カオスより 第一詩集
永遠と無限の虚無の中で
宇宙が限りなく広いから
絶望が
僕を切り裂くように襲う
きっと僕は 無限の空間の中で
君を見失うだろうから
時間が永遠だから
悲しみが
僕を身動きできないくらいに捕らえる
君のいない寂しさに
僕の時間は支配されているのだから
それでも僕は
君を求め続けるのだろう
君を失う恐怖と
君がいない孤独に耐えられるのは
僅かに残された一瞬の煌めきへの期待
宇宙のとてつもない広大さと
永遠無終の時間のなかで
君を見つけ
君のふくよかな手に触れる
その瞬間のために
恐怖と孤独に耐え続けるのだ
2010年10月
言葉と信仰
言葉で何が伝えられるのだろう
言葉を最初に用いた人は
何を伝えたかったのだろう
怒り
悲しみ
それとも狂おしい程の愛情か
言葉のなかった原始の人間の祖先は
怒りや悲しみや愛情を
伝えようと
激しく唸ったり
遠くに向かって吠えたり
喉が切れるほどに
声を出して
しかし思い通りに伝わらない苛立ち
素晴らしい出逢いがあっても
再び逢いたいと思っても
そして世界中を探し求めても
再会の可能性は皆無に等しく
忘却の内に沈めるしかなくて
だが、「明日あの木の下で会おう」
この言葉を互いに投げかければ
不思議なことに必ず逢える
まるで魔法のような
言葉に魂があるかなような
これは神が与え給うたもの
だから言葉を信じ神を信じた
まさしく言霊
でも人は今でも伝わらない気持ちに苛立つ
言葉の不備を嘆き
もっと良い方法はないかと模索する
しかし言葉は原始の人々が神と崇めたもの
そこに魂を込めることを
忘れているのではないか
2012年8月
幸せ探し
どうすれば僕を愛してもらえるの
僕のお金をあげればいいの
僕のお金全部あげるから
僕はお腹空かせて死にそうでも
君にご馳走するから
それでも足りないなら
僕の時間をあげればいいの
僕のお金全部あげるから
僕のやりたかったこと
全部あきらめて君に尽くすから
それでも足りないなら
僕のすべてを捧げればいいの
僕のすべてをあげるから
僕は幸せにならなくていいから
君のためにいつも苦悩の中に沈むから
何もかもなくして
苦しみ続けて
ボロボロの僕を見て
君は幸せなの
きっと
それでも足りないから
君はそんな僕を
疎ましく思うから
僕は君の前から消える
永遠の暗闇に行くんだ
僕が消えて君は
僕はただ君に愛されたかっただけ
僕と君の幸せ探し
2012年8月
俺の中のテロリスト
俺の中にはテロリストがいる
かつてはただの悪戯坊主だったが
俺が善い人を演じるたびに過激さを増し
今ではすっかり殺し屋になった
俺が誰かにに手を差し伸べると
奴はそいつを殺せ殺せと騒ぐ
俺が愛する人をいたわると
奴はそいつを犯せ犯せと騒ぐ
そして奴は
黙らせようとすれば
尚更強くなり
忘れようとしても
どこでも顔を出す
しかし俺も負けてはいない
奴を押しのけて
善い人を演じ続けるのだ
奴はいつも俺に聞く
…それはお前が望む姿なのか…
俺は答える
…望んじゃいない…
俺の望むこと
ああ、奴の言う通りだ
奴が言うように
食べたい時に食べ
抱きたい女を抱く
命令する者には従わず
面白くなければぶちのめす
俺もそうしてみたい
しかし同時に
周りから認められもしたい
ああ
誰彼からも眉を顰められて
それでも思ったように生きること
或いは
誰彼が喜ぶように
自身を殺して生きること
どちらも幸福には程遠い
これが人間の宿命か
一人で生きるには
この世は不安すぎる
さりとて
他人とつながるのは
息が詰まる
望むことをすれば疎外されるし
他人に合わせれば自分がなくなる
…
…
…
…僕は君に愛されたいのだ
…荒ぶる僕の魂と共に
…僕の魂を愛せるのは
…君の中に眠る娼婦
…ああ美しき君よ
…清楚な服装に包まれて
…僕に優しさと穏やかさを与える君よ
…僕の激しい衝動を知っているのか
…ああ今すぐに君の両膝を開き
…その奥にあるものに手を伸ばしだい
…そこには噛み付かんばかりの
…深い情欲があり
…僕に吸い付き飲み込もうとする
…僕はなすがままに君の一部となる
…君の娼婦と僕の殺し屋
…優しい君と善い人の僕
…総てが一体となって
…二人を安住の地へと誘う
…そこには幸福もあるかも知れない
…
…
また奴が俺の中で騒ぐ
女は皆同じだと
一人を愛するなんて馬鹿馬鹿しい
俺は奴を抑えようとしたが
それより前に
女の中の娼婦が俺を捨てた
俺は泣いた
そして恐怖におののいた
俺の生きる意味はあるのか
俺は世界で一番惨めな姿をしていた
俺が絶望すると
奴は小さな悪戯小僧に戻り
お前は悪くないと
慰めるのだった
2012年9月
明日になれば
愛されたい
愛されたい
誰かに
愛されたい
夜の闇を
たった一人で
朝を待つのは
もう嫌だ
誰にも見つめられることもなく
誰にも触れられることもなく
僕の身体は
一人で疼く
ああ
速く闇を破って
朝日よ登れ
明日になれば
明日になれば
明日になっても
僕の孤独に違いはないのか
2012年10月
秋風の空
秋晴れの空が
秋風にさざめく
木々の間に覗く
その青さは
あたかも
絵の具を流したかのように
鮮やかに輝く
いつまでも
去ろうとしなかった
夏の暑さと
季節の変わり目の
曇天と雨の日が続いて
すっかり
空の青さを忘れていた
透き通るような
爽やかな空気
少々の肌寒さも
心地よく
こんな穏やかな気分
初めてのように感じる
耐えることばかりだった
夏の猛暑のような葛藤
安心を脅かされる恐怖
助けを得られない孤独
耐えて
耐えて
そればかりで生きて
空の青さを忘れていた
切り裂くような悲しみや
荒ぶる怒りや
身を焦がす苛立ちが
秋風の爽やかさを
忘れさせていた
そして君を思い出す
僕は
嫉妬の雨と
虚栄の暗雲で
君の優しさや思い遣りを
塞いでいたことに気付く
素直に
君の柔らかな胸に
飛び込みたい
忘れていた
安らぎを思い出すのだ
やっと君に
感謝することができそうだ
ありがとう
愛する人よ
2012年10月
君を誘って
君を誘って旅立とう
秋風の中
色づき始めた
木々に囲まれ
君の黒髪秋風が揺らす
その爽やかな薫りを胸に
僕の心も満たされて
君を抱き寄せ唇に
甘い口づけ嬉しくて
君は可愛い少女のように
僕の身体にうずくまり
焚き火のように暖をとる
ああ秋風の爽やかさ
この瞬間が永遠に
続くことだけ夢を見る
2012年10月
愛の不安
愛する人よ
君と一つになりたい
だから僕は
君の肌に触れ
君の体液を飲み込み
君の粘膜に
僕の粘膜を挿し入れるのだ
骨が砕けるほど
強く抱き合って
身も心もどろどろに溶かし
溶け合って
一つになれたらと思うのだ
‥‥‥‥
原始的な単細胞生物は
生息に必要な条件があれば
永遠に死なないという
永遠に生き続け
分裂を繰り返し繁殖する
だが環境の変化で
生息に適さない状態になり
死を意識すると
彼らは仲間同士で合体する
互いの細胞を溶かし
一つになることで
より強くなり
生き残ろうとする
その繰り返しの中で
生物は進化を遂げた
二つを一つにするのではなく
身体の一部を合わせて
新たな命を
生成することを覚えた
そして雌雄ができ
複雑で強靭な生命体と
なったのだ
しかし複雑な生命体は
その統合の老化による
死を
義務付けられた
従って一生の間
死を意識し続ける
宿命を背負ったのだ
‥‥‥‥‥‥‥
ああ僕は怖い
いつか死んで
僕がなくなることが
その恐怖が
僕の細胞に火をつけ
細胞の記憶が
君と一つになることを
強く願望する
だから愛したい
君に全てを捧げたい
でも愛されもしたい
君の全てを奪いたい
君を大切にしたいのに
君に嫉妬し
君に愛されたくて
見栄を張る
君を失う恐怖
愛を失う不安
僕は苛立ち
君を責める
そして僕は
君の姿をも見失いそうだ
その前に
早く
早く
溶け合って
一つになりたいのだ
2012年10月
消え行く枯葉に
秋の乾風に枯れ葉舞い
たださらさらと音を立て
恰も渦を巻くかの如く
何処へかと消えんとす
かつては豊な緑の中に
みずみずしくある水分を
たたえたりしものなれど
今はかさかさ乾き切り
空気の動きに翻弄されん
季節は巡り総ては変わり
生き生きとせし命の象徴も
今は力を失いて
死の静寂へと移ろうものなり
嗚呼
我が魂も老さばらえて
枯れ葉の如く生気をなくし
風に吹かれて消え行くのや否や
死への恐怖に耐えながら
生きる希望を語れども
非情な季節の移ろいに
悠久久遠の時間の中で
些末な塵になり果てり
然りと言えども我が命運
未だに尽きぬものなれば
我が魂の残渣に従い
我が道程を歩むべきかな
老さばらえてはおるけれど
我が肉体は誰ぞを求む
その感情を受領して
素直に世界に身を投げて
我が人生を全うせしかな
その時我は塵なれど
永遠不滅の塵となり
ささやかなれども輩に
命の力を与えけん
枯れ葉の如く消ゆれども
情愛深き眷属と
共に再び生まれけん
我が幸福は此処にあり
それを信ずる故なりき
2012年11月
愚か者
孤独な僕は
優しさに飢えて
君の小さな親切に
心踊らせ 身を震わせて
君も我が身も
焼き尽くし
迷惑及ぼす愚か者
2013年11月
言い聞かせる言葉
誰かが悲しむから生きるのか
喜ぶ者がいるから生きるのか
生きる意味は自分で作るもの
結局自分を生きるしかない
自分を生きるうちに
それを
認める者もいるであろうし
また嫌う者もいるだろう
問題はその量ではない
偽りの自分が好かれても
それは嬉しいものだろうか
真の自分をわかる者が
一人でもいたら幸福じゃないか
結局自分を生きてないと
多くの人に愛されても
虚しいものになってしまうのだ
まずは自分を探し
自分を見つけ
そして自分を愛するのだ
これが自分に
言い聞かせる言葉
2013年11月
日常の彼方に
毎日が不満だ
やりたくもない仕事をして
少しばかりの糧を得る
朝から日暮れまで
くたくたに働き
夜になれば
身体を休めるのが精一杯
休日は何かしたくて
うずうずするのだが
一日中ボウッとして
何かいいことないかと
想像を巡らすだけ
情けない自分に嘆きながら
将来の希望ってやつに
すがろうとする
きっと輝かしい
未来があるから
今はジッと
耐え忍ぼうと思うのだが
今日の溢れかえる不満を
埋めることなどできやしない
しかも
毎日が不安だ
何か失敗するたびに
お前はダメだと脅かされる
失敗したいわけじゃない
しないように
細心の注意を
はらっているつもりだが
いつかは失敗が待っている
一年に数回の失敗
当然失敗のない日の方が
圧倒的に多いのに
たまの失敗を責められる
その責めが恐ろしくて
毎日が不安だ
こんな今の惨めな自分が
死ねば来世は
素晴らしい人間に
生まれ変われると
信じようとするが
今日の身を切られるような
責めの恥辱の不安を
解消することはできやしない
ああいっそ
お前の生活は
永遠に同じだと
言ってくれ
そうすれば
今の自分を
楽しんで生きられる
今の生活の中の
楽しみだけを
取り出して生きる
悲しみなんて
夢のようなもの
不安と恐怖
そして
将来に対する過度の期待
そんなものが作り上げた
幻想に過ぎない
将来に向けての努力より
愛する者と過ごす安らぎ
これこそ確かなものだろ
その時を
永遠たらしめたいと
願うのだ
2012年11月
吹き荒ぶ寒風に冷えた心
風の冷たさに
冬の訪れを感じる
街路樹は枯れ落ち
残った幹が
斜線模様を描き出す
人が犇めく住む大都会
どれほどの人々の
暖かい息の根を
どれだけ集めても
冷えこむ寒気にかなわない
恋人たちは
身を寄せ合い
小さな暖を
逃がさないように
包み込もうとしている
ビルの隙間を縫う
木枯らしに
僕の頬は冷やされ
渇ききってしまうのだ
僕は独りで震えながら
寒風の中を
すり抜けようと試みる
しかし容赦のない
寒さの攻撃をかわせない
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ああ僕は帰りたい
君と暮らしたあの部屋に
二人が結ばれる時
互いの体温が燃え上がり
灼熱となって
寒さなど気にせぬものを
君の中心にある熱気が
僕の熱気と溶け合って
あたかも太陽のように
核反応を起こして
厳寒の季節も
南国のパラダイスのように
流れ出る汗の
爽やかさに酔いしれて
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だが今
君を失った僕は
もうエネルギーをなくし
あの灼熱の燃焼に
至ることはない
寒風に体温を奪われながら
冷たく凍りつくのを
待つばかりなのだ
人肌の温もりを求め
夜の闇の中に女を求めて
そこにあるのは
すえた体臭と
粘膜の滑りだけ
中途半端な体温の上昇は
むしろ心を凍てつかせ
僕を凍えさせる
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君なしでは
僕の中の熱気も
消え去ってしまったのだろう
狂おしい程に君が欲しい
太陽のような
愛に包まれたい
愛がなければ
生きて行けないと
僕は思い知らされるのだ
2013年2月
春の微睡み
浮き上がり
また沈みたる
この渡世
競争激しき
金儲の亡者め
我一人
明日のこの身を
憂うれば
春の訪れ
嬉しくもなし
ただ一時
温暖なるに
気を許し
せめてしばしの
微睡みに沈む
2013年4月
孤独な僕
いつも誰かに
気に入られようと
笑顔と優しさを
惜しげもなく
振りまき続ける
お陰で
僕の周りは
みんなが集まる
でも
そのにぎやかさの中で
ゾッとするほど
孤独を感じる
ああ
もういい人なんて
呼ばれたくない
僕は
いい人なんかに
なりたくないんだ
ああ
そのままの僕を
好きになって
愛して欲しい
それがない僕は
耐え難いほど
一人ぼっち
2013年9月
カオスより 第一詩集