五月雨にて

重たい空が僕を押し潰し、強い雨脚は僕を責め立てるようだ。


降りしきる雨は随分と鋭く、それは重たい音を立てて地面を叩く。
視界に白が立ち込めるので、帰ろうとしたその足を僕は思わず止めてしまった。


季節は快い暖かさを過ぎ、夏の手前。
湿気と雨の支配する期間の真っ只中である。
参ったな。
今日こそは早く帰れると思ったんだが。
恨めしく思いながら僕は鈍色の空を睨んだ。


仕方なく僕は昇降口へと引き返す。
そこには鉄製の無機質な靴箱が並んでいるだけで、誰もいなかった。
こんな薄暗い、灰色に取り囲まれると気分すら徐々に陰鬱としたものに変わっていく。

一斉に蓋をして隠していたいやらしい顔をしたどす黒い感情が顔を覗かせる。


僕が恋焦がれるあの娘は僕が内心見下してきた3組の加藤が気になっているらしいことが不快だとか。

つるんでいる奴が僕のことを振った元彼女と付き合っていてなんだか癪に障ることとか。

容量が悪くて、僕より頭も悪いくせに先生に評価されている同じクラスの永瀬が気に入らないとか。


抱えていた苛立ちや妬み、ジレンマがどっと溢れて気持ちが悪い。
こういう時間は結論煮詰めていくと、他人を羨むことしか出来ない自分の浅ましさに辿り着く。


人の価値は行いによって決まるとしたら。
もちろん、善行をつんだもの、自分の夢を掴んだもの、新しいなにかを打ち立てたもの、彼らは評価されるのが当たり前だ。
逆に、犯罪を犯したもの、他人に害をもたらしたもの、人の道から外れたものはどう足掻いても遠ざけられるだろう。

では、今の僕のように。
心にはそれはそれは汚れた気持ちを持ちながら、それを体現はせず人のせいにし、上っ面だけは繕って生きる奴はどうなんだろうか。
自分にもどこかで嘘をつき、他人にもどこかで嘘をつき、そのくせ苦しくなればすぐ足元を見ようとする。
自分の足元を見れなくなれば、誰かを足元まで引きずり降ろすのだ。

はっきりと言いもせず、嘘に固めてあるのは随分とタチが悪い。
誰が好きか誰が嫌いかも、自分が有利になるように決める。
自分の立ち位置ばかりを気にする。

こんな部分を見れば、自分の意思を表さずに、他人を貶め、それを正当化するところはもしかすると、犯罪者や外道と呼ばれる人らと何ら変わりはないのではないか。むしろ僕らの方が、一般人ヅラをし彼らを貶める分、極悪に近しいのかもしれない。
考えてみればきっと、悪者を作り上げるのは僕らのような奴らなんだろう。

大して何かを成し遂げる努力もせず、人の家の芝生ばかり眺めて指を咥える自分が情けない。
というくせに、何も事を起こさないとは何たる矛盾だろうか。

こうして探っていくと自分という存在に吐き気すら覚えるのだ。
きっと僕は。
僕という人間はゴミクズだと言いつつもどこかで認めたくない節があり、そのそり合わない部分を誰かに押し付けることで目を逸らしたいのだろう。
そして今日もきっと何も出来ずに終えるのだ。


遠くなる雨音を聞きながらそんなことばかり考えていた。



気がつくと空模様は次第に落ち着きつつあった。
しかし、重い腰をあげる気にもならず、僕はただ項垂れて自己否定の中をさまよった。

五月雨にて

雨の日はネガティブになりがちなんだ。

五月雨にて

変わりやすいのは空より僕の気分だったりして。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted