こんなことで泣くなんて
とてもよく晴れた4月の朝だった。
車がすれ違うのがやっとのわりに、交通量のそこそこ多い、いつもの通勤道が珍しく混んでいた。
片側通行になっているらしい。
わたしは自転車を降りて、歩く。
大学生ぐらいの女の子が、道路の真ん中で車を誘導してる?
はて。
一台一台に「ごめんなさい」という風にあたまをさげ、軽く広げた両手の背後にかばっているのは。
血まみれのねこの死骸だった。
しゃくりあげながらその女の子は、車に轢かれたのであろうねこが、これ以上傷つかないように守っていた。
ときおり軽く首を横にふるのは、ひたいにかかる前髪をはらうため。
ちらりとねこを振り返ってはまた泣いちゃう様子。
なんで、あたしが。
彼女はそうも思っているはずだ。
でもほっとけない。
すぐ前の家から出てきたおばさんが、女の子に近づき話しかける。
女の子が携帯を示して話している。
連絡、しました。もうすぐ引き取りに来るはずなんで、だいじょうぶです、はい。
そうお、ごめんね。ありがとうね。じゃあね。
そのような会話を交わしたのだろう。聞こえないけどたぶん。
女の子が前を通るわたしをじっと見た。
引き込まれるように見返しながら心の中で言う。
ごめん、しごとなの、急いでる。
目をそらす前に、堪えきれずに顔を歪めてしまった。
一瞬だけど、泣き顔になったの、見られたと思う。
自転車にまたがる。
ごめんね。ほんと、ごめん。
とくとくほたほた、涙があふれてこぼれる。
泣くぐらいなら、保健所だかどこかからねこをひきとりにくるまで、いっしょに待ってあげればいいのに。
止まらなくなった涙にちょっと困りながら、自転車をこぐ。
死んだねこのために泣いたのではなく、やさしい彼女の健気な姿に胸をつかれて泣いてしまったこと、
ばれてませんように。
わたし。いやなひとだわ。感じわるいわ。
こんなことで泣くなんて