強人弱神 3
第3章 新たな力、思わぬ仲間
美紀との戦いで意識を失った俺が次に目を覚ましたのは地獄……ではなく病院のベットだった。
そんな俺が目覚めてからの第一声が
「夢か……さっきのは」
夢落ちエンドかと思ったその時
「一般にそれを現実逃避って言うんだって、カミヤ」
せっかくの夢落ちエンドをあっけなくぶち壊したのは運命とつかさどる神様、早乙女運だった。
「なあ運、もうちっと夢落ちだって思いを感じさせてくれたっていいだろ?」
なにも一瞬で壊さないでもいいだろ
「そんな時間はカミヤにはないよぉ、カミヤは死神を倒したからかなり有名なんだよぉ、神様の中では」
「そんな中で有名になりたくなんかない」
人間界なら未だしも神様の中で有名になんかなったらろくなことがない……はず。
「なあ、俺の怪我あんまり悪くないんだよな?」
さっきから痛みが全然ないのだ。たぶんあんまり大きい怪我じゃなかったんだと思う。
「うんん、かなり大きい怪我だよぉ、だってカミヤの中身が地面にグチャー……」
「それ以上言うなぁああああ」
まさかそんなに悪かったなんて……
「でね、頭から……」
「すいませんでした、ごめんなさい、だからそれ以上言わないでください」
人生でたぶんこれ以上本気で謝ることはこれまでもそして今後ないと思う。
「そう? 残念まだまだ言いたいことがたくさんあったのに……」
「お前は悪魔か何かか!」
えへへへと笑いながらあんなことを言えるのは悪魔か狂っているヤツだけだ。
「だって私神様だもん」
「そうだったなぁ!」
そうだよ、そうだったよ、こいつは神様だったよ!
くそっ、怪我が……治っているけど完治してるわけじゃないから騒ぐと傷が痛む……
「な、なあ運、そろそろ学校へ行った方がいいんじゃないか?」
とりあえず、こいつをここから追い出さないと俺の命に係わるぞ
「えー、カミヤがいない学校なんてつまんないぃ」
なんと運はそんなことを言いながら泣き目で上目使いをしてきた。たとえ神様だとしても元が可愛い女の子だからこんなことをされると言いづらくなってしまう。
「……はあー、分かったよ、分かりましたよ、好きなだけここにいていいよ」
つくづく俺は女に弱いと思う、自分でも自覚してきたよこの頃
「やったあ、じゃあ友達も連れてくるよ。ちょっと待ってて」
へえーあいつにも友達がいるんだぁ……はい? あいつ今なんて言った? 確か友達が……
「……ちょっと待て運、友達って……」
時すでに遅し、運は走って友達とやらを呼びに行ってしまった。
「まったくあいつは人の了承を得てから呼びに行けってんだよ」
しょうがないのであいつがいないわずかな天国を思う存分堪能することにした。
それから1時間が過ぎようとした頃俺はふと運が早く来ないかなぁと考えてしまったことに身の危険を感じた。
「さて、どうしたものか俺としたことがあんな危険物のことを考えるなんて……地獄行きが近いのかな? この前死神を倒しちゃったし」
あの後美紀はどうなったのだろう。死んでしまったのかそれともまだ死神とともに生きているのだろうか。
結果は思いのほか早く分かった。
「お待たせカミヤ、連れてきたよお友達」
そう言ってノックもせずに入ってきた運は俺の前に人一人は楽々入ってしまいそうな大きな袋を投げ捨てた。
「……お前の友達は特殊な性癖でも持っているのか? それか人間じゃないのか?」
たぶん人間じゃない……というよりそう信じたい。
「え? 何言ってんのカミヤ、人間に決まってるじゃん」
今日俺はこいつに何回信じたいものをぶち壊されればいいのだろうか。
「……お前の友達は変な性癖の持ち主なのか?」
だってそうだろう? 友達(?)に袋をかぶせられて運ばれるなんて普通ありえないだろ。
「え? カミヤだって知ってる人だよわからないの?」
「俺にそんなユーモアあふれた人知りません、断じて俺はそんな人知りません!」
えぇーと驚き、同時に呆れたような顔をこちらに向ける。
「袋を取ってないからわからないのかなぁ?」
袋を取ってもわからねーよと言おうとした途端運は袋を外した。袋の中にいたのは女の子、それも俺がよく知っている女の子だった。
「まさかお前にそんな性癖があったとはな、美紀」
そう、中に入っていたのはこないだ俺と死闘をした美紀であった。しかもその姿ははだ……生まれたままの姿だった。
「ここ、どこ? あれ、カミヤ? なんであたしの家にいるの?」
「ここは俺の病室だ。断じてお前の家ではない……それと頼むから服を着てくれ」
俺は清純な男の子なんだ。そんな男の前に生まれたままの姿の女の子が目の前に……
今、気づいたのだが美紀は着やせするタイプだったらしい、服を着ている時と着てない時とではいろいろとむちむちして柔らかそうなところが……
「お前……着やせするタイプだったんだな」
思わず口が滑りそんなことを言うと美紀の柔らかそうなフトモモが見えたと思ったら
「あれ? なんで上下逆さまなんだ?」
なんと俺は体が一回転するくらいかなり強く蹴られたらしい。おかげで俺はあの後半日寝てたらしい。
起きたとき西条カミヤは一連の事件をまるっきり忘れていた。
「あれ? 美紀に運がなんでこんなところにいるんだ?」
そういえば頭がすごい痛いあの戦いで頭でも打ったかな?
「そういえば美紀は大丈夫だったのか? 最後の攻撃の反動で俺は頭を打ったみたいで今頭がものすごく痛いんだが」
「えへへへ……」
なぜか苦笑いをされてしまった。
俺何か変なこと言ったか?
「そうだ美紀、死神はどうなった?」
「私の中で寝てるよ。さすがの死神もあの攻撃は堪えたみたい」
そうか、よかった美紀がなんでも何でもなくてと俺が思っていると
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうよぉみんな」
運がにこやかと言った。
「そうね」
それに美紀も賛同する。
「は? 本題?」
ただ一人空気が読めてない俺
てか、本題ってなんですか? 俺の見舞いに来てくれたんじゃないんですか?
「美紀ちゃんは何体神様や神獣を倒したの?」
俺がまだ話に入り切れてないのに問答無用で話を進める運
「全部合わせるとそろそろ三十近く倒したと思うけど……」
さ、三十だって⁉
「も、もうそんなに倒したのか、美紀は。すごいな、俺なんてまだ一体しか倒してないのに……」
「もしかして、私だけ⁉」
「……いや、美紀を抜いて、だ」
そいえば俺って美紀も倒してんだった。すっかり忘れてた。
「じゃあ、まだ二体なの⁉ 戦闘経験がものすごく少ないのに私に勝ったっていうの⁉ あ、ありえない」
なぜか、かなり驚いている美紀
なんでそんなに驚いているのだろう?
「お前も知ってるだろう? 俺ってなぜか歩いているだけでケンカごとになるんだ。」
美紀は納得できないという顔をしている。運と言えばもう呆れ果てた顔をしている。
「つまりカミヤは美紀ちゃんにありえないなんてありえないって言いたいみたい」
「そんな偉そうなことは言わないさ、ただ本当に美紀は強かったでも俺はそれよりも強かったって言いたいだけで……」
言っている途中で運が言ったことと大差ないことに気付いた俺は言うのをやめた。
「それって運ちゃんが言ったことと大差ないよね、カミヤ?」
案の定美紀は怒ってしまった。運はまたも呆れ果てた顔をして今度は肩まですくめていた。
「え、いや、まあ、えぇーと……」
そんな二人に嫌気がさしたのか運が話を最悪な方に変えた。
「そんなことより気づいてる、お二人さん? 敵がかなり近くまで近寄って来ているってこと」
「敵って神様か?」
今の俺の状態だと神は無理だけど神獣くらいなら何とか出来そうだけど……
「残念だけど神様だよぉ」
とてつもなくふざけた言い方だが今は我慢しよう。
「マジでか……それはかなり辛いな」
そんなことを考えていると運が
「カミヤに神の加護が有らんことを」
完全に不意打ちだ。運は俺に抱き着いてきた。
「おおお前何してんだよ‼」
これから戦いに行くってんのに何をしてるんだよ運は
「カミヤに私の運命を変える力と私のこれからの運をあげたの」
そんなことしたら運が……
「お前そんなことしたらこれから危険な目に合うかもしれないじゃないか‼」
だが運は何でもないような顔をして一言。
「大丈夫だよカミヤ、だってもしそうなったらカミヤが助けてくれるでしょ?」
その時俺は初めて運が女神に見えた。
一見涙目で俺を見ていて弱いように見えるがその中には強くたくましい一人の少女、否一人の女神の姿があった。
「ああ、何度でも助けてやるさ。お前のために何度だって勝ってやるさ」
俺はそんな女神に答えるように言った。
「じゃあ、行ってくる」
絶対に負けはしないと心に決め神との戦いに向かった。
敵は案外近くにいた。と言うよりも近すぎる病院を出てすぐに出会ってしまった。
「神の戦士か、探しておったぞ」
何で神様ってのは昔の言葉を使うのか疑問に思ったが今は置いておこう。
「奇遇だなぁ、俺もちょうどお前を探してたんだよ」
はっきり言おう今の俺の状態は最悪だ。少し走っただけで体が焼けるように痛い。
「ここで会ったが百年目と言うものだ、早く始めてもらおう神の戦士よ」
戦う気満々で神が槍を持つ。
「百年目ではないがお前はここで叩き潰す」
それに答えるように俺は刀を抜いた。
戦いはかなり俺が不利な状況になってしまった。まず神の槍は避けきれない十回に一回は掠る。
反撃は避けられ逆に攻撃を受けてしまう。
「くそっ、なんでこんなに刀は重いんだよ」
怪我をしているせいかいつも以上に刀が重く感じる。
『神の戦士よ、何をしているのだ』
刀から声がする。
『我が求るは勝利なり神の血なり神の頂点なり、ゆえにこんなところで止まってはおられぬ』
知るかよ。勝って欲しけりゃこの怪我を治しやがれ。
「神の戦士よ止まっているのならその命いただくぞ‼」
ボーっとしていた俺にすかさず神が持っていた槍を投げた。しかもかなり早いスピードで
「ヤバッ」
避けようと思ったが槍が早すぎてたぶん避けられない。刀で薙ぎ払おうと思ったが刀が重くて腕がもう上がらない。
死を覚悟した俺に思わぬ助っ人、いや盾が現れた。
それは美紀だった。美紀は俺が当たるはずだった槍を自分の体でずらした。つまり俺の代わりに美紀は自分の体に槍を刺して俺を守ったのだ。
「美紀‼」
「あはは、当たり所がかなり悪いみたい。痛いを通り越して何も感じないや」
嘘だ、かなり痛いハズなのにそれでも我慢しているのか美紀は。
「喋るな美紀」
「ねぇカミヤ、私ってやっぱり悪い子かな?」
「喋るな」
「だってさこんな終わり方なんて―――」
「喋るな‼」
一生懸命俺に話しかける美紀を俺は無理矢理黙らせた。
「そんな遺言なんて俺は聞かないぞ、大丈夫だ美紀絶対俺が助けるから」
そう言っている間にも美紀から赤い鮮血がまるで川のように流れている。
「無理だよカミヤ。ここから私が復活するのはあり得ない」
「病院でも言ったろ? あり得ないなんてあり得ないって」
「でも―――」
「お前は俺が助ける絶対に助けるから安心しろ」
それを聞いて美紀は寝てしまった。
寝ている美紀からは未だに鮮血が流れ出ている。このままでは確実に死んでしまう。
『その者を助けたいか?』
ああ、助けたい
『そのためには力が必要か?』
ああ、必要だ。
『ならば我が授けよう。我は六つの力を持つ者なり、初めは月の原型すなわち星なり』
星、たぶんこの刀がそうなのであろう。
『月は初め欠け光は弱く軽い姿すなわち三日月なり』
刀がそう言った瞬間刀を持っていた腕は軽くなった。
見ると刀の刃の部分が鋼からガラスのように透き通ったものになった。
「これが月刀三日月なのか?」
『この力であの神を打ち倒し我に勝利を捧げよ、この力を持った者の代償は必ず勝利を捧げることなり』
この刀は軽いだけでなく怪我も治せるようだ。その証拠に俺の体がどんどん治っていく。
「さあ、第二ラウンドと行こうか、神様よぉ」
今の俺ならあいつに勝てる気がする。
俺の予想どうりその後からの戦いは俺が有利になった。神が突く槍も避けたり刀で弾いたりしてさっきまでは避けられた反撃も今度は外さない。
この刀の治癒は高範囲まで行くようで近くに倒れていた美紀の怪我も完治ではないが治っていた。
「そろそろ終わらせるぞ」
完治した俺の体の中で紅の炎がたぎる。
「こんなところで負けはおれぬのだ」
神の方もでかい技を出すつもりらしい。集中をし始めた。
紅の炎が辺り一面を赤く染める。
だが炎が広がらない刀に吸収されているらしいその証拠に透き通っていた刃が赤くなりまるで血でも吸ったかのような赤さだ。
「行くぞ! 神の戦士よ!」
神が金色に染まった槍をこちらに投げた。
「望むところだ!」
俺はその槍を真っ向から切り裂いた。
「何ぃいい‼」
最高の技を破られた神は気違いな声で驚く。
「今度はこっちの番だ‼ 手加減なんてしないからな!」
俺は神に向かって走った。
「うおぉおおおおおおおおおおお」
そして俺は神に向かって紅の刀で横に真二つに切り裂いた。
その瞬間刀が砕けそこから紅の炎が燃える。水風船を当てたかのように水ではなく炎が神を燃やす。
「あ、ああああ、あああああああああああああああああああああ」
神は灰になって燃え尽きた。
強人弱神 3