白い夜
白い夜
白い夜を列車が走って行く
長く連ねた客車を緩やかに引いている
客車の一つの窓際から青年の顔が見える
少年の面影が残る青年は、細かな雪で白く霞んだ丘陵地を眺めている
青年の耳のヘッドホンからは、途切れ途切れのステレオラジオが流れる
列車は各駅に止まるが、次の駅までには、少し時間がありそうだ
そして、止まれば出発までは結構長いらしい
町を歩いてみようかとも思うが、どうせどの店も開いていないだろうし、人が歩いているわけでもないだろう
しかし、このまま列車に留まるのも暇である
昼過ぎに始発駅から出発してから、かれこれ6時間になるが、終着駅まではまだ2時間以上かかるらしい
自動販売機でもあればよいと思って、列車を降りることにする
駅を出てみると、思いのほか雪が強い
頭や肩にサラサラと雪が積もっていく
これは早めに戻った方が良さそうだ
「入りますか?」
と突然、後ろから傘をさしかけられた
振り返ると女性が立っていた
自分より少し年上のようだ
女性は一瞬、おや、という顔をしたが、笑顔のまま青年の頭の上に傘を出す
「大丈夫です」
少し慌てて後ずさる
「そうですか?」
せっかくの好意に失礼かと思い
「列車の停車時間にちょっと出ただけですから」
と、言い訳が出た
「どちらに行くんですか?」
「終点まで」
「各駅で行くんですか?」
「別に急いでないので」
色白でちょっと寂しげな笑顔が妙に似合う女性である
「そうですか、では」
軽く会釈をして女性は町の中へ去って行く
青年は、何かもったいないことをしたような気がしたが、方向を変えて駅の方へ向かう
きっとあの女性は誰か知り合いと自分を間違えたのだ
だから、おや、という顔をしたのだ
出発した列車の中で、青年はそんな事を考えていた
先ほどのことを思い返すと、妙に恥ずかしい
次に同じような事があったら、もっと気の利いたことを言えるだろうか
それがどんな言葉なのかはよくわからない
これから、自分はどんな人とどんな出会いをするのだろう
誰とどんな言葉を交わすのだろう
そんな事を考えているうちに、終着駅を知らせるアナウンスが流れてきた
青年は、愛用のバックバックを背負うと、小雪が舞う人気のまばらなホームに降り立った
白い夜