永久愛物語

昔々、ある所に一人の少女がいた。
少女には小さい頃からの疑問があった。
「愛ってなぁに?」
「永遠ってあるの?」
周りの大人達は誰一人と答えてくれなかった。
少女は少しずつ大きくなるにつれて、夢を持った。
その夢を叶える為に少女は村を出た。

その二年後。
少女は後に“最悪の事故”と呼ばれるものに巻き込まれた。
とても大きな医療器具から伸びる沢山の管をつけて村に戻って来た。
村の大人達は口々に言った。
「愛の意味を探すからだ」
「永遠なんてありっこないのに」
「こんな姿になって何を得たのか、この娘は」
少女の体は誰も居ない部屋に入れられた。
最初は見に来る者も居たが、そのうち誰も近付かなくなった。
少女は、独りになった。

ある日
少女の体から全く同じ形の真っ黒な影が生まれた。
影は主である少女の夢を叶える為、生まれた。
『愛の本当の意味を知り、永遠の存在となる』
影はそれを見つけるための旅に出た。


  Ⅰ
影が来たのは誰かの心の扉の中だった。
とても冷たく、凍りそうだった。
奥の方に持ち主らしき人を見つけたので、もっと近付くことにした。
見れば女の子が一人寂しく座っていた。
しばらくすると扉を叩く音がした。
「大丈夫。僕は君の味方だよ」
女の子は無視をした。
「怖くないよ。一緒に行こう」
ビクン、と体が動いた。
「絶対に裏切らないから」
いつの間にか男の子の姿があった。
男の子は女の子の手を取り扉の外へと向かった。

影が外を見てみれば沢山の人が女の子を待っていた。
影はやっと理解した。
女の子が心を閉ざしていた事を。
理解と同時にあることを知った。
『人は心を閉ざしても、その人の周りに居る人との関係までは断ち切れない』
その関係のことを何と言うのかを影はまだ知らなかった。


  Ⅱ
影は電気を消してある部屋に来た。
姿が見えないので何者かは分からなかったがある程度は把握した。
その者は愛していた人に捨てられたのだ。
その者の事を愛していた…いや、愛しているふりをした人に。

影はとても気の毒に思った。
影自身が何かに捨てられたことは無かったが、辛いことだ、というのは伝わった。
そしてまたここでも知った。
『人の中には愛も遊びの一つだと考える人も居る』
影は一輪だけ影の花を作り、そっと置いてから出て行った。


  Ⅲ
「ずっと友達でいようね」
「うん、ずっと一緒だよ」
影は着いた途端顔をしかめた。
ずっと=永遠
本当かどうか二人の未来へ飛んでみた。

二人は確かに一緒に居た。
しかし手に持っているのは銃とナイフ。
二人は自分の武器をかつて友達と言っていたものに向けている。
「これで最後よ!あの人は私のもの!死ね!」
「ふざけないでよっ!死ぬのはあんた!彼を愛せるのは私だけ!」
銃で撃つが狙いを外すともう一人が身を屈め突進した。
ナイフが一人の胸を刺し、また撃った銃の弾がもう一人を貫いた。
二人は一緒に死んだ。
影は目を閉じた。
『関係、繋がりというものは脆く、些細なきっかけで崩れてしまう』
影は二人の冥福を祈り、別の場所へと飛び立った。


  Ⅳ
影が辿り着いたのは少年の中だった。
少年も“最悪の事故”に巻き込まれた一人だった。
少年の世界には他に誰も居なかった。
「僕はですね、ひとりになったのです。もう目が覚ませないのです」
影が心配そうな顔をすると、少年は笑った。
「別に寂しくはありませんよ。このまま何処かに行きたいくらいです。えぇ、貴方の様に」
影は悟った。
少年は本物の少年の居る世界で脳死の状態になった事を。

影に向かって少年は言った。
「貴方はこんなことを知っていますか?」
少年は続けた。
「人間の体ってのは全て弱いので八十年位ですぐ壊れてしまいます」
「しかし魂は神様の気まぐれで別の体に宿ることができるのです」
影にはそれが本当かどうかは分からなかった。
だが、少年が本気だということは分かった。


  Ⅴ
影は疲れ切っていた。
少年の世界に行った後、人間達の下らない感情を立て続けに見てきたからだ。
影は一つの村に目をつけた。
鬱憤晴らしにこの村から色を奪い取ってやったのだ。
村の人々は驚き、慌てた。
誰のせいで何故起こったのか。何も分からず混乱していた。
影はとてもつまらなく思い、人々を攻撃し始めた。
村は更に混乱に陥った。

突然、煙の中から人が飛び出してきた。
影に向かっての反撃であった。
短剣が飛んできたり、大鎌が振り下ろされたりした。
正体は若い男女六人。
影はその中でとんでもないことを思いつく。
女の方の“好き”という気持ちを奪ってしまった。
奪い取るのはとても容易いことだった。
六人は戦い始めてしまった。

彼らの頭に直接声が流れ込んできた。
―――結局全ては自らの為
―――それならばどんなものでも偽ってしまう
―――他人を誘惑、意のままに操る
―――所詮愛とはそういうもの
だれの言葉かすぐに分かった。
影がそう思っていたのだ。
影の口元だけが笑っていた。

「愛なんてものは、存在しない」
女の一人が叫んだ。
「ただの騙し合いなのだから」
その女が剣を構える。
「私達は分かっていた」
影はじっと見ている。
「どうせ」
剣を後ろに投げた。


「愛されてなど無かったのだから」


剣は見事に影に刺さった。
色は元に戻り、彼女達の心に“好き”が戻った。
彼女は大粒の涙をぼろぼろと零した。
影は一人思った。
―――あたしは多分この世界で消える
―――生まれた意味など全く無かった
―――あいつらのせいで覆ったから

 アイノイミガワカラナイ

病院へと向かう道を一人の男が引き返した。
影を抱き、手を握った。
そして影に言った。
「“愛”はねとても温かいものなんだよ」
真っ黒だった影にうっすらと色がついた。
彼が見たものは影の目から流れるものであった。
消える前に、と影は最後の旅に出た。


  Ⅵ
影は電子の主人公の所へと訪れた。
「僕らにも終わりがあるんだ」
主人公は言った。
「確かに永遠に生きてはいけるけれど、忘れ去られたら生きる意味なんて無いんだ」
影は頷いた。
「でも僕がいなくならないと新しい命が生まれない。生まれなければ何もかも無くなってしまう」
主人公は笑った。
「どうせ人間に創られたからすぐ棄てられてしまう。君も僕も。似たもの同士だね」
そう言うと主人公は自らの冒険譚を話し始めた。
影は画面越しに聞き入っていた。

そして影は主の下へと戻った。



少女は病室で独り考えていた。
本当の愛の意味と永遠についてを。
影の長い旅に全てが黒と白になった事件。
そして“最悪の事故”
少女は自らの人生をとても下らなく、しかし面白いものだと思った。

『もう少しかかると思っていたけど、案外すぐ終わるものなのね』

少女の目的は果たされた。
生きる意味など無くなった。
永遠も無かったのだし、愛を知ってても自分を愛してくれるものなんていないことを
少女は、知ったのだ。
生命維持装置を外しカーテンを開き窓を開けた。
あと二十四時間で死ぬ。
少女は外に出るべく、ドアノブに手をかけた。
ノックの音がした。
少女がドアを開けると影の記憶にいた若い男がいた。
「あーあ…何で装置外してんだよ…ほら、ベッドに戻れ。つけてやる」
男はそう言うと装置の所まで歩いていった。
少女はぽかんとしていた。
「お前がそうやって目を覚ましたのも七年ぶりだな」
少女がまだ突っ立っていると、男は少女に近付いた。
「ほら早く。いつ外したんだ?」
少女は渋々ベッドに戻り、装置を付け始めた。
「びっくりしたんだぞ。お前に姿形が似ている影が出てきたときは」
「えっ…」
声がかすれた。久しぶりに出したからだと思われる。
「何で、あたしのこと、知ってるの?」
「知ってるも何も七年前に学校で同じクラスだったし、七年間想い続けていたから忘れる分けない」
少女はもう少女ではなかった。
世間的にはもう、女性と呼ばれる年齢になっていた。
二年間の旅“最悪の事故”そして影による五年間の旅。
少女が寝ている間に時は過ぎていったのだ。
「俺、七年前も七年間も今もずっと好きだった。お前のことが」
しかし、時が過ぎても変わらぬ思いでいてくれる人もいる。
「紗奈、お前のことを―――」

少女の名前を紗奈(さな)という。
紗奈の少女として影としての人生は終わった。
だが紗奈自身の人生が終わったのではない。
紗奈はこれから、人間としての人生を歩むのだ。
紗奈が自覚していなくても愛してくれる人はいる。
まだ若い二人は残り約六十年をともに過ごしていく。
その間、二人は互いを愛し続けた。
そして死んだ。

永遠など無い。
二人の魂はそれを知っている。



紗奈の魂は転生した。
紗奈の魂には名前がつけられた。
“永遠の罪人”と。
紗奈の魂は休む間も無く消失することも出来ずに永遠と転生される。
ある世界に縛り付けられ、全てを覚え続ける。
その世界が、破滅を迎えるまで。

“永遠の罪人”として、紗奈の魂は生き続ける。




これを『永久愛物語』の序章とする。
                                            ―――――永遠の傍観者・祐久

永久愛物語

初投稿です。

永久愛物語

少女は愛を知り、永遠の存在となった。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-28

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