届け、この想い

届け、この想い

’’いつも通り’’とはなんなのだろうか。いつも通りに生活していて何の変化もない毎日。でもたった一人の人間がそんないつも通りを見事に変えてしまいます。毎日同じ事の繰り返しでつまらないと思っているそこのあなた。それもいつか変わる時が来ます。思いがけない人と出会ったり、思いがけない出来事に巻き込まれたり。人生には何があるかは誰にも分かりません。自分で人生を作ってゆくのです。いつも通り同じ毎日が嫌ならば自分で変えて見ませんか?

第1章 転校生

第1章 転校生

 私の名前は早瀬千夏(はやせちなつ)、高校2年生、少し消極的な普通の女の子。とりわけスポーツが得意でもなく頭もそんなに良くないし顔だって自信がない。友達は女の子の友達がほとんどでいつも笑顔がはじけている七香(ななか)、成績優秀な詩織(しおり)、マイペースすぎる麻由美(まゆみ)、男の子の友達はほとんどいない。恋愛だってしてみたいけど縁がない。って言うか男の子と喋る機会もない。周りの友達は少しずつリアルに充実しているそうだが私には到底無理だと思っていた。あの日までは。。。
 2学期が始まり私はいつものように登校して自分の席に着こうとした。けどいつもと違う。いつもは私の隣に机がないのに今日になって突然机が置かれていた。
七香「おはようー!」
私はこの少し不思議な出来事に戸惑いながら返事をした。
私「あっ、おはよう。。」
一体どう言う事なのか分からないが、とりあえず席についた。しばらくして詩織、真由美もいつも通りに登校してきた。
そしてホームルーム始業のチャイムが教室に響き渡る。ここまではあの机の件を除いていつも通りだった。そしていつも通り先生が教室に入って来る。
先生「おはようございます。今日から後期が始まります。そして今日からこのクラスに新しいメンバーを迎える事になりました。入って来なさい。」
すると少し開かれた教室のドアの向こうから誰かが入って来た。
先生「えー、今日からこのクラスに仲間入りする神田勇人(かんだはやと)くんだ。さぁ、自己紹介を。」
私(まさか私の隣に置いてある机って...)
勇人「今日からこの学校に通う事になった神田勇人です。みんなと早く仲良くなって楽しい学校生活を送りたいです。よろしくお願いします。」
私(以外と爽やか系なんだなぁ。なんか惹かれる所あるかも...)
先生「じゃぁ、君の席はあの空いてる席だ。」
先生が指差したその席とは私が登校して来た時から気になっていたあの席だった。私のクラスでは席替えをする際は好きな人と近くになれると言う物だったので男子が隣に来たのは初めてだった。何か少し落ち着かない感じだ。
 授業開始のチャイムが鳴り響き一時間目の授業は私の苦手な英語。教科書を用意して先生を待っていると隣の席の神田くんが何か焦ったような様子だった。そして教室のドアが開く。
学級委員「起立、礼、着席」
いつも通りに授業が始まった。苦手な英語の授業だったので少し憂鬱だ。解説を聞いてもなぜこうなるのか明確には分からない。
英語の先生「よし、じゃあ教科書の69ページを開け。まずは英語の文章を理解しながら一文ずつ音読してもらうぞ。前は左から当てたから今日は右からだ。」
言われた途端私は順番を数え、どの英文を読むか事前に把握していた。私も隣の神田くんも順番が来る。
三人目が三文目を読んでいる時だっただろうか。隣の神田くんが私に声をかけて来た。
勇人「あの...教科書見せてもらえませんか...?」
私は少し驚いたがここは仕方がないので教科書を見せることにした。
私「あ...はい。どうぞ。ちなみにこの文章を読むと思います。」
勇人「ありがとう」
私は男子からありがとうと言われる事があまりなかったせいか、神田くんに言われたありがとうがとても新鮮に感じられた。
それ以降神田くんと話す事はなかったが少し気になりながらも放課後になった。
七香「バイバイーーー」
詩織「また明日ー」
真由美「じゃあねぇーー」
私「うん!またねぇー」
私も身の回りの整理して足早に帰ろうとすると聞き覚えのある声で引き止められた。
勇人「あのー。」
私は少し驚いたような声で返事した。
私「な、何か?」
彼は少し照れたように顔を赤くしながらこう言った。
勇人「今日の英語の授業の時すごく助かったよ、名前なんて言うの?」
私「早瀬千夏です。」
勇人「そっか。じゃあ、千夏今日はありがとう。本当に助かったよ。明日からまたよろしくね。席も隣だし。」
私は少し嬉しかった。男子から下の名前で呼ばれたのは初めての事だった。
私「こちらこそ。明日からよろしくね。神田くん」
少し恥ずかしかったけど初めて男子の名前を本人に向かって話した。すると彼は笑顔でこう答えた。
勇人「隣の席が優しい子で本当に良かった。」
私はとても嬉しかった。今まで男子とこんなに話した事なかったけど今日初めて話してみて男子との会話もいいななんて思った。とても新鮮で、女の子と話す時とはまた少し違った空気で、なぜか彼の顔が頭に焼きつく。味わった事のない感触だ。
 すっかりと日が暮れた頃に私は帰宅した。2学期が始まってそうそう不思議な体験をした。夕食を食べ終わっていつも通り自分の部屋に行く。今日は少し疲れたので授業の復習もせず、早めにベッドに潜り寝ようとした。でも寝ようとするとなぜか彼の顔を思い出す。今までに他の男子を見てこんな思いにはならなかったのにどうしてだろうと考えているうちに私は眠った。
そして太陽が昇り朝が来た。6:00にセットしてある目覚ましが私を呼び起こす。いつものように朝食を済ませ家を出る。
学校に向かう登校道でふと彼の顔が浮かんだ。どうして私は彼の事をこんなにも気にしているのだろう。自分にも分からなかった。
学校に着き、外ズックから、内ズックに履き替え、教室に向かった。
教室にたどり着くと昨日転校して来た神田くんの周りには複数の女子が集まっていた。私は自分の席に向かう。
真由美「おはようー!神田くん人気者だねー!席が隣なんてちょっとラッキーじゃーーーん!」
私は戸惑いながら返事をした。
私「あっ、おはよう。本当に人気者だね。」
私はなぜだか胸がモヤモヤしていた。今までに味わったことのないこの胸のモヤモヤ。一体なんなのかは自分でも分からなかった。
私は自分の席について身の回りを整理していると神田くんが満面の笑みで話しかけて来た。
勇人「千夏、おはよう!」
私は男子に下の名前で呼ばれるのはまだ慣れていないので照れたように挨拶を返した。
私「お...おはよう、神田くん」
勇人「ねぇ、千夏。僕は千夏の事下の名前で読んでるんだから、千夏も下の名前で呼べばいいよ。」
私は神田くんの言う通りに下の名前で呼びたかったけど恥ずかしくて言えなかった。
いつも男の子の事はそんなに気にしてないけど、なぜか神田くんだけはすごく気になった。好きな食べ物は何か、どうしてこの学校に転校して来たのか、私の事どう思っているかとか関係のない事まで知りたくなってきた。
授業が始まるチャイムが鳴った。いつも通りの退屈な授業が始まると思っていると、突然神田くんが私の机の上にたくさん折られた紙、いわゆる回し手紙みたいな物を置いた。中身を開いてみると’’ID @hayato1027 要追加’’と書かれていた。私は素直に嬉しかった。トークアプリに男の子が加わるのは初めてだったからだ。ふと神田くんを見てみると少し照れたような笑顔を浮かべていた。
私は初めての事がたくさん続いたせいか神田くんの事を本格的に意識し始めた。

第2章 初体験

第2章 初体験

 最近はやたらと初体験が多すぎて勉強も捗らない。この訳のわからない胸のモヤモヤもあの交換したIDだって’’よろしく’’程度の会話くらいしかしていない。それにそろそろ中間テストも近い。いつもは学年で中間あたりの成績順位だけど、今回はこのままでは赤点をとってしまうと自分でも実感している。誰かに教えて貰おうと思っても真由美はマイペースだからギリギリにならないと勉強始めないし、詩織は自分の勉強で忙しそうだし、七香はそもそも勉強せずテストに挑むしいつも一人で勉強するしかなかった。でも今回はさすがに一人で勉強しても分からないものが多すぎる。
すると、教室の向こう側に英語の先生が立っていて私を手招きしていた。
先生「おい、千夏。何だこの模試の点数は。このままだと赤点だぞ。楽しい冬休みにしたいとは思わないのか?」
誰もこんな点数を取りたくて取ったわけではない。私だって楽しい冬休みにしたいと思っている。
私「英語教えてもらえませんか?一人で勉強しててもあんまり理解出来なくて...」
先生は少し困ったような顔をして答えた。
先生「すまないが先生も部活はなんやらで忙しくてなぁ。お前のためだけに教えてやるって事が出来ないんだよぉ。あっ!そうだそうだ、そう言えばお前の隣の席の神田くん?だっけな、あいつ英語めっちゃ得意だったぞ。今回の模試もいい点数だったし。一人で無理して勉強しようとせずに神田くんに教えてもらったらどうだ?」
返事をする間もなく先生はどこかへ行ってしまった。私は少しびっくりした。身近に英語が得意な人がいたなんて。それも神田くん。
そっと振り返ってみると神田くんは数人の男子に囲まれて楽しそうに話をしていた。ここの学校生活にも少しずつだけど慣れて来ているようだった。
授業開始のチャイムが鳴り響く。この時間は自習だ。テストに向けて自分の分からない部分を一人で勉強したり教えあったりする時間だった。
神田くんは何をするのか気になって少し隣を覗いてみると、何かの教科を勉強していた。もう少し顔を横にしてみると、それは私の得意な数学だった。
色々と心の中で思っている内に神田くんがこっちを見て苦笑いで私に向かって言って来た。
勇人「俺、数学苦手なんだよねぇ。そういえば数学の先生が隣の席の早瀬さんは数学が得意だから教えてもらうといいって言ってたけど、数学得意なの?」
私は少し焦ったように答えた。
私「あぁ、う、うん。一応数学は得意だよ。その代わり英語が一番苦手かなぁ。」
すると神田くんは何か思いついたような顔で言った。
勇人「じゃあさ、教え合いっこしない?千夏は数学を教えて、それで俺は千夏の苦手な英語を教える。これでどう?」
私は納得した顔で答えた。
私「うん!」
そして私たちは授業が終わるまで分からないところを聞き合い、教え合い、二人の仲は少しずつ近くなっていった。
 そして学校が終わりいつものように家に帰った。自分の部屋に行って今日あった事を振り返ってみた。
神田くんとたくさん話しができたせいか胸のモヤモヤは少しなくなった気がした。それに英語を教えるのもすごく上手だったし、彼の顔が忘れられない。今日は英語の事より彼の事を学べた気がしてすごく嬉しかった。
すると私の携帯が鳴った。そっと携帯の画面を覗いてみるとそれは神田くんからのメッセージだった。
勇人’’今日は苦手な数学教えてくれてありがとう。すごく分かりやすかったよ。俺が教えた英語も千夏の役に立てたらいいな。’’
私は少し顔が熱くなりながら返信した。
私’’どういたしまして。勇人が教えてくれた英語もとても分かりやすかったよ。お互い赤点取らないように頑張ろうね!’’
SNSでは’’勇人’’って下の名前で言えた。
 そうしてテスト当日。今日から三日間くらいは出席番号順で座るので神田くんは隣にいない。神田くんの出席番号は3番で、私の出席番号は16番。少し離れているのでテスト期間中は話しをする事もなかった。とりあえず今はテストで赤点を取らないように頑張るしかなかった。
やがてテストは全教科なんとかやり遂げた。そしてテスト返し。やっと隣に神田くんが戻って来た。隣に神田くんがいると私はなぜだか安心した。
少し久しぶりだったのでお互い緊張したがテストが返ってくるまでの時間話した。すると神田くんが照れ臭そうに言った。
勇人「千夏。もし、俺の数学の点数が80点以上だったら、千夏の冬休みを1日だけ俺にくれないか?」
私は今年で一番びっくりした。今まで男の子からこんな事を言われた事なかったし、男の子と遊んだ事もなかった。私も照れ臭そうに答える。
私「もちろん、いいよ...」
勇人「やった。」
神田くんはとても嬉しそうだった。私たちは数学のテスト返しが楽しみだった。神田くんが教えてくれた英語の点数は86点。無事赤点を逃れた。
そして次はいよいよ数学のテスト返し。私も神田くんもドキドキだった。
チャイムが鳴って、数学の先生が教室に堂々と入って来た。
先生「それでは数学のテストを返します。出席番号順で読んでいくから順番に取りに来るように。池内... 江島...」
私(神田くんの出席番号は3番だから次に呼ばれるはず)
先生「神田...」
勇人「はい」
神田くんはテストを取りに行った。帰って来る時の顔を見れば大体は結果が分かるだろうと思って神田くんをみると何か冴えない()顔をしていた。
私はドキドキしながら神田くんに聞いた。
私「テスト、どうだった?」
神田くんはとても残念そうに答えた。
勇人「ごめんよ。期待に応えられなくって。78点だった。」
神田くんも悔しそうだったけど、私もとても悔しかった。神田くんの目標点数に達さなかった事が悔しいのか神田くんに私の1日をあげられなかったのが悔しいのか自分でもよく分からなかった。
すると、数学の先生が少し申し訳なさそうな顔でみんなの方を向いてこう言った。
先生「えー、訂正があります。えっと、こちら側のミスで大門3番の問6は出題範囲外の問題だった。合っている人はそのままでいいが、間違っていた人はその問題はなかった事にするので、2点加えておいて下さい。」
私はそれを聞いた瞬間まだ諦めてはいけないと思った。神田くんのテストの方を向こうと思ったら、嬉しそうな神田くんと目が合った。
勇人「千夏。俺、大門3番の問6間違ってたよ。ってことは78点じゃなくて2点足して80点。千夏の冬休み1日だけいただきます。」
神田くんはとても嬉しそうだった。そして私もとても嬉しかった。
私たちはいつの間にか打ち解け合っていて、毎日授業中でも会話するようになっていた。初めての男の子の友達だった。それから私たちは冬休みまで楽しい学校生活を送っていた。
 そして冬休み前日になった。神田くんは少し恥ずかしそうに私に言った。
勇人「あの時に約束覚えてる?千夏の冬休み、1日だけ貰うってやつ。」
私は自信満々に答えた。
私「もちろん覚えてるよ。冬休みなら年末年始以外ならいつでも暇だよ。」
すると神田くんは何か思いついたような顔で私に言った。
勇人「じゃぁ、24日なんてどう?クリスマスイブ。」
私はクリスマスイブと言う言葉に戸惑いながら返事をした。
私「いいよ。じゃぁ24日で。」
私は神田くんと過ごすクリスマスイブが楽しみだった。
 そして時は止まる事なくクリスマスイブを迎えた。神田くんとの待ち合わせ場所の噴水広場に来ていた。待ち合わせをするのも初めての経験だったので、時間の20分くらい前にはもう集合場所に着いていた。私は無意識なのか分からないが、神田くんに少しでも良く見えるように服もいつもよりも凝ってみた。そして集合時間5分前くらいになって直線路の少し遠くから神田くんの姿がどんどんとこっちに近づいて来る。それと同時に私の鼓動も早くなっていく。そんな事を考えているうちに神田くんはもうすぐそばにいた。
勇人「よぉ、千夏、待った?」
私「全然待ってないよ。私の方がちょっと早く来すぎただけで...」
私は相変わらず緊張していた。
勇人「どうする?寒いしとりあえず俺の家でも来る?よかったらだけど」
私は顔に手を抑えながら答えた。
私「そうする。神田くんの家に行く。」
私が男の子の家に行くなんて初めての事だった。家に行くまでの神田くんの背中はちょっぴりカッコよくて、見ているとなんか安心するのだった。
神田くんは足を止めて私に言った。
勇人「ここが俺の家だよ。玄関はこっち。」
神田くんは玄関まで案内すると玄関のドアを開いてこう言った。
勇人「さぁ、どうぞ。女の子を家に入れるなんてこんな事初めてだよ。」
私は顔を赤めながら言った。
私「お、おじゃまします。」
玄関に入ると見知らぬ人が私を出迎えた。それは神田くんのお母さんだった。
勇人の母「あらー、いらっしゃい、彼女?」
私はびっくりした。神田くんもびっくりしたような表情で言った。
勇人「お母さん、恋人同士とかそんなんじゃなくて、友達だよ。俺の数学のテストの点数が良かったのは全てこの子のおかげ。」
勇人の母「あらぁ、そうだったの。ありがとうね。もしかしてあなたが千夏ちゃん?勇人よく千夏ちゃんの話してるよ。あんたたちお似合いよ。」
勇人「もーお母さん冗談ばっかりやめてよー。なんか恥ずかしいだろー。まだ恋人同士じゃないんだからぁ。」
私はなぜか胸がドキドキしていた。
勇人「さぁ上がって。俺の部屋に行くよ。」
私「うん。」
私たちは階段を昇って神田くんの部屋に入った。私は男の子の部屋に入ったのは初めてだったのでよく分からなかったけど神田くんの部屋はとても個性的でしっかりと整理整頓されている綺麗な部屋だった。部屋に入ると神田くんはちょっと困ったような顔で私に言った。
勇人「ごめんね。なんかうちのお母さんが変な事ばっかり言って。あんなの気にしないでね。」
正直、彼女とか恋人とかにはびっくりしたけど特に傷はついていないので笑顔で首を振って返事をした。
私「全然大丈夫だよ。何も気にしてないよ。」
それを言った瞬間、神田くんはとても安心そうな顔をしていた。それにしても不思議な気分だった。神田くんとはとりわけ特別な関係じゃないって言うのは自分がよく分かっているのに、クリスマスイブに男の子の部屋に二人きり。今日も特別な事があったわけでもなく、世間話をしたり、将来の夢を語りあったり、ゲームしたり、普通の1日だった。今日1日だけで二人の距離はぐっと縮まった気がする。あっという間に時間は過ぎて行き、とうとう時間が来てしまった。
私「私、そろそろ帰らないと。」
勇人「お、そっか、じゃぁ送ってこうか?」
私は正直送ってほしい気分だったけど一人で帰る事にした。
私「大丈夫。一人で帰れるから。それに寒いし、」
勇人「そっか...、じゃー、気をつけて帰れよ、千夏!」
私「うん。」
神田くんは私が角を曲がるまでずっと手を振ってくれた。私の胸はまたドキドキからモヤモヤに変わった。特に神田くんのお母さんが言っていた、彼女とか、恋人とかを思い出すと、鼓動までもが早くなった。こんな思いは他の男の子の時は全くないのに、どうして神田くんの時にだけこうなるのだろうとずっと考えながら帰路につく。そして大通りに出ると、街路樹にクリスマスデコレーションが施されているとても綺麗な道に出た。そこには男女が手を繋いだりしている光景が目に入った。周りを見渡すとそんな人たちで歩道は埋め尽くされていた。そこでようやく私は気づいた。
そう、私は神田くんに恋をしていた。そうと分かった瞬間胸のモヤモヤが治った。代わりにドキドキが始まった。
 冬休みが終わり今度は昇級をかけたテストが始まる。私たちの学校はテスト合格者のみ3月の登校はない。そのためこの時期になると友達が本当にいるのかと思うくらいみんな一人で勉強ばかりしている。もちろん私も神田くんも空いた時間があればずっと勉強していた。学校に来てもテストの事を少しだけ会話する程度。私はなんだかとても寂しかった。でもテストが終わればいつも通りに戻ると信じて今はテストに向けて勉強するしかなかった。テスト前日までこんな学校生活を繰り返して来た。
テスト前日は当番があって少し帰宅が遅れた。テスト勉強ばかりで疲れ果てて家に帰ると、携帯に一件のメッセージが入っていた。携帯を開けて見てみるとメッセージの送り主は神田くんだった。内容は’’明日頑張ろう’’と言うたった一言だったけどとても嬉しかった。また胸がドキドキする。明らかにテストへのドキドキとは違った。何かの優しさに包まれて安心したようなドキドキだった。私は’’勇人もね!’’とドキドキしながら返事をした。
そしてテスト当日。今回も出席番号順に座る。テスト開始のチャイムが鳴った。すると私は無意識に神田くんの方を見てしまった。すると神田くんも私の方をぼーっと見ていた。目が合ってしまったせいか神田くんと私はすごく恥ずかしかったけど、私は勇気を出して’’頑張れ’’の意味を込めて、ウィンクしてみた。すると神田くんもウィンクを返してくれた。神田くんのウィンクはとても可愛いらしくてたくさんの想いが私にまでしっかりと伝わって来た。それからテストが始まる前が必ず二人でウィンクをするようにした。神田くんを見てると胸のドキドキはすごく高まるけどなんだか安心する。そんな事をしている内にいつの間にかテスト最終日になっていた。最終日にはお互いの苦手な教科があった。神田くんの苦手な数学のテスト前のウィンクには苦手で不安そうな想いまで伝わって来た。私は神田くんの想いを独り占めしている気分でなんだかとても嬉しかった。
 テストは無事に全て終わり、あとは返ってくるのを待つだけ。今日は1日で全ての教科が返ってくる特別時間割だった。それとは別に私にとっても特別だった。冬休み前に神田くんが言ってくれた’’千夏の冬休みを1日くれ’’。今度は私がこの約束をしたいと思った。神田くんは隣にいる。なのに話しかけようと思ってもなかなか勇気が出ない。いつもの何気ない会話だったらこんなに緊張する事はないのになぜか’’神田くんの春休みを1日ください’’この一言を言うだけなのにとても緊張する。今までに経験した事ないくらいのドキドキだ。名前を呼ぶ事さえ出来ない。私は勇気を振り絞って神田くんを呼んでみた。
私「か、神田く、くん......」
私は精一杯で呼んだつもりだったけど、教室の騒がしい音に見事にかき消されてしまった。そんな事をしている内に神田くんの周りには数人の男子が溜まっていた。とても楽しそうに会話をしていた。そんな神田くんを見れるだけでも私はドキドキした。
しばらくして授業開始のチャイムが鳴り響く。
今がチャンスだと思って勇気を出して神田くんに話しかけてみた。
私「か、神田くん?」
神田くんはこっちを向いて返事をした。
勇人「うん、どうした?」
私はとても緊張していたけど勇気を出して思い切って言ってみた。
私「もし私の英語の点数が80点以上だったら、、、、、、、神田くんの、、、春休みを、、、、1日、、、私に、、ください!」
すると神田くんはとても嬉しそうな笑顔で答えた。
勇人「もちろん。いいよ。約束する。」
私は神田くんの返事を聞いてとても安心した。
英語の先生が教室に入って来た。そして出席番号順にテストを返していった。神田くんの順番が回ってきて神田くんのテストが返ってきた。私は神田くんのテストを覗いてみた。総得点の欄には92点と書かれていた。さすが英語が得意なだけあって高得点だった。そしていよいよ私の順番が回ってきた。テストは毎回裏返しで返されるので自分で表に向けるまで点数は分からない。かすかに見えるかもしれないけど、席に着いてから神田くんと一緒に見ようと思った。ドキドキしながら自分の席に戻って行く。神田くんも少し緊張しているような顔をしていた。
自分の席に座った。まるでこれで人生が全て決まってしまうのかと思うくらい緊張していた。おそるおそるテストを表に向ける。そして私も神田くんもドキドキしながら総得点の欄に目をやった。そこに書かれていたのは...’’84点’’。
神田くんは嬉しそうに言った。
勇人「千夏、やったじゃーん!俺の春休み、一日あげる。」
私は胸が張り裂けそうなほど嬉しかった。私は嬉しさが込み上げた最高の声で答えた。
私「うん!ありがとう!私、嬉しい!」
いつの間にか私も神田くんも最高の笑顔で見つめ合っていた。それからテストは全部返ってきて二人とも赤点は一つもなかった。テスト返しが終わればあとは先生の話を聞いて春休みを待つだけだ。
先生「えー、今回のテストで赤点がなかった者は明日から春休みです。赤点があった者は学校に来て補習だ。そしてもう一度テストを受ける。いいな。それじゃぁいい春休みを。」
先生の話はあっという間に終わった。いよいよ明日から春休みだ。
すると神田くんは疑問そうに私にこう聞いてきた。
勇人「そういえば俺はいつ千夏に俺の春休みをあげればいいの?」
私はすでに日にちは決めていたので即答した。
私「3月21日。私にちょうだい?」
神田くんは笑顔で答えた。
勇人「21日?いいよ。分かった。また千夏に会えるの楽しみにしてる!」
神田くんもいつの間にか私を特別視するようになったのかなんとなくみんなとは違う笑顔が感じられるようになった。
 学校が終わり私は家に帰った。しばらくする事がなかったので勉強机の椅子に座ってぼーっとしていた。すると私の携帯が鳴った。私はすぐに携帯を取って画面を見た。神田くんからだった。’’千夏。3月21日もしかして誕生日?’’と言う内容だった。私はどうして知っているのだろうと神田くんに返信してみた。すると画像付きで返信が来た。返信内容を見てみると画像は私のタイムラインのスクショと’’千夏のタイムラインを見て思った。画像のやつ’’と言う感じだった。なんの間違いもなかったので、私は’’その通りだよ’’って返信をした。すぐに彼から返信があった。’’ちょうど良かった’’。一体この一言にはなんの意味があるのかはよく分からなかったけど、とにかく神田くんに会えるのが楽しみで仕方なかった。
 そしてついに21日。私の誕生日でもあり、神田くんと会える日でもある。それまでの春休みは特に何も起こらなかった。私は神田くんに会う為に服を選んで身支度をした。そして集合場所に行った。今度は神田くんの方が先に来ていた。
私「神田くーん、待った?」
神田くんは笑顔で答えた。
勇人「全然待ってないよ、むしろ俺が早く来過ぎたのかな。」
前は神田くんの家に行ったので、今回は神田くんを私の家に連れて行く事にした。ちなみに家の人は出かけているので誰もいない。
私は神田くんを家に案内した。
私「私の家はここだよ。さぁどうぞ。お母さんお父さんは出かけてるから今日は二人きりだね...。」
神田くんは微笑んで答えた。
勇人「俺、女の子の家に来たの初めて。こんな感じなんだー」
私はなんだか恥ずかしかった。私は自分の部屋に案内した。案内するだけなのにとても緊張した。私も男の子を自分の部屋に入れるのは初めてだったからだ。神田くんを部屋に案内し終わると、私は神田くんを丸いテーブルの前で座らせた。
私「なんかジュースとか取ってくるから待ってて。」
神田くんはなんだか緊張した顔で答えた。
勇人「う、うん。あ、ありがとう。」
私は一階に行き、ジュースを二人ぶん用意した。そして部屋に戻った。
私「はい。こんなのしかなかったけど、良かったら。」
神田くんは少し緊張した顔で答えた。
勇人「お、おう、あ、ありがとな。」
私は思った。今日の神田くん、なんかいつもと違ってとても緊張しているように感じた。
しばらく世間話とかしていると神田くんは表情を改めて私に言った。
勇人「千夏。確か今日誕生日だったよね?受け取ってほしい物があるんだけどいい?」
私はとても嬉しかった。真由美、詩織、七香の女の子からプレゼントを貰った事はあったけど、男の子から何かを貰うのは初めてだったからだ。私はとてもドキドキした。神田くんもドキドキしている様子だった。
私「いいよ。」
神田くんは少し緊張が解けたような表情で大きなリュックからリボンに包まれた片手で持てるような箱を取り出した。
勇人「はい、これ。女の子って何が欲しいとかはあんまり分からなかったけど僕なりに選んでみた。気に入ってもらえると嬉しいな。」
私は両手で受け取って顔を赤くして言った。
私「開けてみてもいい?」
神田くんは小さくうなづいた。
私は少し手を震わせながら神田くんのプレゼントを丁寧に開けてゆく。包まれた紙を開け終わると、何か高級そうな箱が出て来た。その箱を開けてみると、中にはとても綺麗な半分のハート形のネックレスが出てきた。神田くんを見てみるととても緊張していた。
勇人「どうかな?よ、喜んでもらえたかな?」
私は満面の笑みで答えた。
私「とても嬉しい。つけてもいい?」
神田くんは安心したような顔で答えた。
勇人「もちろん。良かったらつけようか?」
私は神田くんの好意に甘えてみる事にした。
私と神田くんはとてもドキドキしていた。神田くんは私にネックレスをつけ終えると、首にしていたネックウォーマーをとった。ネックウォーマーの下には私とは逆のハート形のネックレスが出てきた。
神田くんは照れた顔で言った。
勇人「実は、その千夏にあげたネックレス。俺がつけているやつと合わせつ事で一つになるんだよ。」
私はそれを聞いた瞬間、神田くんと一つになれた気がしてとても嬉しかった。その後は今まで通りに世間話をしたりした。ただ一つ違ったのはちょっと恋バナとかもした。私は最高の誕生日を神田くんと二人きりで送る事ができた。
勇人「あ、そろそろ時間だ。俺もう帰らないと。」
私は少し寂しかった。
私「うん。そうだね。また学校で。送ろうか?」
神田くんは笑顔で答えた。
勇人「送らなくてもいいよ。まだちょっと寒いでしょ?俺のせいで体調崩されたら嫌だからね。」
私は少し寂しそうな顔で答えた。
私「分かった。気をつけてね。」
私は神田くんの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
私はもう気づいていた、神田くんに恋してるって事を。
でも今の私たちは次の学校で会えると信じているが一つ大事な事を忘れていた。

第3章 クラス替え

第3章 クラス替え

 春休みが終わって久しぶりに学校に登校すると体育館に行くように指示された紙が貼ってあった。私はこの時はまだなんの事かさっぱり分からなかった。体育館に着くと、みんなが掲示板の周りにかじりつくかのように集まっていた。一体何が書かれているのだろうと思って少しずつ前に出てみると、そこにはクラスの振り分けが書かれていた。私はここでやっと思い出した。そう。私たちの学校では年に一度クラス替えがある。私はこの事をすっかり忘れていた。2年生の時は七香も詩織も真由美もそして神田くんも私と同じ3組だった。私はとても緊張した顔で掲示板に貼られた紙を眺めた。まずは自分の名前を探した。3枚目を見終わり4枚目の真ん中あたりに自分の名前を見つけた。4枚目なので私は4組だった。そして、七香は真由美と同じ2組で詩織は1組だった。私は4枚目の紙をもう一度しっかりと見直した。でもそこには神田くんの名前はなかった。5枚目の紙を見ても神田くんの名前は見当たらない。そして最後の6枚目に神田くんの名前を見つけた。6枚目って事は6組だった。私たちはそれぞれ違うクラスになってしまった。この時はまだ例えクラスが違っても話す機会はきっとどこかであるはずと思っていた。
 私は新しくなった教室に向かって歩いた。そして3年4組と書かれた札がぶら下がっている教室に着いた。1組と2組は違う階だったけど、6組は4組の二つ隣にあった。近いようで遠いこの距離はちょっぴり寂しかった。私は教室の扉を開けて教室に入った。教室に入ると黒板に座席表が書かれており、自分の名前が書かれた席に座るようにと指示があった。私の席は真ん中列廊下側の前から3番目だった。私は自分の席に着いた。隣の子はどんな子か気になったので顔を少し斜めにして覗いてみると、隣は女の子だった。その女の子はずっと本を読んでいてすごく真面目そうで優しそうな子だった。そんな事を思いながらずっと見ていたら、隣の子と目が合った。私はまずいと思ったので自己紹介をした。
私「あ、おはよう。早瀬千夏です。よろしく...。」
すると隣の女の子は微笑んで答えた。
梨花「おはよう。名前は山本梨花って言います。よろしく!」
私は予想より性格が明るかったので少しびっくりしたけど、優しそうな子がクラスにいて良かったと一安心した。私たちは少し笑顔で見つめ合ったあと梨花は本の世界に戻って行った。
 しばらくすると放送スピーカーから先生の声が流れ出した。
’’’’全校の皆さん、おはようございます。今日から新学期が始まります。新しいクラスに早く慣れて楽しい一年にしてください。この後の予定ですが、体育館に全校で集まって全校集会を開きますのでクラスごとに並んで体育館に集合するようにして下さい。’’’’
そして、仮担任の指示に従って廊下に整列し、体育館に向かった。ここで神田くんの姿が見れると思ったが私たちの方が前だったので見れなかった。クラスみんなで体育館に向かい担任発表。みんなは騒がしくしていたが私はイマイチ気持ちが乗らない。また胸のモヤモヤが始まっていた。
私たちは教室に戻り新しい担任の先生の話を聞いた後すぐに下校した。明日からが本格的なスタートだった。私はすぐに帰ろうとすると隣の席の梨花が話しかけてきた。
梨花「早瀬さん。もう帰るの?良かったら本屋さんにでも寄っていかない?」
私は申し訳なさそうに答えた。
私「誘ってくれて嬉しいけど、今日はなんか疲れたから帰るよ。ごめんね。また今度行こう。」
梨花は笑顔で答えた。
梨花「気にしないで。また明日。学校で。」
私は足早に帰宅した。クラス替えがあったせいで私と神田くんの距離は一気に引き離された気分だった。こんなはずではないと思いとても悲しい気持ちになった。すごく泣きたい気分だった。私はとりあえず寝た。
 日が変わってまた学校に行く。校門をくぐって、靴を履き替えて教室に向かう。ここまでは今までと何も変わらない。でも教室に入って自分の席に座っても隣に神田くんはいない。誰かの為にこんなにも寂しいと思ったのは初めてだった。心にぽっかりと穴が空いたようだった。
そして一日の授業の始まりから終わりまで誰とも話す事がない毎日が続く。
 そんな事を繰り返しているうちに3年生になって初めてのテストが近づいて来た。相変わらず不安だけどいつもは神田くんの事を見れば安心出来たし、苦手な英語とかも教えて貰えていた。けど今年は一人で立ち向かっていかなければいけない。’’神田くん、数学大丈夫だろうか?’’とかも心の中で思った。家に帰ってテストの勉強しても神田くんの事ばかり気になって捗らない。でもここで諦めるわけにはいかない。
 翌日教室に行くといつも本を読んでいた梨花が珍しく机に参考書とノートを広げて勉強していた。私は思い切って梨花に話しかけてみた。
私「梨花ちゃん。珍しいね、勉強してるの?英語の勉強してるの?」
梨花は微笑んで答えた。
梨花「うん。こんなに真剣に勉強したのは初めてだよ。英語が一番苦手でねぇー。2年生までは良かったんだけど3年生になって急に難しくなっちゃって。」
私は小さくうなずきながら答えた。
私「そうだよねー、私も英語が一番苦手なんだ。2年生の頃から英語は苦手だったよ。だからテストのたびに神田くんに教えてもらってた。神田くん教えるのがとても上手で英語が苦手な私でも80点以上取れたんだよ。今までで一番いい点数だった。これも全て神田くんの...」
梨花は少し驚いた顔で私の事を見ていた。
梨花「千夏ちゃん、神田くんの事すごく気に入ってるみたいだね。」
私は自分自身でも神田くんの事を話し出すと止められなくなるのにびっくりしていた。
私は少し戸惑いながらも梨花に神田くんの事を説明した。
私「神田くんは転校して来た時にたまたま私の隣の席で、神田くん転校早々英語の教科書忘れて貸したの覚えてる。その時の神田くんとても焦ってたなぁ。テスト前とかになって神田くんの笑顔とか見てるとちょっと安心したんだけどなぁ。」
私は寂しすぎて神田くんの話を誰かにしていないともう自分が壊れそうだった。
すると梨花は右手に持っていたシャーペンを机の上に置いて私に言った。
梨花「それって気にしてるっていうか、完全に恋してるね。なんか楽しそうで羨ましい。」
私は自分で神田くんに恋している事はもう分かっていた。ただ本人に自分の思いを伝えられないまま今に至っている。クラスが変わったから余計にに伝えるタイミングがなくなった。
 私は放課後、図書室に行って勉強する事にした。私たちの学校の図書室には勉強の為に参考書などが大量に置かれていた。大抵の人はここで勉強をする。私は少し期待していた。図書室に行けば神田くんがいるかもしれない。私は図書室の扉を開けた。図書室にはいろんな学年の人たちがいてとても混雑していた。特に3年生が多かった。この中に神田くんがいるかもしれない。私は本を探すふりをしながら神田くんを探した。しばらくたった頃、図書室の扉が開いた。扉の向こうから入って来たのは神田くんだった。私は嬉しくなって話しかけに行こうとしたら神田くんは後ろに数人の友達を連れていた。神田くんはあたりを見回して友達に何か言ってそのまま帰ってしまった。私はとても悲しくなって、図書室を後にした。そして学校を出た。
私は帰り道、心の中でいろんな事を思った。
(神田くん、友達と上手くやってるんだなぁ。私の事忘れちゃったかな。もうあんまりメッセージも来なくなったし。そもそも今までなんだったんだろう。気でも使っていたのかな。もう長い事神田くんの笑顔も見てないし、目さえ合わせてない。)
すると突然、梨花が私の肩を叩いて言った。
梨花「ちゃんと前見て歩かないと危ないよ。」
私「あ、ありがとう、心配してくれて」
すると梨花は少し真剣そうな顔で言った。
梨花「ほんとだよー。ぼーっと一人でのろのろと歩いてるの。何か悩み事でもあるの?...もしかして神田くんの事?」
ズバリ当てられた私はもう泣きそうだった。でもこれ以上梨花に心配させないようにと我慢した。
梨花は空を見上げてこう言った。
梨花「千夏ちゃんは本当に神田くんの事好きなんだね。なんか私まで応援したくなちゃうよ。でもね、千夏ちゃん?世の中神田くんが全てじゃないんだよ。他にも良い男の子なんてたくさんいるよ。余計なお世話って思うかもしれないけど神田くんは神田くんなりにちゃんと考えているんじゃないかな?自分の心の中でこの想い届け届けって思い続ければいつか届くと思うよ。」
この日、梨花ちゃんが教えてくれたのは、’’誰かを想い続ければきっと振り向いてくれる’’と言う事。私はこれだけでなんだか嬉しかった。これからは前を向いて現実を受け止めて行こうと思った。
今私にやるべき事は夏休みを確実に送るためにテストで赤点を取らないという事だ。私は今までのことがうそみたいに思うくらいテスト勉強に集中出来た。少しでも空き時間があれば必死に勉強していた。多分卒業するまではこんな感じなんだろうと覚悟していた。テスト本番は刻一刻と迫って来ている。私は勉強、勉強、勉強の繰り返し。もう一人でも苦手な英語どうにかなるって事を伝えたかった。
 そしてテスト当日。今回は苦手な英語からだった。私は精一杯頑張った。少しでも良い点数を取れるように。そして何よりも神田くんに想いが伝わるように。やがてテストは全教科終了した。今回は手応えがあった。その事を心の中で神田くんに向けて話した。
(神田くん、テストいい感じに出来たよ。神田くんは数学どうだったかな?上手く出来たかな?この想い、届くといいな。)
翌日、またテスト返し特別時間割だ。一日で全教科返ってくる。ここで赤点がなければ明日からは夏休みだ。私はまだこの時、この夏休みが一生のうちで一番複雑で、一番寂しい物になるなんて知らなかった。
 いよいよ夏休みに入った。このころになると神田くんの事をあまり気にする事はなかった。っていうよりも心で通じ合えている気がしていたので特に問題はなかった。その時、私の携帯が鳴り響いた。私はまさかと思って携帯の方に噛み付いて行った。神田くんからだった。神田くんからのメッセージはこのように綴られていた。
’’久しぶり。千夏。突然で申し訳ないんだけど、明日空いてるかな?ちょっと大事な話があるから会いたいんだけど。’’
私は久しぶりにこの喜びを感じた。ずっと想い続けていたから神田くんに届いたと思ったからだ。
私は返信した。
’’空いてるよ。じゃぁ、いつもの時間にいつもの場所ね。’’
するとすぐに返信が来た。
’’了解’’
こんなに何気ない会話でもまだドキドキしている自分がいる。
 そして待ち合わせ当日。私は待ち合わせ場所に行くと、そこにはもう神田くんがいた。あれから何も変わってない。また笑顔で迎えてくれるだろうと思って少し足早に神田くんの元へ急いだ。すると神田くんはこっちを向いた。でもいつもの笑顔がなかった。とても寂しそうだった。
勇人「お、やっと来た。」
私「ごめん、待った?」
勇人「全然待ってないよ、むしろ俺が早く来すぎただけ。」
いつも通りの会話だった。ただ神田くんにはなんだか元気がない。
神田くんはとても悲しそうな顔で私に向かって言った。
勇人「千夏。本当に久しぶりだね。クラス替えがあるなんて知らなかったよ。最後まで一緒にいたかったのになぁ。実はね...今日は本当に重要な話があるんだ。」
私は神田くんの真剣そうな顔を見てもう胸はドキドキだった。もしかして...って。
神田くんは私の顔色をしばらく伺った後に重い口を開いた
勇人「その、重要な話っていうのは、その、」
神田くんは額に汗を滲ませていた。私はそんな神田くんをかばうように言った。
私「神田くん。言いたい事があるなら遠慮せずに言えばいいんだよ。」
それを聞いた神田くんは突然顔を強めて私に言った。
勇人「千夏。よく聞いてくれ。俺が千夏がいる学校に転校してからもうすぐ一年が経とうとしてる。もっと一緒にいたかった。」
私は神田くんの言った「もっと一緒にいたかった。」が何か引っかかったので神田くんに聞いた。
私「もっと一緒にいたかったってどういう意味?クラス替えがなかったら良かったって事?」
神田くんはまた下を向いて大きく首を振った。しばらく沈黙が続いた後、神田くんは覚悟を決めたのか突然話し出した。
勇人「実は、じ、実は、お、俺、」
私の胸はドキドキだった。
勇人「来週、ひ、引っ越すんだ...」
神田くんの話を聞いた瞬間、私の時間はピタリと止まった。止まったというより混乱で動けなかった。
勇人「ごめんっ」
神田くんは何かに耐えきれなくなったかのように突然走り出した。私は神田くんを追いかける事が出来なかった。
あまりにも突然で。あまりにも悲しくて。

最終章 届け、この想い

最終章 届け、この想い

 神田くんの突然の知らせは私にとってショックが大きすぎた。神田くんも相当悲しんでいるのだろう。
神田くんはもう家に帰ってしまったので私も家に帰る事にした。一週間後には神田くんがこの街を去って行くと考えるだけで目から涙が溢れそうだった。一歩、一歩と歩くのさえ辛かった。もう気持ちが崩壊しそうだった。
私(まだ、本当の気持ち、神田くんに伝えてないのに。。。)
私はとうとう道の真ん中で泣き崩れてしまった。どうしてこうなってしまったのだろう。
 時はすぎ神田くんが引っ越す前日。神田くんから一件のメッセージが届いた。そこには’’明日、午後1時に駅前のベンチに来て’’と書かれていた。
私はこれが神田くんと会える最後かもしれないと思ったので気合いを入れた。明日こそ自分の思いを伝えよう。そして明日は泣かないと決めた。
 神田くんの引越し当日。私は神田くんよりも先に集合場所に着いた。今は集合時間のちょうど20分くらい前だった。私ははじけそうな心を落ち着かせるために早く集合場所に来た。今日は雲ひとつない晴天。私にとっても神田くんにとってもちょっぴり寂しい晴天だ。
しばらくして神田くんがゆっくりと私に近づいてくる。神田くんはいつもの声で私に言った。
勇人「待った?」
私「全然待ってないよ。むしろ私が早く来すぎただけ。」
勇人「良かったー。」
最後の最後まで私たちは私たちらしい集まり方だった。
神田くんは突然、私の手を掴んで駅前の噴水の前まで連れて来た。神田くんは恥ずかしそうに言った。
勇人「もう一個、大事な話があるんだ。」
この一言を言った後に神田くんは私の両手を握った。私はびっくりして声が出なかった。
勇人「俺は、もう自分に嘘をつきたくないから本当の気持ちを言う。」
私は少しだけ何を言われてもいいように心の準備をした。
勇人「聞いて驚かないでよ。まず、数学が苦手なんて嘘。」
私は目が大きく開くくらいびっくりした。あんなに苦手そうにしてたのに嘘だったと言う衝撃に。
勇人「あれは、少しでも千夏に近づけるように...いや、千夏と話す時間や千夏と過ごす時間を少しでも増やそうとしたんだ。騙しててごめん。」
私は何の怒りもこみ上げては来なかった。
私「全然。いいよ。私も楽しかったから。でも私が英語苦手って言うのは本当だよ。」
少し冗談交じりに言うと、神田くんは少し微笑んだ。
電車の発車時刻は30分。今の時刻は23分。私は辛かったけどこの事を伝えると神田くんは慌てるように話を続けた。
勇人「最後に後ひとつ大事な話。俺は、俺は、ち、千夏の、事が、す、す、す、、、好きだ!!本気で好きだ!」
神田くんの顔は完全に赤くなっていた。
私「神田くん、いや、勇人。私の気持ちも...」
勇人「待って!」
神田くんは私の話を止めた。
勇人「千夏は何も言わないで。これで何か返事とかされたら俺、引っ越せなくなっちゃうから。それとやっと呼んでくれたね。勇人って。」
神田くんは満面の笑みを浮かべて私の頭を撫でた。すると神田くんは何かを思い出したようにカバンに手を伸ばした。
勇人「これ、千夏にあげる。」
勇人が渡して来たものは、瓶の部分に私と勇人の名前が書かれた星の砂と一枚の紙。
勇人「じゃ、俺そろそろ行くから。元気で。」
私「うん!勇人も!」
私たちはお互いの姿が見えなくなるまで大きく手を振った。私は勇人の姿が見えなくなってから畳まれた一枚の紙を開けてみた。
そこには’’この星の砂を握りしめながら空を見上げると千夏が心の中で想ったことが俺に伝わります。’’と書かれていた。
私は一生大切にしようと決めた。
 やがて夏休みは終わっていつも通りテストがやって来ての繰り返し。勇人からもらった星の砂をいつも携帯しながら学校に通った。それだけで勇人と一緒にいる気分だった。
夏休みが終わった後の学校生活は時が過ぎるのはあっという間でもう卒業シーズン。私は大学に行くことにした。
隣の席の梨花が言った。
梨花「千夏ちゃん、最近元気になったね。そう言えば神田くん引越しちゃったよね?」
私は自信満々に笑顔で答えた。
私「神田くんは、神田くんはいつも私のそばにいる!」
 そして、私は正々堂々と高校を卒業した。卒業式の時も勇人がくれた星の砂を持っていた。
私は家に帰った。勇人も今頃高校を卒業したのかなとか思いながら余韻にふけっていた。今日学校から貰った卒業アルバムを見ると勇人の姿が写った写真が何枚かあった。私はずっと眺めていた。写真を見るたびあの頃の光景が脳裏に蘇って来る。
 日は暮れすっかり夜になっていた。今日は満月だった。私はベランダの扉を開けて、両手で星の砂を持って心の中でこう想った。
(勇人、あの時言えなかった事、今言います。私も勇人の事が好きだよ。大好き。誰よりも。)
届け、この想い......

届け、この想い

人生は何があるか分かりません。明日に何があるか誰にも予想出来ません。人生何事もうまく行くとは限りません。もし、今君に大事に想っている人がいるならば自分の言葉で伝えてみませんか?普段お世話になっている人に’’ありがとう’’って言うだけで自分も嬉しい気持ちになるはずです。
届け、この想い。

届け、この想い

私、早瀬千夏(はやせちなつ)はどこにでもいる女子高校生。2学期に入りいつも通りの生活になると思っていたけど一人の転校生、神田勇人(かんだはやと)がクラスにやってくる。それからゆっくりとした切ない恋の物語が始まってゆく......

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-28

CC BY-NC-ND
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  1. 第1章 転校生
  2. 第2章 初体験
  3. 第3章 クラス替え
  4. 最終章 届け、この想い