きつねつき

そうそう、狐憑きの話があったな。
ふと僕が思い出した話である。

僕の祖母は陰陽師だか祓い屋だか、何か怪しい職業をしている。
確か先生と呼ばれる人は相当名の知れたイタコだったと聞いた事がある。
僕もその先生に会った事があるが、なんだか白くて幽霊みたいな、まあ自分よりも歳を食ったオバサンだった。
まあ先生はイタコというだけあり、死んだ人間や前世まで、多様な人間を自分の身体に下す事が出来るらしい。
僕はなんだか半信半疑で祖母の隣で様子を見ていたのだが、そこには祖母以外に、所謂宗教でいう信者達も居た。
その信者達は死んだ両親だとか、祖母だとかを下してもらって会話をしてボロボロと泣いていた。
僕は正直眠かった。
早く終われと思っていた。
その時、僕の名前が呼ばれた。
僕は半分寝ていたが、いきなりの事でびっくりして飛び起きた。
イタコが僕の名前を呼んだ。
「はい、なんでしょうか」
僕は適当に答えた。
「君が私の生まれ変わりか」
なんて変な奴だ。
「誰ですか」
「私は学者である。君の前世にあたる人間だ」
「はあ」
僕は長ったらしく前世と言われる学者の話をつらつら聞かされた。
話が終わると早々に帰ると言い出し。
僕は祖母に無理やり頭を下げさせられた。
床につけられたデコが妙に暖かくて余計に眠くなった。

まあそんなこんなで、僕の家系は所謂幽霊だとか、妖怪だとかそういうの紛い物かわからないものを信仰している家系である。
そうだ、狐憑きの話だ。
僕の身内には狐憑きが居る。
僕の叔母に当たる人だ。
叔母は数年前位から、なんだか様子がおかしくなった。
所謂鬱状態に陥り、色々な男を漁り始めた。
酒に浸り、男を食い漁る毎日、祖母から言えばそれが狐憑きの「零章」らしい。
叔母はもともと前世で稲荷の神社で誰かを呪って殺した挙句、その後お参り、つまり願外しをしないまま死んでいったらしく、その祟りのせいで狐憑きになったらしい。
人を呪わば穴二つ、という言葉のように叔母の前世は呪い殺してすぐに死んだという。
僕はある程度宗教の知識があったので「なんで人を呪った人間が輪廻転生してまた人間になれるんだ?」なんて疑問を抱えてはいたが黙っていた。
つまり狐憑きとは、意外に身近に居たりする。

ある時僕は鬱病にかかり、大学を休み始めた。
留年ギリギリというところまで追い詰められたのだが、その時は「ああ、僕はもう死ぬし、このままでも構わない」なんて今では考えられない思考をしていた。
その時は酒や煙草ばかりやっていて、全てがどうでもよかった。
そして後に聞いた話なのだが、祖母は僕に狐が憑いていた、と言うのだ。
ある一定の期間、酒に溺れてなかったかと聞かれたので、僕は「そうだ」と答えた。
それは今考えれば狐憑きの「零章」だったのである。
しかし今はもう、僕に狐は憑いていないらしい。
祖母が偶々、拝んでいた時にその狐は現れたらしい。
祖母の話ではかなり位の高いお狐様で、あんなに白くて綺麗なお狐様は初めて見たという。
そこでなぜ僕に狐が憑いたのか、という所が気になってくると思うのだが、はて何故僕なのだろう。
そのお狐様はもともと神社に祭られていたらしい。
しかし取り壊しやなんやらで、神社が無くなり露頭に迷っていた所に偶々僕みたいな病弱で冴えない人間が通りかかり、いい物件だなんて、そんな軽い気持ちで憑りついたらしい。
結局その神様、お狐様は話をしたらすんなり離れていったらしいが、それからというもの僕の鬱状態は回復して大学にも復帰した。
まあ、信じるか信じないかなんて人それぞれだが、案外自分も狐憑きだったりして、なんてそんな話である。

きつねつき

きつねつき

狐憑きのお話。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-24

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