第00話 修也編
「よっ!久しぶり、シュウ!」
電車を待つホームの上で肩を叩かれ、声をかけられた。声の方に振り向けば、一年ぶりに見る顔がそこにあった。
「センパイ!お久しぶりっす!」
センパイと呼んではいるものの、学校やバイト先での先輩というわけではない。そういう「普通の場所」とはだいぶ離れた場所、いわゆる不良だとかヤンキーだとか呼ばれる集団に属していた時のセンパイだ。グループの頭だったセンパイにはだいぶお世話になった。
聞けば、同じ電車に乗るという。電車に乗り込みながら、近状報告に花が咲いた。
「それにしても、シュウが社会人とはなぁ。あれだけやらかしてても社会人になれるんだな。」
ニヤニヤしながら言われる。
いやいやいや、あんたに言われたくはない。あんた、俺より警察の世話になってただろうが。そもそも、グループに入ったばかりの中坊に、殺しと不義理以外は大体OK、と教え込んだのはどこの誰だ。そのくせ今は警官ってどういうことだ。
悪態をつきたいがやめておく。もう社会人なのだ、ここはサラッと流すのが大人の対応だろう。
「センパイ、人間 本気になればなんだってできるんすよ。」
ーーー爆笑された。
笑いの余韻が残るセンパイに別れを告げ、先に電車を降りた。
ラッシュ時なのもあるだろうが、渋谷も相変わらず人が多い。ちらっと腕時計を見れば、待ち合わせ時間には十分に間に合う時間だ。
夕食の約束をしている従姉を待たせるわけにはいかない。遅刻しようものなら、社会人になっても変わらない、と昔のことを持ち出されるに決まっている・・・ん?遅刻しなくても、立派になって、とか言って昔のことを持ち出されるか・・・。当時のことがある分、どうも身内には弱い。
当時迷惑をかけたにも関わらず、俺が対等でやりあえる相手は親父くらいだ。なにせ俺が不良入りする原因を作った張本人なもんだから、親父もバツが悪いらしい。待望の息子だったというのは面映ゆいが、塾や英会話はもちろん、そろばん、陸上、水泳、体操、果ては男なのにピアノだの茶道だの小学生の頃は自由に遊んだ記憶がない。まぁ、陸上以外は中二の時に全部やめたが。
さて、待ち合わせ場所についたわけだけど、従姉はもういるだろうか。
辺りを見回したその時、視界が激しく揺れた。
咄嗟に横の柱に手をつき、転倒を免れる。
なんだこれ。
視界だけでなく、脳みそが揺さぶられている感じがする。気持ち悪い。
視界の端に倒れている人が何人か映った。
彼女は大丈夫だろうか。確かめなきゃと思いつつ顔を上げることすらできない。
不意に、背中を押された気がして膝が崩れた。
第00話 修也編