扁桃腺
固いベットの上で目を覚ました時、自分がどこにいるのかわからなかった。誰かが私の名前を呼ぶ声と、目の前で揺れる2つの小瓶を見て、自分が扁桃腺を取る手術をしたことを思い出した。それにもかかわらず、まだ麻酔から完全に醒めていないせいか頭がうまく回らない。
「男の子ですか、女の子ですか」
とっさに浮かんだ意味不明な冗談さえ、腫れた舌が喉を塞いでいて情けない喘ぎ声にしかならなかった。
医者が持つ小さな2つの瓶の中には、おにぎりに入れる梅干しみたいな、さっきまで私と繋がっていた扁桃腺がキュートに収まっていた。24年の間、私の喉の入り口に鎮座し幾度となく腫れては激痛を発し、私を困らせ続けた梅干し。男でも女でも無さそうだった。
それから1週間の入院生活は語るに及ばない。もともと病院嫌いな私であったが、8人部屋に目まぐるしく出たり入ったりしてくる人々を眺め、その家族や友人、恋人の話を盗み聞きしては笑った。ついに私が部屋で一番長い連泊者となってしまった退院前夜の今日も、看護師や医者のお兄さんと他愛のない会話をして、平和に終わろうとしている。少しは病院にも慣れたということかもしれない。
明日からはまた元の生活。梅干しみたいな扁桃腺があったこともそのうち忘れるだろう。早くケンタッキーが食べたい。
そう言えば、3日目の夜に手術をしてくれた医者に聞いた。私のキュートな梅干しの行方。散々それで困った思いをしてきたことに変わりはないが、最後にもう一度挨拶でもしておこうと思った。
医者によると、切除した扁桃腺は地下の研究室にすぐに運ばれ、今頃は細かく切り刻まれてプレパラートの上に置かれているだろうということだった。
顕微鏡から覗く私の扁桃腺のかけらは、キュートだろうか。そんなくだらない疑問を病棟の小さなベッドに置いたまま、もうすぐ夜が更ける。
扁桃腺