さよなら、愛しい人

しぶとい心

心と身体と体温

死んでしまったあの人に似ていると思った。けれども全くの別人だ。
さよなら、愛しい人。
誰にも聞こえないように、呟きはしなかった。
私は自分の心を殺した。もう何度目になるかは分からないほどブスリと突き殺している。だから慣れている。けれども不思議とまた同じような感情は湧き上がる。我ながら懲りない。これは性質なのだ。付き合っていくほかない。ただ、他人に迷惑をかけてはいけない。
心を殺すごとに体温は下がっていく。体の芯まで冷え切り凍っていく。布団を被っていてもとても寒くて、実際に凍死しそうになる。身体はやがて動かなくなる。その前に熱源を探す。ここで動けなくなっては困るのだ。私はまだ死にたくはない。
幸い熱源は手の届く所にあった。
一番困るのは寝るときだった。寒くて寝付けない。スイッチを入れればじきに炬燵が温くなる。いつ起こるか分からない心筋梗塞よりも凍死のリスクを避けたかった。湯たんぽを作るのは面倒臭いし、ストーブは付けっ放しにするのは危なそうだ。
最も温くて身体に良さそうなのは哺乳類の温度だ。暖かくなるまで、何よりも手間がかからない。私はその体温を自分が満足するまで奪い取る。温い。

さよなら、愛しい人

さよなら、愛しい人

心も身体もとても寒い。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-03

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