ニワトリ先生

ニワトリ先生

 小学校の校長先生は、ニワトリのように子どもたちをしつこくつけ回すから、『ニワトリ先生』と呼ばれている。ニワトリは、ところかまわずフンをして、弱いものを見ればつつきまわすんだ、ってね。

 こんなことがあった。
 子どもたちの一人が、自転車にはねられそうになった。
 つかみあいの喧嘩をして、おまわりさんの世話になる。
 その子は以前、海辺での魚釣りを、日が暮れてもまだやっていた。
 周囲は、眉をひそめ、「あの子は厳重注意しなければ」という声をあげている。
 校長先生は、ひとり、ケッコウ、ケッコウ、けけけと笑っていた。

 あるとき校長先生は、問題の子と一緒に、校長室にいた。先生は、両手をバタバタさせて問題の子に言った。
「悪戯ばかりするから、お尻をぺんぺんするぞ。けけけ」
 ケッタイな声を上げ、その尻をたたき始めた。
「やめてよニワトリ先生! ニワトリと言われて、恥ずかしくないの!」
 恥ずかしくて真っ赤になった問題の少年は、悲鳴を上げた。
「人に迷惑を掛けるからだよ! それにニワトリは、とても役に立つだろう。朝の目覚まし時計にもなるし。卵もとれる。けけけ」
 校長先生は、ゆうゆうとそう答えるのであった。

 ある日、問題の少年が、ひとりでじーっと何かをながめている。
 校長先生が、少年に近づくと、クラスメイトたちが、仮面ライダーごっこをして、遊んでいるのを、少年が見ているのであった。
「ケッコウ、ケッコウ。友だちを作ろうというのは、いい心がけだ」 
 先生が言うと、
「だ、だれが友だちを作ろうなんて言った」
 少年は、慌てて逃げだそうとした。先生は、その襟元をひっつかんで、ごっこ遊びをしている子どもたちの中に、入り込んでいった。
「コココ。この子を仲間に入れてやってくれないか」
 ニワトリそっくりに手足をバタバタさせて言うので、
「やだよー。ニワトリの言うことなんか、聞かないよー」
 子どもたちはそう答えて、わっとはやし立てた。 
「コココ。こら!」
 校長先生は、そう叫ぶと、ニワトリのように一同をつけ回し、頭を小突き回した。
 それを見た少年は、恥ずかしくて消えたくなった。大人にかばわれてまで、友だちを作りたくなかったのだ。少年は、駆け出した。路地の裏の方へ向かって。

 どすん、と目の前が暗くなって、なにか柔らかいモノにぶつかった。そこに立っていたのは、怖そうなおじさんだった。
「ひとにぶつかっておいて、謝りもせんのか? お仕置きせにゃならんな!」
 おじさんが、少年に手を伸ばした。少年は、おびえて目を閉じた。
 すると、その背後で声が飛んだ。
「コココ。この子に手を出すんじゃあない。うちの生徒なんですから」
 首を伸ばして振り返るおじさん。少年が目を開けると、そこに立っていたのは、あのニワトリ先生だった。いきなり先生がおじさんを、投げ飛ばした!
「けけけ。わたしもケッコウ、合気道をやってるんですよ」
 おじさんは、道に転がって悲鳴を上げた。
「参った、参ったよ」
 バタバタ、足をさせながら、地面でおじさんが真っ赤な顔になっている。
「もう子どもをいじめないでくださいね」
「わかった、わかった!」
「ケッコウ、ケッコウ。けけけ」
 おじさんは、逃げ出してしまった。
「へー。見かけによらず、強いんだね」
少年が言うと、先生は胸を張って言った。
「子どもを守る気持には、鳥も人間も変わりはないのです」
 よく見ると、先生の腕の所に、なぜか羽根のようなモノがついていたのであった。

ニワトリ先生

ニワトリ先生

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-06

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