黄昏

不確かで曖昧だが、大事なもの。

夕暮れ。
僕は特に綺麗でもない灰色の海を眺めていた。
傾いた日が1面の鈍いコントラストをオレンジに染めていく。
それに続いてあたりはだんだんと薄暗くなり、街灯が灯る。

僕はコンビニで買った缶ビールを開ける。
別に海を見ながら酒なんて、感傷に浸りたくなった訳ではないのだけれど。
ただなんだか疲れたというか。
急に今僕が生きている時間から隔離されたくなった。


寂しいけれどひとりになりたい。
話したいけれど黙っていたい。
黄昏たいけれど騒ぎたい。

矛盾した両極の願望たちが波に攫われてはまた生まれて。
浮かんでは消えていく。
結局何がしたいのかと問われれば何もしたくない。
だけれど、何かを感じているのだ。

言葉で表し難い、どこかセンチメンタルなこの孤独に似た感情を。
味わいたいのも本心であり、消し去りたいのも本心である。

要するに僕にも何がしたいのかわからないのだ。
こういう時間は少なからず皆持ち合わせているのではないだろうか。
ふと1人になった時に舞い降りてくる、自分さえも見失い微睡んでしまうようなひとときが。


夏に近づきかけたような、なんとも中途半端な季節だから。
周りに人などいる訳もなく、結果として図らずとも僕はひとりになった。
ひとりで頭の中でぼそぼそと考えていると、缶ビールはもう半分にまで減っていた。
僕は毎度こういう時間を過ごすことになる。
もしかすると僕はこの時間が好きなのかもしれない。

そう考えると、僕はこれはこれで楽しんでいるのだろうか。
自分の事なのに。どう考えてもよくわからない。

いや、実際のところ。
僕は僕のことをわかってなどいないのだろう。
このことに関してではなく、他のどの場面においても。
僕を構成する感情や性格や思考や内面的なことに限らず、僕が他人にどう見えているかの外面的な話まで。
何一つこうだと言いきれる確実なひとつがそう見つからないのだ。
君はこうだ。と近しい誰かに言われれば、ああ、そうなのか。と簡単に受け入れてしまいそうなほど。
僕はきっと僕を理解出来ていないし、それはこれからも変わらないのだと思う。


それでも僕は僕であることに変わりはなく。
代わりはいないというのだから、なんとも変なはなしである。
得体の知れない不確かな何かを、これは唯一だから大切にしなさい。と説かれても実感が湧き得ない。
だから、実のところ僕は僕が僕を大切にしなければならない所以は、僕がただひとりの存在だからとかそう言った唯一性によるものではないのだと思う。

少し話が飛躍するようにも見えるが、極論僕が生きている理由は僕がわからないからだ。
この自分自身でも知り得ない僕という存在を解き明かしてみたいという欲が心の内に存在する。
僕はいったい何者なのか。
一生かかってもわかりそうもないような難題だからこそ、一生を賭ける価値がありそうではないか。


とするならば、この僕のよくわからないセンチメンタルや、よくわからない矛盾なんかは僕が余命を賭して追いかけたいものなのか。
なるほど、つまりは僕が生きる動作元の燃料のような時間を僕は過ごしているのか。

ではまずは、よく知るためにこれに身を任せるのも良いのかもしれない。


止まっていたはずの風が少し凪いだ。
それにさえ気づかないほどに僕は言い表しようもない空間に漂っていた。

黄昏

1人の時はこういうことをぐるぐる考えるたちです。

黄昏

どこか感傷的な僕のはなし。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-07

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