ようこそ竜宮城へ
昔話の浦島太郎が亀に連れられて訪れた海の中にある竜宮城は、鯛やヒラメが舞い踊る絵にも描けない美しさだというー
そんな夢の様な竜宮城が、現代で実際に建築される運びとなった。現実問題として人間は水の中では呼吸する事が不可能なので、現代の竜宮城は海外の巨大な古い潜水艦を利用して造られた。全長約二百メートル、最大水深約四百メートル、乗員定数約二百名のその大きな竜宮城の中には様々な夢の様な施設が配置されている。
浦島太郎も満喫したであろう美味しい料理や酒は世界各国の様々なものが用意されているし、遊びに関しては今回の竜宮城は大人をターゲットにしているので、子供向けの屋内遊園地の様なアトラクションは一切無い。煌びやかな観劇や落ち着いたクラブや少し卑猥なショー等、大人がリラックスして楽しめる様々な娯楽で溢れている。
現代の竜宮城がオープンすると日常の疲れた心と身体を癒やしに人々はこぞって訪れた。此処はパラダイス!正に竜宮城!浦島太郎は何故帰りたくなったのだろうか?こんなに素晴らしい場所なのに…
しかしながら浦島太郎はタダで竜宮城にやって来たけれど、現代の竜宮城は勿論タダという訳にはいかない。その入場料は設備の管理や安全面を維持する為にかなり高額な金額となっていて、公には貧乏人はお断り、とは公表されてはいなかったけれど実際に現代の竜宮城を利用する人々は富裕層に限定されてしまっていた。会員制のゴルフクラブの様に竜宮城も、いつしか富裕層の人々の為だけのものになってしまっていった。
貧困層の人々は竜宮城に行く事さえも出来ない。亀を助けた優しい浦島太郎の様な人間も…現代では優しいだけでは竜宮城に行く事は不可能。世の中結局はお金なのか…と貧困層の人々は落胆した。
富裕層の人々は珍しい食材に舌鼓をうち美味しいお酒に酔いしれ美人のショーを満喫し様々な娯楽を楽しみ、お土産に玉手箱を持って帰る。その玉手箱には何が入っているのだろう?心配は後無用。浦島太郎の様に開けて歳を取ったりは決してしないと富裕層の人々はほくそ笑む。
今や金の成る木となった現代の竜宮城に政府を力を注いだ。富裕層の人々に飽きられない様に、常にリュニーアルし続けた。死ぬまでに行ってみたいな竜宮城、老人の願いの一つとまでになった竜宮城は繁栄し、人々の憧れの象徴となった。オープン当初は内装や設備も全ての人々にその情報は公開されていたけれど、やがて現代の竜宮城はその全てを利用者だけに公開する様になり、幾度も繰り返されたリニューアル後の内装や設備の全てが一般の人々には非公開となってしまった。
ー現代の竜宮城、闇カジノで摘発ー
ある日の新聞の一面を賑わした記事に、貧困層の人々は内心喜んだ。
「やっぱり何か裏があると思った」
「行かなくて良かった」
「玉手箱を開けても歳は取らないはずだ。金が入ってたんだろ」
「刑務所に入って歳を取るんだから、やっぱり浦島太郎の結末と同じだな」
ようこそ竜宮城へ