石ころ

子供の頃石ころを蹴りながらよく帰りました。だんだん愛着が沸いてくるんですよね。

 私にはともだちがいない。
 楽しくおしゃべりするともだちがいない。
 宿題を見せあいっこするともだちがいない。
 手紙を交換したりするともだちがいない。
 私はともだちが欲しくないわけじゃない。ただ、どうしたらともだちができるのか分からない。周りのみんなは楽しそうにしゃべっていて、私はそれが羨ましい。
 楽しそうにおしゃべりしているのが羨ましい。
 宿題を見せあいっこしているのが羨ましい。
 手紙を交換しているのが羨ましい。
 私は本を読むのが好きだ。だからともだちの作り方が載っている本を探した。だって料理を作る本があるんだからともだちの作り方だって書いているはずだと思ったから。
 でもなかった。家の近くを探してもどこにも無かった。
 図書室の先生はともだちをつくるのに本はいらないと言った。
 本屋さんのおにいちゃんは困ったなあと言った。
 お母さんは私を先生に相談しようかと言った。
 私はどうしたらいいか分からなかった。だって本が無いと作り方が分からないから。みんなともだちがいるんだからその本を読んだはずだ、みんな私に隠してるんだ。わたしはみんなが嫌いになった。
 だからわたしは学校に行くときもひとり。ごはんを食べるときもひとり。教室を移動するときもひとり。掃除のときもひとり。ずーっとひとり。でもみんなが嫌いだったから気にならなかった。
 私は帰るときもひとり。
 ある日、学校から帰っているときにいつもとちがう道を通ってみようと思った。いつもはまっすぐ横断歩道をわたる交差点を左にまがる。さっきまでは車が走っていてうるさいなあと思っていたけれど、その道は静かだった。家がたくさん建っていた。高さも色も大きさも違うたくさんの家がみんなに見えた。私は少し嫌な気分になった。だからそこで回れ右をした。
 そこで一つだけ駐車場になっている場所を見つけた。
 そこだけぽっかり穴があいてしまったような風景にまるで私みたいだな、と思ってその仲間はずれくんにわたしは近づいた。
 そこにはたくさんの石ころがころがっていた。私はその中からひとつだけ拾って蹴りながら帰ろうと思った。わたしはその石ころに「りょうくん」と名付けた。
 りょうくんは私の思い通りに動いてくれた。私が右に蹴れば右に行くし、強く蹴れば遠くまで飛んでいった。私は自分の言うことを聞いてくれるりょうくんが好きになった。
 でも家の近くまできたところでりょうくんは溝に落ちてしまった。私は悲しくなって泣いた。
 私は次の日もその次の日も駐車場へ行った。そして石ころを拾って蹴りながら帰った。私はいろんな名前を付けた。かなちゃんにしんたろうくん、他にもともだちの名前はみんな覚えている。みんな私の思った通りに動いてくれた。私はそれがうれしかった。
 でもみんな家まで一緒には帰ってくれなかった。
 かなちゃんは川で溺れた。
 しんたろうくんは車にひかれてしまった。
 みんな最後までそばにいてくれない。私はそれがすごく悲しかった。涙の量は日に日に増えていった。
 ある日、私はいつものように石ころを拾いにいった。これでだめだったらもうここには来ないと、前の日の晩心に決めていた。私は「しおりちゃん」と一緒に帰ることにした。
 しおりちゃんはりょうくんが落ちた溝に落ちなかった。
 しおりちゃんはかなちゃんみたいに川で溺れなかった。
 しおりちゃんはしんたろうくんみたいに車にひかれなかった。
 しおりちゃんはさいごまでわたしと一緒にいてくれた。
 わたしはうれしくなってしおりちゃんを宝物箱のなかに入れておいた。やっとともだちができたと思うとベッドの上で飛び跳ねてしまった。箱の中のともだちもコロコロと笑った。私たちは楽しくなって一緒に笑った。するとあまりに騒ぎすぎたのか一階のお母さんから注意されてしまった。
「しおり、さっきからドタバタ何やってるの?」
 わたしはそこで思い出した。私の名前はしおりだった。

石ころ

読んでくださりありがとうございました。

石ころ

ホラーというより変な話かと思います。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-26

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