花より団子
「世の中にか(蚊)ほどうるさきものはなし、文武、文武(ブンブ、ブンブ)と夜も眠れず」と同じ様な状況が、毎年春になると我が家にも起こった。妻が「さくら、さくら」と騒ぎ出すのだ。私はたいして興味がないのだが、兎に角一回出かけないと収まりそうもない。私はついでにうまい物を食べて名所旧跡を見るなら、と「花より団子」を目当てにするが、妻は「団子より花」を顔にだして上機嫌となる。
私は自分のこれまでの生活で「さくら」に不自由したことはない。学校、職場には10本や20本の桜はあったし、通学、通勤途中もしかり。子供時代は、サルの様に木登りをしてサクランボを食べ、口の周りを黒くした。高校時代は古城の桜並木の下を、高下駄の音を立てて学校に通った。今は家の窓から公園の桜が2,3本見える。
町育ちの妻は全国有数の桜の名所に行きたがる。誰もが好む場所で、何箇所かお供をしたが、へそ曲がり(と妻は言う)の私はあまり気が進まない。わざわざ金と時間をかけて窮屈なツアーバスに揺られ、「花より人」を見に行くような事になるからだ。それより、人の殆どいない公園のベンチでコーヒーを飲みながら、美しい花びらをじっくり観賞し、微妙な花の香を楽しむほうがいい。雰囲気だって「高性能の脳」で何千本、何万本の桜の森にいるイメージを作れる。充分楽しめるではないか、と私見を述べたら妻のひんしゅくをかってしまった。「あなたは面白みのない、つまらない人ね、実際の物を見なければ感動は湧かないものよ」と。
「なるほど」と妻をみたら、なんと私より美味しそうな物を注文して食べていた。妻は「花も団子も」楽しんでいる。おやおや、生ビール一口、二口で顔もピンクに染まって春爛漫だ。おかげで私は目の前の「さくら」を楽しめた。
さまざまの事おもひ出す桜かな(芭蕉)
2017年3月16日
花より団子