Terminus

戻れない。戻したいあの日。

真っ暗な夜の隅で僕の心はうずくまっていた。
この季節。この時間。
それはどうしようもなく君を連れてくる。
あの日へと飛ばされる感覚。

そこには、笑顔の君が。
もう今は見ることなどできない笑顔の君が。
それはそれは美しく飾られている。
のっぺりとしたそれは額に飾られたように大切に大切に。

1歩それに近づいた。
その途端。僕と記憶の境目がわからなくなる。
先程まで歩いていた今日の歩道が遠ざかる。
街灯の色、軋む線路の音、全てがぷつりと消える。
変わらない。いや、変えようもない。
君の香り。髪の香り。
君の言葉。真っ直ぐな言葉。
君の瞳。揺らぎない光。
握った小さな指の感覚が、薄い手のひらの感触がたった今のことのように。
記憶の中の世界は僕を鮮やかに攫う。
宙にふわり、舞い上がって。


その瞬間、足元を見る。
今現在、僕のある世界を見る。

足がすくんだ。

君がいないという現実が。事実が。
それに対する絶望が。
バランスを崩し転げ落ちる僕に降り注ぐ。
突然の痛み。
心臓めがけて一直線に突き刺さる。
思わず溢れ出すもの。
後悔と苦悶が真っ赤になって傷口から流れる。

耐え難い悪夢だ。
夏の暑さにやられた頭では、うまく歩けない。

やけに遅い時間だと云うのに。
思い出したように鳴くヒグラシの声に。
はっと我に返った僕は呆けたように空を見上げていた。

Terminus

悔やむべきあの日。

Terminus

フラッシュバック。

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更新日
登録日
2017-03-16

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