棘のような言葉
私の心情は一人の人間の言動に委ねられている。
その人間の全身には黒くて鋭い棘があり、迂闊には近付けない。棘が邪魔で彼がどんな表情をしているのかすら伺えない。
その棘は一体どれだけの人を刺してきたのだろう。どれだけの人を傷つけてきたのだろう。
だが彼はそれに気付けない。
彼は棘で人を傷つけてることどころか、自分に棘があることにすら気付いていないのだ。
たまに棘の隙間から見える彼の表情は愛おしく思えるくらいあどけない笑顔で、私はため息をついた。
私の心と体はその棘に既に慣れていた。
むしろ、その棘に溺れていた。彼の棘が永遠に私に刺さっていればいいのに。そうしたら、他の人に刺さることなどないのに。
私は彼をそっと抱きしめて涙を零した。
棘のような言葉