決して怒らなかった母
母に怒られた記憶は一つしかない
小1のころ、門限を破ったその一度だけ
どんなに心配したか、と怒られた



植物に詳しい母
これはハナミズキ、と教えられ
幼い僕は
鼻水の木だって!とはやしたりしたものだ
ハナミズキは大学構内にたくさん植えられている
そこで初めてその美しさに気づいた



怖がりな母
スリルなんか大嫌いで
小説は結末を最初に読むという
スターウォーズも怖いから観ない



実はヘビメタ好きだった母
中学生の僕が
悪事を自白する面持ちで
買ってきたマキシマム ザ ホルモンを流したら
かっこいい曲ね、と言ってくれた



「車いすも通れるように、尾瀬の木道を広くします」
というニュースを見て
「車いすに乗ったら、行けないところもあるとあきらめなきゃいけないんじゃないの?」
と珍しく冷たいことを言った母
母の眼には木道を広げるために抜かれる草花が映っていた



祖母の介護をしていた母
認知症で言うことを聞かない実の母親に
息子には決してしなかった怒鳴り方をした母
祖母はもう老人ホームに入ったが
毎週のように様子を見に行く母



最近「よいしょ」が増えた母
物忘れがひどくなったと言って
若年性アルツハイマーの本を借りてきたりする母

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-28

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