うずら太郎


むかしむかし、あるところに、お爺さんとおばあさんが住んでいました。
毎日、東の空が白んでくる頃になると、お爺さんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行くのでした。
ある日のことです。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から何か小さな物が流れてきました。
拾いあげてみると、それはまだら模様のついた小さな卵でした。

おばあさんは家に帰ると、お爺さんに拾った卵を見せました。
お爺さんの取ってきた山菜で鍋を作りながら、おばあさんが言いました。
「この卵は小さくて2人分はないから、お爺さんがお食べなさいよ」
「いやいや、おばあさんがお食べ。おばあさんは昔から卵が好きだったろう」

お爺さんとおばあさんが卵を譲り合っていると、何かが割れる音が響きました。
見ると、卵の中から小さなヒナが顔を出しているではありませんか。
2人は顔を見合わせて笑い、ヒナに「うずら太郎」と名付けて大事に育てることにしました。

お爺さんとおばあさんに愛情たっぷりに育てられたうずら太郎は、すくすくと成長し、立派なうずらになりました。
小さい頃からお気に入りだった、お爺さんの履きつぶしたわらじの上からも、少し体がはみ出るほどです。
「そういえば、最近、鬼が悪さをしているそうだよ」
「まあ、おそろしい」

2人が最近近くで悪さをしている鬼の話をしていると、横で聞いていたうずら太郎が立ち上がりました。
「お爺さん、おばあさん、私は鬼退治に参ります」
家からほとんど出たこともないうずら太郎が急にそんなことを言い出したので、お爺さんとおばあさんは仰天しました。
「とんでもない。そんな危ないことはよしなさい」
「お前はね、わしらにとっては可愛い息子だけれども、世界で一番弱い生き物なんだよ」

2人がいくら言い聞かせても、うずら太郎は頑として言うことを聞きません。
お爺さん、おばあさんは仕方なくうずら太郎を送り出すことにしました。

「では行って参ります」
意気揚々と歩き始めるうずら太郎の背中には、「世界一」と書かれた小さな旗がはためいていました。
世界一弱いという意味です。

鬼のところへ向かう道中、うずら太郎は3匹の生き物を仲間にしました。
そして人間の足なら一日とかからない道のりを、三日かけて進み、鬼の住む集落に辿りつきました。

「たのもーう」
見張りをしていた赤鬼が見下ろすと、道の真ん中に奇妙な一行が立っていました。
その中の、世界一という旗を背負った、丸っこい茶色の鳥が声も高らかに叫びました。
「我こそは世界一の鳥、うずら太郎。そしてお供の蚕(かいこ)、まんぼう、てんじくねずみなり」

ふわふわした毛で覆われた真っ白な蛾が、羽をはためかせました。白地に茶色の模様のあるてんじくねずみは、道の脇の草を食べています。
彼らの体には、それぞれ紐がかかり、その紐は後ろの荷車に繋がっていました。
どうやら3匹で、まんぼうの乗っている荷車を引いてきた様子です。まんぼうは荷台の上で力なくヒレを動かしました。
「あくぎゃくのかぎりをつくす鬼め、この私が退治してくれる」

状況が整理できずに立ち尽くしていた赤鬼でしたが、その言葉を聞くと我に返り、こん棒を手に身構えました。
すっくと立ち上がったうずら太郎は、首を凛々しく伸ばすと大きな声で鳴きました。
「ぺっぺっぷぅ」

気が抜けるような声が響いた途端、蚕は風にあおられて道の反対側まで吹き飛ばされました。
てんじくねずみは新しい草を食べはじめました。
まんぼうはもう動きません。
そして、ちょこちょこと勢いよく駆け出したうずら太郎は、道に落ちていた小枝につまずいて転びました。

それを見ていた赤鬼は、今まで感じたことのない強い目まいを覚えました。
ずっと血で血を洗う戦いの中で生きてきました。
相手を殺さなければ自分が殺される。
強さこそが正義であり、弱さは罪でした。
弱いものなど、何の価値もない、奪われるだけの存在だと信じてきたのです。

けれど、目の前にいるか弱い生き物たちを見ていると、彼らのちょこまかした動きをずっと愛でていたい、ふわふわの体をなでなでしたいといった思いしか浮かんできませんでした。
彼らを傷つけることなど考えるだけでぞっとしました。

今まで信じてきたもの全てを失った赤鬼は、全身の力が抜け、道に倒れこんでしまいました。
すると、その鬼の頭を、見事自力で立ち上がったうずら太郎が、小さな足で思い切り押さえつけました。
花びらでも落ちてきたのかと顔をあげた赤鬼は、どうだと言わんばかりにむくむくした胸をそらせるうずら太郎を見て、震える声を絞り出しました。

「参りました」

駆けつけてきた他の鬼たちも、同じ末路を辿りました。
心を入れ替えられた鬼たちは、もう悪さをしないと約束し、まず最初に、乾きかけていたまんぼうを海に帰しました。
そして、うずら太郎と蚕、てんじくねずみを、お爺さんとおばあさんの家に送り届けました。
お爺さんとおばあさんは大喜びで一行を迎え、畑をたがやしながら皆で仲良く暮らしましたとさ。
ぺっぺっぷぅ。

うずら太郎

うずら太郎

世界で一番よわい生き物の冒険。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-24

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