悲劇の始まり
何の取り得もない。でも詩なんてものを書いてた。
映写機を回して映画を映すみたいにね。詩は映画。映写機のなかでフィルムが光るように、街が映った。人が映った。街を愛してた。人を愛してた。
映画館はいつも客はまばらだった。
ある日一人の女の子が、たった一人だけのお客で、ポップコーンを食べながら、詩っていう映画を熱心に眺めてくれた。映写機を回す俺は客席の彼女が喜ぶようにフィルムを早回ししたりスローモーションにしたりセピアやモノクロに詩を光らせたのさ。
彼女は映画が終わってから、デートに誘った俺と、キューバリブレ飲みながらパブでお喋りしてた。
彼女がこういったのを忘れやしない。
あなたの映画館、あなたが映してくれた映画から、聞こえてくる音を感じた。心に鳴る音が聞こえたのね。心に見える陽射しを感じたわ。映画館の中を反響してた。光がぐるぐる回ってた。音が反響して光がまわるなら、いつか出口が必要ね。出口を作ったら、暗闇の映画館から光が、出口から明るくい光が外の街を照らして、音が、映画館の陽気な音が外の街に流れこむわ。そしたらね、いつか映画館の出口から風が吹いたり陽が差したりするするとは思わない？
おっと、俺はポップコーンの彼女について、ちょっと語りすぎてしまったみたいだ。いろんなことは語りすぎちゃいけないのさ。特に女の子や詩なんていうものについてはね。
ポップコーンの彼女とどうなったかって？ 下世話なこと、訊くんだね。どうもなりやしないさ。そのままパブで別れたさ。
女の子と詩は、楽しく話しすぎちゃいけないんだ。なんだか大馬鹿笑いしたり、死にたくなっちゃうんだ。それは狂ったんでもなけりゃ、それは憂鬱なんかじゃないんだ、たぶん、寂しいだけ、ただ単純にね、寂しいだけ。そのうち詩や女の子と新しい恋が始まる、そんでもってさ、それはいつだってせつない喜劇か、はかない悲劇の始まりなんだ。
俺はそういうの、苦手なんだ。わかるだろ、だから詩書きなんていうことやってるんだ。
ポップコーンの彼女、別れ際、こうも言ったんだ。
詩っていう映画、映し続けてね。昨日も今日も明日も待ってる。「誰かの何かを待っているひと」もあなたを待ってるわ。あたしは純粋にあなたの詩が好きだから、一番お気に入りの詩を読みながら待ってるわ。
俺は今もずっと彼女の言葉を考え続けているんだ。
せつない喜劇や、はかない悲劇がはじまらない程度にな。
悲劇の始まり
昨年の11月12日から今日まで星空文庫で毎日、詩を投稿してきました。
ひとまず休憩するために、毎日投稿をお休みすることにします。
読んで下さっていた皆さん、ありがとうございました。
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