ひとりぼっちの電波塔

「ひとりぼっちの電波塔」
 真夜中二時過ぎ、丘で待ち合わせ。
 彼女がやってくるのは大抵、真夏の綺麗な星空のした。雨の日は宇宙船が故障するから彼女はその日を避ける。
 それでもぼくは雨の日も丘で待っている。雪の日も、台風の日も。彼女がやってこないと分かっているのについ丘で待ってしまう。
 それはぼくが電波塔だからだ。
 丘からは盆地の夜景が見渡せる。ぼくはそれを誇りに思う。
 若いカップルが車でやってきて星空の下でセックスする。高校生たちがエアーガンで戦争をする。小鹿や猪がときどき通り過ぎる。
 そんな景色をぼくは見てきた。
 でも、もうそれもおしまい。ぼくが彼女と会話をしているのが放送局の人にばれてしまったから。新しい電波塔が建てられるのだ。
 NHKの番組にぼくと彼女の会話が入り込んでしまうという事件があった。
「あらずいぶん喋りこんでしまったわ」彼女は言った。
「本当だ、もう朝ドラの時間じゃないか」
「あなた、仕事しなくてもいいの?」
「ううむ、また今夜二時に来てくれるかい?」
「そうしたいところだけれど、私はもう自分の星に帰るわ、三光年ぐらいしたらまた会えると思うけれど」
「そんな、ぼくはそんなに待てないよ」
 ピー。
 それはぼくの電波が届く範囲の出来事だったから、全国には広まっていないけれど、かつてそんなことがあったという噂を聞いて、放送局や電力会社の人たちは働いているらしい。
 

ひとりぼっちの電波塔

ひとりぼっちの電波塔

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-22

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