悪魔と名づけたきみ

悪魔と名づけたきみ


  







    





初めて出会ったときを きみはまだ憶えてくれてるかい


きみが ささやいてくれた か細い心地の冬の朝だ


「あまりにあなたが孤独だから 日照り雨が流れ込んだ」


味方のいなかった僕は おずおずときみに魂を売った


きみという悪魔と ぎこちなく手を結びながら





  





  
刹那の 一乗寺をとぼとぼ荒んで彷徨った


あどけない 出町柳で訪れない人を待った


哀しすぎる北大路は 無を費やした8年間だった


色数の少ないフィルムのように 帰れない生き地獄と恍惚を思い出してる


きみという悪魔が ずっと連れ添ってくれた日々のことを





  





  
求めてはいけないだれかに54回コールした夜があった


求められないだれかの気持ち確かめたくて 失踪した真夜中があった


求めるだれもが裏切り者に 見えた日々があった


求めるべくもなく だれもが消え去って 一人だけ残った


きみという悪魔と 固くわびしいシングルベッドで眠りながら





  





  
一途に神を求めたときもあった


逃れたかった 呪われた身を救われたいと思った


審判の日に罪を断罪する新約聖書の傍らで


僕を罪人のまま許したきみが微笑んでいた 


悪魔のきみの方が 本当は信じられたというのに


きみという悪魔と 優しい煉獄に落ちてゆきながら





  





  
あのワンルームで どれだけの人と愛し合ったか


あの白い壁で どれだけの不安に殺されただろうか


あの浴室で どれだけの薬を泣きながら吐いただろうか


あのドアにもたれながら 僕はいったいなにを待ち続けたのだろう


きみという悪魔だけが ずっと見守って指を絡めていてくれた 





  





  
定まったかのように 終わりがいつもあった


宣告を受けたように 死がいつもそこにあった


写真で映したように 僕の遺骸が汚らしい街に転がっていた


すべてを諦めて 待つようにして そのときを 蒼く傷んだ魂でそれを待った


きみという悪魔が 生き損ないの僕の最後に踊ってくれるのを夢見て






  





  
僕が悪魔と名づけ はかなく吐き捨てた悪魔のきみ


僕が全てに背を向けても 横たわっていた悪魔のきみ


僕と共にどこまでも堕ちていった 悪魔のきみ


僕が燻らすジタンに染められた悪魔のきみ


青の鬱と 赤の熱を まとった 悪魔のきみ


最後の命の跳躍の日に キスをした 悪魔のきみ






  





  
夜の6階 拘禁病棟 終わりはあっけなく終わりを告げた


開かない強化ガラスからの満月 一番よかった性交を思い出してた


薬で震える指で あのひとにもはや送れない恋文書いた


生き残ったことが 生きた屍への緩やかな始まりだった


きみという悪魔が 死ねなかった僕の屍を拾って埋葬した





  





  
屍なりに 懸命に 生きることを疾り続けようとした


すべての誰にも もはや根底の孤独を明かそうとしなかった


本当は苦しかった ただ一人の知らない誰かを求めてた


午前4時のベッドは 「誰もお前を永久に愛さないさ」と嗤っていた


きみという悪魔が 背中を抱きとめてくれていることを気づかないまま





  





  
多くの僕を語れないまま 多くの優しげな人々が通り過ぎた


時間をくれない時間が 弾道の速さで20年を投げつけた


女が去り 男が去り 言葉が去り 何もなく僕だけが残った


「本当は人がほしかったんだよ」 一滴の涙腺の綻び


きみという悪魔よ きみはきっとそれを見逃さなかったんだろうね




  





  
あの街へ あの時間へ 今すぐに走り帰りたいと思った


裏切ったあいつや 共に眠ってくれたあの人へ 帰りたかった


あの頃の 生き地獄と恍惚を もう一度だけ拾いたかった


日々を瞬く間に喪失して 遺言のような残り火の燃えカスを辿りながら  


きみっていう悪魔は 死ぬほど寂しいこの男を笑ってくれるかい





  





  
むしょうに いま 今までになかったほど 求めている 


だれかを すべて僕にくれるだれかを 途切れそうなこの今 求めてる


だれかを だれかを 狂おしく 息を止めてしまいそうに 求めている僕がいる


その瞬間 だれの真心にも 決して満たされなかった 僕を 僕は哀しく思い出した


きみっていう悪魔は きっと誰よりも僕のこの哀しみがわかるだろう




  





  
きみのこと思い出していた


きみだけが 最後まで残った


きみは 悪魔のベッドに僕を誘った


いつしか耐えられない冬の路で きみを憎んでいた


あらゆる 僕を 見てきたきみ


いつしか差し込む朝の陽が揺れる部屋 きみだけが宿命だった


壊れた鏡の中で きみを見ていた


きみは きっと ぼくだったんだ


諦めた 長い年月を君に詰めた


背中を向けて 振り返らなかった


きみと 戦うこと


きみに 愛撫されること


もはや ここしかなかった


なのに 君を棄てることができなかった


息を引き取るまで


きみは 僕に寄り添って生きるだろう


きみは最期の瞬間まで 生き切れなかった僕の歌を口ずさむだろう




こんな夢はもうすぐ終わる 



朝焼けを浴びて すべてをきみに詰め込んだ




詩っていう名前の 悪魔のきみと眠りながら



  







    

悪魔と名づけたきみ

僕が頻繁に使う、詩の擬人化で書いた作品。

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich
先端KANQ38ツイッター https://twitter.com/kanq38

悪魔と名づけたきみ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-14

Copyrighted
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