あ、社長…おつかれさまです」
牢番は、深々とお辞儀をする。牢番の服は、いつも汚れており、少々がさつな見てくれであったが、その時のお辞儀は非常に美しかった。
それを見た山口君は、入ってきた高梨を、本能的にただものではないと感じた。
「や、細谷さん、ひさしぶりだね、元気だったかい」
澄んだ、艶のあるバリトンが地下室にこだました。固い壁が、声の響きを上手く伝え、極上のリバーブが地下室に広がったのである。
「へ、へい、それはもう…」
「それは結構だなあ、重いものを持つときはくれぐれも気をつけるんだよ」
「え…社長、あ、あっしがギックリ腰をやったのを覚えててくださったんで…」
「あぁ、君たちは大事な働き手だからね、体には気をつけて」
「あ、ありがとうございます」
牢番の細谷の肩が小刻みに震えている。感動しているのだろうか、山口君は、自分とは違うタイプの人たらし、こいつはできる、と思った。
「それはそうと、この子なんですがね」
「あぁ、捕らえた探偵事務所の助手だな」
「この子はどうなされるんですか?」
「うん、いろいろ考えているんだが…」
「いつまで閉じ込めておくんですかい」
「そうだな…」
「この環境はあんまりだと思うんですが…」
「ん…?細谷、私の行動を指図するのか…?」
男の目が、今までになく鋭くなった。地下室に入って来たときとは別人のようだ。
二人とは少し離れていた山口君であったが、その殺気の為、毛穴が開くのを感じた。
「いえ、いえ!とんでもない!」
取り繕う細谷、一瞬にして冷や汗がにじんでいる。初老だが、彼も男性である。同様に殺気を感じたのであろう。
「いや、エロ本が…エロ本がね、つまらないって言うんですよ」
「エロ本?」
「そうなんです、『つまらないつまらない』とうるさいんです、あっしもこの子の管理を任されてますが、こううるさくっちゃあ…」
「フム、なるほど、こんなものじゃ興奮しないというのだな…たまっているということか…」
穏やかな目つきに戻った高梨は『悦楽号』を手に取ると、パラパラとページをめくった。
「そうだな、確かに…しかも少し熟女マニアでないとわからない部分もあるな…でも、細谷ならこれくらいがいいのだろう?」
「へ、へぇまぁ…」
がらにもなく、細谷が赤くなった。
「わかった、わたしがなんとかしよう…細谷、すこしばかり席をはずしてくれないか」
「え…、社長一人にするのですかい?大丈夫ですか?」
「うむ、大丈夫だ、牢の鍵を開け山口君を出し、わたしがいいというまで、外でまっていてくれ」
「わ、わかりました」
どのくらいの時間がたっただろう…山口君の絶叫のあと、高梨の了承をえて、戻った細谷が目にしたのは、尿、精液を床にぶちまけ、うつぶせで尻をあらわにし、そのままピクリとも動かない山口君の前であった。
「ふふ、もうこの子は、私の言うことなら何でも聞く…」
細谷は、変わり果てた山口君の姿に驚愕した。彼は、すっかり精気を奪われたようであった。しかし目だけがなぜからんらんと輝いていた。
「ふふ、師弟対決だな、悪くない…悪くないぞ…!はははは」
高梨の笑い声が、再び固い壁にこだました…
~スプリング・ハズ・カム~
春子は、それまでひ弱な渡部との、年に一回から二回程度の交わりで満足していたのだが、すっかり女を取り戻してしまった。
秋地に火をつけられてしまったのである。
しかし、春子の回春とは裏腹に、渡部社長誘拐事件の際、十三で会ったのを最後に、秋地からの連絡は途絶えていた。
事務所に電話をかけても、助手の女性が出るばかりであった。依頼でもないのに、そうそう電話もかけられない。
四十路を過ぎ、静かにそれでいて確実に燃え盛る欲望の炎のはけ口を、若い男に求めるのは当然の成り行きであった。
「オクサン、マタセタね…」
筋肉質な日焼けした男性がショッピングセンターの駐車場で待っている春子に声をかけた。今の日本の草食系と呼ばれる若者にはない、がっしりとした体、強引な女性の扱い。彼に乱暴に扱われれば扱われるほど、春子は自分が一匹のメスであることを感じることができた。またそれが彼女自身、非常に心地よいものであった。
「行きましょうか」
男の車に乗り換えると、春子の車はそのままに、二人はショッピングセンターを後にした。
「キョウも、アレスルか?オクサン、マタ、フタリでヤジュウになるネ」
「…ええ」
答えると、春子の頬が赤くなった。夫である渡部には決して見せることのない、乱れた姿を、この素性のわからない中国人に見せている。
出会い系のサイトで知り合ったこの男とは、3回目の逢瀬であった。そのいずれも、春子を満足させるのに十分なプレイであった。
二人を乗せた車は、渡部の尾行する車に気づくことなく、ネオンのともるホテル街に消えていった。
~バウト・イン・ジ・アンダー・ワールド~
秋地の事務所のポストに、たくさんのピンサロのチラシに紛れ、一枚の封書が入っていました。見慣れた文字、山口君の文字です。
「試合日時 ○月○日 PM10:00 場所 グリル王にて」
とだけ書いてあります。真剣勝負によけいな感情など必要ないということでしょうか?
その文面からは、かつての山口君の人懐っこさは微塵も感じられません。どうしたのでしょうか?
「山口君、いよいよか…」
秋地探偵は、気持ちを固めたのでしょう、重い口調です。
この小説をはじめから読んで、毎週楽しみにしている賢明な皆さんは、もうお気づきでしょう。この「グリル王」とは、実はあの王景陽のお店なのです。
店の一階より上は、普通の高級レストランなのですが、一般の人が入れない地下は、世界のお金持ち達の娯楽の場になっています。
酒、女、戦い…普通の娯楽では飽きてしまった世界のお金持ちが、刺激を求めて毎夜やってくるのです。
秋地探偵は、来るべき試合に向けて本格的にトレーニングを始めました。
エミちゃんとのエッチもこのときばかりは3日に1回程度に控えました。なぜなら、射精をすると、体内のたんぱく質が奪われてしまい、筋肉の生成されるスピードが落ちてしまうからです。
みなさんも、気持ちはわかりますが、部活動の試合の前などは、できる限り射精をやめたほうがいいでしょう。
そうこうしているうちに、当日がきました。秋地探偵の仕上げは、これ以上ないというくらい完璧なものでした。
秋地探偵は、エミちゃんを連れて行くと、何かに巻き込まれてしまうといけないので、一人で行くことにしました。
黒服に案内され、エプロンステージへ…
ヘヴィメタルの大音量のなか、リングに向かいます。秋地探偵の顔には、これっぽっちの迷いもありません。
続いて山口君の登場です。激しいテクノミュージックにオーディエンスもノリノリです。力強くリングに足を進めます。
おぉ!なんということでしょう!山口君、失踪時から比較すると、かなり筋肉質に、一回りも二回りも、体が大きくなっています。
きっと、高梨の指導の元、肉体改造に取り組んだのでしょう。あるいは、ステロイドなどをドーピングされているのかもしれません。
「秋地探偵に10000ドルだ!」
「いや、山口君に20000ドル!」
あちらこちらで金持ちたちの博打が始まりました。そうかと思うと、興奮して、ことを始めるカップルもいます。
ここは無法の地下世界「グリル王」なのです。全てが欲望のままに許される世界なのです。
そんな世界に降り立った二人の孤高の闘士は、気高さすら感じることができました。
カン!
ゴングがなりました。二人は様子を伺いつつ、すり足で、時計回りに動きます。実力伯仲の二人、一瞬の隙が命とりになります。
この時ばかりは騒がしい観客たちも静かになりました。緊張感が最高潮になる中、どれくらい経ったでしょうか、
足が止まり、秋地探偵が左手、山口君が右手をゆっくりと前に出します。
その刹那!二人、同時に制空権内に入ったのでしょう、両者すばやく動き、一瞬にして手四つの体制になりました。
力くらべです。二人の腕の筋肉が、いえそれだけではありません、全身の筋肉が盛り上がります。
観客が堰を切ったように声援をあげます。悲鳴に似た声も聞こえます。
「ぐぐぐ…」
山口君のあまりの力に秋地探偵は押されています。ガンバレ!秋地探偵!
「秋地先生、僕はチップなど埋め込まれていません…」
手四つの体勢のまま、山口君が、秋地探偵の耳元でささやきました。
どんどん押される秋地探偵、もう後がありません、ブリッジで耐えます。
「グググ…じゃあなぜ、僕と戦おうとするんだ…君は山口君ではないのか?」
秋地探偵はブリッジで耐えながら答えました。
「僕は山口です、それは間違いありません…ただ高梨の…」
「高梨の…ググ…なんだ…!」
秋地探偵は懇親の力をこめました。ブリッジから、腹筋背筋の力で起き上がります。みるみるうちに形勢が逆転します。
今度は、秋地探偵が山口君を翻弄する番です。山口君が耐えます。まさに二人の力のせめぎあいです。何度も体勢がかわります。
しかしこれでは消耗戦になる、と考えた秋地探偵、今度は山口君をヘッドロックします。
まるで万力のようです。山口君も苦悶の表情を浮かべています。
「高梨になにかされたのか…」
秋地探偵は、腕の中の山口君に再び問います。話すことによって、少し隙ができました。山口君は、それを見逃しませんでした。
フッ…!ドゴっ!
秋地探偵は、体を浮くのを感じました。まるで、地球に重力というものがないのかのごとく…
反射的に受身を取ろうとしましたが、まにあいません。リングに後頭部から、たたきつけられてしまいました。
ジャーマンスープレックス!
山口君の必殺技が、こんな序盤から炸裂したのです。それは、今まで秋地探偵とのスパーリングで使っていたものとは、一線を画すものでした。
「魅せるスープレックス」から「落とすスープレックス」へ…
後背筋をフルに活用し、最短距離でリングにたたきつける、まさに原爆落としの名にふさわしい、実践的なスープレックスでした。
秋地探偵、立ち上がろうとしますが、足元がふらふらです。どうなるのでしょう!秋地探偵、がんばれ秋地探偵!
つづく
第十話 「師弟対決」 作・淀川乱交
少年(青年)探偵団 師弟対決の巻
山口君が姿を消してからもう数日たちました。
山口君のお父様もお母様も心配して秋地探偵事務所にやって来ました。ところが、事務所ではとんでもない事件が起こっていたのでした。
秋地探偵とエミさんが何者かに連れ去られたというのです。
少年探偵団の吉田君と山下君はクロロホルムのにおいが事務所に残っていたので二人は眠らされて拉致されたに違いないと話していました。
「すると、あの秋地探偵まで悪者たちの軍門に下ってしまったということなのかね」冷静な山口君のお父様も気が動転しています。
山下君は「でも僕たちは先生のことですからきっと大丈夫だと信じています。われわれ少年探偵団はこんなことでは負けません。リーダーの山口さんは悪者の言いなりにはなりませんよ」と力強く言い放ちました。なんて心強い少年たちなのでしょう。
「あなた、和夫は強い子よ。きっと、すぐに戻ってくるわ」お母様は心配でたまらない気持を振り切って自分自身強くあらねばと自分に言い聞かせました。
でもお父様は秋地探偵に怒りを向け「普段から子供には危険すぎると思っていたんだよ」
「いいえ、あんなに気持ちも体も弱かった和夫が秋地さんのおかげでたくましくなりましたわ」
「そうですよお父さん。僕たちは全力で先生とリーダーとエミさんを捜すため努力します。ほかの団員たちも出動していますから」
秋地探偵が危機に陥っている非常事態ですが普段から秋地の教えのとおり冷静さを失わない探偵団なのです。
先ほどから本署の田中警部が探偵事務所にやって来ており吉田君、山下君らに根掘り葉掘り事件の様子を聞き出しています。
「やな警部だね。遠くにピントを合わして細々聞いてくるんで適当に返事しておいたよ」吉田君はうんざりした様子です。
「あの人がここにいるということは事務署の事務の人たちは一息いれているに違いないよ」山下君が言いました。
「あれ。あの人書き留めたノートを忘れて帰っちゃったよ」きっと道中パニックになっているに違いありません。
脱出
ここは倉庫のような部屋でしょうか。古い椅子が重ねて置いてあったり、壊れた机が無造作に壁に立てかけてあったりしました。
部屋の入口近くにソファがおいてあり2人の男が腰かけてなにやら話をしていました。
「ボスが言うにはあと3時間くらいでこいつらが目を覚ますらしいぞ。さすがの名探偵もすやすやとよくねているぜ」
クロロホルムをかがされてここに連れてこられた秋地探偵とエミは床に横たわっていました。
この建物には手下の男が二人だけいるのでしょうかほかに人影はないような雰囲気です。
「この女はなかなかいい女だぜ。気が付いたらかわいがってやろうか」手下の男の一人が野卑なわらい声をあげました。
「まだこいつらが目を覚ますまで時間があるので腹ごしらえでもするか。交代でめしを食いに行こうぜ」
「じゃあ俺が先に外へ出てくるぜ。ちゃんと見張ってろよ..鍵をかけといてくれ」
「わかったよ」二人は部屋を出てドアの方に出て行きました。
「エミちゃん大丈夫か」秋地は起き上がり声をかけました。
「ええ、先生。もうずっと前から私は意識がもどっているわ」
秋地もエミもクロロホルムのにおいをかいだ途端から最大限の防御で息をできるだけ止めて被害を小さくしていたのです。
ふつうの人ならあと3時間は眠っていたでしょうが二人ともどんな非常時でも対応できるよう訓練していたのでした。そうでなければ探偵業は務まらないのです。
「もうすぐ一人がここに戻ってくるぞ。そいつをやっつけるんだ」
「わかったわ。でも先生、先生は下半身なにもはいていないままよ」
そうなのです。秋地はあの時、エミの体をいつものようにむさぼっていた後にクロロホルムで眠らされたのです。
ここに連れてこられている途中コンドームは取れたようですがパンツは脱いだままでした。
「私は先生のおちんちんは見慣れているからいいけど世間体はよくないわ」
秋地は周りを見渡すとガラスケケースのような箱に覆面がたくさん陳列されているのを見つけました。きっと高梨の覆面コレクションでしょう。高梨は“ルチャ・リブレ”(メキシカンプロレスの意味です)のマニアで覆面コレクターなのです。
エルソリタリオ、ビジァノⅠ号、Ⅱ号、エルサンテの覆面などいっぱい集めています。
「よし、これだ」秋地はエルソリタリオの覆面をかぶりました。
つまり顔を隠すことによってパンツを穿いたことと同様な効果があるのです。
名探偵はどのような状況でも機転がきくのはさすがです。
「エミちゃん、手下の一人が戻ってきたようだ。わかっているね」
「OKよ。先生」秋地とエミは打ち合わせを終えました。
手下の男がドアを開けてもどってきました。
「やや!貴様、気が付いたのか」男は秋地が意識を回復しているので驚き、怖じ気ずいたようすです。
「まだ私が眠り続けていると思っていたのかい」エルソリタリオの覆面をつけた秋地はにやりと笑いました。
秋地に気を取られ茫然とした男はエミの存在が目に入りませんでした。
エミは背後から男の下腹部の急所にパンチを打ち込みました。男は苦悶の表情でダウンしました。もし、レフリーがいれば即反則負けです。
「山口君はどこにいるんだ!吐くんだこの野郎」秋地は男の首を締め上げます。
グググ・・・・男は締め上げられながらもしぶとくしゃべりません。
すると秋地は手を離し、男の右足を持ちトーホールドの態勢に入りました。スピニングトーホールドでしょうか?
おお!8の字固めです。あのジョニーパワーズの必殺技の“パワーズロック”を爆発させたのです。
グア!!男は足の骨が折れる寸前にたまらずギブアップです。
「もう一度聞く。山口君はどうなっているんだ」
「あ、あ、あいつは高梨にちんちんをしゃぶりつくされ中毒してしまい高梨に洗脳されちまったんだ」
なんていうことでしょう。少年を新しい感覚の世界に陥れるなんてとんでもありません。青少年育成に泥を塗りつける悪い奴です。
「そのうち延髄チップをうめこまれるかもしれねぇ」
男は延髄チップのことも洗いざらいしゃべりました。
「あの極悪人野郎どもめ」秋地は唸るように吐きすてました。
その時、突然部屋のドアを蹴り開いて大きな声で意味の解らぬことをわめきながら、またしても乱入してきた者があるのです。
タイガージェツトシンです!サングラスをつけサーベルを口にくわえて荒れ狂いながら秋地に襲いかかっていきます。
エミの髪をつかんで引きずり倒し壁にエミを叩きつけました。極悪非道のインドの狂虎です。
おや?よく見るとこのサングラスの男は糸田万三郎です。どうして糸田が変装しているのでしょうか。
実は糸田は極悪レスラーが大好きなのです。
この前まで覆面マニアの友人である高梨の言うことを聞いてマスクトスーパースターの覆面をつけていましたが糸田の性格上断りきれなかったのです。
タイガージェツトシンに成りきってこそ糸田の自我が輝くのでしょう。
でもそれもつかの間でした。
秋地の弓の矢を引くナックルパンチがジェツトシンの顎にヒットしたのです。そして秋地が卍固めに仕留めようとしたときジェツトシンは火の玉を秋地の顔面に投げかけました。
またしても反則の火炎攻撃です。秋地が目を押さえている隙にあの十三の劇場の場面と同じく糸田は姿をくらましました。
毎回あと一歩のところで身をかわして逃げていきます。なんて憎たらしい奴なのでしょう。しかし、ダーティヒーローとしては一流ではないでしょうか。
「エミちゃん怪我はないか」エミの体を支えながら秋地探偵はこの場を敗者のごとく後にするしかなかったのでした。
このたび重なる卑怯な反則行為をくりかえす悪者に対してますます少年探偵団ファンの怒りは大きくなるばかりです。
1通の手紙
2日後。
探偵事務所にはたくさんの記者が集まり秋地へのインタビューが始まっています。
「今日、山口君からこのような手紙が送られてきました」
その文面は次の通りです。
『わたしは秋地さんに実力では劣ってはいないと以前から思っておりました。このたび、わたしはあなたにどちらが強いのか雌雄を決すべく挑戦をすることを決心いたしました。あなたも実力日本一を自負しておられるなら堂々受けてもらえると思っております。
ノースアメリカンタッグチャンピオン 山口和夫 』
この文面以外他にはなにもかいてありません。場所、日時など一切書いてないのです。どういうことでしょうか。
記者会見が始まりました。記者たちは聞くことがたくさんあるので矢継ぎ早に質問が秋地探偵に浴びせかけられました。
「山口君があなたに挑戦してくる背景の動機はなんですか。思い当たるふしは?」
「山口君があなたと保持しているノースアメリカンタッグ王座はどうなるのですか」
「山口君は若さとスタミナが勝っていますがそのへんはどうですか」
「最近は山口君のジャーマンスープレックスは破壊力が増していますよ」記者たちは次々に問いかけてきます。
秋地はゆっくりと口を開きました。彼の顔半分には包帯が痛々しく巻かれています。あのタイガージェツトシンの火炎殺法で目を焼かれて傷ついたのでしょうか?
こんな痛手を負って山口君の理不尽な戦いの要求に対処できるのでしょうか。
でも本当は違うのです。実は秋地の目はなんともしていません。秋地は戦いを盛り上げるためわざわざ包帯を巻いて会見に出ているのです。
一流のレスラーは世間の関心を引くため、チケットが1枚でも多く売るための努力をしているのです。
「私は正直山口君とは戦いたくないのはみなさんもおわかりでしょう。山口君のお父様、お母様のお気持ちを考えればなおさらなのです。しかし、彼を悪の世界から取り戻すには彼の目を覚ますしかないのです」
「今日私はコミッショナーにノースアメリカンタッグのベルトを返上しました。山口君は新しいパートナーと他のタッグチームと王座決定戦をすべきでしょう。それと彼のジャーマンスープレックスの怖さは私が一番よくわかっていますよ。しかし、簡単にはバックを取らせませんよ」秋地は重々しく語るばかりです。
「私は平生いつなんどきでも誰の挑戦でも受けると言っています。だから彼の挑戦は拒みませんが、あのジェツトシンの野郎がまた助っ人で出てくるかもしれない。1対2、いや1対3の戦いになるかもしれないのです。もう今すぐにでも奴らは私を襲ってくるかもしれない。記者さんたちも巻き添えをくわないよう気を付けた方がいい」
ザワザワと記者席に不穏な空気がおそいました。愛弟子の山口君相手に非常な戦いができるのでしょうか。
秋地の内心を読んで次の日の大阪スポーツの見出しには大きく次のように載せられていました。
『師弟対決 秋地に勝ちめなし』
さすが大阪スポーツです。秋地と阿吽の呼吸で盛り上げまくるのです。
いったいどんな場所でそしてどんな手段で秋地を襲ってくるのでしょう。それとも何かを宣告してくるのでしょうか。油断なりません。
成川の幸せ
ちょうどそのころです
地下鉄東三国駅の近くの安アパートの一角から妙な話し声が聞こえてきました。
「ねえ、ダーリン」
「なんだよー、花子」
どうやら男の方の声はなんと成川のようです。いったいどうしてこんな所にいるのでしょうか。
あの十三ミュージックでの騒動をおこしマスクトスーパースターと別々に逃げたと思われた成川ですが、その時はリモコンのコントロールが効かなくなっていたのでした。
秋地にナックルパンチを頭に5,6発叩き込まれた時延髄のチップに不具合を生じさせたのでしょう。
マスクトスーパースターの糸田は成川を連れて逃げるつもりでしたが不可能になってしまい、糸田は一人で逃げざるをえなかったのでした。
わけもなくさ迷ってこの界隈に来たとき、ふと見上げた安アパートの窓から顔を出していた女が成川好みの絶世の美女だったのです。
互いの目があった時、一瞬にして恋に落ちたのでした。
成川は「僕と結婚してくださいー」いつもの口癖のように花子と呼ばれる女にプロポーズしました。
花子も運命の出会いに心が破裂しそうになりました。
そして、数分後には愛し合っていました。
「幸せだよーぼくはヒヒヒ」
「わたしもよ」花子が答えます。
ちょっと待ってください。花子の声が妙に野太いではありませんか。本当は花子は新地のはずれの50歳のオカマバーの東条権三郎でした。
花子というのは権三郎のオカマバーでの源氏名なのです。
髭の濃い権三郎と成川が愛し合うおぞましい光景は想像を絶するものがあります。
つづく
第九話 「里子豹変」 作・葛城文之助平
~西野逃亡~
「社長、ちょっとよろしいでしょうか」
経理部からの内線電話だった。小林は受話器を掴むと苛立ちを隠しきれずに大きな声をだした。
「いまは取り込み中でどこからの電話も繋ぐなて言うたやろ」
小林エンターテイメントと渡部商会が共同開発した新しいラブドールが間もなく完成する。中国企業の安価な粗悪品の横行や、国内で新たに参入してきた高梨エンジニアリングの製品に対抗すべく開発された製品だ。
しかし研究時間があまりにも少なく、いちから開発するとなると膨大な費用がかかるため、新製品といっても従来の製品に少し手を加えただけにすぎなかった。男性用は『嫁要らず』を『舞妓あがり』と名前を変え、ドールの体型をやや成熟した大人の女風にし、女性用はスペースシャトレを胸板の厚い男性人形に取り付けたのだ。この人工ペニスを取り付けた人形のネーミングがまだ決まっていなかった。
社内公募で集まった名前は『宇宙男(そらお)』や『九州男児』『スミス艦長』などあまりセンスの良いものはなく、唯一使えそうなのは今年入社した東京芸大卒の新人デザイナーが考えた『ミスター・マイク』だった。
この名前でいくか、小林が常務の西野に意見を求めようと呼び出したが、西野は朝から所在が掴めなかった。そろそろ昼飯時になる。西野常務はいったいどこに行ったのだ。小林社長のイライラがつのり不機嫌極まりない時に内線電話が鳴ったのだ。
「なんか問題でもあったんか?」小林の問いに電話の向こうの経理部長は逡巡の気配をみせたが、意を決したように話しだした。
「実は、西野常務が会社の金を横領していることがわかりました」
小林は耳を疑った。西野常務が横領やて?これまで自分の右腕として二十年間も仕えてきた腹心の部下の背任行為をにわかに信じることができなかったのだ。
「残念ながら事実です」社長室に呼びつけられた経理部長は、西野が会社の金を横領しているいくつかの証拠を列挙した。その額はなんと八千万円にもなっていた。
「とにかく西野常務を捜して連れてこい。話はそれからや」
小林は経理部長にそう命じながら、今度の新製品の名前は『ハッスル八千万回』でもいいなと漠然と考えていた。
~男覚醒~
昼下がりの公園には帰宅するなりランドセルを放り投げて駆けつけたワンパク盛りの小学生が集まっていた。ある者はボール遊びを、また違うグループは鬼ごっこなど、それぞれの遊びに夢中になっていた。
「お、いいもん見っけた」一番頭が悪そうな少年がひときわ大きな声を張り上げた。
「何なに」「どうしたの」と公園にいた子供たち全員が集まってきた。
「ラジコンカーのリモコンが落ちてた」
一番頭が悪そうな少年は誇らしげにそれを高々と掲げた。
「うわ、かっけー」
子供達の歓声があがった。「でも、おれが持ってるやつとちょっと違うなあ」
「ほんまや、こっちのほうがプロ仕様って感じや」
「なんかロボットを操作するリモコンみたいやなあ」
子供達はリモコンのレバーを押したり引いたりといろいろいじくり回していたが、それによって反応する物体が近くに何もないのですぐに飽きてしまった。
「ちぇっ、つまんねーの。ラジコンカーがなかったら意味ないやん」
一番頭が悪そうな少年はそう言うとリモコンを放り投げた。その言葉を合図に子供達は急速にそのリモコンから興味を失い、またそれぞれの遊びの続きに戻っていった。
しかしそのリモコンに関心を示す一人の男がいた。
これはオレが一時的だが開発に携わったことがある高梨エンジニアリングのリモコンじゃねえか。どうしてこんなところに落ちているのだ。もしかするとあのプロジェクトが完成したのか。いや違う。延髄チップはプログラムにバグがあったはずだ。あの状態で使用すれば必ずオーバーロードになり制御できなくなる。暴走は必至でたいへん危険だ。その危険を冒してまであのチップを使わねばならない理由とはいったい…
そしてそのリモコンがこんなところに落ちているなんて。まさかあの時のオレのように誰かがわざとこの場所に残して行ったのか。いやリモコンだけ置いても意味がない。これはきっと延髄チップを埋め込んだマシーンを操っていた人間(おそらく高梨の手下)が、何らかの事情であわてて落としてしまったのだろう。このリモコンがないとメカは動かない。やつらは今頃あせりまくって必死でこれを探しているはずだ。これはいい物を手に入れたぜ。神様がオレにチャンスを与えてくれたのだ。オレはもうただの屋敷の管理人なんかじゃねえ。これであの高梨にオレのチンチンをしゃぶらせてやる。いひ、いひひ、いひひひひひひ。
~里子豹変~
携帯電話に西野から至急会えないかと連絡が入った時、里子はついに来たかと思った。おそらく会社の金を横領していることがバレたのだろう。
柄にもなく先物取引に手を出したあげく、失敗を重ね次は必ず儲けるからと里子からも金を借り続け、気がつけば西野が里子から借りた金は二千万円になっていた。これ以外に会社の横領した金と合わせると西野は一億円の借金でにっちもさっちもいかなくなっていた。もっともこれは始めから里子が仕組んだ罠であったが、画に描いたようにまんまと思うとおりに墜ちてくれたものだ。
里子は一人ほくそ笑んだ。そこへ西野が慌ててやって来た。会うのはいつものブラウスだ。
里子のテーブルの正面に座るなり西野は口を開いた。
「ヤバいことになった。会社に金のことバレてしもた」
やっぱりだ。遅かれ早かれあなたはそうなる運命だったのよ。
「会社の金、八千万円、なんとかならんかな」
西野はこの期に及んでもなお横領した金をあたしに取り成してもらおうと思っているのか。なんて神経しているの。いよいよ三行半を突きつける時がきたようね。そしてこの時を待っていた。
「あなたは死ぬのよ」
「えっ」
西野は呆けた表情で聞き返した。
「あなたは死ぬの」
「ど、どういう意味やねん。あと2~3百万円貸してくれたら、今度こそでかいヤツ当ててどかーんと借金返せそうな感じなんやけど」
「あなたはすでにあたしから二千万円借りているのよ」
「そ、そやけど、今度こそばっちりやから」
「あなたにこれ以上融通できるお金はないわ」
「そんなこと言わんと、あと2百、いや、百万円でええさかい」
「黙りなさい」
「え」
里子の冷徹な返答に西野はたじろいだ。
「あなたのド素人級の投資プランは、もう聞き飽きたの」
「ド素人って・・」
「そもそも女を満足にイカせることのできない男に金儲けなんてできるわけないでしょ」
西野は里子の屈辱的な台詞に返す言葉がなかった。
「身分不相応な冒険をしすぎたのね」
「そんな・・・」
里子はよく冷えたカクテルを一口飲むと、長い脚をゆっくり組み替えた。
「だからあなたには死んでもらうの」
「し、死ぬって、俺をこ、殺すんか」
西野の目に怯えの色が混じり、店内をきょろきょろ見回しだした。この店のどこかに殺し屋が潜んでいて、今にも西野に襲いかかろうとしていると思ったようだ。
そんな西野の慌てぶりを里子は厭きれた表情で見ていた。
「殺さんといてくれ、た、頼む。俺には家族がいてるねん。かわいい子どもがいてるねん」
奥さんに内緒で若い里子を抱いたり、自分ではどうしようもないくらいの借金までつくったりして、いまさら家族愛を持ち出すなんてどういう神経をしているのか。あきれてものが言えない。
「あなたが使い込んだ会社のお金八千万円、それをわたしが立て替えてあげる」
「へ?」
「それで、あなたはわたしから一億円借りることになるわ」
「そ、そうです」
「あなたはわたしに一億円を返さなくちゃいけないの」
「ぜったい返します」
里子は片頬に笑みを浮かべて西野を見つめた。
「お金で返してもらわなくてもいいよ」
「どういう意味ですか」
「先日、高梨エンジニアリングが開発した延髄チップを埋め込んだロボットが暴走したことは知っているわね」
「ど、どうしてそれを知ってるんや」
「ふふふ。それで、成川ロボットはリモコンを紛失したせいで操縦不能になっているの」
「それは知らなかった」
「高梨は新しいロボットを作ろうとしているのだけど、今度のターゲットである少年のペニスを社長がえらく気にいったみたいで、なかなか切り落とさないのよ」
ターゲットの少年って、山口くんのことか。これは大変なことになった。早く秋地探偵に知らせないと。
西野の考えを先読みしたかのように里子は冷たい声で言い放った。
「あの探偵に泣きついても無駄よ。彼は今頃わたしたちの組織が拘束しているわ」
西野はいま目の前にいる里子という女がだんだん得体の知れない怪物に見えてきた。俺はとんでもない事に巻き込まれているのかもしれない。
「高梨が少年に埋め込むはずだった延髄チップはこれよ」
里子はバックの中から小さな電子部品を取り出した。そして左手の親指と人差し指でつまむとフッと息を吹き賭けた。延髄チップは彼女の指の間でくるくると回転した。
「高梨が少年に埋め込むのは、わたしが摩り替えた偽のチップ。もちろん組織が用意したものよ」
西野は声を出せずに里子の綺麗な顔を凝視した。
「あのチップを埋め込まれたらどうなるかまでは、わたしは知らない。でも、このチップを埋め込まれる人なら知っている」
これまで見せたことのない冷酷な目で里子は西野を見つめた。
「それは、あなたよ」
「ひっ」
西野は恐怖のあまり小便を漏らした。小便は止まることなく里子の足元のほうにも広がった。
「怖いのね。でもそれであなたの借金はチャラにしてあげるから心配しないで」
「つ、つまり、俺に成川ロボット2号になれというんか。高梨エンジニアリングの“2012モデル”を取り付けた人造人間になれというんか」
「ふふふ。そうよ、あなたは一度死んで、人造人間として生まれ変わるの。でもね、あなたが取り付けるのは“2012モデル”なんかじゃない」
「な、なんや」
「“恐竜棒”よ」
いつの間にか客がいなくなった店の奥から高級なスーツを身に着けた男が出てきた。男は里子の隣に立つと彼女の肩を撫でながら西野に笑顔を向けた。
『大昇天』の社長、王景陽だった。
「くそ、初めから俺を利用するつもりで近づいてきたんやな」
西野は小便を漏らし続けながら悪態をついた。
「あなたなんて初めから利用する価値はないわ。なんの価値もない人間が、こうして王社長の役にたてることを有難いと思いなさい」
「くそっ、くそお」
なおも悔しがるに西野に、王景陽が一喝した。
「一億の金、あんたどうやって返す?あんたの嫁と子供、中国の闇組織に売って返すか」
西野は家族の事を言われると急におとなしくなり、うな垂れたまま動かなくなった。
つづく
第八話 「めんどくさい警部」 作・本松性徴
田中警部は、梅田署の事務所でボールペンを回しながら物思いにふけっていた。
多くの刑事たちは、外回りに出かけていた。岩田と、坂上、女子署員が数人同室にいたが、誰も彼に声をかけないでいる。
彼は、一度気になったら解決するまで、しつこくしつこく事案を検討する。そこは非常に警察向きの性格と言えよう。
しかし、検討するだけで、実際の業務は部下にやらせ、その責任もとらないので、部下たちの評判はすこぶる悪かった。
彼にからむと仕事が増え、ろくな事にならないので、いつしか彼に話かけるものはいなくなった。
「…と、これが、こうなって…よし、できたぞ」
独自のロジックを展開するとき、彼は必ず独り言を言う。大概はたいした事はないのだが、今回は違った。
渡部、小林両社長誘拐事件に残された唯一の手がかり「2013モデル」が、まったく市場に出回ってないものだと気づいたのだ。
しかも、自身が陶酔しているネットゲーム『対戦女体を這え2013モデル』に表示されるペニスと同じ形、同じ動き…
彼は『対戦女体を這え2013モデル』においてスーパープレイヤーであった。
仕事が暇なのでゲームにかなりの時間を割けたし、持ち前の探究心、異常なまでの細かさで、出てくるヴァーチャルギャルを次々に撃破、初期プレイヤーの間では神レベルとさえも言われた。
しかし、チャットでは順番に会話できず、いつも彼のターンで終わってしまい、他のプレイヤーには全くしゃべらせなかった。
そういった自分勝手なところが疎ましがられ、リアルと同じく、ヴァーチャルも一人ぼっちであった。
「とりあえずこのゲームサイトの運営会社を調べてみるか…」
彼は受話器に手をやった、彼の調べはじめはとりあえず電話である。
彼は頭を激しくかきながら、電話番号検索104をダイヤルした。
公共の番号のはずだが、いつもなかなか繋がらない。今回は10回目のコールでやっとオペレーターが出た。
もちろん、彼が104のオペレーター達からも敬遠されていたのは言うまでもない…
しかし、104で電話住所調べる→住所をグーグルマップに入力→ストリートビューで確認→地図をプリントアウトと、いつもの一連の流れを行い、運営会社が古い洋館であることを突き止めた。
「よし、これを誰に行ってもらおうかな…」田中は、仕事しているということを独り言でアピールしたつもりだった。
岩田、坂上、女子署員はほぼ全員同時に「おまえがいけよ」と思った、田中の独り言のアピールはむなしく、事務所の全ての人間に、それがアピールであると気づかれていた。しかし、大人な事務署員達は、決してそれを口に出さなかった。
人の話聞かない者に、口げんかで勝てるわけはない。結局岩田、坂上が洋館を訪問することととなった。
二人ははじめ、少々めんどくさく感じたが、一時的に田中から離れられると思うと、少し気持ちがうきうきしてきた。
田中が事務署にいると、居心地が悪いので、仕事もないのによく鑑識課や、用度課に行っていた。
その日だけは、そういった行動をとらなくてもいいのだ。こんな仕事もたまにはいいな…訪問の日が楽しみな二人であった。
秋地の危機
一戦終えた秋地は、エミの方を見た。けだるい疲れを残しているエミが、間をつぶすように口を開く。
終わった後の顔をじっくり見られたくなかった。メスから女の子に、一刻も早く戻りたかったのだ。
「山口君は大丈夫なのかしら」
秋地は答えた。
「大丈夫だと思う…僕が教えられること全てを彼に伝えている。実践できるかは彼次第だが…」
秋地の最後の言葉に、エミはいささか無責任さを感じた、しかし、山口君がいないので、こうやって先生と遠慮なく愛し合える事できるのである、我ながらしょーもないことを聞いた、とエミは思った。
「シャワー浴びてきます…」
エミはバスタオルで体を隠し、何か悪いことをしたかのように、コソコソとバスルームまで小走りでかけて行った。
「しかし、山口君が消えてからもう一週間たつ…連絡が途絶えた地域を、吉田君、山下君と探したが、まったく手がかりがない…」
秋地は細巻きの外国タバコに火をつけ、事件の経緯、あらゆる可能性について考察していた。
「キーになるのは里子?渡部、西野、高梨に彼女が繋がる…彼女は何者なのか…」ゆっくりと煙をくゆらせる。
ドサっ!物音が聞こえた、何かが倒れる音…秋地は異変を感じ、バスルームに向かった。
「エミちゃん!…エミちゃん!」
エミは意識を失っていた、白い肢体が力なくうなだれていた。バスルームには誰もいない。
「おかしい、どうしたことだ…ん、この臭いは…」
秋地はあわてて口に手を当てたが間に合わなかった、遠くなる意識、視界がどんどん狭くなっていく。
「くそっ、換気扇か、クロロホルム…ガス…」
薄れいく意識の中、せめてパンツをはいときゃよかった…あ、その前にコンドーさんはずしときゃよかった…と思う森井であった。
里子の思惑
里子は、渡部家のメイド室の高い天井にぼんやりと見ていた。
渡部家の全ての仕事を終え、ベッドについたのは12時をすでに40分も過ぎたころであった。
「少し強行手段にでないといけないかも、このままじゃ、何も進展しないわ…」
寝返りを打ち、枕元の手帳を手にする。いままで小林エンターテイメントの西野常務に融通したお金を確認してみた。
西野から聞いていた、小林エンターテイメントの横領分も加味すると、もはや地方の経済ニュースを飾れる位の額になっていた。
里子は、西野に今後どのような利用方法があるか、もう一度考えをめぐらした…そのときコンコンとドアをノックするような音が聞こえた。
「さとちゃん、ワイや、社長やで…」
いやらしい中年の細い声がドア越しに聞こえた。里子はあわてて手帳を直し、ドアのほうへ歩いた。
「社長ですか?…どうしたんですか、今日は奥様がいらっしゃいますよ…」里子はドア越しに答えた。
「春子かい…もうええんや、あいつはな悪い女なんや…」声のトーンが少し暗くなった。吐き捨てるような口調である。
「奥様がどうかされたんですか?…」里子は聞き返した。
「まぁええやんか、そんなことは、はよ部屋に入れてえな」渡部は甘えるようないやらしい中年の声に戻った。
里子はドアをあけると、周りを注意しながら渡部が部屋にすべりこんだ。
「あいたかったで、さとちゃん」
渡部は里子に抱きついた。何度目の抱擁だろう、里子は今までの渡部との情事を思い返してみた。
昼も夜も関係なく求めてくる渡部であるが、妻の春子が在宅の時にそういったことはなかった。
これは何かある、利用できるかもしれない、里子は経済スパイとして何かを感じた。
「とりあえず、はよベッドいこ」
渡部は、まるで覚えたばかりの高校生のように、里子の手をベッドまで引っ張った。その横顔に、涙の乾いた跡があるのを、里子は見逃さなかった。
「どうしたんですか、今日の社長変ですよ…なにか…あったんですか?」
里子は、社長の目を見つめながら、言葉をため気味に、それでいて母性を感じる口調で話した。
「ククク…」
渡部はついにこらえ切れなかったかのように嗚咽をもらした。力ない肩が小刻みに震えている。
「里子、お前だけや、ワイのそばにいてくれるんは、お前だけや…」
うなだれひざまずき、里子の下腹部に顔をうずめる渡部。里子は、本能による母性を感じながらも、意図しない作戦の進捗を期待し心躍る気分であった。
「私の体でよければ、好きにしてください。私は、社長さんが満足してくれたらそれでいいんです」
里子は渡部の頭を優しく三度撫でた。渡部は里子を見上げ、くしゃくしゃの顔でうなずいた。
「里子、おまえはええ女やのう、ほんまにええ女や…ウッ、グズッ」
自力では満足に女を抱けない渡部のポケットには、こんなときでさえも自社商品「スペースシャトレ」が忍ばされていた。
静かなモーターの音と、女性のあえぎ声がおさまったのは、空がうっすらと白む5時過ぎであった…
つづく
第七話 「山口君の危機」 作・淀川乱交
狂人失踪
ここは秋地探偵事務所です。
山口君とエミさんは難題の依頼に知恵をしぼっているところですが今回は企業の難しい問題や大人の裏の世界の問題が多いので大変です。
3時の休憩時間になりおやつをいただきながらおしゃべりしていました。
「うわーこれはなんともいえないな」
山口君は大阪スポーツの8面の連載ホモ小説に目を通しながら言いました。
「その作家は両刀使いらしいいわよ、自分の体験で筆をすすめるので迫力があるんだって」
「プロフェショナルな作家はこうでなくっちゃね」
「あれ?これは、、、、」
「どうしたの?」
社会面の小さな記事ですが“精神病棟から患者行方不明”と載っているのを山口君が見つけました。
『重度色情患者Nさんが3日前から病院から姿を消しているのがわかり警察に届けが出されている。女性を見ると年齢に関係なく危害を与える危険があるので警察は近辺の住民に注意を呼びかけている』と書いてあります。
「この男は小林社長が話していた病院で会った成川電工の人間だよきっと」
魔物誕生
とある小さな病院です。
手術室の中で3人の男が何やら話し合っています。
そのうちの二人は高梨社長と糸田万三郎です。この前から渡部社長の誘拐を秋地探偵に阻止されその後姿を消していました。
「あの探偵の野郎め!もう少しで渡部から顧客データを吐かせることができたのに」高梨は悔しさいっぱいです
「この恨みはきっちり返してやるぜ」
また悪企みを計画しているに違いありません。
「俺の生み出した2013モデルが組みこまれている人工ペニスを自由自在に操作できる人工頭脳を使って、もう一度渡部と小林を連れ戻してやる」
「昔からお前の執念深いのは変わらないな」糸田がにこにこ笑っています。
「これは俺の傑作だぜ」
高梨の手のひらには1センチ四方ほどの大きさのチップがありました。こんな小さなチップが人工ペニスにいろんな動きをさせるのです
この人工頭脳のチップを使ってどうしょうというのでしょうか。
「あいつはまだおとなしく寝ているのか」高梨は白衣を着たもう一人の男に訊ねました。その男はこの病院の医者のようです。
「大丈夫です。よく寝ています麻酔を十分打ってありますよ」
いったいなにをしようというのでしょう。
「よし、さっそくやろうじゃないか。しっかりやれよ」高梨は医者に命令しているようです。
手術台の上には坊主頭の男がいびきをかいて寝ていました。なんとその男は精神病院から失踪した成川ではありませんか!どうしてここにいるのでしょうか?
成川が病院から姿を消してからもう何日も経つのに発見されていませんでした。
実は高梨は以前から自分の開発した人工頭脳を人間の延髄に埋め込んで人を奴隷のように自由に動かすことを考えていました。
この男は大人玩具にとどまらずとんでもない企てを創造する天才のようです。
「願ってもない実験台だよこの男は」前から業界ではなにかとうわさで成川の変態は知られていました。
精神病院に隔離されたことを知り成川を自分の企みに利用しようと考えていたのです。
高梨と糸田は手下どもに成川を病院から連れ出してくるよう命じたのでした。
「この人工頭脳チップをこいつに埋め込め混んで世間を大騒ぎさせてやる。手術がうまくいくかどうかは30パーセントだがな」
なんと高梨社長は成川の肉体をモルモットのように使おうとしているのです。
成川の肉体に部品をつなげるつもりです。失敗したら死んでしまうかもしれません。いいえ絶対にこんなことは許されないことです
なんて恐ろしい残酷なことをするのでしょう。白衣をきた男ははたして本当の医者なのでしょうか。
「よしさっそく始めるんだ麻酔の醒めないうちにな」高梨は医者に命令しました。
医者はメスを取りだしていよいよ成川の後頭部を切り開らこうとします。
「延髄にチップを埋め込めば良いだけなので簡単ですよ。終わったらちゃんと金はもらえるんでしょうね」医者が言いました。
「ちゃんと払ってやるから心配するな。早くやれ。2013モデルが成功すれば億万長者さ」高笑いをしながら答えました。
怪物現る
ある日のことです。山口君、山下君、吉田君の少年探偵団のメンバーは大阪十三にある十三ミュージックに来ておりました。
3人とも十三ミュージックは初めてなのでわくわくどきどきしています。
期待に胸を膨らませながら、下半身もふくらんでいます。
3人は入場券を買って館内にはいっていきました。中は大きな音楽と暗闇に交差するスポットライトでひとつの妖幻な世界が作り出されているのです。
踊り子の肌に光が浴びせられてお客はその艶かしい輝きに酔っています。
踊り子がダンスの後半からかぶりつき桟敷のお客の顔の前で大腿部を広げて秘部を恥ずかしげもなくさらけ出します。
「いいぞ~ねえちゃん」お客も昂奮して盛り上がっています。耳を劈くような音楽の合間に「お客様にお願いです。けっして踊り子には手を触れないようよろしく~おねがいします」と決まりごとのアナウンスが聞こえてきます。
「うわー、もろ出しですげー」と吉田君は思わず声をもらしました
「もっと前の席で見ようよ、お○んこ」山下君も大昂奮です
踊り子が順番に前の席のお客の顔で恥部を指で広げ見せています。山口君たちもこれから楽しもうとしたところです。
「きゃーと踊り子の叫び声が上がりました。なるチャンなにをするの」
成川は踊り子の恥部に顔を押し付けて舐めまくっています。舞台の踊り子に手を出すのはご法度です。
成川は常連客で、なるチャンと劇場のひとからも親しまれていました。プレミアム会員でもありました。
しかし、今日の成川は様子が変なのです。
「離してよ!なるチャン。よしなさいよ」
「ぐへ~、いいからいいからオンナ、オンナ」踊り子を放しません。
「グヘへへへへー」気が狂ったように叫んでいるのです。
奥から劇場の恐いニイサンが飛び出してきました「おいこら!おまえなにやっとるんじゃい」
パンチパーマのイカツイ顔で凄んで出てきました。
この暴れまくる男を見た山口君たちは「あれは成川電工の男だ!小林社長が話していた男だ」
「病院から行方不明になったっままの男だ。 それにしても尋常な様子じゃないぞ」
恐いニイサンが成川を殴りつけようとすると成川は逆にすごい力でニイサンを殴りました。一撃でニイサンは顎を砕かれ気を失いました
「きゃー」他の踊り子たちもお客も異常な事態に逃げ惑うばかりです。
成川は依然としてして脇に全裸の踊り子を抱えて奇声をあげているのです。
山口君は「大変だ、あの踊り子さんを助けるんだ」いかなるときも勇敢で正義感に満ち溢れた少年探偵団です。
困った人がいれば助けるというのが少年探偵第3条の掟なのです。
狂った成川は劇場内をぐるぐるとわめきながらそこらにある物を蹴り倒していきます。
あの高梨たちのチップを埋め込まれた成川は本当の狂人にされてしまったのでしょうか?それとも手術が失敗してしまったのでしょうか。
「吉田君、先生に連絡だ」
「わかりました」吉田君は携帯電話で秋地探偵に助けを求めます。
山口君は踊り子さんをはなせと叫びながら果敢になに飛び掛っていきます。
鮮やかに山口君のドロップキックが成川の顔面にヒットします。グァ!成川は鼻血が吹き出して苦しそうですがまだまだ平気です。
至近距離からのドロップキック4連発が決まっても成川は踊り子を抱えたままです。
山下君が成川の足にタックルしましたが吹っ飛ばされてしまいました。山下君は柔道を習っているので受身をとるのが上手なので無事ですが、普通の人なら叩きつけられていたに違いありません。
その時です。どこからか一人の男が山口君をいきなりを後から羽交い絞めにしてきたのです。
いったい誰なのでしょう。あ!マスクトスーパースターではありませんか!
あの洋館から空に逃げた覆面男です。そして手には小さいリモコンのようなものを持っています。
この男が成川を操縦していたのです。
山口君をマスクトスーパースターはフルネルソンに固めると成川にCOMON!と合図しました。成川は腕を振りかざし山口君めがけてウェスタンラリアットをブチかましました。
バシーンと山口君の喉元に炸裂したではありませんか。大の大人が二人ががりで少年をいたぶるとはとんでもない非道な男たちです。
山口君は大丈夫でしょうか失神寸前です。
ああ秋地探偵は何をしているのでしょう。このままでは山口君が殺されてしまいます。
マスクトスーパースターはぐったりとした山口君を引きずり起こしまたもやフルネルソンに固め2発目のウェスタンラリアットをさそいます。
こんど食らったら山口君は本当に殺されてしまうに違いありません。
その刹那。「グアー!!」大きな悲鳴があがりました。なんとマスクトスーパースターが口から泡を吹いて倒れています。
マスクトスーパースターの後頭部を秋地探偵の延髄斬りがつらぬいたのです。
山口君たちが待ちに待った秋地探偵がやっと助けにきてくれたのです。
秋地はちょうどこの日春子から肉体の報酬をうけるため十三のラブホテルに入ってており、その後、駅前の名物ネギ焼きを二人で楽しんでいたところだったのです。
吉田君から連絡をうけた秋地は駅前の放置自転車に飛び乗り駆けつけたのでした。
勢い込んだ秋地は成川にはアリキックを2発3発と叩き込みました。
ウギャー!踊り子を抱えてひざまずいてしまいました。
秋地は山口君のところへ駆け寄り抱え起こし「大丈夫かしっかりしろ」秋地は山口君の頬をバシーンと張りました。
ああ、なんて過激な師弟愛なのでしょう。山口君は気を取り戻しました。
「先生、、、うしろ、、、」
秋地は山口君を抱きかかえておりましたので背後から成川が近づいてきたのに気がつきません。
成川はポケットに手を入れ何かもぞもぞと取り出そうとしています。
秋地が後ろを振り返った瞬間です。秋地の顔に粉のような白いパウダーをあびせかけました。どうやら小麦粉のようです。
「うわ!」そこら一面に白煙がたちこめます。秋地は大丈夫でしょうか?油断してしまったようです。
「成川、づらかるんだ」
この煙幕がたちこめているあいだにマスクトスーパースターと成川は出口に向かって走り去りました。
秋地は粉を目になげつけられて目を押えたままです。
「あの野郎!ふざけやがって!こうなったら最終戦でタイトルをかけてやってやる!」とやや意味不明なことを言いました。
山口君、あの覆面を追うんだ!多分正体は糸田社長だ。くれぐれも気をつけるんだよ。私も後から行く」
「はい先生!山下君と吉田君は先生の手当てしてくれ頼んだよ」
秋地探偵が思わぬ負傷を負ってしまったのでは重大な任務を山口君は背負わねばならなくなりました。
山口君は気合を入れてあの二人の後を追って駆け出していきました。
山口君 対“胸を張って独身”
山口君が劇場を飛び出すと商店街のはずれの駐車場に向ってマスクトスーパースターは走っていきます。
成川は別のほうに逃げたのでしょうかマスクトスーパースター一人だけです。とめてある車で逃げるようです。
山口君が必死に追いかけても追い着きそうもありません。もうマスクトスーパースターは車に乗り込みエンジンをかけ動き出しています。
山口君は停車中のタクシーに乗り込みんで「運転手さん、あの白いカローラを追いかけてください。くれぐれも見失わないようにね」
「わかりました」初老の運転手は猛スピードで車を発進させます。
20分あまり追跡しているとカローラは谷町6丁目あたりの古い民家街に入っていくようです。
そのあたりはゴチャゴチャと道が入り組んでいるところです。カローラはスピードを上げて向こうの道を右に曲がったのでタクシーも右に曲がりましたが筋が多いので車を見失ってしまいました。
「ああ残念だ。せっかくここまで追跡できたのに。しかし、このあたりに違いない」
山口君はタクシーを降りてこの辺を歩いて調べることにしました。途中タクシーの中から携帯メールで随時自分の位置を山下君たちに知らせていたので後から来てくれるに違いありません。
さすがに山口君です。追跡する際の鉄則をちゃんと守っています。
ふらふらと15分も歩いたでしょうか。あれ!ある小さな古いビルの扉の前の牛乳箱にスーパースターの覆面がかかっていました。
「ここだったのか」山口君はビルの玄関に入っていきます。
いけません!危険な雰囲気がします。わざわざ覆面を山口君にわかるように置いてあったに違いありません。
ここは仲間の来るのを待ってから行動すべきです。
しかし、勇み足気味の山口君は玄関のドアのノブに手をかけました。
ドアには鍵がかかっておりましたがポケットから針金のような金属の棒を取り出し鍵穴に差し込み難なく開けました。
中に入ると正面には研究室と書いてある部屋がありました。人の気配を感じませんでしたのでドアをそろりと開けて中をうかがいました。
「あ!」全裸の女性がソファに横たわっています。いったいどういう女性なのでしょう。
悪者どもの一味の女でしょうか。それにしてもすごい美人でみとれるばかりです。山口君の好みの顔、巨乳バスト、ヒップなのです。
それに手入れがあまり行き届いていない陰毛の裂け目がまるで山口君をさそっているように誘惑してくるのです。
山口君はもちろん勃起ギンギン冷静さを失いそうです。
山口君は思い切って声をかけました「君は誰なんだ。なぜ全裸でいるんだ」
彼女から返事がありません。もう一度声をかけても答えがないのです。死んでいるのでしょうか。
するとよくみると人形なのです。山口君は人形を見て興奮してしまったのです。「しかし、見れば見るほどよくできた人形だなぁ。まてよ、ひょっとするとこれが(株)イトタの男性向け玩具かもしれない。“これは売れるだろうなぁ”」といいながら山口君は人形の女の部分をいじりだしました。「お~。え~。」本物と全く変わらないなんともいえない感触にもう下半身が破裂寸前まできています。
「すごい!これはどんなものかレポートしなくては」山口君はズボンとパンツを脱ぎ去ると人形のうえにかぶさっていきました。
いきり勃ったものを挿入すると人形から艶めかしい声が出てきます。
声まで本物じゃないか!と思うまもなく射精をこらえきれなく人形の女の部分に怒涛のごとく放出しました。
若い山口君は1回では気がすみません。2回3回と人形相手に射精し夢中になってしまいました。
これが糸田の生み出した『胸を張って独身』の正体なのです。
山口君がこれは凄いぞ、小林エンターテイメントの『嫁要らず』など比べものにならないとが感心しているその時、いきなりガツーンと頭をこん棒でなぐられました。
あのマスクトスーパースターです。だから油断してはいけないのです。まんまとワナにはまってしまったではありませんか。
マスクトスーパースターは大の字に倒れてしまった山口君に「おまえも成川のようにロボットになるんだ」と言いました。
大変です。山口君は手術されて高梨と糸田の言うがままになってしまうのでしょうか?
話は少しもどる。
ある男が料亭に意図して2013モデルを座敷に放置したがその後話題ひとつ起こらなかった。
渡部と小林が連れ去られた事は事件性があるが、業界のシェアをほとんど占めている企業の社長同士の酒の席におとなのオモチャが1本ころがっていても何の不思議ではない。
警察も男根のオモチャの性能の違いなどわかるはずもなく参考資料にもならなかった。
ただ、料亭の仲居の女たちが辱めもなく男根を見てキャーキャー騒いでいたのはいたが、ただ奇異な形のものに対しての興味本位だろうと思われていた。
だが誰一人不審に思わなかったわけではない。一人の警部が業界の深い調査をする必要があるのか検討していた。
一方「大昇天」社の王景陽(おうけいよう)は自国中国にいた。
おもしろいように売れる安価な『恐竜棒』は中国の女たちにも爆発的に売れた。
だが、自国向け製品は日本向けのものとは違い粗悪な作りで、5,6回女性たちが快楽をむさぼればすぐに動かなくなるしろものだった。
モノがモノだけに評判が広まりにくく、それを良いことに平気で売り続けるのだった。
だが、もう一つのビジネスの極上梅は売り上げは下がるばかりで手の打ちようがなかった。梅乃の新製品が爆発的に売れているのだ。
じわじわと効いてくるボディブローのように「大昇天」社の経営を圧迫し始めていた。
つづく
第六話「二つの企み」 作・葛城文之助平
~ある男の手記~
あの日、大阪では珍しく朝から雪が降っていた。
「この勢いなら昼過ぎには積もるかもしれんな」そう言って、社長の高梨がこの技術開発室に入ってきたんだ。
部屋にはオレと社長の二人きりだった。今から思えば高梨はそのタイミングを狙っていたのだろう。
「都会の人間は雪には慣れてないから、ちょっと積もっただけで滑って転んだだとか、電車が止まっただとか、車がスリップ事故しだとか言いやがる。雪が積もるという都会では非日常的な事件が起こっているのに、いつもと変わらないことをしようとするからそんなことになるのだ」
窓の外を見ながら高梨が言った。
「はあ」
オレは社長が何を言わんとしているのか考えたが、まったくわからなかった。だから訊いたんだ。
「あの、社長、何かご用ですか」
オレの問いに高梨は救われたような表情をした。
「君も知っていると思うが、我々は今画期的な商品を開発している。女性にとってはまさに夢のアイテムだ」
まだまだ完成には程遠いが、着実に開発は進んでいた。
「だがな、我々が目指しているリアルな電動ペニスを作るためには、もっともっと多くのデータが必要なのだよ」
「はあ」
「私は世界中を駆け巡り、様々な人種の男性性器のデータを集めているんだ」
高梨は眼鏡の位置を直しながらオレの下半身を値踏みするように見ていた。
「しかしまだ唯一アジア人、それも日本人のペニスのデータが不足している」
オレはまだ社長が何を言おうとしているのかわからなかったので、そのまま黙って話を聞いていた。
「君のペニスのデータを採らせてもらえないか」
「え、おれの」
「そうだ、君のペニスを見せてほしいんだ」
高梨がじりじりとにじり寄ってきた。オレは思わず椅子から立ち上がり逃げ出しそうになった。
その気配を察した高梨は、にこりと笑ってこう言ったんだ。
「協力してくれたら、君を技術開発室の主任にしてやろうじゃないか」
高梨エンジニアリングの技術開発室主任か。悪くないな。
オレは瞬時に考えを廻らせ、ここは社長の言うとおりにしておいたほうが得策だと判断した。
「わかりました。で、オレはなにをすればいいんですか?ペニスの大きさとかを測ってきますか」
「いや、君に手間はとらせないよ。今ここでデータを採らせてもらう」
高梨はそう言ってオレの前に屈みこんだ。そして慣れた手つきでズボンのファスナーをあけると、萎縮して完全に皮を被った状態のオレの逸物を取り出したんだ。
「な、なにをするんですか」
オレは驚くというよりは、むしろ恐怖を感じ始めていた。そういえば高梨社長は最近、奥さんに逃げられたばかりだ。なんでもホモじゃないかという噂もでている。あの噂は本当だったのか。
「ほう。君のはこうなっているのか」
高梨はオレのものを、指でもてあそびながら呟いた。
「や、やめてください」
オレは腰を引き、社長から逃れようとした。しかし机が邪魔をしうまい具合にいかなかった。
「だいじょうぶだよ、すぐに終わる」
高梨はそう言って、オレのペニスにしゃぶりついた。
「ひっ」
オレは何をやってるんだ。このままでは高梨にヤラれてしまう。
オレは必死に抵抗し、社長の口の中に納まっているオレのペニスを引き離そうともがいた。しかし、想像以上に彼の力は強かった。高梨は左腕でオレの腰をがっしりと抱え込み、右手でオレのものを愛撫しながら根元まですっぽりと口のなかに納め、そうかとおもえば唇を肉棒に密着させたまま亀頭の先端部分までスライドさせる運動を何度も繰り返した。
ときには速くときには遅く連続する動きにあわせて、高梨の舌も口の中で複雑に動いた。
オレは男にやられていることを忘れてしまい、いつしかめいっぱいの膨張率で反応してしまっている自分を不思議に思った。べつに男でもいいんだ。気持ちがよければそれでいいんだ。高梨の世界仕込みの舌技によってオレはいま感じている。高梨はペチャペチャといやらしい音を立ててオレのものに食らいついている。ああ、もう間もなくオレは絶頂を迎える。社長の口の中に射精してしまうのか。
しかし男にやられて射精してもいいのか。射精したらオレは変態になってしまうのではないか。だめだ、出したらだめだ。それはなんとしても我慢しなければならない。我慢するんだ。ああ、でも我慢できそうもない。だめだ。我慢、だめだ。だめ、だ。
「ぬ、は」
オレは言葉にならないうめき声をもらし、高梨の口の中に大量の精液を放出した。とたんに膝ががくがくし立っていられなくなった。
高梨は口の中いっぱいになったオレの体液を全部飲み干し、額の汗をハンカチで拭いながら言った。
「君のは素晴らしいね。私も久しぶりに真剣になったよ」
「そうですか」
今度はオレが社長に快楽を与える番かと覚悟したが、どうやらそれは求めていない様子だった。純粋に男の性器に興味があるのだ。
「おかげでいいデータが採れたよ」
高梨はオレの肩をポンポンと叩くと部屋から出て行った。
オレの中に何か罪悪感のようなものが湧き上がりつつあったが、これで高梨エンジニアリングの主任になれるという喜びと、さっきの社長の舌技をもう一度味わいたいという気持ちが大きくなっていた。
それからしばらく社長の高梨は姿をみせなかった。オレを避けているのか。男の社員に手を出したことを悔やんでいるのか。オレはもう一度高梨にアレをやって欲しいのだ。オレのペニスのデータならいくらでも教えてやる。そしてオレは未だに技術開発室主任にはなっていない。はやく辞令をだしてくれ。はやくオレのをしゃぶってくれ。
そんなもんもんとした気持ちで過ごしていたある日、ついに『夜の2013モデル』が完成したのだ。
高梨社長より社内発表会が開かれ、製品についての説明が行われた。まだ発売前だから口外禁止。しかし実に素晴らしい商品だと思う。ほんもののペニスのように活き活きとしたハリのある製品だ。
社長がスイッチを入れ、モノが大きくなった姿を見てオレは驚いた。これはオレのペニスにそっくりじゃないか。高梨はよほどオレのペニスが気に入ったんだな。
自分のペニスが全世界の女性に愛用されることを想像するだけでぞくぞくしたが、それで興奮はしなかった。オレはもう高梨の口でしかイケないのだ。
説明会が終わり社長が部屋から出ていくところを追いかけて声をかけた。
「社長、ちょっと待ってくださいよ」
「ん」
「『夜の2013モデル』はみごとな商品です。きっと爆発的に売れますよ」
「そうだな。君たちの努力のおかげだ。これからもよろしく頼む」
高梨はそれだけ言うと、さっさと歩いていってしまったんだ。
他の社員の手前、あんな態度しかできなかったに違いない。オレはまだそのときはそう考えていた。
しかしオレはいっこうに主任に任命されなかったし、オレのペニスは高梨の口を待ちきれなかった。
『夜の2013モデル』が発表されてから一週間後、オレは社長室のドアをノックしていた。返事はなかったがドアに鍵がかかっていなかったので勝手に部屋に入った。
高梨は電話でなにやらひそひそ喋っていた。オレの存在に気づくと急いで電話を切り怪訝な顔をした。
「どうしたんだね」
「社長、オレはいつ主任になれるんですか?」
「何のことだ」
「あの雪の日、約束してくれたですよね。オレを主任にしてくれるって」
「ん?ああ、あの話か」高梨は無表情のままでオレを見ていた。「少々状況が変わってね、君には新しいセクションで働いてもらおうと思っているんだ」
「新しいセクションですか」
「ああ。今度、ネットゲーム業界に参入することになってね、もちろん『夜の2013モデル』を使ったゲームを開発するんだが」
「そのゲームの開発に加われとおっしゃるんですか?」
「いや、ゲームはもうほとんどできているんだよ」
「じゃあ、オレはなにをやるんですか」
「芦屋の洋館の管理人だよ」
オレは耳を疑った。屋敷の管理人になれだと?
「社長、あの『夜の2013モデル』はオレのペニスがモデルになってますよね。オレのチンチンを社長がしゃぶってデータ採ったんですよね」
オレは思わず高梨に詰め寄っていた。
「まあ落ち着きなさい」高梨はさりげなくオレとの距離を保って言った。「たしかに君のペニスのデータを採らせてもらった。しかし、あの『夜の2013モデル』には君だけじゃなく、私が世界を廻って集めてきたいろんな国の男性のぺニスがデータで反映させてあるんだ」
「いや、あの反り具合はオレのちんちんにそっくりです」
「そんなことはないよ。君のペニスは確かに素晴らしい。でも『夜の2013モデル』は君のペニスではない」
「間違いなくオレのちんちんです」
オレは言い切った。しかし高梨は『夜の2013モデル』とオレのペニスの決定的な相違点を指摘した。
「よく聞きなさい。『夜の2013モデル』は包茎だったかね」
「あっ」オレは大事なことを見落としていた。『夜の2013モデル』は完全にムケていたんだ。
オレは大きな敗北感に見舞われた。そしてあっさりと引き下がることにした。だがせめてもう一度高梨の口の中に射精したかった。それを願い出ると一笑に付された。
「ははははは。私はホモではないんだよ。君のちんちんを口にしたのは、あくまでもアジア人のペニスのデータを採りたかっただけで、他には何の意味もないよ」
オレは自分でもわかるくらい赤面していた。くそ、なんて恥ずかしいんだ。
なにも言い返すことができずに俯いていると、意味ありげな笑みを湛えて高梨は言った。
「まあしかし、君がそんなにも望むのならヤッてあげてもいいよ」
「ほ、ほんとですか」
オレは顔を輝かせた。
「ああ本当だとも。しかし、ひとつ条件がある」
「なんですか」
気が早いことに、オレのペニスはもう勃起し始めていた。
高梨はそんなオレの体の変化を素早く察知し、思わせぶりに舌なめずりをしてみせた。
「今夜、渡部商会と小林エンターテイメントの社長が東京で会うという情報が入った。君はこのマスクを被ってほかのメンバーたちと一緒にそこに行き、二人の社長を芦屋の洋館までお連れしてきてくれ」
「え、あの人たちを誘拐するんですか」
「人聞きがわるいよ。誘拐じゃない、お連れするんだ」
「連れてきて何をするんですか」
「何もしないよ。ただ二人の会社の顧客情報が知りたいだけだよ。君がそれを聞き出すんだ」
「でももし抵抗されたら」
「そのときは少々手荒なまねをしてもいいさ。必ず連れてくるんだ。そしたらご褒美に君のちんちんをしゃぶってやろうじゃないか」
高梨はウインクしながら覆面を投げてよこした。それはなんだかプロレスラーが着けているようなダサイ覆面だった。
しかしオレは気づいていた。高梨社長はもう二度とオレのペニスをしゃぶってくれることはないだろう。いまは思わせぶりな事を言っているが、そのときになればまたああだこうだ言って結局しゃぶってはくれないに決まっている。それくらいこのオレにでもわかる。狡猾な高梨は用済みのオレを屋敷の管理人にするつもりなんだ。そっちがそういうことなら、こっちにも考えがあるさ。
「わかりました」
オレはマスクを被り答えた。
「手荒なまねをしてでも連れてきます」
そしてオレは、高梨の大学時代の同級生で同業者の糸田万三郎らとともに築地の料亭から渡部社長を拉致した。残念ながら小林社長には逃げられたが、そんなことはどうでもいい話だ。
オレは料亭を去る時まだ発売前の『夜の2013モデル』をわざと残してきた。それはオレのちんちんをしゃぶってくれない高梨を困らせてやろうと思ったからだ。忽然と座敷からお客が消えたとなると、当然店の人間は警察に通報するはずだ。そして現場検証がおこなわれ『夜の2013モデル』がすぐに発見される。犯人に結びつく唯一の証拠品だ。「消えた社長。手がかりは発売前の大人の玩具!」などとマスコミがおもしろおかしく騒ぐ。高梨の新商品販売戦略が台無しになる。高梨は大いに困る。オレはそうなることを願っていたんだ。しかしいっこうにマスコミが騒ぎ出さないし、警察の捜査の手が高梨エンジニアリングに伸びてくることはなかった。あの探偵のせいで誘拐作戦は失敗したものの、料亭の座敷に置き去りにしてきた電動ペニスはどうなったのだ。
オレは次の作戦を考え始めた。
~里子の企み~
渡部家での家政婦の仕事は里子にとって、かなりきつい業務だった。家事のいっさいができない妻の春子に成り代わり、炊事洗濯はもちろんのこと、主の夜の相手までさせられていたからだ。
渡部のセックスは中年男としてのテクニックはそこそこあるものの、持続性に欠けていた。それを補うように渡部は性行為の途中から自社商品の電動ペニス『スペースシャトレ』を用いて里子を攻め立てた。
日本人女性の宇宙飛行士が愛用していたことで一躍有名になった機械だけに、それが里子にもたらす快楽は計り知れないものがあった。しかし高梨エンジニアリングが密かに開発し、まもなく世に出るはずの『夜の2013モデル』にくらべれば、気持ち良さのレベルには雲泥の差があった。
これだけ凄い商品は他にはない。爆発的に売れることは間違いないだろう。あとは業界最大手の渡部商会の顧客名簿さえ手に入れば、これからアダルトグッズ市場に殴り込んでいく高梨エンジニアリングにとって鬼に金棒だ。だからなんとしても渡部の顧客データを手に入れてくれ。里子は高梨から企業スパイとしての特命を受けていた。
ところが渡部の牙城はそう簡単に崩れることはなかった。里子の若い肉体をもってしても、渡部の機密資料の保管場所を聞き出すことはできなかった。
里子は焦った。あと1ヶ月以内に資料を持ち出さないと解任する。高梨からそう通告されていたのだ。気持ちは焦るがいっこうに事態は進展しない。そんな八方塞がりの状態の頃、里子は西野に出会った。
気分転換のつもりで初めて入ったパチンコ店でいきなり大当たりをひき、どうしたら良いかわからずあたふたしていると、隣に座っていた男が声をかけてくれた。
「右打ちせなあかんで」
それが西野だった。
もちろん里子は西野が小林エンターテイメントの常務だということを知らなかったし、西野もまた里子が渡部家にメイドとして送り込まれた企業スパイだとは知るよしもなかった。
里子はその日以来時々パチンコ店に足を向けるようになった。打ち出した銀色の玉の動きを見ているだけで無心になれたし、彼女が座ればたちまち大当たりをひいた。結構それが快感になり彼女のストレスを霧散させたからだ。
西野とは時々店内で会ったが、会釈する程度で話をすることはなかった。しかしある時西野の手提げ鞄の中から小林エンターテイメントのロゴ付き封筒が顔を出しているのを発見した時は驚いた。
里子は企業スパイとして訓練されていたので、この業界の内情には精通していた。渡部商会が小林エンターテイメントを吸収合併しようとしている情報はすでに入っていた。それは吸収される側の小林にしてみれば面白くない話で、なんとか有利に事を進める方法を探しているに違いない。
これはいい情報が拾えるかもしれない。場合によっては高梨を喜ばせるお宝が出てくる可能性だってある。高梨に有益な情報をもたらせれば現在の不安定な里子の立場も少しは好転するだろう。もう中年オヤジの渡部に抱かれるのはうんざりだ。
早速里子は行動にでた。幸い今日はミニスカートと胸元の大きく空いたスーツを身につけていた。
西野の隣に座りこちらから話しかけると、嬉しそうに聞いてもないことまで話してくれた。それは里子にとって興味の欠片さえ湧かないつまらないものだったが、西野が会社の金を使い込んでにっちもさっちもいかなくなっているという話は、彼女のスパイとしての触手を大いに刺激した。
里子が食事に誘うと西野は嬉しそうにひょこひょこついてきた。そのままホテルに直行し、艶やかな若い体を抱かせてやった。それだけで西野は有頂天になり、すっかり里子の虜になった。彼女の言うことは何でも聞く。完全に西野を骨抜き状態にしてから、里子は小豆の先物取引の話しを持ち出した。かならず利益がでるからとそそのかし投資させる。
先物取引は素人が手を出してそう簡単に儲かるものではないが、根っからギャンブル好きの西野は里子の思惑通りすぐに話しに飛びついてきた。里子の思い通りに西野は投資に失敗し続け、その損失額は二千万円を越えていた。西野は会社の金を無断で投資に継ぎ足し、それでも足りずに里子から借金を重ねるようになった。まさしくそうなることが彼女の狙いだったのだ。
西野を借金漬けにしておいて、里子の奴隷と化す。西野はもう里子の言いなりだった。
さて、この男をこれからどうやって利用しようか。里子は次の一手を考えていた。
第5話『名探偵再登場』 作・淀川乱交
秋地は春子からの浮気調査の依頼を解決したが、春子が秋地に心を奪われてしまい春子自身が浮気に身を投じる結果になってしまった。
浮気調査が専門だが今回の一連の出来事から秋地は解放されることはなかった。 あらたに渡部商会の危機を救うべく依頼を渡部夫婦から受けたのだ。
春子は秋地との関係を続けるのが目的で夫の会社のことの心配はその次というのが本心だったようだ。
渡部本人はもちろん必死の思いで秋地に協力を頼んだ。
秋地は山口少年から報告があった里子と西野の関係を調べていた。
高梨エンジニアリングは計画的に着実にあらゆる汚い手段を使っても業界を制圧する気だ。高梨社長は里子を家政婦に成りすませ渡部から企業秘密を吸い上げようとしている。
「山口君、洋館の侵入捜査といい今回の高級ラウンジ『ブラウス』での調査もご苦労だったね」
「先生、今度の一連の調査は正直キツかったですよ。もう鼻血はバンバン出るし勃ちまくるし困ったもんです」
「山口君たら元気いっぱいね」横からエミがからかった。
「あの洋館ですごいもの見たんだってね?どんなだったか言ってみなさいよ」
「そりゃ、ま○こにすごいオモチャが入ってんだよ。口では言えないよ」
「ちゃんと言ってるじゃないのよ。 きゃ、やめてよ」
山口くんはエミの胸のふくらみを指でつついた。
山口君は17歳となっているが実年齢は21歳なのだ。秋地探偵が考えた出した探偵と少年探偵というギミックである。
山口君は忠実に演じるプロである。
「先生、もう一人の覆面のマスクトスーパースターの正体はやはり糸田万三郎のようですよ」
「うんあの二人はよく密会し話しをしているようだ。天才的な二人が一緒になれば夜のオモチャ業界などわけもなく制圧できるさ」
「でもやり方が汚いところがあるのが僕は嫌ですね」
「完璧主義者だな。手段を選ばない。今度の依頼は我々が渡部商会サイドで協力することで彼らの思惑を阻止することだが品質で圧倒的不利だからきびしいな。商売上のことでもあるし。しかし、こんな裏の企業戦争はそこらじゅう日常茶飯事だろう。どうこちら側が打って出るかだが今の所は何の手段もないのが今の現実だ。まぁ具体的な事はあの二人の社長がじっくり考えるとして、われわれは体力をつけるべくトレーニングだ。ジムに出かけるぞ山口君」
「ハイ先生」
「またプロレスごっこなのね。昼までにはもどってきて掃除しなさいよ山口君」エミは事務所に乱雑する『週刊プロレス』『ゴング』『格闘技通信』を片付けながら言った。
「今日は見栄えのする技のつなぎ方を教えよう」
「この前のレッスンの“観客に苦しさが伝わるロープブレイクする際の手の指の使い方”は参考になりましたよ」
二人は近所のトレーニングジムに向かうべく事務所を出た。
ここは和歌山の奥地。
うなされているようだった。 男野は悪夢から現実に目覚めた。 情熱的なSEXの男野でさえ疲労感を感じさせたサルバドーレはもう寝床にはいなかった。
あのような首をはねられる地獄の夢をみるのは生まれて初めてだ。梅乃の怨念を背負っての使命に何か嫌な予感がしてきた。
それにしてもサルバドーレの体は男を麻薬の世界に引きずり込む怪しい色香が充満している。若い男でさえ1度の交わりで寿命を短くさせられる妖力があった。
あの日本の女にはない花弁はまさに南方の土地に咲き乱れる妖艶な蘭のようだ。
「アナタ目が覚めたノ?」サルバドーレがすでに日の上がった明るい蒲団の敷いてある8畳の間の障子を開けた。
「もう10時ヨ。よく寝ていたわネ、フフフフフフ」昨夜の男野が11回も自分の体を求めてきたのをたのもしく微笑んだ。
「さすがの僕も腰がフラフラだよ。君のせいでね」
「朝ごはんができているワ サア、顔を洗って」
「ありがとう。じゃあ、起きるか。腹も減ったし」男野は山奥の新鮮な空気をいっぱい吸い込みながら顔を洗った。
食卓に並んだ朝食はあったかいごはんに干物と味噌汁と特上の梅干しだ。
うまい!最後に口にした梅干しは何とも言えぬ味わいだ。これが梅乃の秘伝が継承された見事な技か。男野は感動せざるを得なかった。
梅干しの一考察。
筆者は古来より伝承されているシソ漬け梅の愛好者である。筆者の知人にはシソ漬けの小梅のマニアがいる。
彼は愛妻弁当を味わったあとの小梅の美味にエクスタシーに似た至福感を得るという。人生の喜びというのは案外こんな身近にあるのかもしれぬ。
筆者は毎回この小説のようなシリアスで、そして、ふざけたことを書くことを一切許されないストーリーを考えるときに一粒の梅がどれだけストレスから救ってくれることか。
これはハチミツ入り梅では不可能なのだ。
「サルバドーレさん、実は君の師匠の梅乃さんから伝言があるんだよ」
「え!梅乃師匠から?マダ生キテイタノ?」
「だいぶ元気を取り戻してきたけど頭脳のほうがまだ少しいかれたままなんだ」
「梅を漬ける技は右に出る者はいないけど、スケベなジジイでワタシの体を弄んだワ。イヤラシイ中年のテクニックだったけどあなたのような怒涛のパワーは全然ナカッタワ」
「まあこれを読んでくれないか」男乃は預かってきた小梅の漬け方秘伝をサルバドーレに手渡した。
「コ、コレハ!極上の梅を超える小梅の作り方ダワ!」すぐにサルバドーレは内容を理解した。
「君から極上の梅の特許を奪った王社長をみかえすんだよ」
大昇天社の売り上げの大部分が玩具より梅の販売である。
「この小梅なら極上梅の愛好者すべてを奪い返せる自信があるワ。きっと大昇天社の利益は減って玩具の商品開発に今までのように投資できる資金はなくなるはずヨ」
サルバドーレは師の梅乃の思惑どうり王への復讐の一歩に踏み出した。
その後、やはりサルバドーレに男野精力は精力を吸い取られて廃人になったことは言うまでもない。
事件から数日後、渡部と小林そして西野が小林エンターテイメント社の応接室にいた。
「いやぁ渡部はん御無事でよかったでんなぁ」と西野がお茶を出しながら言った。
「どうなるかと思ったよ。私も小林さんはどうなってるのか気がかりでした」
「僕は必死で逃げだすことができたけど気を失って病院に運ばれ、やっと昨日退院できたんですよ」
そこで小林が偶然に得た高梨エンジニアリングの計画を渡部に話した。
「今回のわれわれの合併話はいったん棚上げして一致協力せなあきまえんな」小林はざっくばらんに持ちかけた。
「そう、もちろん私も同感だ」
「こちらも画期的な新商品の開発しか手はないな」
「『スペースシャトレ』をさらに進化させ『2013モデル』に勝てるものに仕上げるには時間もない。むこうは革命的なモデルを完成させたからなぁ」
渡部と小林は時の過ぎるのも構わず必死に話し合ったがなかなか案が出てこない。
「おい!西野常務起きてんのか!大事な話の最中に」
西野はよだれを拭きながら「え、えらいすんまへん」と目をこすった。
「限定超高級品てのはどうでっか?」
「うん!?」渡部と小林が顔を合わせた。
「たしかに超高級品ていうのはわれわれのカタログにはないなぁ。1本10万円越えの製品を販売すれば当たるかもしれない」
「セレブ向け限定商品てのはどうでっか高収入の水商売女性もターゲットですわ」
「これはおもちゃの『レクサス』版だな」
「例えばカリの部分にダイヤモンドを埋め込むだけで満足感と快感をセレブなら両方享受できるはずだ」
西野の思いつきアイデアが受け入れられて話は進んだ。
「西野君、久々にいいこと考えるねぇ、、、なぁ西野、、」
「また寝てるよこの人」渡部も呆れた。この男が小林の右腕なら小林エンターテイメントも落ち目になるはずだと思った.
ここでもう一人の覆面男の糸田万三郎にふれておこう。
高梨社長の戦略パートナーとしてダッチワイフを開発する強力な技術を持った男である。
人工皮膚はほんものそっくりのあのいやらしさを再現した戸板の傑作だ。
よくもまあここまでアレそっくりな形状を作り出すもんだと感心させられるのは糸田の何十万枚にも及ぶ裏DVD鑑賞の結晶だ。
彼は看護婦マニアであることは以前に書いたが彼のDVDの中身はすべてナースものだ。
『嫁要らず』の女性部分など本物に比べたらコンニャク程度だと糸田は自信満々の試作品『胸を張って独身』を手にほくそえんだ。
ユーザーの好みの顔を局所と同様に3Dで再現、それをコンピューター技術で人工皮膚を加工する。バスト、ヒップはもちろんユーザーの希望どおりに実現する。ユーザーの希望おうりのカスタムメイドである。
何人かの男に『胸を張って独身』をテストさせたが5人の遅漏があっというまに射精して果ててしまうほどよくできた人形だ。
早漏男など秒殺だが、独身が人形相手に早いも遅いもないのである。
中には自分の憧れのタレントの顔をリクエストした男は本物そっくりの顔の人形を見ただけで顔射してしまった。
この人形の情報を『嫁要らず』の顧客に流せば、、、、この計画は『嫁要らず』の顧客リストが手に入ればの話だったのだが。
『もう“いい年をして独身と陰口、後ろ指をさされてもおおいばり!家であなたの理想の彼女が待っているぞ!』というフレーズが世界中を駆け巡るは近い。
つづく
第四話『思惑と誤算』 作・葛城文之助平
主要登場人物紹介
渡部(わたべ)社長・・・国内最大手のアダルト玩具製造会社渡部商会の社長。中国企業の躍進に脅威を感じ、小林エンターテイメントに合併話を持ちかける。
小林社長・・・・国内第二位のアダルト玩具製造会社小林エンターテイメントの社長。業界三位のカワゴエ悦楽堂を吸収し、渡部商会を抜いて最大手企業になることを企てる。
梅乃玉吉(うめのたまきち)・・・元梅干職人だったが、今は千葉の精神病院に入院中
サルバドーレ・フェルナンデス・・・梅野に弟子入りし天性のセンスで独自の梅干技術を確立する。また抜群のプロポーションの持ち主で、やがて梅乃の精神を崩壊させる。
成川(なるかわ)・・・・・元成川電工の経営者。渡部商会に電動モーターを卸していたが、いつの間にかヒット商品『スペースシャトレ』は自分自身だと思い込むようになり、千葉の精神病院に送られる。
山崎里子・・・渡部家のメイドで27歳。もちろん渡部社長とは肉体関係がある。
秋地(あきち)探偵・・・渡部夫人より夫の浮気調査を依頼され、渡部社長の失踪捜査を始める。そしてついに謎の覆面集団と対決することになる。
山口君・・・・秋地探偵の頼れる助手。少年探偵団のリーダー。少年とはいえ、裸の女を見るとちゃっかり下半身は反応する。
悪魔仮面ミルマスカラス・・・渡部社長と小林社長を連れ去った謎の男。二人の社長を拉致する際、まだ発売前の『夜の2013モデル』を無造作に置き去りにする。
悪魔仮面マスクトスーパースター・・・作者もどのように扱ったらよいか分からない登場人物の一人。しかし今後の展開で、きっとキーマンになるに違いない。
夜の梅田の街は、人で溢れかえっていた。ましてや週末ともなればなおさのこと、束の間の快楽や幸福感を酒や仲間や異性に求める人たちでごった返すのだ。
その喧騒から逃れるように西野は高級ラウンジ『ブラウス』に入った。ここは静かなジャズが心地よく流れる大人の雰囲気が漂う店だ。
西野は店内を見渡し、窓際のテーブルに座っている女を見つけた。
「待たせてすまん」
西野は滑るように彼女の隣に座ると、まだ少年の面影が残るウェイターにジントニックを頼んだ。
「はい、これ」
女はバックから厚みのある茶封筒を取り出し、西野の前にそっと置いた。
「すまんな」
西野は封筒の中の札束をちらっと確認し、素早く鞄の中にしまった。二人はしばらく黙ったまま外の景色を眺めていたが、ウェイターがジントニックを西野の前に置き立ち去ると、女のほうが口をひらいた。
「嫌だわ、あのウェイター。さっきから私のことをちらちら見ているのよ」
「ん」西野は首を傾けさりげなくウェイターを見た。ちょうど目が合ったので睨み付けてやった。そして冷えたジントニックを一口飲んだ。「まだ餓鬼やないか。おまえの体見て興奮してんのと違うか」
女はデニムのミニスカートから伸びた長い脚を組み直した。
西野に睨み付けられたウェイターは、ばつの悪い顔をしてカウンターの奥に引っ込み、携帯電話をいじり始めた。
「この店も店員の再教育が必要やな。仕事中に携帯いじるやなんて」
西野の独り言を聞き流した女は眉ねを寄せて溜め息をついた。
「これで六百万になるのよ。あなたの借金はまだ残っているの?」
「う、うん」
西野は小林社長から預かっていた競馬資金の百万円をパチンコでスッテしまい、その穴埋めをするために手を出した先物取引で更に損失をだしていた。彼に元手になる資金があるはずはなく、当然会社の金を流用していたわけだが、そんなにうまい具合にはいかず、その損失額はとっくに二千万円を越えていた。
「ほんまにすまんと思ってる。そやけど次の物件はぜったい当たるさかい、もう少し辛抱してくれ」
西野は彼女の太股に手をおいた。だんだん膨らむ会社の損失金を補うために、今度は彼女から金を借りて新しい先物取引に投資するのだが、これもことごとく失敗しているのだ。
「しかし毎回大金を用立ててもらってるのにこんなこと聞くのはあれやけど、この金どないしてんの?」
「ふふふ」女は訳あり気味に妖しく微笑んで答えた。「いいバイトを見つけたのよ」
「そうか。あんまり無理するなよ」
完全に女のヒモ状態になっている自分のことは棚にあげ、西野はのんきなことを言った。
「それより例の名簿はまだ手に入らへんのか」
「そんなに簡単にはいかないわ。あの社長は用心深いのよ」
「そうか。なるべく早く頼むで」
「わかった」
女はそう言って、今度は意識的にゆっくりとした動作で脚を組み変えた。
さっきのウェイターが女の綺麗な脚をちらちら見ながら携帯電話でぼそぼそと話していた。
「秋地先生、間違いありません。西野が話している相手は、渡部家のメイドの里子です」
ウェイターは内ポケットから取り出した写真を見ながら声をひそめた。写真にはメイド姿で微笑む里子の姿があった。
「それに僕があの屋敷で見た裸の女も里子でした」
ウェイターに成りすました少年探偵の山口君が、股間を押さえながら潜入捜査の報告を続けた。
ネットゲーム『対戦女体を這え2013モデル』は、爆発的なヒットを記録した。
月額の利用料金が定額制が主流のネットゲームの世界において、1分間五百円という高額な課金システムにもかかわらず、会員数はどんどん増え続けた。
ゲームがスタートした当初は、ごく少人数のいわゆるオタクゲーマー間でひそかにプレイされていたものであったが、ブログやツィッターの普及で噂が広まり、またたく間に会員数が100万人を突破した。
人気の理由はゲームの内容にあった。
プレイヤーは一つの男性器を操りベッドに横たわる全裸の女性を犯すというシンプルな内容だが、同時にログインしている別のプレイヤーのペニスも表示されており、それが一斉に女の股間をめがけてうごめいて行く。みごと一番乗りで挿入できたプレイヤーには100ポイントが支給される。そして女をイカすことができれば、更に1000ポイントが加算されるのだ。
ポイントを貯めることで好みの女性を選べるようになり、そのポイントを使うことで選んだ女性を陵辱できるシステムだ。
熟練のプレイヤーは一般プレイヤーから『マスター』と呼ばれていた。マスターは常に誰よりも早く女のホットスポットにペニスを挿入させるテクニックを持っていたが、なかには他人に(特に初心者に)挿入権を譲る余裕のあるマスターもいた。そんなマスターは『ゴッドマスター』と呼ばれ尊敬されていた。
何度もログインをしていると、いつの間にか顔見知り(プレイヤーの顔は見えないが)ができて、一緒にプレイすることの楽しみを発見した。彼らは時間を申し合わせてログインし、チャット機能を利用した協力プレイで女の体を這い回った。
>yamada:お、ttzさん、今日は早いですねぇw
>ttz:今日は会社休んじゃった。はやくこれヤリたかったしw
>yamada:気合はいってますねぇww
>ttz:てか、コムさんまだ来ないんだけど・・・(>_<)
>yamada:え、さっきここに入ってきてましたよ
>ttz:まさか寝オチしちゃったのかな
>yamada:おーーーーーーーい コムさーーーーーーん
>ttz:完全に寝オチだな(-_-)zzz
>yamada:先に始めちゃいますかw
>ttz:そうだね
>compex:こんばんは~w
>yamada:ばんはw
>ttz:おは~w
>compex:ごめん、寝ちゃってたm(__)m
>yamada:やっぱりw
>compex:昨日徹夜でこれやってたから・・
>yamada:まじか!
>ttz:何回イッタ?
>compex:5回
>yamada:おお
>ttz:おお
>yamada:鬼だww
>compex:サトコちゃんマジ可愛いもん
>yamada:だよね
>compex:サトコちゃん腰の辺が弱いみたいよ だからそこばっか攻めてましたw
>yamada:鬼だwww
>ttz:んじゃ始めますか
>yamada:ほい
>compex:ブ・ラジャーw
>ttz:まず、オレ左のビーチクいきます
>yamada:ほーい じゃ、ぼくは腰いっちゃおかなww
>compex:どうぞw
>ttz:ヤマちゃん、今日は先に入れちゃっていいよ
>yamada:まじ?
>ttz:まじまじw
>yamada:おお ありがとー
>compex:がんばって おれ腰攻めまくって援護しま~す
>yamada:ありがと~~ ゴッドマスター
こんな具合に複数のプレイヤーがパーティを組み、女をより早くイカせるよう協力しあった。
ゲームが立ち上がった初期の頃は、ポリゴンで描かれた裸の女性を手のひらマークのカーソルで撫で回すだけの簡単なものだったが、ある企業の参入によって現在のリアルな世界観が実現したのだ。
その企業こそ、高梨エンジニアリングだった。
社長の高梨は精巧な電動ペニスを作るため、世の中のあらゆる人種の男根を研究してきた。時には白人のペニスを手にとり、時には黄色人の男根を口に含み、時には黒人のそれを自分の肛門に挿入してもらい、その弾力や硬さや大きさを身を持って体験してきたのだ。
高梨はホモではなかったが、男根にたいする異常なまでの探究心をゲイだと勘違いされ、数年前に妻から離婚を言い渡されていた。一人ぼっちになった高梨は、その寂しさを払拭するように今まで以上に男根研究に励んだ。
そして工業大学時代の同期である糸田万三郎(いとだまんざぶろう)が開発した世界最高技術を誇る人工皮膚に出会い、ついに究極の電動ペニス『夜の2013モデル』が完成したのだ。
『夜の2013モデル』は夢のアダルトグッズと言われている。物体の大きさは最小10センチから最大25センチと伸縮自在で、サイレント機能はもちろんのことユーザーの好みに合わせて硬度も調節できた。そしてもっとも画期的なのは、ペニスに人工知能を搭載したことだった。『夜の2013モデル』が利用者の感部に挿入されると、まず膣内の形状をメモリーに記録させて対象のGスポットを算出する。そのときのホルモンのバランスや愛液の噴出量などを自動で感知しながら、一番いいタイミングでGスポットをグイグイ攻めるようプログラミングされていた。これで女性はたちまち昇天必至だ。
その究極の電動ペニス『夜の2013モデル』を実際に使ったネットゲームが『対戦女体を這え2013モデル』なのだ。
会員がネット回線で『夜の2013モデル』を遠隔操作し、本物の女性を犯すというゲームは、人気とともにネット社会の弊害も生み出した。女性にたいする人権侵害を提議する声が上がり、ゲームに夢中になりすぎて一ヶ月の利用料が300万円になってしまったユーザーや、好みの女性を選びたいがゆえにゲームポイントを実際の金で他人から購入するRMT(リアルマネートレーディング)の横行が問題視された。
マスコミの話題は『対戦女体を這え2013モデル』について語りつくすと、次はゲーム内で使用される電動ペニスのことを取り上げた。
『夜の2013モデル』は、「夢のアダルトグッズ」だの「究極の電動ペニス」だの「男の中の男!」などという賞賛派のコメントよりも「所詮男の幻想」「考えるチンポなんてありえない」といった批判的な意見が増えてきた。しかし高梨はそういった批判的な話題がマスコミで議論されることをむしろ喜んだ。
もっと好き勝手なことを言っていればいい。どんどん話題にだしてくれ。『夜の2013モデル』は、まだゲームの中でしか扱えないが、近日中には全世界で発売の予定だ。発売前からマスコミで取り上げられることは、それだけ『夜の2013モデル』の追い風になるのだ。ネットゲーム業界に参入し『対戦女体を這え2013モデル』をヒットさせたことで、高梨は莫大な利益を得た。しかしそれは彼が描く物語のプロローグにすぎない。高梨劇場はこれからが本番なのだ。電動ペニス『夜の2013モデル』の発売でアダルトグッズ業界に参入し、日本国内は下より近年日本市場に進出しつつある中国企業を撃退し、果ては欧米諸国に至るまで高梨エンジニアリングの名前を知らしめるのだ。そのためには現在展開中の『対戦女体を這え2013モデル』事業を必ず成功させなければならない。
ところが、高橋の頭を悩ませる問題が発生していた。発売前の『夜の2013モデル』がひとつ紛失したのだ。
商品管理は完璧だったとはいえない。売りにでていた芦屋の大きな洋風屋敷を改装し、プレイヤーにいたぶられる美女たちを高額の報酬で雇っていたが、その中の一人が持ち出した可能性がでてきた。それに最近何者かが屋敷に侵入した形跡もある。部外者の侵入を防ぐのは屋敷のセキュリティを強化すればすむことだが、『夜の2013モデル』が発売前に流出することはなんとしても防がなければならない。高梨はあらゆる手段を講じて消えた『夜の2013モデル』の捜索にあたった。
「こんにちは。どなたかいらっしゃいませんか」
のどかな山村の古屋敷に青年の張りのある声が響いた。
「ごめんください」
青年はしばらくの間玄関先で中の様子を伺っていたが、いっこうに誰も出てくる気配がないので出直そうと思い振り返ると、そこに妙齢の女性が立っていた。
「なにか御用デスカ」
青年はあわてて名刺を差し出した。
「あ、あの、あの、ち、千葉からきました」
青年のあまりの慌てぶりに女はクスリと笑い名刺を読んだ。
「おとこのせいりょくさん?」
「いえ、男野精力って書いて、だんのしょうりきって言います」
「あら、頼もしいお名前ネ」
女の妖しい微笑みに男野は吸い寄せられた。
やっぱり梅乃さんの言ってたとおりだ、サルバドーレは女のフェロモンがぷんぷんしている。これは早く任務を遂行しないと、俺までこの魔性の力にやられてしまうぞ。
男野はその余りある精力でサルバドーレを虜にし、「大昇天」の社長王景陽から奪い取って欲しいと梅乃玉吉から頼まれていた。さっそく作戦開始だ。
男野は女の腕を掴むと誰も居ない屋敷の中に引っ張り込んだ。そして自他共にみとめる絶倫戦法で彼女を何度も犯し続けた。
梅乃の予想通り女は尽きることを知らない男野の精力にメロメロになり、「若いっていいワ」などと口走った。
しかし男野は大きなミスを犯していた。サルバドーレの屋敷だと思い訪れていたのは、一軒隣の指定暴力団カマイタチ組組長の家だったのだ。そして男野の上に跨って腰を振るこの女は、カマイタチ組長の夫人であった。
男野が絶頂を迎えそうになり、濃厚な精液を放出する誘惑から逃れるためにしっかりと目をつぶっていた時、ふいに女の動きが止まった。それは男野が射精する一秒前だった。
男野が目を開けると目の前に不動明王のごとく怒りの形相で見下ろすカマイタチ組長の顔があった。組長は手に持っていた日本刀を振り上げ、問答無用で男野の首をはねた。
「うぎゃあ」男野は断末魔の叫び声をあげながら射精していた。
つづく
第三話『名探偵登場』 作・淀川乱交
名探偵(PARTⅠ)青少年版
とある小さなビルの3階に秋地(あきち)浮気探偵事務所がありました。
事務所には秋地探偵が腕組みをして漠然と壁を見つめて考えているようでした。
先ほどここに訪れた依頼者は渡部社長夫人の春子でした。
春子がここに来るのは初めてではありません。2度ほど夫の浮気の調査で秋地を頼って訪れていました。
春子は渡部が数日前から突然と姿を消してしまった原因はまた浮気だろうと数日前からここにかよっていたのです。
「するとご主人との夜の生活は変化はなかったのですね」
春子は顔を赤らめながら、「ええ特には。主人も若くはないですから若い頃の固さや勢いは
期待しいていませんが、代わりに早漏がましになったようですわ」
秋地は根掘り葉掘り夫婦の性生活を聞き出しましたが"これは浮気での雲隠れではあるまい"と長年の経験で確信しました。
"浮気ではないけれど多分、家政婦ぐらいと遊んでいるのは間違いない、、、"と夫が春子の体から得られないものをほかの女体に求めるのだと看破していたのです。
さすが名探偵の誉れ高き秋地です。40すぎの熟れたからだの春子の方も毎日でも男に弄ばれたい口に出せない願望でいっぱいです。秋地が春子の臀部のあたりを見つめていると春子は膝を手で被いながら耳を赤く染めるのでした。
それから数日して。
ある朝、秋地浮気探偵事務所では秋地と秘書のエミちゃんが今度の捜査について話をしておりました。
「先生、渡部社長の姿の消し方は不自然ですね。」
「そうなんだ。もう1週間にもなるのに自宅に戻ってこないからね。」
「事件でしょうか?」
「うん。少年探偵の山口君をあるところに行かせてあるのでそろそろ何かわかるだろう。」
「さすが先生だわ」
「私は今から出かけるよ。いつ戻るかわからない」 森井はサングラスをかけドアに向かいながらエミのスカートを少しまくりあげました。
下に何も穿いていないエミは小さい声をあげました。
山口君の活躍
ここは在る街の西洋館が数件立ち並ぶさびしい通りです。ここ数か月このあたりに不穏な噂がありました とある一軒の古い館から女性のむせび泣く声や悲鳴に近い叫び声が夜中に聞こえてくるというのです。夜中になるとその館に一人二人と吸い込まれるように女性の姿が消えたのを見たという人もおりました。
警察も近所の住民の声を無視するわけにもいかないのでその屋敷を調査しましたが別に変ったところもなく、IT部品の製造を小規模に地下室でしているというぐらいがわかったくらいでした。
その夜もだいぶ更けてきました。
実は、その館に秋地探偵の命を受けた山口君が忍び込んでいたのです。誰にも見つからないよう少年探偵の7つ道具を使って窓から侵入しました。広い洋館ですが一階のどの部屋も明かりがついておらず廊下も真っ暗です。
すると一番奥の部屋から声が洩れてきました。
なんだろう?山口君は勇敢にもそろりそろりとと足音をたてずに声のする方に近づいていて行きました。ドアが少し開いてうす暗い光りが漏れています。そっと覗いて見ると、なんだ!これは!山口君の目が釘づけになりました。
部屋の中にはベッドがあり、全裸の女性が苦しそうにしてるではありませんか!
なんと体には大きな芋虫のような得体のしれない気味悪い生き物が3.4匹這い回っているのです。そして、その艶めかしい女の体を1台のWEBカメラが舐めるように向けられているではありませんか。うす暗い照明の中で女の人が助けを求めるように体をのけぞらしているのです。
山口君はこれは大変だ助けなければと思ってよく目を凝らしてみると、体を這っているのはなんと虫ではなくペ○スの形をしたなにかです。
17才の山口君にとってこの光景は刺激が大きすぎて鼻血が噴き出て貧血状態になってしまいました。
ああ、なんてみだらな光景なんだ!あのペ○スは無線で動いているような作りものじゃないか!
山口君はズボンの前が膨らみすぎて歩行困難になりそうでしたが、しっかりしろ僕は正義の少年探偵じゃないか!まだ捜査の途中じゃないかと自分を叱咤しました。
その時です地下室の方から男の低い声がしてきました。山口君はもっとこの部屋を覗いていたい気持ちがありましたが我慢して地下室の階段をそっと降りて行きました。
でも、もし人に見つけられたらどうするのでしょう。だまって人の屋敷に入っているのです。
もしヤクザのような人間にみつかったら無事に家には帰れません。山口君のお母様も家で随分心配しているでしょう。お叱りを受けるに違いありません。
しかし、冒険心の強い彼はドキドキしながら地下室のドアの鍵穴から中の状況を覗いました。
その部屋には5人の男性らしい姿が見えました5人の賊たちは覆面を被っており素顔はわかりません。
会話の様子から2人のリーダーらしき男の一人は"悪魔仮面"ミルマスカラスの覆面をもう一人はマスクトスーパースターの覆面をしているのです。
手下の男3人はメディコ1号、2号の面を、もう一人はマスクトカナディアン(藤波辰巳のWWWFジュニアの防衛戦の相手に抜擢されたこともあり正体はロディパイパーでした)の覆面です。
これはプロレス通の人ならわかるでしょうがかなりのマニアな奴が賊の中の一人にいるに違いありません。
「何としても渡部から『嫁要らず』のユーザーリストのデーターファイルを手に入れるんだ。奴を連れてこい」とマスクトスーパースターの覆面は手下に命令しました。
すると、渡部社長が後ろ手を縛られて部屋に連れてこられました。渡部社長だ!山口君は声が出そうになるのをこらえました。
何度もデーターファイルのありかを追及されましたが渡部は顧客リストを使われると会社の存亡の危機だと決して話しませんでした。
「どこに保管してるんや。いい加減に言えや」と手下どもが責め立てます なぜかリーダ格のマスカラスは一言も発せずいらいらみているばかりです。おまけに全身までマントで被い体形さえわかりません。
その時です。「君たち、いい加減に渡部社長を解放したまえ。」と横の小部屋のドアを開け男が出てきました。
「何者や」「誰やお前は」と手下どもが叫びました
その男はなんと我らが秋地探偵です!
先に侵入させている山口君の連絡を受け疾風のごとく現れたのです。
「山口君出てきたまえ」秋地が登場ならもう勇気百倍です。山口君が地下室ドアから現れました。
「小僧やないか!なんじゃおまえは」メディコ1号は山口君に襲いかかろうと意気込みます。
「山口君賊たちをやっつけるんだ」と秋地は叫びました。
するとどうでしょう!山口君は果敢にもメディコ1号に突進していきます。
秋地はすでにマスクトカナディアンを見事な弓矢固めでギブアップさせています。
一方、山口君はメディコ1号を延髄切りで、メディコ2号を卍固めで失神させました。いつも秋地のプロレスごっこの相手をしている成果が出たのです。
「見事だ。山口君。腕を上げたな。」
「ハイ先生!」
秋地に誉められ山口君は天にもの昇る気持ちです。
でも、秋地のこころ内は"俺より派手な技で決めやがって!これが猪木と藤波の関係なら藤波は減棒処分だぞ。こっちはブレーンバスターから原爆固めでいくべきだった!"
と後悔しましたがここで注意をしたら大人げないのでやめました。さすが青少年育成に心血を注ぐ名探偵です。
手下どもと格闘しているうちに"悪魔仮面"ミルマスカラスとマスクトスーパースターの姿がありません。
「こっちだ山口君!」地下の機械室から地上に通じている通路のむこうで秋地の声が呼んでいます。
空飛ぶ悪魔仮面
秋地と山口君が駆け上がった外は闇夜で星ひとつ出ていません。
洋館の裏庭には逃げた二人の男の気配はもうありません。
「先生賊たちは逃げてしまったんでしょうか。」
「山口君。上を見ろ」
ああ、なんと"悪魔仮面"が空を飛んでいるではありませんか。
人間が空を乗り物なしで飛べるはずがありません。奴らは宇宙人なのでしょうか。何の目的で宇宙人が大人のおもちゃ会社の社長を脅していたのでしょうか。
「山口君。君はこの洋館の向うの屋敷の屋根に上って待機してくれ。」秋地は命じました。機敏で体育の得意な山口君にすれば簡単なことでした。
「はい。先生!」命令どおり猿のように駆けて行きました。
すると秋地は近くにあった庭を手入れする鎌をとっさに闇夜に向かって投げたのです。しかし、鎌なんかで宇宙人が倒せるはずがありません。
そうすると、2,3秒してから真っ暗な夜空にバーーン。と大きな破裂音がとどろきました。宇宙人の円盤が爆発したのでしょうか!。
爆発音がとどろき5分ほどしてからです。山口君がもどってきました。手には黒いゴム皮のような破片と黒いロープを持っています
「先生、こんなものが屋根にありました。」
秋地は「賊たちは黒いアドバルーンを使って空中から向うの屋根に渡って逃げてしまったようだ。」
「黒いアドバルーンと黒いロープが闇夜に溶けて空を飛んでるように見えたんだよ。これは夜の公園で覗き魔の黒いTシャツと黒覆面で身を隠す技法を応用したのさ。」
賊たちは逃げてしまいくやしいですがなぜか秋地探偵は笑みさえ浮かべています。
「しかし、山口君。今夜はよくがんばったね。汗びっしょりじゃないか」山口君は汗を拭う間もなく活躍しました。
秋地も額の汗を拭こうと上着からハンケチを取り出した時「あ!」と小さな声を漏らしました。
「どうかしたんですか。先生。」山口君が聞きました。
「いやなんでもないよ!」慌ててズボンのポケットに手を入れました
ハンカチを出したつもりが朝のエミちゃんのパンティでした。
驚愕の予兆
気が付くと小林はベッドに横たわっていた。何時間前か時の経緯は全くわからないが渡部社長との話し合いの場で何者かに襲われたことは覚えている。
記憶をたどると右足に激痛を感じた。何者かが車に小林たちを連れ込みいれようといた時、場所が橋の上で小林は何も考えず橋の高さも見ずに死ぬ気で彼らを振りほどき飛び降りたのだった。小さな川が流れる高さもさほどない橋だったが落ちた時に気を失ったに違いない。
河原には浮浪者のような人影もあったので賊たちはそれ以上追ってはこなかった。
誰が救急をよんでくれたのかはわからぬが運ばれたところはなんと精神病院だった。他の病院がいっぱいで簡単な医療設備のあるこの病院に搬送された。
小林は何かついていないと苦笑いをするだけだった。だが、この病院での人との奇遇に運命的なものを感じざるを得ない不思議な予感がしたのだ。
警察も病院で事件の取り調べの為に小林から調書を取ったが特に小林自身思い当たるふしがなかった。
渡部社長に何かあるのかもわからぬが彼はいったいどうなっているのだろうと思っていた。
あと2日間だけこの病院にいてくれと言われたので小林もしかたがなかった。
足は幸い捻挫程度で少し足を引きずりながらではあるが院内を散歩できた。重度な精神病院らしいと聞かされていたので小林は何か怖いような気分になった。
小林が団欒室と書かれた部屋の前を通ると中で将棋盤を囲む二人の男がいた。
「う,梅乃さん、今日は僕の勝ちがみえてきましたよ。ハーイ。ヒヒヒヒ。」唾を飛ばしながら叫ぶように話している。なるほど、一見して気違いと解ると林は思った。
「何を言うかナルちゃん。まだ序盤戦じゃよ。」梅乃は考えながら答えた。
小林も少し将棋に興味があっては嫌いではなかったので部屋に入ってみようと思った。
「こんにちはー。僕ナルカワと申しますヨロシクーハイーー!。
「あなたでしたか、事故でここに運ばれたのは。」と梅乃が挨拶した。
小林は挨拶をしながら二人の勝負を眺めようと背後からナルカワの駒の位置を見た。
「!!」
ナルカワの王将はなくなっている。梅乃が王をすでに取っているのだが、将棋はまだ続いているのだ。
それもナルカワの駒の動かし方はでたらめだ。梅乃もなんで付き合っているのだろう。
これが狂人同士のなせる業なのか。
「小林さん、いいもの見せてあげましょうか!?ヒヒヒヒこっちに来ませんか。」隣の施設のパソコンルームに二人は入った。狂人たちのためになぜパソコンが用意されているのか
小林は分からなかったがどうでもいい、こいつらともあと二日で最後だと思った。
ナルカワはネットゲームの画面を起動させていた。「このネット対戦ゲームはエロいですよー。ヒヒヒヒ1分間500円の料金がかかるんですけどいいですよ~ハイー」
馬鹿が勝手にやってろと小林は思った。
画面に映し出されたゲームの名は『対戦女体を這え2013モデル』だった。いきなり全裸の女が表れベットに横たわり股を広げている。
「ヒヒヒヒ」ナルカワは小躍りして下品に叫んだ「今から見てててくださいよー。おもしろいですからー。一番早くほかの4匹を蹴散らせて女体に侵入した者の勝ちですハイー」
あ!小林の目が画面に釘づけになった。
女体を這いまわる5匹の大きな虫はまさに電動玩具!こんな自在に機敏に、しかもワイヤレスじゃないか!
渡部のスペースシャトレなど比ではない!小林は、なんだこれは!内心叫んだ。
「一匹は僕が操作してるんですけどー、でも良くできてますネ僕も実は電動玩具のモーターをつくってたんですヨ」とナルカワは言った。
そういえば業界新聞『女のさびしい薬指』にいつか成川電工の記事が出ていたがこの男なのか、、、同じ業界仲間だが面識はなかったのでナルカワは小林エンターテイメントの名は間違いなく知っているだろうけれど、まさか社長の小林といまこうやって話しているとは思うまい。
まして愛用している『嫁要らず』がここにいる小林が作った製品とは夢にも思ってはいないだろう。
こんな狂人に小林の身を明かしたところで何の用もないので黙っていた。だがこの男にここで出会わなければ、そして、この男がネットゲームにログインしなければ
こんな業界を襲う嵐の前兆を察知できなかったろう。
しかし、あの精巧な男根マシンはいったいどこのメーカーの製造なのか。まだこれからのデビューに違いない。世の女性ユーザーを独占するに違いないと小林は予感した。
これは完全に計画されたプレ宣伝だ。渡部と合併したところで歯が立たないではないか。
さらに、奇遇を感じたのは梅乃が何気なく小林に話した梅乃の自身の話だ。
梅干しうんぬんは良く解らぬが弟子の女性に王社長が関係しているのは驚きだった。
話を聞き流す程度に相手をしていたのだがこれも業界に関わっている人物の話ではないか。王が梅を売って資金を捻出している事実も知ることができたのだ。
梅乃の王への復讐のストーリーも小林は聞かされたが、次のようなものだった。
この病院には26歳のイケメンインターン生がおり看護婦たちには人気があった 名は男野精力(だんのしょうりき)。看護婦全員を総ナメし3人一度に相手しても精力は涸れない名のごとくスタミナがあった。
この男に梅乃は目を付けた。男野を刺客としてサルバドーレのもとに送る。サルバドーレが経験した過去の男たちは中年か初老の男だけで若い無尽蔵に腰を使う若い男は知らない。熟れきったサルバドーレは気が狂うほど男野に夢中になるにちがいない。
王から肉体を奪い返しそして極秘も秘伝の『小梅漬』の製法を男野を通じて彼女に伝授する。秘伝は王が奪い取った製法の梅の味をなんと数段も上回る極上の味なのだ。
これは王の梅のリピータが味わえば『小梅漬』しか味わえなくなる秘法も仕組まれているのだ。
梅乃は男野に十分な報酬を用意した。梅乃の復讐の為サルバドーレの元へ向かう日は近い。
名探偵(PARTⅡ) 成人版
あの洋館での出来事から3日過ぎた午後、 秋地は渡部の自宅を訪れていた。
「あなた、すみませんでした。浮気を疑ったりして」春子は主人に詫びた
「いやいやいいんだ。おまえが秋地さんに捜査を依頼しなかったら俺はいつまでも監禁されてたかもしれないよ」
渡部は里子との関係もあるので怒るどころか神妙に正直な気持ちだった。
「秋地さんはどうしてあの洋館に監禁されていることがわかったのですか?」と渡部は問うた。
「渡部さん、残念ながら私は浮気専門の探偵なので過去に依頼を受けた顧客の情報も含めて守秘義務がある。ですからはっきりとは言えない部分があるので勘弁いただきたいのです」
秋地は言った。
「今回は奥さんの依頼を受けてのあなたの浮気調査です。私はあなたの浮気が原因で家を留守にしていたのではないことを判明させたので私の仕事は完了しました。
しかし、あなたの一番知りたい事はあの覆面たちの正体に違いありません。捕らえた3人の手下たちはにわかに雇われた浮浪者で首謀者たちのことは全く知りませんでした。彼らが屋敷に呼ばれた時から雇い主は覆面姿だったので素顔は見ていないそうなのです。ただ、私は犯人をある理由があって推測できるのです。推測の範囲でならあなたにある範疇の人物の一人だということは教えてあげましょう」
誰なんだそいつはいったい。渡部は興奮した。
「あなたの会社に不利な条件で取引を迫った人物がいるのではありませんか」秋地は言った。
渡部は唸ったまま考えた。
実は過去に依頼を受けた顧客とはこうだ。数か月前ある婦人から夫の浮気調査の依頼を受けてその夫の会社など詳しく調査したことがあった。
その夫の会社は偶然高梨エンジニアリングだったのだ。社長である高梨はある女とホテルにしけこんでいた。相手の女はなんと渡部家のメイドだった。彼女がどうして高梨と関係を持ったのか。秋地は不自然に感じていた。
調べてみると、高梨の狙いは彼女の肉体ではなく渡部商会の製品情報だった。
しかし、高梨の目的はかなわなかったようだ。高梨は女に体で白状させようと思ったのだが高梨は2分半もたない早漏だった。
女は渡部商会の最新製品で昼に夜に“モニター”と称してして渡部から調教されており生の男以上の快楽を知ってしまっているのだ。 女をイカスどころか高梨の方が男をしゃぶり尽くされオモチャにされてしまっていた。
秋地は高梨と女の後を尾行し、女が渡部家のメイドであることを突き止めた。だがあのミルマスカラスが高梨なのかはわからないままだ。
今回の春子の依頼を受けた時、秋地はあらゆる方面から渡部商会に関連する人物の線を洗い出していた。高梨エンジニアリングが最近古い洋館を購入したことも調べ上げていたのだった。
渡部の携帯がひっきりなしにかかってきている。数日間仕事に穴をあけた埋め合わせで息をつく間もないようだ。
「仕事の用事で失礼する」と渡部は席をたった
「秋地さん今回は大変お世話になりました。謝礼金を差し上げなくては。」と春子が言った
「奥さん、報酬はお金でなくてもいいのですよ。」秋地は春子を見つめながら答えた。
顔を瞬時に染めた春子は女の体の芯芽が濡れて膨らむのを止められなかった。
名探偵秋地は今日も行く。
つづく
本格的桃色企業小説『唸れ肉棒』 第二話「蠢くモノたち」 作・葛城文之助平
小林エンターテイメント静岡本社の八階にある第一会議室の壁には、数年前にブレイクした相田みつをの人間だものに触発されて小林社長が自ら綴った詩「早漏だもの」が額に入れて飾られている。
どうも我慢ならんのだなぁ 早漏だもの
何の文学的要素もないその稚拙な一文を常務の西野は複雑な思いで見つめていた。たった今小林社長より重大な話を聞かされたばかりだった。
「困った事になった」西野は老眼鏡を外し、眉間のあたりを右手の親指と薬指で軽く揉みほぐした。
業界最大手の渡部商会より合併話を持ちかけられていることは、小林社長から聞かされていたが、悩みの種はついさっきこの部屋で語られた小林社長の言葉の中にあった。
「渡部商会がなんぼのもんじゃい。このままやったら中国の会社に日本の市場が食い潰されるから協力して立ち向かいまへんかてぬかしやがるけど、はよ言うたら渡部の子分になれちうことやないか」
確かにこのところの中国製品の躍進は目まぐるしいものがあった。衣服、家電、IT関係、生活に必要なもので、メイドインチャイナの文字を見ない日はない。それはこの大人の玩具業界でも同じことがおこっていた。
日本のアダルトグッズ市場は二兆円産業と言われている。そのうち国内最大手の渡部商会の売上は八千億円。二番手が小林エンターテイメントの五千五百億円である。中国の怪物企業大昇天が日本のシェアの半分をむしり取る勢いで拡大してきていることは、国内でしのぎを削るメーカーの新たな脅威であった。
そこで業界一位二位の渡部商会と小林エンターテイメントが合併し手を組めば、大昇天に勝るとも劣らない大企業の誕生になり、低価格だけが売りの中国製品に打ち勝つための体力をつけようと言うのが、渡部社長の提案だった。
しかし渡部商会と小林エンターテイメントの年商の差からもわかるように、この合併は、あきらかに小林エンターテイメントにてって不利な話であった。渡部商会に吸収されることは目に見えている。小林社長はそれが面白くないのだ。
「渡部の子分になってみい、滅茶苦茶にこき使われて競馬にも行かれへんようになるがな」
小林は富士山が見える窓辺に立ち声を荒げた。「わしが精根こめて作った『ヌメリン』も『嫁要らず』もみぃんな持っていかれるに決まっとる。そうさせてたまるか」
『嫁要らず』は小林が三年かけて開発した商品で、どこかまだ幼げな少女の面影が残る表情がたまらないと、そのての愛好家に絶大なる支持を得たいわゆるラブドールだ。発売されてからこれまでに230万体もの出荷数を誇る人気商品だ。この『嫁要らず』発売のおかげで青少年の凶悪犯罪が減少したともいわれている。
「あのな、西野よ」小林社長は常務の近くまで歩いていき、わざとらしく声をおとした。「わしにええ考えがあるねん。あの渡部の悔しがる顔が目に浮かぶがな」
ははははははは。と、耳に焼き付くような高らかな笑い声をたてたあと、小林は用意していた作戦の一部始終を常務の西野に語った。そして最後には、来週のメインレースはいつもの組み合わせの三連単で三十万買うといてな、と競馬の予想を付け足すことを忘れなかった。
小林の考えはこうだ。
業界トップの渡部商会の売り上げは、八千億円。後を追うわが社が、五千五百億円。そして、第三位のカワゴエ悦楽堂が四千億円となっている。
カワゴエ悦楽堂の新商品『いよっ社長!』は、そのコンセプトの曖昧さから消費者の賛同をえられず、穴はどこにあるんだ?や、ただの置物か?などといった声が多数寄せられ全く売れなかった。これでは次の決算も赤字になることは逃れられない。なんとかこの窮地を回避する方法はないものかと、小林のもとにカワゴエが相談にきていたのだ。
そのカワゴエ悦楽堂を小林エンターテイメントが買収する。二社あわせれば、九千五百億円企業の誕生となり、渡部商会を抜いて業界トップに躍り出る。そこでこちらから渡部商会に合併の話を持ちかける。今度は立場が逆転し、わが社が渡部を吸収し、あいつを子分にしてやるのだ。だから、頼んどくで。
「あとはよろしく」と実務面を西野に丸投げし、小林は会議室を出て行った。
「困った事になった」
西野常務は丸投げされたカワゴエ悦楽堂の買収計画と渡部商会への逆吸収合併計画の二つの大仕事よりも、小林から預かっていた馬券購入金の百万円をパチンコでスッてしまい、その穴埋めをどうしようかと思案に明け暮れていたのだ。
「ほな出掛けてくるで」
渡部はメイドの里子に声をかけた。
「行ってらっしゃいませご主人様」
乱れたメイド服の胸元を気にしながら、やや鼻にかかった甘ったるい声で彼女は答えた。
黒生地に白のレースのフリルがついたミニスカートから伸びる里子の脚。それをねっとりと眺めながら渡部は、ついさっきまで思う存分いじくり回していた彼女の若い肉体をもう一度味わいたい衝動に駆られた。男の芯が再び力を取り戻しつつあった。
しかしそれが完全に主張する一歩手前で、渡部は気持ちを仕事モードに切り替えた。
「今日は東京で小林エンターテイメントの社長と晩飯いっしょに食うことになっとるさかい、帰りは明日になるて春子に言うといて」
「はい。奥様が戻られたらそうお伝えいたします」
「ほな、頼んだで」
渡部は里子の全身をいま一度観賞し、改めていい女だと思った。この女はわしのもんや。
「サトちゃん、帰ったらまたアレしたるさかいな」
ほんとうは今すぐにでもこの健康な肢体にむしゃぶりつきたいところだが、そうはいかないのだ。明日の夜帰ってからの楽しみにとっておこう。
会社から迎えにきた車に乗り込み、関西空港に行ってくれと行き先を告げると、渡部は目を閉じて今朝里子が見せた媚態の数々を思い出していた。
ほんまにアレがよかったみたいやな、何回もイッってからに。
渡部は家政婦の里子の瑞々しい体に夢中だった。そして彼女を貪り食うときはいつも自社製品の『スペースシャトレ』を使って、ほのかに女の芳香を漂わせる湿地帯を何度も何度も攻め続けた。そのたびに里子はしなやかで綺麗な脚をぴんと伸ばし仰け反りながら悩ましい声を発し続けた。
「これが渡部の神髄やで。これが宇宙やで」渡部は苦悶の表情を浮かべるがしかし決して苦痛ではなく果てしない快楽にどこまでも貪欲に身をゆだねる里子の耳元でささやき続けた。
はやく帰って若い里子と睦み会いたい。渡部は東京に向かう飛行機の中でもずっと里子との情事のことを考え続けた。素晴らしい悦楽に浸れるためにも、今回の小林エンターテイメントとの合併話は成功させなければならない。素晴らしい性交のためには、なんとしても成功しなければならないのだ。渡部は固く心に誓うのだった。
渡部社長が羽田に向かう飛行機の中で家政婦の里子の素晴らしい体をこの次はどうやっていたぶるかあれこれ想像していた丁度その頃、千葉県の房総にある無機質な建物の一室で、二人の男が将棋をさしていた。
ここは精神疾患患者専門の医療施設で、かなり重度の患者が入院している。
この男たちは一見そのような病気を抱えているようにはみえないが、じっくり観察していると言動のあちこちにかなり深刻な症状が垣間見えた。
「今度は梅さんの番ですよ」
「へえ、そうでっか」
梅乃玉吉、通称「梅さん」は、ここに収容されるまでに就いていた職業柄か、朱色に染まった指先で盤上の駒を操り、ピシッとひときわ高い音をたてて次の一手を打った。
「王手」
「ひゃあ」
梅乃よりもふたまわり近く歳が若い男の方が大袈裟に仰け反った。
「これでまたわしの勝ちでんな。ナルちゃんもええかげんに諦めたらどないやねん」
「ひっ。そんなこと言わんと、ボクを梅さんの弟子にしてくださいよ。はぃぃ」
施設の女性看護師からナルちゃんと呼ばれるたびに射精してしまう成川は、ここに収容されるまではあの渡部商会に『スペースシャトレ』の心臓にあたる小型モーターを提供する小さな会社の経営者だった。
しかし女性にたいする異常なまでの執着心が彼の心を序々に蝕んでいき、いつしか成川自身が女性に愛用される性愛玩具だと思い始めた。自分こそが『スペースシャトレ』だ。世の中の女は皆オレに夢中になる。
オレが動けばどんな女も即昇天するのだ。世界中の女がオレを必要としている。オレはこんなところでくすぶっているわけにはいかないのだ。それなのにあの渡部のヤツめ、オレをこんな目にあわせやがって。あいつの会社はオレのおかげで大きくなんたんだ。オレがあの山形信子を宇宙空間で犯してやったから『スペースシャトレ』が爆発的に売れたんだろが。オレのチンチンは宇宙に君臨する。オレのチンチンは神だ。オレのチンチンを敬え。チンチンを崇めろ。チンチンにひれ伏せ。
「ナルちゃん、さっきからなにチンチンチンチンて言うてるねん」
梅乃が成川の顔を覗き込んだ。
「ひゃ、べ、べつになんもないです。はぃぃ」
成川はあわててずり落ちた眼鏡を元の位置に戻した。
「せやけど、なんでナルちゃんはわしの弟子になりたいんや」
梅乃は何度も弟子入りを願う成川の本当の気持ちを聞いたことがなかった。いっぱしの梅干職人になるには相当の努力と忍耐が要る。そしてそれ以上に必要なのは「勘」だ。この勘ってやつは努力すればある程度は身に付くが、どうしても得られないのが「天性の勘」なのだ。この生まれ持った特別な勘があってこそ素晴らしい梅干職人の境地にたどり着けるのである。
成川にはその天性の勘があるとは思えない。いや、それはほんの一握りの人間にしか与えられていない才能なのだ。
それが彼女には備わっていた。サルバドーレ・フェルナンデス。梅乃玉吉のたった一人の弟子。そして絶品の肉体の持ち主。
梅乃は彼女に宿る梅干職人としての無限の才能を見出し、そして引き出した。サルバドーレは師匠の教えを砂漠に水が染み込むように迅速に吸収し、そこに彼女独自のアレンジを加え創造していった。
サルバドーレは師匠の梅乃と衣食住を共にし、常に新しい発想で梅そのものの味を引き立たせる方法を考え漬物技術を研究した。
彼女が梅干職人として十分ひとり立ちできるようになった頃、梅乃の妻珠代が死んだ。
彼は妻の死を悲しむよりむしろ、やっとこれでサルバドーレの熟れた体を昼夜問わず堪能することができると、小躍りして喜んだ。
サルバドーレの体は、良かった。ブラジル人との情熱的なセックスは、昭和一桁生まれの梅乃玉吉にとって新鮮で、純粋に気持ちがよかった。なんといっても外人の女を抱いているということが、古いタイプの人間である梅乃にとっては非日常的なことであり、その非日常的なことが実際に自分の身に起こっていると思うだけで、彼を有頂天にさせるのだった。
ところが今頃サルバドーレは、あの中国人王景陽に抱かれている。あの小太りの脂ぎった中年男にもてあそばれているのだ。考えただけでも気が狂いそうになる。
わしの梅干を、わしの女を、あの成り上がりの中国人がみんな奪い去りやがった。わしにはもう何も残っていないのだ。
なんとかして王景陽に一泡ふかせてやりたい。梅乃はそのことばかりを考えていた。
「以前梅さんが言ってましたよね。可愛がっていた愛弟子が中国人の野郎に騙されて、おまけに最高の梅干作りの技術も盗まれたって」成川はいつになく真剣な眼差しで梅乃を見つめた。「ボクが梅さんの弟子になって、一流の梅干職人になります。そしてその中国人を見返してやりましょうよ。はぃぃ」
成川の本当の目的はそんな美談ではなく、梅乃の弟子になってサルバドーレに近づき、ねんごろな仲になりたい。ただそれだけだった。
「もう弟子をとるのはこりごりだ」梅乃は成川の芝居ぶった願いを聞き流しながら、答えた。
「で、でも、せめてその中国人をこらしめてやらないと」
「むふふふ。それはもう手を打ってある」
東京築地の料亭「俵兵衛」では、渡部商会と小林エンターテイメントの両社長が差し向かいで酒を酌み交わしていた。お互いの腹を探りあうなんともぎこちない会食になった。
二人にほどよく酔いがまわりだしてきた頃、襖が勢いよく開かれ無人だったはずの隣室から数人の覆面をした男が現れた。
「ちょっとおじゃましますよ」リーダー格の男が一歩前にでて言った。「とある人からあなた方をお連れするように頼まれました。ご足労ですが、われわれと一緒に来てもらえますか」
言葉は丁寧だが、有無を言わせない威圧感があった。
「もし抵抗なさるようでしたら、少々乱暴な真似をしてでもしょっ引いて来いとも言われております」
何が起こったのか瞬時に悟った二人の社長は、ほぼ同時に立ち上がり部屋から逃げ出そうと慌てて走り出した。とっさに別の覆面男が先回りをし、出口をふさいだ。
「しょうがねぇ、野郎ども連れて行け」
「はっ」「承知」「にゃ」男たちが渡部と小林の腕や足を押さえつけ猿ぐつわをかませると、あっという間に部屋の外に連れ出し、あらかじめ店の裏に停めてあったワゴン車に押し込んだ。時間にしてわずか3分の出来事だった。
リーダー格の男が部屋に残された渡部と小林の上着や鞄などを丁寧に回収し、自分たちの正体に結びつく痕跡が無いことを確認すると、満足そうにうなづいた。そして懐から15センチほどのあまりにも精巧に作られた模型を取り出した。男は模型の裏にある小さなスイッチを入れると、そのリアルすぎる物体がかすかなモーター音とともに動き始めた。亀の頭に似た先端部分がぐりぐり回転したかと思えば、次はその物体自身がいやらしく伸縮し、時には反り返り時には膨張しながら運動を続けた。それは生殖行動に励む男根の動きを忠実に再現していた。
「これが『夜の2013モデル』か。おもしろい」
覆面の男はそれを無造作に足元に転がし、素早い動作で部屋から出て行った。
あたかも今健康な男性から切り落とされたように立派に勃起した作り物の男根が、無人になった高級料亭の和室の畳の上でくねくねと卑猥な動きを繰り返していた。
つづく
本格的桃色企業小説『唸れ肉棒』 第一話 中国の脅威 作・十一辺舎一九
「ははははははは」
小林社長の耳に焼付いたように残る高らかな笑い声。
3日前、渡部商会から合併吸収の話を持ちかけられていた。
小林エンターテイメントの業績は不調に違いなかった。
この業界も中国製品の進出で日本製品は押される一方である。
女性向け『恐竜棒』、男性向け『モウダメ~アルヨ』が低価格で大ヒットした。
先月発表された新製品『ニイサンソンナトコイヤアルヨ』も1か月で20万体の人形が売れた。
この中国の「大昇天」社の王景陽は20代の頃日本留学した経験もあり日本を熟知し、日本の男性、
女性の裏の市場を徹底調査ターゲットにした。
だが、日本の業界最大手 渡部商会は今期の売り上げは前年98%ではあるが、利益は過去最高を記録している。
メイン商品の「スペースシャトレ」は他社の追従を許さなかった。女性宇宙飛行士山形信子が宇宙滞在中に
使用しそれが原因で夫と離婚したことが発覚してそれが売上の後押をしたかっこうである。
宇宙で“イク”感覚は夫のワンパターンの愛撫より良かったに違いない。
渡部商会社長が自ら宇宙実験用に開発したスペースシャトレ特別版製品「アポロのキトウ」も罪な事をしたものだ。
山形信子もNASAの24時間船中監視カメラの存在をうっかり忘れるほどの没頭ぶりだった。
その時のNASAの記録フィルムがどうして漏えいしたのか謎だが、モニター監視係のNASAの独身男性職員が
『嫁要らず』を愛用していたことが後になってCIAの調査で判明している。
一方、小林エンターテイメントは過去の利益を社長が競馬に投資して増やそうとしたのが間違いだった。
小林社長の参謀の西野常務も止めるどころか「この馬でどうでっしゃろ」と油に火を注ぎ借金まで作ってしまった。
社員も今まで売り上げは順調だったのでどうして赤字に転落したのか不審がった。
小林社長も西野常務も会議に出てこなくなり“会議は短く”と指示を与えるだけだ。
渡部商会はその点違った。渡部商会の製品の振動モーターはずっと成川電工製だった。
成川電工は町の零細工場で40半ばも越えている独身男が経営していた。音は高いが耐久性のある振動モーターは
「スペースシャトレ」の信頼性を保証していた。
だが、変質的性格の成川を渡部は嫌がった。
振動モーターの価格は高くはなく問題もなかった。しかし、支払日に渡部商会に集金に来た成川は4時間いて帰らないのだ。
渡部商会の女性社員をじろじろ見ているだけで誰もが気味悪く嫌がった。そのうち警察に通報され精神病院に
隔離されてしまった。
近所の人々は成川のことを「あれじゃ動物園のパンダの方が100倍幸せだよ。見合いもさせてもらって嫁さんの世話まで
して貰えるんだから。」と言われているらしい。
成川製モーターの供給がストップした渡部商会は大打撃を受けた。このままでは潰れる。と思われたその時、
救世主のように現れた男がいた。
高梨エンジニアリングの高梨であった。高性能で無音振動モーターを渡部商会に売り込んだ。
タイミングが良かったこともあるが、何より高性能で価格も成川モーターとさほど変わらなかった。
渡部は即決で商談を決めた。高梨は半年ごとの契約で価格も変動できる条件で話を迫った。
この状況では条件を飲まざるを得なかった。これが渡部商会の命運を左右させることになるとは渡部は予測できなかった。
高梨はしたたかな性格で未来を据えて行動した。彼の野望はこの業界を制圧することだ。
その彼に協力するパートナーの存在があった。株式会社イトタの糸田万三郎(いとたまんざぶろう)である。
糸田は工業大学時代の同期だった。
彼は合成人工皮膚の技術を完成させ「本物以上でしょう!?」満面の笑みを浮かべ、玩具会社にすごい○○○に
そっくりな形状の製品を売り込んでいた。
高梨はイトタの技術をさらに発展させ“夜の2013モデル”の完成を着々と進行させていた。
“夜の2013モデル”デビューはいつなのか。
高梨の高性能モーターと糸田の合成人工皮膚が合体すれば、、、ああ!何と恐ろしいことでありましょう!
既存のメーカーは生き残れるのかしら。
紀州和歌山。
春の梅花の季節が訪れ、野に山々に新しい息吹を感じる頃。
梅林の奥の古い家屋に変わりなくサルバドーレはいた。梅干作りの師匠、梅乃玉吉はサルバドーレの熟れきった
女体に手を出したばっかりに彼女の秘肉芽に精気を吸い取られて廃人になってしまい病院送りとなった。
母屋の方から男の声と女の嬌声がした。
「在怎样好?」
「コノスケベ、イヤダワ」
「说来拥有!!」
「AHOOOOO……」
男は梅乃玉吉か。そんなはずはない。その男は中国人。「大昇天」社の王景陽(おうけいよう)だった。
王は極上のサルバドーレの梅干しを買占めて高値で流し暴利を得た。その資金で「大昇天」を設立したのだった。
大阪南部の高台にある渡部の自宅では渡部がおそい昼食をとっていた。
「あーうまいな。この梅干しにかぎるわ。」
メイドの里子は「この2,3年前からこの梅干しは100g5000円もするんですよ。ご主人さま。」
齢の頃27歳だろう里子が渡部の耳元で囁いた。
「ここ数年の天候不順のせいや、きっと」ノウテンキなことを言う渡部だった。
今日は妻の春子は同窓会で外出していた。
里子の大腿部に渡部の手がのびた。
つづく
唸れ肉棒