釣り

 小さな雲の上で男が一人、地上に向けて垂らした釣り糸を見つめていると、隣の雲を跨いでもう一人男が歩み寄ってきた。

「どうも、暑いですね」
「ええまったく」

 お互い帽子のつばを軽く持ち上げて会釈する。やって来た方の男は「隣いいですか?」と確認を取ると難儀そうに荷物を降ろし、椅子や竿受けを組み立てる。近くで見ると老人であることが分かった。

「釣れますか」

 腰を下ろしてから訊くなんて変わってるな、と思いつつ、男はバケツの中を指し示した。
 老人は唸るような声を上げる。

「大漁じゃないですか」
「まあ。でも全部ロリコンですよ」
「ロリコンかぁ。夏ですものねぇ」

 バケツの中はロリコンで溢れんばかりだった。男は途中で数えるのをやめてしまったが、パッと見ても二十はくだらない。
 竿の穂先がクンッと下を向く。あわせてリールを巻くと、釣れたのはまたロリコンだった。

「いやあお見事。エサは何を?」
「ちょいとお待ちを……こいつです」

 男はロリコンを仕掛けから外しバケツに放り込むと、老人に見えるように仕掛けを持ち上げた。

「なるほど、ロリビッチですね」
「今日みたいな暑い日は露出を多くしても警戒されませんし、かなり食いつき良いですよ。もしよかったら色違いのやつあるんで使ってみませんか?」
「いいんですか? ではお言葉に甘えて」

 老人は男がタックルボックスから取り出した褐色肌のロリビッチを受け取ると、自分の振り出し式の竿を伸ばし仕掛けに取り付けた。糸を垂らすと瞬く間にロリビッチは空の中に吸い込まれていく。

「あ、また来た」
「凄いですねぇ」
「でもこんなにあっても困っちゃいますねー。ロリコンって何にするのが良いんでしたっけ。煮付け?」
「煮付けとか汁物とか。唐揚げもイケるって聞いたことあります」
「あー唐揚げウマそうですね。試してみようかな」
「お、とっと……私にも掛かりました」
「凄い引いてるじゃないですか、大物では!」
「褐色が効きましたね……クゥ~~ッ……こいつは、重いなぁ!」

釣り

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-28

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