リキッドフレンド

マサル、ナオト君が大変なのよ。
お母さんが足元を滑らせるようにして奥の居間からすっ飛んできた。算盤の習い事から帰ってきて、玄関で靴を脱いでいた時だった。マサルは僕の名前。ナオトは僕の一番の友達だった奴の名前だ。
声と体を小刻みに震わせるお母さんに手を引かれて大きな病院に向かった。僕は今まで近所にある馴染みの病院にしか行った事が無くて、いきなり飛び込んだ非日常に心臓が妙にうるさかった。繋いだお母さんの手はいつもと違って冷たくて、だけど汗でヌルヌルしていた。
勢いよくお母さんに開かれた部屋の扉の向こうにはナオトのお母さんが居た。白い部屋に溶け込んでしまいそうなほど白いベットに腰掛けて項垂れていた。その背中は酷く曲がっていて、まるで猿だった。
ナオト君、容体は?
僕のお母さんの息の乱れた声は静かな部屋に嫌に大きく響いた。
容体。ナオト、ナオトはどうかしたのか。何かあったのか。病気なのか。大丈夫なのか。僕はどうして此処に連れてこられたのだろう。そう言えばどうしてナオトはここに居ないのか。
心臓がまた増して鼓動が大きく打つのを感じた。そこでやっと、自分が嫌な予感を感じていた事に気がついた。
もう、先生はダメだって。もう元の生活には戻れないって。
答えたナオトのお母さんの声は低かったけど、やっぱり震えていた。
そんなことはないわ。今の医療技術は凄いのよ。それにナオト君と同じ症例は今世界ぐるみで取り組んでいるからきっと...。
僕のお母さんの声に被せるように、ナオトのお母さんは溜息をついた。
可能性の問題ではないの。
ナオトのお母さんが苦しそうに唸る。
世界じゃない、1人の息子の問題なの。もう、終わりだわ。こんなに若い子の子がどうしてこんな目に。ねぇどうしてよ。
ナオトのお母さんはより深く背中を丸めた。
僕のお母さんはなにも言わないまま踵を引きずって窓の方へ歩いて行った。
項垂れていたナオトのお母さんがゆっくり顔を上げ、僕を見た。今日初めて見たその顔は暗い陰が濃くなって、だけど唇は赤く濡れていた。乱れた髪の毛の隙間からは黒目しか覗いておらず、ますますその姿は猿の様で気味が悪かった。見つめられた僕の背筋が下から凍る。
おもむろにナオトのお母さんが立ち上がって僕に近寄ってきた。僕は思わず左足を後ろに引いて身構える。
ゆっくり、ナオトのお母さんがだらりと下げた手を僕の顔の近くまで上げてきた。骨の浮き出た手首が目の前で揺れて、僕は反射的に目をつむった。シャックリのような間抜けな音が喉から漏れた。
ナオトのお母さんが触ったり喋ったりしないので、僕は薄く目を開いた。
突き出されたナオトのお母さんの手には水筒位の大きさの瓶が握られていた。蓋は金色の、ジャムを入れる様な形の瓶。
その中には青色の透明の液体が入っていた。夏に食べたカキ氷のブルーハワイを思い出させる、青く透きとおった液体。白い部屋の中で、その青はあまりにも眩しかった。
その美しさに思わず自分の手の中に収めて転がすとチャプチャプと音がした。指先からはじんわりと熱を感じた気がした。青の向こう側から歪んだ僕の指が見えた。
それ、私の息子なの。
頭の上からナオトのお母さんの低い声が降ってきた。
マサル、ナオト君なのよ。
窓辺で花瓶に入れられた花をいじっていた僕のお母さんは鼻声で言った。



急性液体化症候群。
近年、世界中で多発している病気。症例は確認しているだけでも数千件。人間の体が何の前触れも無く液体化してしまうのがこの病気の症状。変化後の液体の質量はおよそ500g。液体は無色透明や有彩色のものもあって法則性が無い。体に詰まっていた臓腑、脳、血液が一体どこに消えたのか、現段階では何も分からない。治療法は一切見つかっていない。自然に治癒したという症例も無い。世界の政府が総力を挙げて研究に取り組んでいるが、朗報が国民に届いたことは一度もない。残された人たちにできる事は人間の進歩が飛躍するその時まで液体を保存する事、ただそれだけ。



ずっとナオトにはイライラしていた。口を縦に割る様にして笑うあいつの顔が、僕の方に回す硬い腕が、僕はいつしか嫌いになっていた。
出会ったのは去年の6月。中二のクラス替えを迎えて、周りの空気が少し落ち着き始めた頃だった。
僕にとってナオトは誰にでも優しい、でも話した事はない唯のクラスメートだった。ナオトはみんなから好かれていて、いつも大声で笑ったり笑われていた。あいつの机の周りにはいつも人だかりができていた。
遠くから見るだけだったが、きっと誰にでも優しかったんだと思う。そして予想どおり、ナオトは僕にも優しかった。
あの頃、僕は我が強くて周りから疎まれていた。自然な流れで僕はいつも教室でひとりだった。そんな僕に、音楽の授業中、班行動であぶれて笛を持て余していた僕に、あいつは声をかけて来た。
リコーダーをさ、セロテープで留めて長くしたらヤバくない?今度女子のリコーダーを一緒に集める同盟組もうよ、な?
僕はその話の内容というより、厳つい顔をしたナオトの割と高くて細い声に笑った。笑い声も高いけど、喋る声も高いんだ、と。僕の反応に安心したかのように、あいつも遅れて笑った。ただそれだけ。
ただそれだけのきっかけだったけど、僕たちはその日から友達になり、一カ月も経たないうちに親友と呼び合う様になった。その後、自然な流れで僕の周りにも人が集まるようになった。
あいつは優しかった。僕に対して本当に優しかった。僕に気を回し、でもそれを恩義に着せるような事はしない。人として、立派なやつだった。でもそれば僕を惨めな思いにさせた。
例えば飯を食う時に僕がうどんを食べたいと言えばあいつは俺も〜と言う。あいつに文句を言ってもマサルは頼もしいなぁと笑うだけ。僕を悪く言う周りには僕の良さを全力で伝える。僕が嫌いなものをあいつもそれを悪く言う。ナオトは僕の全てを肯定する。それが友達の当たり前の行動であるかの様に。
時々、自分がナオトの神様になった気分になった。
嫌だった。僕はそんな誇らしい人間なんかじゃない。僕はお前ほど、そんな大層な人間じゃない。
ナオト自身の意思を大事にしてほしい。僕はナオトにおはようと、声をかける前にいつもそう祈った。それを伝える為なら別に喧嘩したって構わなかった。僕が泣く始末になったって、その結果あいつが僕の嫌な部分に気がついたとしたっていい。あいつがワンテンポ遅れて笑うたび、僕は心臓を握られるような感覚を覚えた。
でも無邪気に笑いかけるナオトの前に立つと、僕はただ口の端を上げるだけ。まぁ、いいか。そうやって、いつもどうでもよくなった。
本当に一体どうして僕はあの日、あんな状況にいたのか。
あの日、僕たちは学校の帰り道の河原をいつもの様に並んで歩いていた。あいつはいつも通り、僕の左側を歩いていた。
どこの会話からああなったのか。僕は押していた自転車を地面に叩きつけて喚いていた。叫んで、手を振って、怒っていた。普段大きな声を出さないから声を出す度体が前のめりになった。膝はガタガタ震えたし唾が止まらなかった。
腹が立つ。嫌いだ。側に寄らないで欲しい。
そんな言葉を繰り返しナオトにぶつけた。自分のことでいっぱいだったからあの時は気にもしなかったが、あいつは終始一言も返さなかった。黙って、聞いていたのだ。
一通り言い終わり少しすっきりしたあと、すぐ後悔した。
違う、と。
僕はこういう形でこの想いを伝えたかったわけではない。こんな言葉では僕の気持ちはナオトに伝わらない。
お前自身を大切にしない態度に、腹がたつ。俺に気を回し続けるお前が、嫌い。優しいお前の側にいると、胸が潰れそうになる。
どうしてこんな簡単なことも伝えられないのだろう。伝わらないんだろう。
羞恥と罪悪感で息が上がった。僕は黙って砂利の上に立つナオトの足元を睨んだ。ナオトの顔を見る事ができなかった。
あの後、僕は黙ったままのナオトを置いて逃げた。自転車のギアを最速にしてとにかくペダルを漕いだ。目の粗い砂利にもたつきよろけながら、それでも踏ん張った。
振り向けば、遠ざかるあいつの姿が目に入る。きっとあいつは泣いている。優しいあいつのことだから、きっと自分を責めて泣いている。
錆びた車輪がときおり軋んでも尚、僕は足を動かし続けた。早く前へ前へ、と。
ナオトが青い液体になる、2日前の出来事だった。


僕は毎日、放課後にあの大きな病院へ向かう。いつも通りの右手の階段を上がってナオトの病室に入る。ナオトの部屋にはベットも心電図もナースコールも無い。四角いテーブルが一つ置かれ、その上に瓶に詰められた青いナオトがいる。横には少ししおれたスイトピーが生けられている。
よぉ。調子はどうだよ。
僕は部屋に入る前に声をかけた。もちろん返事はない。瓶の中では、昨日より少し緑味を帯びた液体が光に照らされて輝いているだけだ。僕は病室に足を入れた。
今日はな、たんぽぽを河原で摘んできたんだ。黄色が綺麗だろ?
僕はわざわざ「河原」を含ませてナオトに喋りかけた。返事はない。端から見れば瓶に喋りかける男の子、というのが滑稽で僕は小さく笑った。弱弱しいニラの様なスイトピーをゴミ箱に捨て、新聞にくるめてきたたんぽぽを花瓶に挿した。僕の指先はたんぽぽの花粉で薄く黄色になっていた。この色が、ナオトの青に似合うような気がしてたんぽぽを選んだ事を喜んだ。
僕は物を言わないナオトに、安心している。
果たしてこの液体にナオトの意思が残っているのか、分からない。もしかしたら僕の罪悪感に気がついているかもしれない。毎日通ってくる僕の事を疎ましく思っているかもしれない。あの日の僕の事を、憎んでいるかもしれない。
でもこの液体には、縦に笑う口はない。三日月のような目もない。とんがった耳もモアイみたいな鼻も、馬鹿に長い足も僕によりかける腕もない。
この液体は、僕の知っているナオトではない。
僕は心の底から安心して、毎日、教室で起きたとりとめもないことを話しに此処へ来る。話している間、僕はとても楽しくなる。理科の先生がズボンを裏表逆に履いていたんだ。グラウンドのウサギが子供を産んだんだ、白くてふわふわだぞ。給食ににんじんケーキがでたんだ、いいだろ?
青い液体は瓶の中で、微かに揺れたり泡を出したりもしない。たまに色を変えることもあるけど話に夢中で僕はあまり気に留めない。朝、歯を磨くのにコップに入れた水道水と同じ形をしたナオトは沈黙を貫く。
無機物で取られられない青い美しい液体を前に、僕はあいつが人の形をしていた時よりよく話しかける。そして、人の形をしていた時より上手く話せた。
嫌いだったのに、一体どうして。
僕の頭の中でそれは紫煙のように浮かび、すぐに自信無さげに薄れて消えた。
僕は今日も喋り続ける。


僕が病院に入ると女の悲鳴が聞こえた。ラウンジには誰も居ず、受付の何時ものおばさんも居ない。右手の階段の奥から沢山の人の足音が聞こえる。
ガシャンバリバリパリーンパリン
何かの割れる音が階段の向こうから聞こえ、すぐに人の悲鳴やら怒鳴り声が続いた。
階段の先で何かが起こっている。階段の先にはあいつがいる。
走ろうと思う間もなく僕は階段を駆け上がっていた。
三階に辿り着く最後の段に差し掛かった時、誰かがものすごい勢いで突進してきた。胸には青い瓶が押し付けられている。
その人と僕がぶつかった。その人は後ろに仰け反り、僕もかけそびれた段に足を伸ばしたが靴裏のゴムが滑る音が聞こえた。周りがスローに見える。心臓がこめかみに移動したかのように、世界は鼓動の音しか聞こえなかった。あぁ、死ぬな、と思った。多分、ぶつかった人はナオトのお母さんだとも思った。
十何段もの高い場所から投げ出され宙を舞う僕の胸めがけて、何かがゆっくり落ちてきた。蛍光灯に照らされて青く輝く、ナオトだった。割れていなかったのか、良かった。ゆっくり、ゆっくりクルクルと落ちてくるナオトに僕は手を伸ばした。胸に迎えたナオトは瓶だからもちろん固く、だけど今まで触れた何よりも温かかった。
ごめん。
なぜかその言葉が口から出たと思うと、頭と背中に強い衝撃を感じた。目の前から光が遠ざかる。



打撲、だってさ。
僕はテーブルの上のナオトを見上げ言った。
階段から落ちた僕はあの後意識を失って倒れていたらしい。軽い脳震盪と背中の打撲で三日間の入院を余儀なくされた。病院に駆け込んできた僕のお母さんは、
この馬鹿、あの靴は底がすり減ってるんだから新らしいの買えって言ったでしょ。
といって抱きしめてきた。打ったところに手を回すものだから僕は静かに顔を顰めて我慢した。
ナオトのお母さんは、どうやら海へ心中しようとしてナオトを持ち出そうとしたところを見つかり、パニックになったそうだ。今は警察に連れて行かれたらしいが僕にもまだよく分からない。
ナオトと同じ病室に入れられたのは僕のお母さんの計らいだった。2人なら寂しくないでしょうと。もう夜になるからとお母さんは帰ってしまったが、ありがとうというのが恥ずかしくてまだ言っていない。
お前、他の水が混ざったらどうなるんだろうな。
僕はナオトにそう言った。返事はないけど、僕の頭の中でナオトは首をかしげる。そしてすぐに馬鹿言うんじゃないよ、と笑う。
海で心中と聞いた時、いいな、と思った。
死にたいわけではない。あの日の事を、このまま曖昧にできるならそれでもいいかな、と。
ナオトに親友だよなと言われた時、本当に嬉しかった。僕には親友なんて、まして友達なんて居なかったから、これから待ち受けるであろう楽しい日々に胸を馳せた。目の前のあいつの笑顔が、明日を運んでくる太陽のように眩しかった。
でも、僕が感じた大部分は、分かり合えない煩わしさだったのかもしれない。
僕がナオトのことを大切に思い、それを守ろうとすればするほど何か黒い淀みが生まれ、次第に大きくなる。その淀みは戻ることなく、確実に僕らの間に渦巻き、そして何かの拍子に全てを飲み込む。
あの日の僕らのように。
もしも僕がナオトの全てを受け止められたなら、こんな事にはならなかった。もしもあいつが僕の全てを知っていたら、あんな状況で区切られることもなかった。かもしれない。
僕とナオトが混ざりあえば、僕たちはどこまでも僕で、どこまでもナオトになれるかもしれない。
相手を嫌悪せず、どこまでも互いを理解しあい、境目がないほどに。あいつが海に溶け、浮遊死体となった僕はいずれ海の一部となる。僕たちは塩辛い海水となり、栄養となり、回り、戻る。
いいな、と思った。


夜はとっぷりと暗闇をたたえ、僕らの病室を大きな影で包んでいた。僕は瓶に手をかけ蓋を開けた。ガラス越しから見ていたナオトは、何も隔てがないとさらに深い青が美しかった。油絵の具を何層も重ねたような重厚な青だった。
此処に僕のよだれを入れたら。ナオトはどこまでナオトだろう。僕たちはどこまで僕たちだろう。
分かり合いたい。
僕は口を開けてよだれを溜めた。心臓がうるさい。汗がじわじわと全身から滲み出る。開けたままの口からは吸いすぎたり吐けない呼吸が引っ込み、また出る。なぜか目尻から涙が溢れて止まらなかった。
分かり合いたい。
ふと、指先に小さな熱を感じた。それはどんどん大きくなり、瓶を抑える手のひら全体を焼かんばかりだった。僕はとっさに手を引いた。身をよじり、数歩後ろに下がると、壁に立てかけられた鏡に映った自分と目があった。豆球の淡い光に照らされた僕の顔は涙とヨダレでぐしゃぐしゃだった。猿みたいだった。瓶の口からは湯気が出ていた。ナオトの青は美しく、しっかりと、そこにあった。
僕は膝から崩れ落ちた。打った背中がきしみ、骨の奥から鋭い痛みが足の裏まで響いた。冷たいはずの床はただ固いばかりだった。涙が溢れて止まらなかった。
違う。
こんなことになりたかったんじゃない。僕は、僕はこんなのを望んでいない。ナオトがナオトでなくなるのは嫌だ。
僕は拳を床に叩き落とし続けた。
ナオトが優しく笑う顔が好きだった。あいつがそばにいて楽しかったことなんて数え切れない程あるのに。ナオトが僕になったらもう笑いあえないじゃないか。
僕は一度ならず、二度も間違えるところだった。
ごめん。
そうごめんナオト。僕は、僕は君に謝りたかった。
あの日、ひどいことを言ってごめん。
優しくて温かい陽だまりのような君を僕は憎むはずがない。憎んだのは、僕自身だったんだ。
ナオトと同じ立場になりたかった。あいつが僕を守ったり優しくするのではなく、僕もナオトを守り、優しくしたかった。でも意気地のない僕は君が柔らかく首に回す肩に怯え、いつかあいつが僕に愛想をつかすことに焦った。
でも僕は僕で変われず、いつしかそんな自分への怒りを君に向け始めたのかもしれない。僕の理想の人間像であるあいつへ、やりきれない思いの丈をぶつけることにしたのかもしれない。
その証拠に僕は自分が変わるのではなく、ナオト、君が変わることを祈り望んだ。
ナオトが液体化したと聞いた時安心したのは、このままあの日のことをなかった事にできるかと思ったからなんだ。このままなら僕は君に笑顔を向けられる。自転車の後ろで遠ざかる君の姿を思い浮かべることもない。だって君は物言わぬ液体だから。
でも、もう僕は十分寄り道した。もうナオトと向き合いたい。向き合って、弱い自分に負けないよう強くなりたい。強くなって、君の親友でありたい。強くなった僕は周りから見たら何も変わっていないかもしれない。でも僕は変わりたい。
ナオトに僕の悪いところも全て、認めてほしい。僕も僕の悪いところを認めるから。君も僕に教えてほしい。きっと言えなかった何かを。
僕はナオト、君に会いたい。
あの日と同じ、人の形をした君に会いたい。
君に、名前を呼んでもらいたい。僕も堂々と、ナオトの名前を呼ぶから。


朝起きると僕はベットの上に寝ていた。ベットに戻った記憶もないのに。微睡んでいたから、あれはもしかしたら夢だったのかもしれない。
僕はベッドから起き上がり、ナオトのいるテーブルを見た。
僕の目の周りの筋肉が固まった。
テーブルの上に、蓋を開けられた空の瓶がある。その隣にテーブルの上に腰掛けて背中を向ける男がいた。
あの日と同じよれ具合の、僕と同じ学校の制服を着ている。僕はこの後ろ姿を知っている。何度も何度もこの背中に憧れ、守られてきた背中だ。
僕はベットを降りて、男の背中を前に立った。
背中は動かない。でも僕は確信している。僕たちは仲直りができる。
まず何を話そう。まず謝ろう。きっとお互い同時に謝って、そして笑うんだ。あの時実はこう思ってたと打ち明けあって、時には笑い、時には真剣に話そう。そのまま喧嘩したって、僕が泣いたって、こいつが泣いたって、僕はもうこいつから逃げない。
僕はこいつの親友だから。

リキッドフレンド

リキッドフレンド

友達がある日、青い綺麗な液体になった。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-13

Copyrighted
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