青い車と二人目のユウスケ 2
ドライブ
私は簡単にユウスケを本気で好きにはならなかった。
ユウスケは目が小さく一重でプックリとした頬が特徴で、唇は厚みがあって笑うと覗く歯並びがよかった。
身体の線が細く、ひょろりと背が高くてお尻は小ぶりで、まるで針金のようだった。
よく着ていたタータンチェックのネルシャツや紺のジーパンが、更にオタク風を強めていた。
決して格好いい人でなく、決してモテないであろう男の子。
たしか彼女いない歴=年齢とも聞いていた。
今まで気にも留めなかった、そんな人だった。
ユウスケは家業を継ぐために建築の専門学校に通っていた。彼は長男で勉強は弟たちに比べると飛び抜けて出来る訳ではなかったらしい。
私も福祉関係の専門学校で専門職を目指していたので似たような境遇だった。
ユウスケのママと私は、好きな服のメーカーが同じらしくその話で盛り上がった。
それなりに良いモノでシンプルで飽きのこないモノが、ユウスケも好きだと知った。
それでも私はユウスケをお洒落にしたかった。
だから私好みの流行りの髪型やらファッションを、押し付けていた。
私と一緒にいて、少しずつ変わっていくユウスケを見ていると、まるでペットを着飾って満足している飼い主みたいで、今思うと滑稽だ。
私という人間はあまりにも幼すぎたんだ。
私はきっと、もっと心根にある大切な何かを知らずに
サイコロを振って毎日を生き進めていたんだ。
ユウスケは相変わらず私のバイト先の喫茶店に友達とよく通い詰めていた。
マスターにまで人懐っこい犬のように愛想を振り撒いては、すぐに顔馴染みとなり準常連客となっていた。
その時ユウスケはコロコロと違う変わった車で来ていた。
何故か学生の身分で車を3台も所有していたのだった。
その時知ったが、ユウスケの父親は市内で一番大きい建設会社の社長さんらしく、ユウスケはああみえて意外にボンボンだったのだ。
ひとつ目はシルバーのオープンカーだった。
あるバイト終わりの日、危ないから家まで送ると言って、ユウスケは迎えに来ていた。
小さなシルバーの車で、まるでネズミのように小走りに、ミニカーのように遊びながら走り去る車だった。
車の中でからかって、このまま帰りたくないなと私が言うと、ユウスケは緊張の余りため息をついた。
そして下心を隠しきれない顔をして、どこかぎこちなくドライブして帰ろうと言った。
私はユウスケの下心を感じながらも、車中の密室という怖さや嫌悪感を、不思議と感じることはなかった。
夜のバイパス道は空いている。
いくで、見とって…
おもむろにバチバチッっとゴム製の屋根を外す。
密室の車内から時速60㎞世界が飛び込んできたかと思うと、頭上にのぞく空が宇宙の果てまで無限に広がっていた。
見上げた星空の下、感じたことのない爽快感が生まれこの場所は妙に心地よかった。
眩い世界だった、見たことのない夜風に吹かれていると、日々のストレスや些細な出来事も、ささやかなちっぽけな事だと感じられる。
こんな時に何故か思い起こされるのは、私が一年以上片思いしていた二つ歳上の男のことだった。
散々振り回されてもう諦めていたはずなのに、傷心のキズがまだ癒えていないんだ。
この車の中で改めて確信している。
ユウスケが初めて助手席に乗せた女の子が、まさか他の男の事をぼんやりと考えているとは知るはずもなかった。
ちらり隣を見るとユウスケは緊張がほぐれたのか、得意の運転をしながら軽快にお喋りをしていた。
そしてその笑顔に私は癒され、背伸びせず楽な等身大の自分でいられたんだ。
次は山へ行こう
と唐突にユウスケが言う。
ユウスケは深く深く深呼吸をして平静を保とうとしている。
ユウスケは、私の手を軽く握りしめた。
緊張した細い指から伝わるのは深く熱いユウスケの気持ちだった。
この時なんとなく、ユウスケの初めての彼女になるんだと、予感していたんだ。
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青い車と二人目のユウスケ 2