無色風媒

帰還困難な藍色を巻き込んだ、
携えていた白色は千切れ、
あらゆる有機に当たり、
無機が押し通そうとする沈黙を壊した、
全ての目論みは失敗する
立ち続ける力を込めてへたり込まぬように、
消えたが消えただけだそこにある、
常に行われている変容を捉えろ
風が鳴る

視覚と触覚は錆び付いている、
粗いヤスリを持ち歩いているか、
暇があるなら削り出せ感覚毛のふるえ、

聴覚が把捉する振動が必然だと知らされず
嘘だ虚構だと喧しく宣うのはどこだ

必然があるのなら偶然は要らない

ふざけの過ぎた形容詞は行き場をなくす、
わざとらしく盛り立てた感動詞を道連れにして、
ミュートへ沈む、
囃したてるのには飽き飽きした、
それでもがなる耳には響かないのだろうか、
歌が、風の歌が
背の高い木がざわめきを届けてくれる、
それで良い、
それで良いんだ、
出し抜かれ遅れを取るのは慣れていた
失ったか? 
松林の揺れて見えた見えるはずのないもの
 
可聴は いつまでも味がしない

葉が震えている

聞こえなかったのか聞いていなかったのかと、
咎める声が分からない、
何かが言われているのだが、
音が音声になるのをやめてしまった、
聞こえないものは聞こえない、
問い質すまでもなく、感傷の無さが救いで

咲いた

標準的な子音母音の羅列、
眠気を誘う鼻濁音、
知っているらしい起き出した左右のコルチ器は、
思い出に出来ない思い出のあることを、
だから桃色の中で保て最後の平衡感覚
話し出すのだろう呼気が通り抜けた

ならば尋ね返せたのか?

覚えのないことの証明は あくまでも困難だ

聞こえている

耳鳴りがしているのだが、
正常、を耳にしないことには、
さざなみだと信じていたものを、
信じきることもままならないのだから

耳鳴りは 耳鳴りでなくなってゆく
 
飛んでしまったレコードの針を探している、

記されない記憶は記録だって良いどこにある、

鳴らしてくれ間に合うように、

外れたナットが邪魔をする、
海馬が場面転換の速さに置いていかれたから、
耳殻は代替物になろうとした


人間は声から忘れていく と言った人間の声を
文字に置換し覚えている浅ましさは 尚のこと

回遊ののちに見つけたが
葉擦れの喧騒は セピア色の嘆きだ

無色風媒

無色風媒

文字はともかく音声は残りにくいものなのかと。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted