それは心のよりどころ

注意:BL小説です。過激な性表現はありませんが、男同士の恋愛なので成人向け扱いです。男同士の恋愛が苦手な方は読まないでください。

それは心のよりどころ

建物のクリスマスネオンが綺麗に夜空を照らし始めた季節。

俺、高橋春樹(たかはしはるき)は、会社帰りに薬局へ足を運んでいた。大手企業電器店総合カウンターは、主に機会の故障の受付やラッピング作業、駐車券、商品券を扱うことが仕事だ。しかし、多くはクレーム処理。客からの愚痴を長々と聞き、メーカー側と交渉しては愚痴を聞かされる。まさに板挟みのストレス作業を約5年以上続けている。憂鬱な日々を癒してくれた存在が、販売担当の彼女だ。偶然食堂で出会い、話が合って付き合いはじめて1年。彼女は、俺の背が低くて童顔で女みたいな外見を好きだといってくれた。三十路になる俺からすれば、チャンスで結婚指輪を買うために貯金をしてきた。なのに突然彼女から『別れましょう』とメールがきた。勿論納得なんてできるはずなどない。詳しく話を聞こうと翌日会社へ出勤するが、彼女の席はすでになかった。彼女の友達によると
「ああ、彼女寿退社しましたよ。この時代に羨ましいですよね。相手はITの社長さんらしくて。昨日のお別れ会でノロケ話ばっかりだったんですから」

(もう、俺には仕事しかない)
そう決意したときにそいつは来た。

始まり

矢崎幸一(やざきこういち)。中途採用で入社したばかりの20代の若者だ。高身長、顔立ちも整っているのでてっきり販売担当かと思っていた。しかし、数日経つとこちらの部署に配属になった理由が分かった。彼は、究極の人たらしなのだ。どんなにしつこいクレーマーでもあっという間に丸くおさめてしまう。今では用事もない女性客が押し寄せる始末。社員の間でも評判が良く、誰もが彼のことを『王子』と呼ぶ。俺も呼んではいるが、あくまでも嫌みをこめてだ。彼は、とても器用でいつもすぐに仕事を終えて帰る。対して俺
大量にある伝票を抱えて残業の日々。
『このままでは、会社の立場や居場所さえも徐々になくなっていくのかもしれない』そう考えて始めていた。

クリスマス当日。
ツウジョウノ倍の客が訪れて仕事量も倍になった。まさに怒濤の１日。閉店作業へとうつるとさすがに他の部署の社員も皆げっそりしていた。そして、気がつけば今日もこうして薬局にいる。

「ありがとうございました」
明るい女性の声とクリスマスの曲が店内に響く。店を出ると押さえていたものが爆発するかのように激しい心臓の音が聞こえ、自然と息が荒くなり、手の震えがとまらない。『早く、早く、早く飲まなくては』とりあえず、一息つける公園を目指す。自然と足が速くなる。その間にも片手にぶら下がるビニール袋のカサカサという音が気にさ
わる。ようやく公園に着くと急いでベンチに座り、ビニール袋を破いて1つの風邪薬を開けて一気に飲み干す。目を閉じて少しずつゆっくりと呼吸を整える。すると、まだ薬が効く時間ではないのに手の震えなどの症状が消えていつもの状態に落ち着く。『またやってしまった。こんな悪い癖は、すぐにやめなくてはいけないのに』毎回後悔して反省しているのだが、幼い頃からの癖でやめられない。一旦落ち着くと後ろからカサッと物音がする。思わず振り向くとそこには今一番会いたくない人物がいた。

「なんでお前がここに」