この世界に、ありがとうを
あらすじのない短編小説シリーズパート1
やさしい世界の物語。
一切のあらすじがない理由は読めばわかるかもなのです☆
この世界に、ありがとうを
著:胡桃みしろ
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・・・あいつってさー・・・えー?うそぉ?意外ー!・・・マジかよ・・・
・・・なにそれ!信じらんない!・・・いや本当なんだって、だから・・・
~望Side~
『・・・との噂が立っていまして、まずは望さんに確認をと思いまし』
「そんなことするわけ無いでしょ!」
『ですが、もう噂は』
「私はそんなことしていないんだから!根も葉もない噂なんてそのうち消えるわよ!」
『・・・しかし、現に売り上げの方がここ数日急速に落ちています。このままでは重版は』
「それならしなくていいわよ!新しいのを書けばいいんでしょ!」
『・・・それも、難しいかと』
「はぁ!?」
『今出回っている噂・・・ああいえいえ、決して疑っているわけではないので、あくまでもこういうことらしいということなのですが
「水菜 泉」って、幼馴染のゴーストライターがいるらしい
「水菜 泉」のゴーストライターって男らしい
「水菜 泉」は実は体育会系の落ちこぼれらしい
という噂が流れておりまして・・・』
「最後のは意味がわからないわよ!・・・要するに私が書いた作品は、実はゴーストライターが書いている、だからあんなの買う必要ない、そういう話?」
『その通りです。なので、望先生には申し訳ないのですが、今回で出版契約の方を終了とさせて頂きたく・・・』
はぁ~あ、って、心のなかでため息を付く。実際にため息が出ないのは、物書きの癖らしい。
私は15歳の中学3年生にして、たった今失業した「元」文芸作家「水菜 泉」こと『水野 望』
両親は既にいないし、実質一人暮らし。寂しくは・・・あまりない、かも。
それにしても、どこのどいつがそんな噂を広めたのか知らないけど、噂を広めたやつ片っ端から打首にしてやりたいわね・・・はぁ。
『ピーンポーン』
あー、今出る気ないわ、これが宗教の勧誘とかだったらブチ切れること間違いなしだし、これでも一応清楚系で通ってるんだし、居留守居留守
『ピーンポーンピーンポーンピーンポーン』
・・・しつこい・・・鍵開けられるあいつ以外と話す気は今ないっつーの!
『ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン』
「だあああああああああああ!しつっこい!!勧誘とかならかえ・・・アレ?陽ちゃん?」
「やっと出てくれた・・・電話の話し声、外までおもいっきり聞こえてたから、居留守の意味ないよ、望さん」
「陽ちゃんなら鍵持ってるでしょー?なんでこんなにインターホン鳴らすのよ・・・無駄に疲れちゃったじゃない!」
「ごめんごめん、鍵、ここに置き忘れてさ」
「鍵の意味がない!鍵の存在意義消えてる!レゾンデートル崩壊!」
「本当、語彙だけは無駄にあるよね・・・」
この子は「日野 陽」中学2年生、14歳。名前はあきらだけど、感覚的にも語呂的にもいいから「陽ちゃん」って呼んでる。
無駄に女子力高くて、こいつの作る料理めちゃめちゃ美味しい。いつもご飯ありがとうございます、とこころの中で呟いておく。
「それで、出版社との契約打ち切りだって叫んでたけど、本当に?」
「ええ・・・こういう噂が流れているらしいのよ・・・」
~陽Side~
あーつーいー・・・いくらまずは身体を作るとは言っても、この猛暑日に持久走とか、マジ入る部活間違えた・・・
早く帰ってクーラーのかかった部屋で涼みたい・・・その後でいいよね、望さんの夕飯持っていくの・・・
『・・・!・・・・・!』
ん?
『・・・わからないわよ!・・・・・・私・・作品は・・・ゴーストライター・・・』
望さんの声だけど、誰かと話している?というか叫んでいる?しかも思わず聞き耳立てたら、ゴーストライターとか聞こえたし・・・
とりあえず、望さんに話を聞かないと・・・ん、鍵、また持ってくるの忘れた・・・
しょうがない、インターホン、気づいてくれるかな・・・叫んだあとだからへばってないかな・・・
~望Side~
「・・・って感じで、噂が流れて、出版社との契約打ち切り、やんなっちゃう」
「望さんはとりあえずご飯食べて落ち着いたほうが良さそうだね。ちょっと疲れてるけど、ささっと夕飯作って持ってくるね。あ、荷物、置いて行かせてもらうね」
「陽ちゃんいつもありがとー☆」
「相変わらず望さんは現金だなぁ・・・じゃ、行ってくるから、鍵閉めないでねー」
「はいはーい」
とりあえずいつものこたつテーブルを準備しておこうっと。クーラーとかうちはないから、扇風機。文明の利器など要らぬ!はははははー!・・・
「望さん、ただいまー」
「ちょ、陽ちゃん早すぎじゃない!?」
「ああ、今日家を出る前に殆ど作っておいたんだ」
「陽ちゃん手際良すぎー!マジいいお嫁さんになるよー!」
「いや、ぼく、男だし・・・」
「とりあえず食べよー!お腹すいた!もうチョー空いた!盲腸は空いてない!」
「望さん、語彙はあってもギャグセンスはアレなんだよね・・・」
「なにか言った?」
「なにも」
・・・・・・・・・
「はー食った食った!」
「望さん、いくらなんでも女の子がいう言葉じゃないよそれ・・・」
「んー?陽ちゃんしかいないし、いいじゃん」
「さっき、扇風機じゃむーりーとか言いながら窓開けてたのは望さんですよ・・・」
「へっ?わー!今のナシ!ないからね!」
「余計に酷くなるだけだと思うよ、それ」
ガラガラガラ、ピシャッ
「うー、でも暑いのー!」
「それならうちにくればいいのに・・・」
「陽ちゃんのお父さん、すっごい有名な画伯だし。頑張って私が描いた絵が、幼稚園の子の落書きにしか見えなくなっちゃうから嫌」
「望さん才能あるって、お父さん言ってたよ?」
「そんなのお世辞お世辞!いくら息子にって言っても、私と陽ちゃんの仲知ってるんだし、お世辞を言ってるだけでしょ」
「ぼくがお世辞を言ったとは考えないあたり、信頼されているのかな・・・?」
・・・・・・・・・
「「それで、どうしよう」」
「『水菜 泉』って名前、もうやめて、新しい名前で新たに契約してくれる出版社探してみる?」
「無理だと思うよ。望さんのことは多分、出版業界にもう情報出回ってるだろうし」
「でも、このままだと餓死しちゃう!」
「基本的に、望さんのご飯、ぼくが持ってきたの食べてるだけだよね?」
「ごめんなさいお願いだから見捨てないで」
「見捨てる気はないよ(笑)」
・・・・・・・・・
全く話がまとまらないまま、陽ちゃんも門限あるし帰らざる得なくなって、結局今日は散々な一日だった・・・
更に億劫なのは、明日は、私の幼稚な絵も出してみろと陽ちゃんのお父さんに言われてしぶしぶ出した絵画コンクールの結果発表の日。
普段は文芸作家としての仕事で自宅学習で登校扱いにしてくれてるけど、こういう時だけは学校じゃないし流石に行かない訳にはいかない。
はー・・・よりにもよって明日とか、出すんじゃなかった・・・・寝よ。でも暑い・・・Zzz
・・・・・・・・・
ジリリリリリ!ジリリパシッ!
なんだかんだ言って、相当疲れてたのか、すっごくよく寝られた・・・・
それも目覚めもスッキリ!いいことあるかな!・・・ないよね。
セルフでどんよりしながら、会場に向かうことにする私。
あーあ、宇宙人が来て地球侵略してくれないかなーそうすればコンクールの結果発表とか見に行く必要ないのに。
~陽Side~
・・・出来るだけの事はやった。
あとは、結果が出るのを待つだけ。
ここまで来て、ダメでした、とか、笑えない。
望さんのために。ぼくのために。ここまでやってきたのに。
・・・もうひと踏ん張りしよう・・・そう思い直して、ぼくは再度キーボードを叩き始めた・・・
~望Side~
絵画コンクールの結果発表の会場。
みんな正装だけど、私はどーせ関係ないしいつもの服。
だからなのか、みんな何かと私を見てくる。
まー結果が出たら、帰って、陽ちゃんに言えばいいんだよね。
ダメだったー!って。
絵画コンクールの発表の人が舞台上に出てきた。そして絵も運ばれてきた。
名前を読み上げるとともに、絵の発表なのね。
『それでは、第○○回絵画コンクール、大賞の方のお名前を発表いたします。呼ばれた方は、壇上まで上がってきてください』
『みずな いずみ さん』
え?
それは、私のペンネーム・・・?
『みずな いずみ さん。いらっしゃいませんか?・・・ん、はい、はい』
?!?!舞台袖から小走りで男の人が近くに行って、何か発表の人に告げて行ったけど、そんなことはどーでもいい私の頭はパンク状態!
え?同姓同名の人がいるの!?そんなはずはない!有名な人なら検索に引っかかるから、引っかからない名前にしたんだし!?
『失礼いたしました。手違いにより、読み上げる名前が間違っていたとのことです』
なーんだ、何の手違いか知らないけど、要するに間違いなのね。変な間違い。
『みずの のぞみ さん』
え・・・?
『みずの のぞみ さん いらっしゃいませんか?』
「はい!はい!?」
『どうぞ壇上へ』
私の作品が選ばれた!?え、なんで?そんな私そんなに実力、あったの・・・?
黒幕を降ろされたその絵は、確かに私の絵だった・・・
~陽Side~
『おはよぉーっす』
「おはよー」
『よぉよぉ、お前「水菜 泉」のゴーストライターだって自分で言ってたけどよ、その証拠を今日見せるって言ってたけどよ、どうなったん?』
「証拠はこれだよ」
・・・ICレコーダー
【望さん、いくら女性作家の方が受けがいいって言っても、これじゃあもう「水菜 泉」=「水野 望」って決まってるみたいだし、無理だよ
じゃあ陽ちゃん一人で書けばいいじゃない!私は名前を貸しただけだし、私は実際に書いてないのは事実なんだし・・・】
『『おぉーーーー!』』
「これでみんな納得してくれた?」
『おぅおぅ』
『もちのろんだな!』
『はっきりした証拠ね!』
・・・これで、全部のピースは揃ったはず。
~Three person show~
「陽ちゃん!私!絵画の才能あるかも!」
「望さん、おめでとう。だからお世辞じゃないって言ったのに」
「ありがとー陽ちゃん!・・・あ、電話?」
「はいもしもし水野です」
『△△出版の田中です。望さん、ゴーストライターの件、はっきりしましたよ』
「え、じゃあ」
『ええ、間違いなくゴーストライターがいるという証拠が出ましたね。ネット上にアップされていますよ』
「・・・え」
『ネット上にアップされているものの一部を再生しますね』
【望さん、いくら女性作家の方が受けがいいって言っても、これじゃあもう「水菜 泉」=「水野 望」って決まってるみたいだし、無理だよ
じゃあ陽ちゃん一人で書けばいいじゃない!私は名前を貸しただけだし、私は実際に書いてないのは事実なんだし・・・】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇ」
『念のため声紋鑑定もしていただきました。99%間違いなく、望さんと、ゴーストライターの、陽さんの声紋とのことです』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・陽ちゃんだけは信じてたのに!・・・・・・・・・・・・嘘つき!」
「望さ」
「私に顔を見せないで!声を聞かせないで!うぅぅぅぅぅぅわああああああああああああああああああんんんんん!!!!!!!!」
「望さん!!!!!!!!」
タッタッタッタッッッッッッッ
「すみません!案の定勘違いしたまま駈け出して行ってしまって!」
『そうなるとわかっていて、陽さんはこうしたのですし、対応はできているのですよね?』
「はい、大丈夫です。・・・もう大丈夫です、すみません、では」
「何よ離してよあんたたちもアイツの味方をするの!」
『落ち着けって水野』
「離して!離してよ!!!」
「望さん」
「・・・何よ!人を嵌めて楽しい!絵画コンクールもどうせ嘘なんでしょう!?」
「・・・この電話で、相手の人と話をして」
「・・・」
『水野さんですね、まずは絵画コンクール大賞おめでとうございます』
「・・・」
『誤解をまずは解いていきますね。日野くんは、貴女のためにゴーストライター説を証明した、とまず言っておきます』
「・・・」
『日野くんは、貴女の経済的援助のために、ゴーストライターを買って出た、そうですね?』
「・・・そうですけど、それがなにか」
『日野くんは、その状態は長くは続かないと、どうにかできないかと、手段を模索していました』
「・・・」
『水野さん、貴女の才能は、今日認められましたよね?「絵画」という才能を』
「・・・どうせ出来レース」
『それは違います。それが出来レースなのでしたら、この状態にはなっていない、ということで一先ずご納得していただけますか?』
「・・・」
『申し遅れました、私、××出版の、水菜と申します』
「え、水菜さん?え、××出版って、児童書を主に扱う・・・」
『はい。左様でございます』
『あと、絵画コンクールは出来レースではない、というのは間違いないのですが、結果は即座に私に届くように、としていたのを、発表する名前と私の名前を取り違えてしまったようで、私の苗字が珍しいもので、偶然にもペンネームと一致していた故に、申し訳ありません』
「・・・あ、いえ、人の苗字に文句をいうなんて失礼なことはしません!」
『有難うございます。これでとりあえず誤解は解けましたでしょうか?何かしら説明不足な点など御座いましたらご遠慮なく仰ってください』
「あ、はい、ここまでは「とりあえず」ですけれども、納得しておきます」
『有難うございます。本題に入らせて頂きますが、日野さんに文章を担当して頂き、水野さんに絵を担当して頂く「絵本」の出版契約を頂きたいのですが、問題などありますでしょうか?』
「・・・はい?・・・あ、はい、問題はない・・・ですけれども、何も作品を出さずに、いきなり契約ですか?」
『絵本の一冊目は、水野さんのこれまでの絵と、今回の大賞の絵を表紙に、それに合わせて日野さんが文章を書いて頂いていまして、既に作品として出来上がっております』
「・・・陽ちゃんが!?」
「望さん、望さんが決めることだから、ちゃんと、話して」
「・・・うん」
『そちらに既にサンプルを送らせて頂いているのですが、それでご納得頂けましたら、出版契約の方を前向きに進めていきたい次第です。当然ですが、無理は言いません』
『これらしいぜ?ほれ、お前らもう水野離していいだろ・・・』
「あ、うん、ごめんね」
「どうかな、望さん」
「・・・これ、陽ちゃんが編集とかまでしたの?」
「ううん、その、電話口の「水菜」さんがとてもよくしてくれて。相当ぼくらのこと買ってくれているみたいだね」
『どうでしょうか?口が過ぎるかと存じますが、これまでは【偽りの書】を書き続けてきたと思っておりますが、これからは、本当に二人で、【本当の絵本】を書いていきませんか?』
「・・・・・・・はい!」
記念すべき最初の絵本の名前は
「この世界に、ありがとうを」
著:日野 陽 作画:水野 望
~Fin~
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この世界に、ありがとうを
この世界に、ありがとうを
はい、別サイトにて掲載していましたオリジナルSS第一弾の方をこちらに持ってきましたのです☆彡
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ただ、ルビの振り直しだけ疲れたです☆彡
オリジナル作品でしたが、お読みいただけて何よりなのです☆彡
気に入りましたら、パート2の方も読んでいただければより幸いなのですすー☆彡